弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

やめませんか

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 暗闇。

 ヒロは、自分が現在置かれている状況が理解しきれていなかった。

 暑いのか寒いのかわからない。

 身体が動かず、辛うじて指先をピクリと動かせる程度。

 ——僕、死んだのか……

「……さん」

 恐らくヒロの頬に熱い液体が1滴落ちてきたらしい。彼は、頼りない熱を感じた。

「ヒロさん、起きて!!」

 ヒロがハッとし目を開けると、そこには涙で顔をぐちゃぐちゃにしたミアが彼の顔を覗き込んでいた。

「ミア……さん?」

 ヒロがミアの名を呼ぶと、彼女は、目を見開いた。そして、大粒の涙を零した。

「よかっだ……生きでだ……」

 ミアは、泣きながら喋るものだから、なんと言っているか聞き取りずらかった。

 しかし、ヒロは、彼女に相当心配をかけたことだけは確信した。

「ははは……無事とは言えませんが、帰ってきました。あの、それよりここは?」

 ヒロは、そう言い、上体を起こそうとした。その瞬間、全身に今までに体験したことがない程の激痛が駆け巡った。

「ッ?!」

「あ、起きたらダメです!!ここは、私の家です」

 ミアがそう叫んだ。

 ヒロは、痛みの正体を確かめようと首だけを上げ身体に目をやり絶句した。全身隈無く包帯が巻かれていたのだ。そして、ミアの家という事実。

「え、ええ?!」

 ヒロは、二重の意味で絶叫した。

「あと少し治癒魔法を掛けるのが遅かったらその……」

 ミアは、ヒロから視線を逸らし、言葉を濁した。しかし、彼には、その次の言葉が予測できた。

「死んでたんですか?」

 ヒロが呟くように言うと、ミアは、こくりと頷いた。

 ——そりゃそうだ……

 ヒロは、冷静だった。ワータイガーとの戦闘を思い出す。

 格上相手に瀕死ではあったが、生還した上に、一矢報いることまで出来た。これは、彼にとって大きな成長だろう。

 ——あの力は一体?

 ヒロは、ワータイガーとの戦闘時の感覚を思い出した。

 エリア10のモンスター、しかもボス級。少なくともCランク冒険者のパーティに匹敵する。

 その強敵の攻撃を軽々と躱すことが出来、ダメージを与えることが出来た攻撃力。

 あの力をもの出来れば、間違いなく伝説の3人に近づける。これは、予測ではなく確信だった。

「やめませんか、冒険者?」

「え?」

 ヒロが思考を巡らせていると、ミアがぽつりと言った。突然の彼女の言葉に、ヒロは、間抜けな声を出した。

「私、もう嫌です。ボロボロになったヒロさんを出迎えるのもヒロさんの悪口をお店で聞くのも、もう耐えられません!!」

 ミアの目から再び涙が流れ始めた。よく見ると、彼女の目は赤く腫れていた。

 ヒロがどれだけ眠っていたかは、定かではないが、その間ずっと泣いていたのだろう。

 しかし——、

「僕は、やめません」

 ヒロは、止まることが出来ない。

「どうして?!」

「英雄になりたいからです。無知で無能で無力で無謀で家族もいなくて……そんな僕でも物語みたいな英雄になればきっと生きている意味が見つかる気がするんです」

 ヒロの顔は、ミアの知る中でかってない程真剣だった。彼は、どこか遠くを見据えているようだった。

「今は違っても、死ぬ時くらいあなたのおかげでなんて言われて数人でいいから看取って欲しい。……もう孤独は嫌なんだ」

 ヒロは、物心がついた頃には、既に両親を亡くしていた。母は、ゲートブレイクの際に発生したモンスターに殺され、冒険者だった父もモンスターに殺された。

 唯一肉親だった祖父も天寿をまっとうし、もうこの世にはいない。

 彼は、別にモンスターを憎んでない。モンスターを駆逐したいと思っていない。

 彼の両親を知る人々は、皆口を揃えて立派だったと言った。そして、孤独だった彼の心の拠り所は、死んでも尚語られる両親への誇りだった。

 彼は、思った。

 ——英雄になれれば、最後くらいは1人じゃない。

「……」

 ヒロの真意を初めて聞き、ミアは、何も言えなくなった。

 そんな時、コンコンとドアがノックされる音が屋内に響いた。
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