弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

《人龍》の回想(二)

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「これでしばらくはもつだろうが……」

 ルーシーは、息を切らしながら額の汗を拭った。そして、その顔は、暗かった。

 彼女の扱える最上級の魔法でも応急処置程度しか出来なかったらしい。

「ああ、十分だ」

 ガルドは、担いでいた武器を地面に雑に落とし、代わりにヒロを背負う。

「ルーシー、俺は、先に元の世界に戻るからこいつを持って帰って来てくれ」

「お、おい待て。非力な私にこんな物が運べると思うのか?」

「魔法使えばどうとでもなるだろう」

 ガルドは、ルーシーが今にも怒りだしそうな顔をしているため、彼女が何かを言う前に加護『龍脚』を発動してその場を後にした。

 幸いにもヒロがワータイガーと戦闘していた場所は、門からそう遠くなかった。

 門は、元の世界への侵攻を目論む邪神達によって開かれる。

 世界中、至る所に開かれては、阻止することが難しい。そのため、神々の力によってある一定の範囲で1つの場所に集められているのだ。

 王国の場合、ギルド本部の地下深くがそれだ。正確には、門が集められた場所の上にギルド本部が建てられたのだ。

 ギルド本部は、地下深くから雲に届きそうな程高い真ん中が吹き抜けの円塔だ。

 ガルドは、門を潜り、元の世界に戻ると直ぐに跳躍し、吹き抜けを通過した。目指したのは、地上1階の受付などがあるフロアだ。

「おい!!ここから1番近い病院はどこだ?!」

 ガルドは、到着するなり開口一番にそう叫んだ。

 その場にいた者は、吹き抜けから突然飛び出してきた《人龍》は勿論のこと、彼に背負われている見るも無惨な姿のすすかぶりに驚愕した。

「おい、すすかぶりが大変だ!」

「どうしたんだ?!」

「んなことどうだっていい!!1番近い病院はどこだ?!」

 寄ってきた野次馬達は、自らの好奇心を優先した。ガルドは、痺れを切らし再び声を上げた。今回は、怒気を孕んでいた。

「あ、ああ。……けど、この街の先生なら今日はユロス陛下の所に言ってるぜ」

「確かにそんなこと言ってたような」

 野次馬達は、気圧されて控えめな声でそう言った。ガルドは、「チッ」と大きく舌打ちをした。

「なら、治癒の加護を使える奴、もしくは、ルーシーの''ディア・デメア''よりも効果ある魔法使える奴は?!」

「ルーシーよりもって……」

 ルーシーの魔法の腕は、《金色こんじきの魔法使い》の二つ名を持つ程優れている。

「そうだ!英雄の食卓の……ほら、すすかぶりとやたら仲良い店員!デメア様の眷属だって聞いたことあるぞ!」

「それ本当か?」

 ガルドは、真偽を確かめることなく英雄の食卓へ真っ直ぐ向かった。ガルドの今のでは、英雄の食卓まで数分とかからない。

「ミアの嬢ちゃんはいるか?!」

 英雄の食卓の扉を荒々しく開くと中にいた者は皆ガルドへ視線を向けた。

「は、はい。ここにいま……ヒロさん?!」

 ミアは、控えめな声で返事をした。エプロンで手を拭きながら厨房から出てきた。そして、ガルドの背のヒロを見るなり態度を一変させ彼に駆け寄った。

「ど、どうしたんですか?!」

「俺も詳しくは知らねえがあんたが治癒の加護を使えるって聞いてすっ飛んで来たんだ」

「ママ!」

 ミアは、ガルドが喋り終わるのとほぼ同時に振り返った。

「いいよ、行ってきなさい」

 ネネは、ミアの意志を汲み取り優しく頷いた。彼女は、それを見てコクリと頷くとガルドへと向き直った。

「私の家が近いのでそっちに行きましょう」

「ああ、わかった」

 ガルドは、ミアの後に続いた。

 ミアの家は、本当に近かった。

 集合住宅の1階の1番右に位置している。

 ミアは、鍵を開け中に入ると中央の机の上に置いてあったランタンに手をかざした。すると、そのランタンは眩い光を放った。

 モンスターの核は、魔素がある程度多いと発光する性質を持つ。それを活かした魔道具だろう。

 モンスターの核は、他方面で利用され、この世界では、なくてはならないものだ。

 ミアがランタンを天井から吊るすと部屋全体が照らされた。隅々まで掃除せれており、あらゆる物が綺麗に整理整頓されていた。

「そこのベッドに寝かせてあげてください」

 ガルドは、ミアに指示された通り、ヒロをベッドに寝かせた。

 ミアは、ベッドの傍に椅子を運んで来て、それに腰を掛けた。そして、ヒロの左手を掴んだ。

 彼女がゆっくり大きく息を吸うと同時に空色の神々の文字が彼女の手首から指先にかけて螺旋を描いた。

 しばらくして、ヒロの身体が空色の淡い光を放ち始めた。そして、瞬く間に傷が塞がり、赤黒くなっていた彼の右腕も元の肌色に戻った。

「驚いた……ルーシーの魔法以上だ」

 ガルドは、ミアの持つ加護に感心した。

「これで大丈夫です。あと1回である程度は治ります」

 ミアは、額の汗を拭いながら言った。

 ***

「ボス級のワータイガーを追い詰めたGランクに瀕死の重症を瞬く間に治す加護……」

 ガルドは、自然と呟いていた。

「ったく……退屈しねえな」

「何か言ったか?」

 ガルドは、フッと鼻で笑うと空を仰いだのだった。



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