弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

零れた涙

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 ヒロは、窓から差し込む朝日と鳥のさえずりで目を覚ました。

 傍からスースーという寝息が聞こえてくる。

 彼が首だけを上げ寝息の聞こえる方へ視線を向けると、ミアが彼の左手を握りしめ、椅子に座ったまま彼に寄り掛かる体勢で眠っていた。

「傍にいてくれたのか……」

 ヒロがそう呟いた。すると、ミアは、目を覚ましたらしくゆっくりと目を開けた。

「ああ……ヒロしゃん……おはようございます……」

 ミアは、完全に覚醒していないらしく、呂律が回っていなかった。

「ふあぁ」

 ミアは、欠伸をし、ヒロの手を掴んだまま大きく伸びをした。そして、掴んでいる彼の手を見て固まった。

「す、すみません!!私……」

 ミアの顔は、一瞬で赤くなった。彼女は、慌ててヒロの手を離すと立ち上がった。その衝撃で椅子が音を立てて倒れた。

「いや、大丈夫ですよ!ありがとうございました!」

「……ありがとうございました?」

「あ、なんでもないです」

 ヒロは、ミアが首を傾げ復唱した言葉を慌てて訂正した。彼も顔を赤くした。

 そして、静寂が訪れた。2人共何も言えずに固まってしまった。

「あ……えと、朝ご飯食べますか?」

「はい、いただきます」

 気まずさを誤魔化す様にミアがそう言った。彼女は、ヒロの返答を聞くとそそくさと奥の方へ行った。恐らく台所があるのだろう。

 しばらくして、ミアは、湯気が立つ2つの器を盆に乗せ出て来た。

「昨日の晩ご飯の残りなんですけど」

「昨夜は賄いでなかったんですか?」

 ヒロが何気なくそう言うと、ミアは、湯気が出そうな程赤面した。

 そして、顔を逸らし、もじもじとしながら口を開く。

「すごく……お腹が空いて、つい……」

 ——可愛い人だな……

 ヒロは、名状し難い感情になった。

「……どうぞ」

 ヒロは、ミアが器を差し出してきたので受け取ろうと右腕を上げようとした。その時、昨日程ではないが、激しい痛みが走った。

「ッ!!」

「あ……そっか」

 ミアは、盆をベッドの傍の机の上に置き、椅子へ腰を掛けた。

 そして、手に持っていた器から匙で中のものを掬いとるとふうふうと息を吹き掛けた。

「あ、あの……ミアさん?」

 息を吹き掛ける際に閉じられた二重の瞼から伸びるまつ毛は、非常に長い。

 少し突き出された唇は、血色がよく艶がある。

 ヒロには、ミアのどこを取っても色っぽく感じられた。

「はい、あーん」

 ミアは、一通り息を吹き掛け終わると匙をヒロへ突き出した。

「え、ちょっ……」

「むう、あーん!」

 ヒロは、ミアの行為に戸惑い、彼女が突き出したものを食べようとしなかった。

 そんな彼の対応にミアは、頬を膨らませ、今度は強引にヒロの口の中へ匙をねじ込んだ。

 まだ少し暖かいスープが寝起きの冷えた身体に熱を点した。

 トマトの様な酸味を具材の野菜本来の甘さが和らげ、優しい味わいだった。

「トマトのスープなんですけど、どうですか?」

 ミアは、微笑を浮かべた。

「すごく……美味しいです……」

 ヒロが出したミアの質問への解答は、大粒の涙だった。ワータイガーの攻撃でさえ泣かずに耐えた彼が涙を流したのだった。

「え、ええ?!私が強引に食べさせたから……ごめんなさい!!」

「いや、違うんです……誰かと朝を過ごすのも誰かと朝食を共にするのもかなり久しぶりで……」

 ヒロは、そう言いながら笑った。しかし、未だに大粒の涙が零れ続ける。

「あれ……おかしいな。止まらないや」

 ヒロは、強引に涙を拭うが、次から次へと出てきてキリがない。

 ミアは、優しく微笑むと再び器からスープを掬いとり、ヒロへ突き出した。

 ヒロは、今度は躊躇うことなく匙を咥え、スープを口に含んだ。

「どうです?」

「美味しいです」

「それは何より」

 ミアは、満面の笑みを浮かべるヒロを見て、子供へ向ける様な優しい視線を送った。

 器の中が空になる頃には、ヒロの涙は止まっていた。

 ***

「これで日常生活は問題なく送れると思います」

 ミアが加護を発動し終わり、そう言った。

「包帯巻き直しますね……」

「え、自分で……」

 ——やります

 そう口にする前にミアは包帯を解き始めた。行動をもってヒロを制したのだ。

「あれ?」

「……どうしました?」

 ヒロは、ミアが反射的に呟いた言葉に不機嫌そうに反応した。

「いえ、昨晩よりもその……身体が立派になってて」

 ミアが恥ずかしそうに言うのでヒロも自分の身体に視線を向けた。そして、目を見開いた。

 今までうっすらとしかわからなかった腹筋がはっきりと割れていたのだ。腕も同じ様に発達していた。恐らく背や足も同様だろう。

「これが経験値……」

 経験した内容の種類や量によって発生するそれぞれのステータスを伸ばす数値。

 例えば、短距離を走れば、俊敏のステータスに、重い物を運べば、筋力のステータスに経験値が発生する。

「これで終わりです」

 ミアは、包帯を巻き終わるとそう言った。右腕に巻かれた包帯の量も全身と同じ位になっていた。

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