弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

違和感(二)

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 窮鼠猫を噛むとはまさにこの事だろう。

 ワータイガーは、自分より圧倒的弱いヒロに反撃されたことが余程腹立たしかったらしい。

「グガアアアアアア!!!」

 雄叫びを上げると、真っ直ぐヒロへと突っ込んできた。

 しかし、彼は、それを容易に避けた。全身が痛み、指先だけでも動くかどうかという身体でだ。

 ——どうなってるんだ?!

 困惑したのはワータイガーよりもヒロ自身だった。

 ワータイガーは、困惑をかき消すかのように荒々しく右腕を横薙ぎに降り、彼へ攻撃した。だが、またしても彼は、これを軽々と躱した。

 ワータイガーの動きがコマ撮りのようにゆっくりと見えるのだ。そして、力が溢れる。

 彼がワータイガーの背中側へ回り込み、拳を叩き込む。

「ッ?!」

 ワータイガーは、海老反りになり吹き飛んび、悲痛の声を上げた。

 力が圧倒的に増していることは、一目瞭然だ。

 飛びそうな意識が痛みによって引き止められる。

 ヒロは、クラクラする頭で必死に思考する。

 ——今まで歯が立たなかった奴が一撃で吹き飛んだ。まさか……加護?!

 ヒロがそう思い、全身に視線を巡らせた。しかし、何の変化も見られなかった。

 神々が使用する地上の住民では読むことが不可能な文字。

 それらが身体の周囲に出現し、虹彩が発光する。これが加護を使用した時に目に見える変化だ。

 このことから彼は、現在加護を発動しているわけではないようだ。しかし、実際彼は、今までよりも遥かに強くなっている。

 彼は、一旦考えることを止め、ワータイガーが吹き飛んだ方へ視線を戻すと、何やら息を吸い込んでいた。

 そして、彼がその意図に気づいた時には手遅れだった。

「グルアアアアアア!!!」

 ——咆哮ハウル?!

 ワータイガーの怒号が耳に届いた瞬間、ヒロの動きは、停止した。いや、

 怒り任せの雄叫びではなかった。自分が被食者であることを本能的に悟らせ、恐怖させるものだった。

「……クッ……動かない」

 ヒロは、膝が笑い立っていることが出来なくなり、膝を着いた。

 彼の目前でワータイガーは、前足を地面に付け、完全に野生本来の姿を取り戻していた。確実に彼を仕留めるつもりらしい。

 彼は、焦った。しかし、何も出来ない。

 いくら力が増し、攻撃を躱せたとしても奴の攻撃を1度でも喰らえば死ぬかもしれない。

 ワータイガーは、音も立てずに駆け出し、瞬く間に彼の側まで来た。そして、その鋭い牙で彼の首筋に食らいついた。

「ああああ!!!」

 鮮烈な痛みと死への恐怖にヒロは、再び絶叫した。

 ——ここで終わりか

 ヒロが諦め、目を閉じた時だった。

 一瞬、熱を感じたかと思うと、ワータイガーは灰となり跡形もなく消えた。彼は、力なく前へと倒れ込んだ。

「おい、ルーシー!!治癒魔法、早く!!」

「わかっている……だが、この怪我では」

「いいから早くしろ!!」

「ええい」

 ——ガルドさん……そんなわけないか。彼がエリア1にいる筈ない

 ヒロは、ガルドの怒声と女性の声が聞こえた気がした。しかし、声の主が誰かを確かめることなく、彼は、意識を失った。



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