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第六章 亀と兎

戦後処理。

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 作戦通りにミケラは突き進むことなく手甲の爪で前線の兵士達を討ち取っていく。その間、髪に潜むミニマムエイムから討ち取った数をカウントしてもらいやる気を滾らせていた。
 しかし向こうもやられっぱなしではない。

「落ち着け!敵は二体だ!足止めを使え!」

 前列の指揮官が探知班からの情報を聞いて指示を出す。

「しかし軍団長、この霧では効果は弱いかと。しかも味方にまで影響します。」
「構わない!このまま侵攻されるよりはいい!」

 副官の意見を弾いて再び指示すれば聞こえていた兵士の何人かが腰のベルトからあの閃光爆弾を手に取り前方へと投げた。
 投げたのを見てからすぐに指揮官は周りに聞こえるよう目を隠せと言い伝え自分も腕を顔の前に出した次の瞬間、霧の中で閃光が連続して起きる。
 光がなくなってから指揮官は探知班に敵の場所を聞けば動きが止まっていると返ってきたので突撃を指示した。
 槍を前に声を出して止まっている敵にへと数人の兵士達は前進した。
 しかし少し進んだ先で彼らが見たのは閃光爆弾を受けて目をやられた味方兵士であった。 

「ぐわああああっ!?」

 敵は何処にと周りを見ていた兵士達の後ろで指揮官の悲鳴が木霊する。
 何故ならその指揮官の胴体を三本の爪が貫いていたからだ。
 指揮官を討ち取ってみせたミケラは爪を引き抜いてから馬を蹴って真上に飛ぶ。蹴られた馬は驚いて駆け出してしまい霧の中へと消えてしまった。

「助かりましたエイムさん!」
「いいのいいの。サポートはちゃんとしないとね。」

 実は閃光爆弾がくるのを事前にミニマムエイムが知らせてくれたのでミケラは一度しゃがんでから高々と飛んで範囲外へと逃げていたのだ。
 さらに閃光が消えてから【空走エアダッシュ】で斜め下に飛び馬に乗っていた指揮官へパンチするようにして爪を突き刺したのである。

「まだ取ってないよミケラ。もっと頑張って!」
「はい!」

 先輩の応援に張り切ってミケラは気分を高揚させながら斬り込んでいく最中、少し離れたところで戦うエイムはといえば…

「九十七、九十八、九十九…はい、四千五百に~ん!あはは!楽しいな楽しいな!まるで屑鉄だね!」

 久しぶりの大戦闘に意気揚々と圧倒的火力で敵兵士を減らしていた。
 離れている者には頭上で展開する魔法攻撃で挑んでくる者には鎧を貫く物理攻撃でエイムは歩く速度で前進しながら攻めていく。
 向こうが魔法攻撃をしてきてもエイムの【自動詠唱オートマテリアル】が相殺してみせるので敵兵は次第に恐怖を感じ後退りし始めた。
 ここにくるまでは簡易魔法装置と作戦で難なく進攻できたのにそれが通用しないこと、霧の中から聞こえてくる悲鳴に肝を潰した者から逃げ出す。
 しかしきた道を戻ろうとした一人が何かにぶつかって尻餅を着いた。
 打ったところを擦りながら前を見ればそこにあったのは岩だった。
 何故こんなところに岩が?自分は逃げる方向を間違えたのか?と思う兵士。すると岩の下を見た時にひえっ!?と短く悲鳴を漏らした。
 岩と地面の境目から人間の足が生えるようにして出ていたからだ。
 つまりこの足の主は岩に潰されて死んだのだ。
 これを見た者はいつの間に敵が投石器を使ってきたのかと振動に気づけなかったことを悔いたが次の発射までにと立ち上がりまた逃げようと足を動かした直後だった。
 後ろから特大の針が背中をいくつも貫いてその兵士は前のめりに倒れて絶命した。
 同じようなことは他でも起きており前列は前にも後ろにも進めば被害を受ける状況になっていた。
 それは中列も同様で霧で視界を遮られた中でやってくる岩と針に被害を受けて撤退しようとしていた。
 ところが撤退した先に待っていたゾドラが降らす氷塊の雨でありもはや何処に逃げれば安全なのかで進攻する意思はほとんど消え失せていた。



 ーー…という状況を【生命探知レーダー】で確認した我はさすが我が眷属よと内心称賛した。
 戦闘が始まってから多分半時が経ち敵兵の数も大半が消えたしここら辺が潮時だろう。
 霧の中で何が行われているのか全くわかっていないロックガーデン国軍側にもしっかり伝わるような勝利を決めてやる。

「充填はもういいかエルフェンよ?」
「…ああ、すでに終わっている。終わっているが……。」

 問いかけに我のから返事してくれたエルフェンの歯切れの悪い返事にどうした?とまた尋ねれば彼女は強めに言った。

「なんでこの態勢なんだ!横に並ぶとかもっと他にあるんじゃないのか!」
「仕方なかろう。出力を合わせて射つにはこれがベストなのだ。」

 エルフェンが指摘してきたのは今の態勢である。これから我とエルフェンの合体技を披露する為、エルフェンは我に肩車されていた。
 エルフェンの手には弓があり、我も盾を変形させた腕と一体型の大型ボウガンを持っている。
 ここでそこは弓じゃないのと思った君。あいにく漆黒の大盾に内蔵した遠距離系統は我のロマン等でこの世界に存在しないガンと付くものと銃器のみなっているのでご了承いただきたい。
 まあボウガンって一応引き金はあるけれど弓みたいなものだしね。
 あと確かに彼女の言う通り縮んだ姿でやることも可能なのだがそれだとこのタイプを直立した状態で射てないのだ。
 でもこの合体技には最も適したものなので事前に決めていたはずなのだがエルフェンは実際やってみてやはり不満に感じたようだ。

「改善案ならば後で聞く。今は目の前に集中してくれたまえ。」
「うぐぐ…わかった。この技で敵軍を蹴散らすぞ!」

 弓を持つ手を前に出し空いてる手を弦に触れると魔法矢マジックアローを生成する。今回生成するのは拡散と着弾爆発を付与したものだ。
 それを魔力を充填させた弓から光属性の恩恵を受け発射準備に入る間に我もボウガンに魔力を注ぎ闇属性の魔法矢マジックアローを用意する。
 こちらには直進性と弾速を高めにしさらにはも付与させながら狙いを定めた。
 互いに発射準備が完了したところで我は【念間話術トランシーバー】を使う。

『眷属各員に告ぐ。これより敵軍を蹴散らす為一時離脱せよ。』
『かしこまりました旦那様。』
『ええ~もう時間切れなの?残念だなぁ。でもオッケー。』
『了解しましたですみゃ!』

 通達してから少しして空からゾドラが、霧の中からエイムとミケラが出てきて関門の近くまで移動したのを確認してから引き金に指を掛けた。

「愚かな人間族よ!我らが放つ技にて滅せよ!【死へ誘う白黒の行進デスマーチ】!!」

 ついさっき考えた技名を口に出して我は先に引き金を引いた。
 ボウガンから放たれた漆黒の魔法矢マジックアローは真っ直ぐに飛んで霧の中に消え数秒後に音がしてから戦場に変化が起きる。
 濃霧がある範囲の中心に向かって霧が吸い込まれように動き出した。
 先ほど伝えたように我が放った魔法矢マジックアローには引寄せの効果がある。これは範囲内にいる相手をその円の中央へ集める重力波を生み出すというものだ。
 それを見たエルフェンはすかさず光属性の魔法矢マジックアローを放つ。矢は渦巻く濃霧へと飛んでいくと途中で炸裂するように拡散して霧の中へと入っていく。
 次の瞬間、着弾したところから中規模の爆発が起き霧ごと敵軍を吹き飛ばした。
 無理矢理集合させられたところに爆撃が来ては敵にとってたまらないものとなっただろう。

「続けていくぞエルフェン!」
「もちろんだ!」

 だがこの一撃で終わらせはしない。
 続けて互いに魔力を充填させれば次は見えている敵軍後方を攻撃する。その次に前列を、その次に一発目と同じ中央に向けて合計四回爆撃してやった。
 目の前で行われてもはや一方的に近い攻撃に見ていたロックガーデン国軍は唖然としていた。
 爆撃が終わり山の風で煙が流された頃には敵軍のいたところは中くらいのクレーターと敵軍の残骸が点在していた。

「はあ…はあ……やったな。」
「うむ、実によい戦果だ。」

 かなり魔力を使った様子のエルフェンを見て我は返してから彼女を降ろすと倉庫に手を入れてこの世界の回復薬を取り出して渡す。受け取ったエルフェンは回復薬を見てからそういうことだったのかと呟いてきた。

「何がだ?」
「お前が半世紀前の冒険でみんなにアイテムを配ることができたからくりにだよ。あの甲冑姿の何処からとずっと気にしてはいた。」

 エルフェンの返事に我は鼻を鳴らす音を立てる。確かに勇者パーティーへアイテムの配分はしていたがそんなところも監視に入れていたとは、それだけ昔のエルフェンに怪しまれていたというわけか。
 だがそれはあくまでも目的の為に勇者パーティーの全滅を避けたいという我の思惑たっての行動に過ぎなかったのだが。
 さて昔の話は置いといて、今はこの戦場の締めに入ろう。

「さあロックガーデン軍よ!敵はもはや烏合の衆!我と共に打って出よ!」

 エルフェンが回復薬を飲んでいる間、背後にいるロックガーデン軍の者達に振り返って強く言ってあげる。
 言葉を受けた彼らは自分らにも出番があったことに驚いた様子であったがこのまま他人任せで終わっていいのかという獣人族の意地が言動へと移させた。

「開門せよぉ!今こそ我ら獣人族の力を出す時だぁ!」

 ロックガーデン軍の将軍の号令によって兵士達は雄叫びを上げて行動に入る。
 向こうが動き出したのを見て我はゾドラに連絡してラオブ達への伝言を頼む。
 内容は敵軍の左翼側に向けて進軍を開始し生き残りを始末せよ。先頭をゾドラに任せるだ。
 次にエイムとミケラには我とエルフェンが合流してから右翼側を進軍することを連絡する。
 眷属らの了承を聞いてから我はエルフェンに話を通すと関門の上にやってきたように彼女を脇に抱えて飛んだ。
 飛んだ先でエイムの前で膝を着いて何故か項垂れているミケラを視界に捉えたので着地しエルフェンを降ろしてから声を掛けた。

「二人とも何をやっている?」
「あ、マスター聞いて聞いて。僕敵兵を五千百一人倒したよ。でもミケラは惜しいことに千九百五十九人だったの。」
「はにゅう…目標を達せず申し訳ありません大魔将軍様ぁ。」

 なるほど、それでミケラは落ち込んでいたのか。確かにエイムが時間切れとか言ってたからミケラは先輩と合流した後で自分が討ち取った敵兵の数を知ったのだろう。
 しかし初めての大規模戦闘としてはまずまずの戦果ではないか。ケット・シーからムーンライダーになってからまだ一年も経っていないのに鎧を着た敵兵を相手に見た限り無傷で戦ってみせたのだから。
 なのでここは少し譲歩してあげるとしよう。

「お前達、まだ戦は終わっていないぞ。我は完全勝利を望んでいるのだ。」
「え?そうなの?」

 姿に合う可愛いらしい仕草で身体を傾けるエイムに頷いてみせてからミケラに近寄って右手を差し出して言う。

「つまりまだカウントされるということだミケラよ。期待しているぞ?」
「だ、大魔将軍しゃまぁ…!」

 感動しているのか尻尾を犬みたいに早く振ってみせるミケラは元気を取り戻したのか差し出した手を取ってスッと立ち上がり気合いをみせる。
 こうやって失敗を嘆く新人にやる気を取り戻してあげるのは上の者としての役目だからな。

「さあ行くぞお前達!敵を完膚なきまで討つのだ!」

 バッ!とポーズを決めて我が言い放てばエイムとミケラは元気よく返事をして駆け出した。
 エルフェンにも好きに暴れてよいぞと伝えてみたがもう充分だと返された。

「それよりもこの後はどうするか考えているのか?」
「もちろんだ。だがそれはに行う。そうすればきっと宣伝効果が最高になるはずだからな。」

 問いかけに意味深な答えで返してやればエルフェンは肩を竦めてさすが悪役と言ってくれた。
 左翼側に視線を向ければゾドラ達も動き出しているのが確認できた。
 その中でプルパ達〔大地の守り人〕らはバオム達に乗りながらついているのも見えて協力する様子には嬉しく思いつつ我は眷属の手柄を取らない為にもエルフェンと一緒に散歩気分で前進するのであった。


***


「ーー…ぜ、ぜ、全滅だと!?」

 ロックガーデン国の山脈の麓に近い三国の内の一国に届いた報告に王だけでなく集められた大臣らも驚く。
 獣人族の国にある資源と労力を獲得するべく始めた戦争の結末が到底信じられなかったのはやはり用意した戦力だからこそだろう。
 国の自衛を除いた各国を合わせた二万強の兵力。
 さらに支援でいただいた簡易魔法装置で武装させて正に完璧な軍となっていた。
 対して相手は三つの関門に古い道具と魔法で数千の兵力でしか対応出来なかったはずだ。
 にも関わらず進軍開始から約三週間後に報されたのは全滅という敗北であった。

「あり得ない!一体何が起きたというのだ!」
「まさか敵も簡易魔法装置を使ってきたというのか!?」

 報せにきた偵察の者へ大臣らが声を荒げて質問を投げかける中、その者は見てきたことを包み隠さず語った。

「我々偵察隊は本陣との連絡が途絶えてから向かったのですが、そこで見たのはでした……」

 敵国がある山脈の麓に設営した味方本陣を訪れた偵察隊は視界に入ってきた者に息を飲んだ。
 本陣は少し荒れてはいたが形は保っていた。
 しかしそこには人間どころか死体すらなかったのだ。
 あるのは地面に転がる武器と装置、そして鎧と衣服だけであった。
 まるで人間だけが消えてしまったかのような状況に偵察隊は二手に分かれ一つは山脈に向かったはずの軍を確かめに向かい、もう一つは本陣の調査を続けた。
 本陣の調査をしてわかったことは僅かであった。
 テントには食料や道具がそのまま残っておりそこにも衣服と鎧が転がっているだけであった。
 もし襲撃されたのだとしてもテントや置かれた木箱等に血痕の一つもないことに調査した者は不気味さを覚えた。
 二日後、山脈を調査してきたチームが帰ってくる。全員が青ざめた顔で戻ってきたことにまさかと思って尋ねればとんでもない話が出た。
 まず三つある関門の内、二つは攻略した形跡が見つけられた。
 だが発見できたのは同じく自軍の兵士の武具だけでさらには獣人族の遺体も見つけられなかったのだ。
 そして最後の三つ目の関門があるところに着くと目を疑った。
 無傷のままそびえ建ち固く閉まったままロックガーデン国の旗を掲げる関門。
 その先で点在する岩と爆発によるクレーター……しかなかったのだ。
 獣人族も況してや人間族の遺体も影も形も一切無く、あるのは戦った跡と鎧の残骸しか残されてなかった。
 二つの関門で見られた光景とは全く違った光景と山脈が生む風の音がよりそのチームに理解できない恐怖を与え急いで帰ってきたという。
 話を聞かされた者達は驚愕してから話し合う。
 いくら二つの関門で激しい抵抗にあったからと言っても二万強の兵力が崩れるなんてあり得ないとか。実は三つ目の関門を攻略する時点で敵が降伏してロックガーデン国に入っているのでは?などと憶測を立てるも結論には至らず非常事態として偵察隊は一度本国へ報せる為に戻ってきたのである。

「正直に申しますと本国へ伝書鳩が来ていないのであれば、ロックガーデン国に向かわせた連合軍は全滅したと考えた方があり得ると思われます…。」

 語られた話を聞いて大臣らは動揺した。
 大量の投資をし二つの関門を容易に攻略した報告も相まってこの戦争は勝利間違い無しと思って既に利権の取り分けについて話し合いが始まっていたというのに今日判明した事態にそれどころではなくなってしまったからだ。
 だからここはまず他の二国とも連絡し合う必要が出てきた。
 敗北してしまった以上、恐れるのはロックガーデン国からの報復だ。
 しかし相手は一国。戦後の処理等ですぐにはやってこれないだろう。
 その猶予に自分らが一番に偵察しに行かせたので今得た情報を共有しロックガーデン国の攻撃に備えておけばいいと大臣と国王で話がまとまった。

「よし、では早速親書を送れ。合同会議の為の準備も怠るな!」

 国王の指示に大臣らは返事をすると扉に向かった。
 次の瞬間、その扉が爆発によって吹き飛び先頭にいた大臣へと衝突した。爆発による衝撃と扉によって巻き込まれた大臣達は壁に叩きつけられたり床を転がった。
 突然のことに国王は席から立ち上がって何事か!?と口に出したがすぐに後悔した。

「…何事かだと?どう見ても非常事態であろう?」

 聞いたことのない声にその場にいる者達が煙のある方を見ればそこにうっすらと大きな影が見えた。


***


 本陣までいた敵を一兵も漏らさず全て駆逐してからエイムが関門まで戻るようにして人間族の遺体を捕食していった。
 戦いが終わって後片付けをする中、獣人族の遺体も最後まで戦った勇敢な者達としてゾドラの龍魔法で判別出来るほどに修復してから我々で丁重に関門まで運んであげた。
 運んだ遺体を前に嘆く者や敬意を払うロックガーデン国軍の兵士達を眺めてから将軍としてというより我個人として動く。
 一人の遺体に近寄ると倉庫に手を入れてあのブラックダンデライオンを一輪胸元に置くと隣の遺体に移動してまた一輪置く。
 そうして何百とある遺体全てに花を置くと我は元の位置に戻ってから合掌した。
 するとエイムとエルフェンも同じように合掌する。魔界にいた頃からこうやって勇敢な戦死者を送ってきたので覚えてくれていたようだ。
 ゾドラもエイムを見て行いミケラも見よう見まねで続いてしてくれた。

「あれは何をしているのでしょうか?」
「チュチュ、きっと大魔将軍様式の死者を送る儀式じゃない?」
「オオ…ならばワレラもぉ…!」

 我々の行為を初めて見たラオブ達は不思議に思うも動物であるトーポの言葉になるほどと理解して真似てみせる。
 魔族とエルフェンが見せた行為にプルパ達と獣人族も運んでくれたことと哀悼してくれたことに感謝を伝える意味で全員が合掌してくれた。
 それから獣人族の将軍にこの場の後処理を頼む。受けた将軍は一礼して承ってくれたので我は次の段階に移ることにした。

「はあい、全員集合してくださーい。」

 連れてきたメンバーを召集をかけさせてから今後の話を伝える。
 プルパら〔大地の守り人〕にはこのまま残ってロックガーデン国への勝利の報告を任せる。
 次にラオブ達には労いの言葉を掛けてあげると各々に褒美をあげた。
 バオムには自然治癒力を大きく高めるとされる魔界自然薯を。
 トーポには食べるとステータスが上昇するダークブルーチーズ〈大〉を。
 ラオブには今後もリーダーとして活躍してもらう意味で眷属契約の確約をだ。
 出させれた報酬に三体は大いに喜んで一層の忠誠を示してくれたのでお願いする。

「お前達には今後もマヤト樹海の警備を任せる。人間族は侵入次第抹殺して構わんが他は例の建物に誘導してあげなさい。」

 最後に頼んだぞと告げてからラオブ達は【次元転移ジャンプ】でマヤト樹海に送ってあげた。
 これで残るは我と眷属の方針だが、それはこの戦いから、というか作戦会議の時点で決めていたことを伝えた。

「皆よく聞け。これより、我々は愚かにも挑んできた三つの国をする為に動く!」
「えっ!?今からか!?」

 我の宣言にエルフェンが驚く。一方眷属らは言葉の意味を鵜呑みにしてやる気をみせてくれた。
 いくさとは相手を屈服させるまでが戦だと魔界で学んだことだ。
 故に今兵力を失っている間にこちらから三つの国に出向いて国そのものを終わらせ人間族をその土地から追い出してやるのだ。
 無論、そこに老若男女は関係無い。
 伊達にこの世界のいくつかを侵略してみせた悪役として非情さは持ち合わせている。
 まあ半世紀前と唯一違うところがあるとするならが必要になることだろうか。

「エルフェン、お前はどうする?」
「わ、私…?」
「そうだ。プルパと共にロックガーデンに行くか。我々と共に破壊の限りを尽くすかは君が選べ。我は無理強いも命令もしない。」

 しかしエルフェンには選択を与えた。
 彼女は今でも英雄だからだ。
 それはここにきた時の獣人族の反応からしても伺えた。
 英雄のままロックガーデン国に凱旋するか、本当に人間族にだけの悪役の一人となって我々についてくるか。
 我の問いかけにエルフェンは俯いて黙ってしまう。
 悩み葛藤することは当然の反応だと予測していたので三つの国をどう攻めるか眷属と話し合う時間として明日答えを聞こうとエルフェンに伝えた。
 提案にエルフェンもわかったと返事をして一旦その場を去っていった。

「旦那様、わざわざ彼女を連れていく必要はないのではありませんか?」
「うんうん、僕らだけでパッパッと壊してこようよ。」

 立ち去るエルフェンの背中を見ながらゾドラとエイムが意見してきた。
 二体の言い分はそうだとも思える。わざわざエルフェンを連れていくかどうか猶予を作ってまですることかと考えれば三つの国が防備を固める前に攻めるべきであろう。
 でも、エルフェンはもう我のパーティーメンバーなのだ。
 仲間の意思を尊重するのは眷属と同じくらい大事なことなのだ。

「だからお前達も彼女を眷属の一員くらいにでも構わないから接してやれ。」

 眷属らにそう告げてあげるとエイム達は一度顔を見合せてから同意の返事をしてくれたので我は三国を滅ぼす方法を話し合う。
 方法は単純明快だ。眷属らと一緒に一国ずつ潰していく。
 城も街もなにもかもだ。もちろんそこに捕らわれている種族がいるなら保護していく。
 それからエイムやラオブ達の力を借りて更地に自然を取り戻すとしよう。
 植林記念を行う大魔将軍…なかなかにシュールな絵面になりそうだが面白いと思えるのでやってみたいものだ。
 だから最初に三国のどこを最初に潰すかで話し合いながら翌日を迎えた。
 朝方になってからロックガーデン国と【大地の守り人】双方で本国への帰還に向けて話し合いが行われている中、エルフェンは自らこちらに出向いてくれた。

「ーー…答えを聞こう。」
「ああ、私は今より英雄の肩書きを棄てる。」
「本気なのだな?女子ども全て手にかける業を背負うことに。」
「もちろんだ。だが一人で背負わせはしないのだろう?」

 微笑みを浮かべてみせながら言うエルフェンに我は頷いてから参加を認めると眷属らに話したことを伝え役目を与えた。
 話を聞いてエルフェンは覚悟を決めた顔つきで了承の返事をしてくれたので実行する期日まで待つことにした。 
 それから早一週間半経った頃にやっと全滅を確かめに来てくれた者達を監視のミニマムエイムが発見したらしい。戦いから四日後にアプローチがあるかもしれないと踏んでいたのだがもっと経ってしまったな。
 もっと早く来れたら死体のいくつかは見れたかもしれないがもう手遅れだ。
 しかしエイムの後片付けに関してその時に我が身だけにしなさいと言ってあげたせいか物資を残していく形になったのが偵察しにきた連中にとってそれが不気味さを与えられたようだ。
 ならば数日もすれば自分達の国へ帰るだろうから監視を続けるよう指示しこちらはこちらでいよいよ動き出すとしよう。
 この世界が半世紀も保てたとやらにまずは大きなヒビを入れてやるのだ。
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