弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

《人龍》と呼ばれる男

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 チリンとドアベルが鳴る度に、犬人族やエルフといった多種多様な種族の従業員が忙しなく客を出迎える。

 そんな中、ヒロは、自分の目前に並べられた大量の料理に困惑していた。

「あの……ママ、僕こんな頼んでないです」

「でも、ミアが今日がたくさん食べるって言ってたんだけど」

 英雄の食卓の女将、黄金色の長髪を1つに纏めた美女、ネネ・ストロンガーは、ダンッともう1皿ヒロの前に料理を置いた。

「どういうことです、ミアさん?」

 ヒロは、仕事中の筈なのに自分の隣に座り、食事をしているミアへ視線を向ける。
 彼女は、口の中の物を一旦飲み込んだ。

「食べてくれないんですか?」

 そして、瞳を潤ませ下からヒロの顔を覗き込みコテンと小首を傾げた。

「ぐ……あざとい」

 女性経験がないヒロにとってミアの行動は非常に効果的だった。

「ヒロ君……うちの店のご飯が食べれないの?」

 更に元冒険者であるネネから発せられる圧も相まってヒロは料理を口に運ばざるを得なかった。

 代金やネネに対する恐怖で料理の味がしない。

「おい、姉ちゃん。そんな雑魚より俺達の方が余程稼いでいるし、いい想いさせてやれるぜ?だから、こっちに来いよ」

「そーだ、そーだ」

 ふと、そんな男達の声が後方から聞こえた。

 ここ、英雄の食卓は、数多くの冒険者に利用されている。そして、冒険者である男の大半は、富や名声を強く欲し、女に飢えている。

 英雄の食卓だけでなく冒険者が利用する飲食店ではこんな光景、日常茶飯事だ。

 故に、ヒロやミア、ネネは、何事をなかったかのように男達の言葉を無視した。そのことに男達は、腹を立てたらしく、荒々しく彼女の肩を掴んだ。

「おい、せっかく声掛けてやってんだから酌くらいしろや?!」

「キャッ!!」

 肩に加わった衝撃と男の怒号にミアは、小さく悲鳴を上げた。

 彼女の反応が男の性癖にささったのか、彼は、下卑た笑みを浮かべ、舌なめずりをする。

 ヒロは、その隣で硬直した。
 相手は、装備から判断するに確実に格上。この世界での力関係は余程の加護が発現しない限り、ランクとステータスが絶対だ。つまり、最低ランクの彼に敵うはずがない。

 しかし——、

「……その手を離してください」

 ヒロは、ガッと男の腕を掴み震える声で絞り出すように言った。
 彼が憧れる英雄ならきっとそうした。今ここで止めなければ、一生憧れに届かなくなるとさえ思ったのだ。

「黙ってろ、すすかぶり!!」

 男の言葉と同時にヒロの顔面に強い痛みと衝撃が走り、彼は、そのまま吹き飛ばされ、店の壁に激突した。

 口の中に広がる鉄の風味と鼻から垂れる生暖かい液体。そして、熱を持つ患部。彼は、自分がどうなったか理解出来ずに朦朧とした視界に前方を収めた。

「ヒロさん?!」

「おい、あんなやつよりこっち相手しろよ」

 ミアが、ヒロへと駆け寄ろうとするのを男が阻む。

「離してください!」

 ミアが、男の腕を振り払おうと振り返った。その時——、

「おい……その手、離しな」

 壁際の席に座っていた男がそう言って立ち上がった。

「何だと?」

 男が声の方へ機嫌悪そうに視線を向けるが、彼は一瞬で青ざめた。

「おい……ボア不味いぞ、《人龍》だ」

 ボアと呼ばれた男のパーティの1人だろう男が彼にコソッと耳打ちした。

 Eランク以上の冒険者へ神々から能力や功績に合致した二つ名が与えられる。

 その男は、190センチメートルを軽く超えた長身とオーガのように発達した肉体。
 龍のように鋭い切れ長の目と後ろで一つに纏めた長い赤髪。
 伝説の3人の1人、現ギルドグランドマスター《赫龍》メテオ・ドラノスの息子にして《人龍》と呼ばれる、ガルド・ドラノスだった。ランクは、Cだ。

「瞬間火力でSランク冒険者に並ぶらしい」

「なら、近くにいるのは【龍姫】のカンパニーだぞ」

 同じ神の眷属や目的が一致した冒険者同士が作るギルドより小規模な組織、それが、カンパニーだ。

【龍姫】のカンパニーは、龍と破壊の女神リアスの眷属で構成され、最強と呼ばれるカンパニーの一つだ。

「もう一度言うぞ、おっさん。……その手を離せ」

 ガルドのドスの効いた声を聞き、ボアはビクリと体を跳ねる。

「チッ……」

 ボアは、苦し紛れに舌打ちをすると、その場をパーティと去ろうとした。その瞬間、ドゴッという破壊音が店内に響き渡った。

「お触りの件は大目に見てあげるわ……けどね、代金は支払ってきなさい!!」

 ネネがカウンターの板をその細い腕で叩き割ったのだ。

「す、すみませんでした!!」

 ボアは、ネネに恐れをなし、袋のまま金を机の上に置くと走り去った。
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