弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

違和感

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 突っ込んできたゴブリンの頭部に全力の打撃を叩き込み破壊する。

 その後ろに潜んでいた2匹ゴブリンは、蹴りで牽制し、彼奴等が怯んでいる隙に倒した奴が持っていた雑な作りのナイフを奪う。そして、そのナイフで2匹の喉元を斬り裂いた。

「よし、今日はいい調子だ」

 ヒロは、倒した3匹分の核を全て回収し、小さめの皮袋へ入れた。そして、周囲にモンスターがいないことを確認し、一息ついた。

 ここは、門の先の世界。
 この世界は、同心円状に結界で区切られており、区域毎に環境や出現するモンスターの種類や強さが異なる。基本的に門から奥へ進むほどモンスター達は強くなっていく。

 ヒロが現在いるのは、エリア1。門を潜って直ぐの区域だ。

「それにしてもゴブリン相手に楽勝だったな……もしかして、強くなってたりして!!」

 ヒロの声に反応する者はおらず、周囲は、直ぐにしんと静まり帰った。彼は、何とも言えない気持ちになり、ある違和感について考え始めた。

 彼が先程言っていた通り、ゴブリンを相手にしたのに討伐が容易すぎたのだ。

 ゴブリンは、序盤から出現するモンスターだ。力こそ強くないが、知性が人間の子供並みはあるため大多数で少数を襲い、遠距離武器や毒を使う。

 ゴブリンだと油断した新人冒険者がその後どんな目に遭うかなど想像も容易い。故に、彼奴等は、《新人殺し》と呼ばれている。

 そんなゴブリンが今回は、3匹だけで行動しており、行動パターンも突っ込んでくるだけと単純だった。——まるで焦っているかのように。

「まさか、こっちで何かあったのか?」

 ヒロは、そう思ったものの具体的にどうなっているかまでは想像できなかった。彼自身、エリア1よりも先に進んだことがないからだ。ここでさえ気を抜いたら死にかける冒険者がより強く厄介なモンスターが出現するエリアに進めるはずがなかった。

「それにしても、今日はやけに静かだな……モンスター達がほとんどいない」

 そう、ヒロが呟いた瞬間——、

「グルルル」

 獣のような低い唸り声が辺りに響き渡った。そして、その唸り声が聞こえると、草むらに隠れていただろうモンスター達がその場から脱兎のごとく逃げ出した。

 ヒロは、その異様な光景に焦りを隠さずにはいられなかった。その後、唸り声が聞こえた方へ視線を向け凍りついた。

「……おい、……嘘だろ?」

 かろうじて、それだけ口にした。
 ヒロの視線の先にいたのは、3メートルを優に超える巨大な二足歩行の虎、ワータイガーだった。

 ワータイガーは、通常エリア10でないと出現しない。しかも、彼が対峙しているのは、所謂エリアボスと呼ばれる通常よりも遥かに強い個体だった。

 ワータイガーは、彼を獲物と捉えているらしく、じっと凝視している。

 ——まずい!!

 ヒロがそう思い構えた瞬間だった。ワータイガーが先程まで佇んでいた場所には、土煙が立ち込めているだけでその姿は無くなっていた。

 次の瞬間、彼の右腕に強烈な痛みと衝撃が走った。彼は、そのまま吹き飛ばされ、岩に激突した。ひび割れた岩が彼を襲った衝撃の威力を物語っている。

「……何が起こった?」

 ヒロは、ジンジンと痛む右腕へ視線をやり、息を飲んだ。そこには、鋭利な刃物で斬られたような4本の深い傷ができており、鮮血が吹き出していた。

「うあああああ!!」

 ヒロは、傷を見て更に痛みを自覚し、痛みと恐怖に絶叫した。

 しかし、ずっと叫んでいる訳にはいかない。彼は、傷口に手を当て前方へ視線を向けた。先程までヒロがいた場所にワータイガーが立っており、彼の方を向いた。

 ——また来る!!

 ほぼ直感だった。ヒロがその場から飛び退くと同時に岩が砕け散った。土煙のせいで何がどうなったかはわからないが、恐らく、ワータイガーが突撃したのだろう。

「はは……ふざけろよ。昨日約束したばっかだぞ」

 ヒロは、ミアやコクス、従業員の顔と言葉、ミアとの指切りが鮮明に思い出した。まるで、走馬灯のように。

 煙が収まると、ワータイガーの姿が視認できた。奴は、彼の姿を見て確かに口角を上げた。弱った獲物を見て楽しんでいるのだ。

 彼は、そんなワータイガーの姿に今までにない程の恐怖を感じ、震えた。しかし、同時に自分を獲物と決めつけるワータイガーに対し怒りを覚えた。

「いいよ……やってやる……かかってこい猫野郎!!」

 ヒロがそう叫ぶと同時にまた、ワータイガーが目にも留まらぬ速度で彼に近づき、攻撃を仕掛けた。

 ——この大ぶりは避けれる。

 ヒロは、ワータイガーが大きく振り上げた右腕を見て、しゃがみ攻撃を回避する。そして、空いた脇腹へ全力で拳を叩き込んだ。しかし——、

「おい、嘘だろ?ぜんぜん」

 効いていなかった。

 ワータイガーは、ニヤリと笑うとヒロの腕を掴み、彼を軽々と持ち上げると地面へ叩きつけた。何度も何度も。

「……グルルル」

 動かなくなったヒロの生死を確認するためかワータイガーは彼を持ち上げ、自分の顔へ近づけた。その瞬間、彼は、装備していたナイフをワータイガーの右目へ突き立てた。

「ガアアアアア!!!」

 突然の不意打ちと目を潰された痛みでワータイガーはヒロを離し、絶叫した。

「も、もう……1回だ……」

 ヒロは、動かす度に激痛が走る体を無理矢理動かし、再び構えた。
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