弱者だった少年が英雄になるまでの物語。

白達磨

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少年が英雄譚を歩み始めるまでの物語。

《人龍》の回想

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 ガルドは、ミアの家から出ると英雄の食卓へ向かった。

「お、おいガルド……」

 ガルドは、ルーシーの声が遠く感じた。どうやら速かったらしい。

 しかし、早く戻らなければ、パーティのメンバーに何を言われるかわからない。

 ガルドが現ギルドマスターの息子だからか、それとも、最速でCランクに到達したからかはわからないが、【龍姫】のカンパニー自体、彼のことが気に入らないらしい。

 カンパニー内で何かと気にかけてくれるのは、それこそカンパニーの主神リアスかルーシーくらいだ。

 家を飛び出すような形で冒険者になった分、彼には、頼れる人などどこにもいない。

 少し違うが、彼は、ヒロによく似ている。だから、彼のことを気にせずにはいられなかった。弟分とすら思っている。

 そういう訳で、ガルドは、今日のことが未だに信じられないし、鮮明に覚えている。

 ***

「チッ……どこに行きやがった」

「落ち着けガルド。今から探知する」

 ガルドは、憤慨していた。逃亡したワータイガーを探し始めて1日経過した。

 あと一撃で仕留めれたものをパーティメンバーの1人が私情からか彼の邪魔したのだ。そのせいでワータイガーに逃げられた。

 その上、逃げ出したのは、彼の責任だとして彼1人に始末をつけに行かせようとしたのだ。それを見兼ねたルーシーが自分も行くと彼の後に着いてきたのだ。

「グルアアアアアア!!!」

 そうこうしていると、肌がひりつく様な獣の雄叫びが聞こえてきた。本能的に身体が動きを停止しそうになった。いくつか修羅場を潜ってきたガルドとルーシーは、直ぐに思い至った。

咆哮ハウルか」

「だが、通常個体に出来るのか?」

 ガルドは、ルーシーの問に答えることなく、彼の身の丈程ある鉄の塊の様な丁度真ん中に柄がついている武器を背中に担いだ。

 そして——、

「……『龍脚』」

 静かに加護を発動した。

 赤い神々の文字が彼の脚の周りを回り、彼に吸い込まれるように消えると、彼の脚は、5本指の先端が鋭く尖った褐色の異形へと姿を変えた。

「誰かが対峙しているのは、間違いない。Gのやつが遭遇なんてしたら一大事だ」

 ガルドは、ルーシーにそれだけ言うと、地面をめいいっぱい蹴った。

 地面が割れ、爆発が起きたように土煙が立ち込める。煙が晴れた時には、ガルドは、ルーシーの目前から姿を消した。

「あの馬鹿!また、1人で……」 

 ルーシーは、悪態を吐きつつも鈍く銀色に光る杖を構え呪文を唱える。

「''風よ、我が身に宿り彼の者を追え……アセレラル''!」

 ルーシーが魔法を発動すると、彼女の足元に魔法陣が出現した。そして、彼女は、宙へ浮き、高速で移動し始め、瞬く間にガルドに追いついた。

「あれほど独断は控えろと言っただろう?!アホか!」

「す、すまん」

 ルーシーは、ガルドに並んで移動しながら彼を叱責した。彼は、戸惑いつつも彼女に謝罪した。

 しばらく移動すると、白いワータイガーらしい後ろ姿が見え始めた。しかし——、

「おい……でかくないか?」

「あれじゃボス級じゃないか……」

 ガルド達が追っているのは、ワータイガーの通常個体だ。普通、ワータイガーは、2メートル程のモンスターだ。しかし、目前にいる個体は、3メートルを優に超えていそうだ。

「ん?」

 ガルドは、何かに気づいたらしい。次の瞬間、更に速度を上げた。

「お、おい、ガルド」

 ルーシーは、完全に取り残された。

 ガルドは、ワータイガーが前足で何かを掴み、噛み付いてる様に見えた。そして、その噛み付かれている者は、珍しい黒髪だった。

 彼は、嫌な予感がした。ある予測が脳裏を過り、直ぐにかき消した。

 ——まさか……

 ワータイガーまであと数メートルという所でその予測が正しかったのだと分かった。

 ヒロだった。

「『龍の吐息ブレス』!!」

 ガルドは、冷静さを失い、加護の1つである『龍の吐息』をワータイガーに向けて放った。

 口の周りで赤い神々の文字が円を描き、彼が息を吹くと、火炎が球を成し、ワータイガーへと向かい、直撃した。

 すると、簡単にワータイガーは絶命し、灰へと姿を変えた。

 彼は、一瞬何が起こったか理解出来なかった。

「ガルド、まさか1人であれを殺ったのか?凄いじゃないか!」

 追いついたルーシーがそう声を掛けてきた。

「違う、俺じゃない。あいつが瀕死まで追い込んでいたんだ」

 ガルドは、それだけ言うと、倒れているヒロの元へ駆け寄った。

 身体中に出来た青痣と切り傷。血が大量に噴出する首の噛み跡。そして、肉塊の様になった右腕。それらが先程までの激闘を物語っていた。

「おい、ルーシー!!治癒魔法、早く!!」

 ガルドは、ヒロを抱き起こすと声を荒らげ、ルーシーに言った。

「わかっている……だが、この怪我では」

「いいから早くしろ!!」

 ガルドは、戸惑い魔法を掛けないルーシーに向かい叫んだ。彼女は、彼の怒号に一瞬驚いたものの直ぐに魔法の詠唱を始める。

「ええい……私の使える最上級だ。''落ちる雫は彼女の涙。広がる波紋は彼女の慈愛。願わくば、この者に癒しを与えたまえ……ディア・デメア''」

 ルーシーが魔法を発動すると、魔法陣がヒロを包み込む様に出現した。そして、瞬く間に彼の患部は、修復されていく。だが——、

「応急処置にしかならんぞ」

「ああ、続けてくれ」

 ガルドは、先程とは打って変わって、小さく呟く様に言った。

 彼は、後悔していた。

 ——ルーシーの静止なんて振り切っていれば……

 そうすれば、ヒロは、助かっていたかも知れないと。



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