弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

無事でさえいれば

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 タンタンと規則正しい音を立てながらかなずちを振り下ろす。
 ヒロは、ガルドが去った後、壊れた椅子等を修復していた。そして、既に閉店時間を過ぎていた。

「わー上手ですね!」

「慣れですよ……痛っ!!」

 ミアは、閉店後の作業が一段落したらしくヒロのそばの席に腰掛けた。そして、彼は、彼女の賞賛の声に油断したらしくかなずちで彼の指を打ち付けてしまった。

「だ、大丈夫ですか?!」

「はは……頑丈さだけが取り柄ですから」

 ヒロは、目尻に涙を溜め、苦笑を浮かべた。そこへネネが湯気が立つ3つのマグカップを盆に乗せ、彼らの元へとやって来た。

「お疲れ様ー。これコーヒーね~、ミアも」

「ありがとう、ママ」

「ありがとうございます」

 ヒロは、ネネからマグカップを受け取り、一口飲むと机の上にそれを置いた。そして、再び作業を再開した。
 ミアは、そんな彼を眺めながら休憩を継続し、ネネも彼女の隣の席へ腰掛けた。

「ヒロ君、ありがとうね」

「何がですか?」

 ネネの感謝の言葉に対し、ヒロは、作業を止めず質問を返した。

「ミアを庇ってくれて」

「いやー僕は何もしてないです。結局、ガルドさんのおかげで無事なだけで」

 ヒロは、作業を止め顔を上げた。彼の顔は、言いようもなく悲しげだ。その表情は、彼自身の弱さと不甲斐なさへの自覚が作っていた。しかし、ネネは——、

「別にいいじゃない」

 何食わぬ顔でそう言った。ヒロは、「えっ?」と言葉を漏らし、ネネの顔を直視した。

「冒険者なんて大半は富や名誉、強くなることに命を懸けてるけどね、最後は、五体満足で無事な奴の勝ちなのよ」

 ネネは、続けてそう言った。ヒロは、彼女の視線の先が計り知れない程遠くの気がした。
 彼女は、【龍姫】に匹敵する【魅舞】カンパニーの元Bランク冒険者だ。そして——、

「ねえ、パパ」

 ネネが厨房へそう呼びかけると、ドスンドスンという音が店内を木霊し、地面を震わせた。そして、出てきたのは、ガルドを超える体格の巨漢だった。

 彼は、コクス・ストロンガー。ネネの旦那であり、【金星】カンパニーの元Bランク冒険者だ。

「ああ、ママの言う通りだ」

 コクスは、低い声でそう返答した。

「坊主、弱くたっていい。負けたっていい。その代わり、今まで通り無事に帰ってきて俺の作った飯を食え」

 コクスは、そう言うと、ヒロへ腕を伸ばし、彼の頭とほぼ同じ大きさの手で彼の頭を乱暴に撫でた。そんな彼の優しさが染み、ヒロは、涙を零した。

「すみません……」

 ヒロは、涙を拭った。

「パパとママの言う通りだぞ、すすかぶり。ミアのためにもちゃんと帰ってくるんだぞ」

 その中の橙色のショートカットの犬人族の少女、ハピが言った。ミアは、その瞬間、一気に顔を赤くした。

「ちょ、何言って」

「ハピに同感なのです。ミアのためにもヒロさんはちゃんと帰ってきてください」

 そう微笑を浮かべ頷いたのは、薄い茶髪でショートボブのハーフエルフの少女、エルだった。

「ちょっと、エルまで……」

 ミアは、遂に涙目になった。

「ああ、ミアのためにも帰ってこいよ、ヒロ!」

 そして、白髪の虎人族の少年、クローが追い討ちをかけた。彼の言葉がトドメだったらしく、ミアは、その場にヘナヘナとしゃがみこんでしまった。

「あ、あの……ミアさん」

 ヒロが困惑し、ミアの傍へ寄ると、彼女は、顔を伏せたまま彼に向け手を突き出した。彼女の手は、小指が立っている状態だった。

「もういいです……。私のためにこれからも帰ってきてください」

 ミアは、拗ねた子供のような口調でそう言った。
 ヒロは、そんな彼女の姿を見てドキッとした。そして、直ぐに彼も小指を出し、彼女のものと絡めた。彼は、極東の地域で約束交わす時に行われる儀式の指切りだろうと思った。

「はい、必ず」

 ヒロは、力強く頷いた。
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