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七章 パルラの悩み
26話
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【おもな登場人物】
《ミィラス》
聖ドリード教団で若くして聖典楽師となった、孔雀色の瞳が印象的な青年
《パルラ》
聖ドリード教団に所属する踊り子で、快活で強気な女性
《テル》
旅の剣士で、風雅な印象の風来坊
ミィラスの身体が癒えてすぐ、三人は出立した。
彼の肉体が驚異的な──異常とも言うべき回復力を見せていることに、パルラは気づいていた。あの折れた腕でさえ、なぜかもう治っている。勿論、怪我が早く治るに越したことはないのだが、あまりにも不自然だ。
それだけでなく、ミィラスの身体は以前より頑丈になったようだった。だがパルラは「治って良かったわね」と言うだけで、彼の身に何が起こったのかを問いただすことはしなかった。できなかったのだ。そのうちきっと話してくれたら良い──いや、話してほしい、そうでなければ。
村の祠に隠されていた黄金のロケットを見せられて以来、ミィラスがどことなく思い詰めたような、いや逆に吹っ切れたのか──ともかく、彼の様子が少し変わったことだけは敏感に感じ取っていて、そのわけを本人が話してくれないので、パルラはやや面白くない心持ちだ。
だが盗賊の一件で、彼女はミィラスに対して強くものを言うことができずにいた。一度彼を見捨てて逃げたことがどうしても後ろめたく、一方でミィラス本人はパルラに対して咎めることもない。無論、彼自身に我が身を犠牲にしてパルラを逃がす意図があったにせよ、心に刺さった罪悪感という棘は、踊り子の快活な精神に陰を落としていた。それに、彼女もまた敬虔なドリード神の信徒であったから、自分の行いが一体いくつの教義に背いただろうかと、心の中のドリード神像に懺悔をしているところでもあった。
「テルはどうして旅をしているの?」
街道を歩きながら、パルラは尋ねた。ミィラスに話しかけづらいので、自然と別の同行者に会話を振ることになる。
「旅の理由か……。強いて言えば、趣味かな」
テルは二人のそのような事情は知らないので、ただの雑談としか思わないだろう。実に気楽だ。
「趣味? 趣味でわざわざ旅をするの?」
「あちこちの土地を訪ねるのは面白いよ。あとは、知り合いの仕事を手伝うことも兼ねている。本人に代わって手紙や物を遠方に届けたりね。運び屋みたいなものだ。けれど、ほとんどは好きに出歩いているよ。知らないものを見聞きして、気分が乗ったら詩作してみたりもする」
「ふうん。テルって変わった人というか風流人というか……そう、風来坊という言葉が似合うわね。詩作ってどんなの?」
パルラの言葉に、テルが懐を探って一冊の手帳を取り出す。簡素だが長旅に耐えるように、表紙は堅い紙で綴じられていた。それもこの国ではなかなか見かけない、上質な漉き紙だ。しかも防水のためか蝋までひいてあって、つやつやと光沢がある。この国では少なくとも、教団の一定階級以上か、富裕層でなければ手に入らない代物だ。テルは恐らく、朱瑠でもそれなりに裕福な生まれで、家業をほっぽり出してふらふら出歩いている放蕩息子とか、そんなところなのだろうか。
使い込まれた頁をめくると、流麗な筆致で詩が記されている。覗き込んだパルラは「うーん」と唸った。
「ちっとも読めないわ」
「これは朱瑠語だ。カミル語も嗜んではいるが、詩作となると音韻が難しくてね。故郷の言語が一番やりやすい。カミル語も歴史が深くて美しい言語だと思うよ」
テルは朱瑠人。彼は異国の顔立ちをしているが、それがその国のものだと分かって、パルラはひとり納得した。
紙の上で踊る文字は滑らかだ。朱瑠の言語というのは、縦向きに、上から下へ書くものらしい。カミル香国では、左から右へ、横向きに綴る文法を用いているので、他国の文法はどうにも新鮮だ。
「なんて書いてあるの?」
「これは道中の風景の美しさを詠んだもので……」
テルが詩をカミル語に訳して話し、パルラは「へぇ、そういう感じ方もあるのね」とか「言い回しが独特だわ」とか「それは私もちょっと分かる」とか、感想を述べる。彼は実に様々な詩を詠んでいて、教養の高さが窺えた。カミル香国において教養とは、いかにドリード神の教えに通じているかが重要視されるので、このような自由奔放な文章表現は、異国文化だからこそなのだろう。
すると、それまでじっと考え事をしていたらしいミィラスが口を開いた。
「……今の詩を、もう一度聞かせてくれませんか」
ミィラスも詩の話題に興味を持ったのかと思って、パルラは期待を込めて彼を見る。だが、ミィラスは好奇心や関心というよりも、別の何かに意識を向けているようだった。
テルはミィラスの要望に「分かった」と快く応じて、涼やかな声で再び詩を吟じ始める。
風の音よ、それは郷愁を歌う我が心か
いや、私にふるさとを憂う心はない
家族と囲う食卓も、懐かしくはあれど
いまは行く道の先に焦がれている
だがどうして風が冷たく、私の胸をざわつかせるのか
ああ、辿ってきた獣道にも、霜がおりている
氷の道は、私をふるさとへ運びはしない
吟じ終わったテルが、ミィラスを見る。
「今の詩に、なにか気になることでも?」
「それは、最近作った詩ですか?」
ミィラスの問いに、テルは頷いた。
「そうだね。ここ数日のうちに詠んだものだ。君たちと会う前の日かな」
するとミィラスは考えるように顎に手をやったあと、パルラを見る。
「このあたりの地域では、この季節にも霜は降りるだろうか?」
その問いに、パルラは首を振る。
「さすがに無理じゃないかしら。空気が温かいもの」
答えたあと、パルラは「あっ」と言った。
「ここ数日? 詩の中の霜っていうのはものの喩えとか……本当は何?」
「ふむ……」
テルは紙面に目を落としながら、顎に手を添えた。当時の記憶を遡っているのだろう。
「たしかに、あれは霜だったよ。ところどころ氷の塊のようなものもあったけれど、雪や雹が積もったというよりも、そのまま凍り付いたというかんじだった。道中で見かけて、触ってみたら溶けたから、見間違いじゃない。私も不思議だなあと思ったからこそ、詩情を感じて言葉にした。それ以上は深くは考えなかったけれどね。私はこの辺りの気候には詳しくないし、地形や気象の条件で冷気が溜まることもあるだろうとしか」
パルラは「冷気……魔物の冷気……」とつぶやき、ミィラスを見る。
「ねぇ、もしかして……」
「……」
彼は眉根を寄せてパルラを見返すと、うなずいた。
「もし、その場所を覚えているなら、教えていただけませんか」
ミィラスがテルに言った。その声色が固く緊張していたので、テルは「え?」と戸惑ったようだ。
「……そこへ行くには、少し道を戻らなければいけないよ。それに街道から逸れて、足場の悪い危険な場所を進むことになる。怪我人や女性が行くのは、やめた方が良い」
彼の言うことはもっともだった。だが、どこへ行ったとも分からない魔物を追ってひたすら西を目指すこの旅は、二人にとっては博打にも等しい。偶然にも魔物に結びつきそうな情報が現れたのなら、確かめないわけにはいかなかった。
パルラはテルに尋ねる。
「あなたはその場所で、変なものは見なかったかしら?」
「変なもの? それは随分ざっくりとした質問だけれど、たとえば?」
テルはやや胡乱な目で、二人を見始めた。パルラは「それは……」と口ごもり、どう説明したものかと考える。
「えっと……黒くて……大きな……生き物みたいな……」
「猪とか、鹿とか、熊とか? 山の中だから、獣は時折見かけたよ。幸い熊には出くわさなかったけれどね」
「そうじゃなくて、うーん……あと……女性とか……」
「女性? 山で?」
テルの柳眉がきりっと跳ね上がる。彼の穏やかな雰囲気はそのままだったが、表情にはうっすらとした不信感が浮かんでいるのが分かる。
パルラは焦った。彼を欺こうとか、騙そうとか、そのような気持ちは全くないが、魔物のことを正直に説明したところで信じてもらえるはずがない。それに、恩人ではあるが、通りすがりの旅人でしかないテルに、何をどこまで説明したら良いのだろう。
テルが軽く肩をすくめてみせる。
「よく分からないけど、特に不審なものは見なかった。強いて言えばその凍り付いた地面くらいだ。どうしてそんなことを訊くんだい?」
パルラが答えに窮したとき。
「魔物です」
ミィラスがあっさりと、そしてはっきりと、そう口にした。パルラは驚いて固まってしまった。
ミィラスは言葉を続ける。
「黒くて翼があり、見た目は巨大でおぞましく、死をもたらす不吉な魔物。そしてそれと行動を共にしているひとりの女性です。私たちは彼女らを追っている」
「魔物──」
テルはそう呟いたきり絶句して、しばらく虚空に目を向けていた。
街道は静かだった。草むらからトカゲが飛び出して、道を横切っていく。遠くの方では、小鳥の群れが飛び立ち、チチチチッと鳴きながら木立の中へ消えていった。それを見ながら、テルの指が腰帯のところをトントンと小刻みに叩いている。
彼はやがて口を開いた。
《ミィラス》
聖ドリード教団で若くして聖典楽師となった、孔雀色の瞳が印象的な青年
《パルラ》
聖ドリード教団に所属する踊り子で、快活で強気な女性
《テル》
旅の剣士で、風雅な印象の風来坊
ミィラスの身体が癒えてすぐ、三人は出立した。
彼の肉体が驚異的な──異常とも言うべき回復力を見せていることに、パルラは気づいていた。あの折れた腕でさえ、なぜかもう治っている。勿論、怪我が早く治るに越したことはないのだが、あまりにも不自然だ。
それだけでなく、ミィラスの身体は以前より頑丈になったようだった。だがパルラは「治って良かったわね」と言うだけで、彼の身に何が起こったのかを問いただすことはしなかった。できなかったのだ。そのうちきっと話してくれたら良い──いや、話してほしい、そうでなければ。
村の祠に隠されていた黄金のロケットを見せられて以来、ミィラスがどことなく思い詰めたような、いや逆に吹っ切れたのか──ともかく、彼の様子が少し変わったことだけは敏感に感じ取っていて、そのわけを本人が話してくれないので、パルラはやや面白くない心持ちだ。
だが盗賊の一件で、彼女はミィラスに対して強くものを言うことができずにいた。一度彼を見捨てて逃げたことがどうしても後ろめたく、一方でミィラス本人はパルラに対して咎めることもない。無論、彼自身に我が身を犠牲にしてパルラを逃がす意図があったにせよ、心に刺さった罪悪感という棘は、踊り子の快活な精神に陰を落としていた。それに、彼女もまた敬虔なドリード神の信徒であったから、自分の行いが一体いくつの教義に背いただろうかと、心の中のドリード神像に懺悔をしているところでもあった。
「テルはどうして旅をしているの?」
街道を歩きながら、パルラは尋ねた。ミィラスに話しかけづらいので、自然と別の同行者に会話を振ることになる。
「旅の理由か……。強いて言えば、趣味かな」
テルは二人のそのような事情は知らないので、ただの雑談としか思わないだろう。実に気楽だ。
「趣味? 趣味でわざわざ旅をするの?」
「あちこちの土地を訪ねるのは面白いよ。あとは、知り合いの仕事を手伝うことも兼ねている。本人に代わって手紙や物を遠方に届けたりね。運び屋みたいなものだ。けれど、ほとんどは好きに出歩いているよ。知らないものを見聞きして、気分が乗ったら詩作してみたりもする」
「ふうん。テルって変わった人というか風流人というか……そう、風来坊という言葉が似合うわね。詩作ってどんなの?」
パルラの言葉に、テルが懐を探って一冊の手帳を取り出す。簡素だが長旅に耐えるように、表紙は堅い紙で綴じられていた。それもこの国ではなかなか見かけない、上質な漉き紙だ。しかも防水のためか蝋までひいてあって、つやつやと光沢がある。この国では少なくとも、教団の一定階級以上か、富裕層でなければ手に入らない代物だ。テルは恐らく、朱瑠でもそれなりに裕福な生まれで、家業をほっぽり出してふらふら出歩いている放蕩息子とか、そんなところなのだろうか。
使い込まれた頁をめくると、流麗な筆致で詩が記されている。覗き込んだパルラは「うーん」と唸った。
「ちっとも読めないわ」
「これは朱瑠語だ。カミル語も嗜んではいるが、詩作となると音韻が難しくてね。故郷の言語が一番やりやすい。カミル語も歴史が深くて美しい言語だと思うよ」
テルは朱瑠人。彼は異国の顔立ちをしているが、それがその国のものだと分かって、パルラはひとり納得した。
紙の上で踊る文字は滑らかだ。朱瑠の言語というのは、縦向きに、上から下へ書くものらしい。カミル香国では、左から右へ、横向きに綴る文法を用いているので、他国の文法はどうにも新鮮だ。
「なんて書いてあるの?」
「これは道中の風景の美しさを詠んだもので……」
テルが詩をカミル語に訳して話し、パルラは「へぇ、そういう感じ方もあるのね」とか「言い回しが独特だわ」とか「それは私もちょっと分かる」とか、感想を述べる。彼は実に様々な詩を詠んでいて、教養の高さが窺えた。カミル香国において教養とは、いかにドリード神の教えに通じているかが重要視されるので、このような自由奔放な文章表現は、異国文化だからこそなのだろう。
すると、それまでじっと考え事をしていたらしいミィラスが口を開いた。
「……今の詩を、もう一度聞かせてくれませんか」
ミィラスも詩の話題に興味を持ったのかと思って、パルラは期待を込めて彼を見る。だが、ミィラスは好奇心や関心というよりも、別の何かに意識を向けているようだった。
テルはミィラスの要望に「分かった」と快く応じて、涼やかな声で再び詩を吟じ始める。
風の音よ、それは郷愁を歌う我が心か
いや、私にふるさとを憂う心はない
家族と囲う食卓も、懐かしくはあれど
いまは行く道の先に焦がれている
だがどうして風が冷たく、私の胸をざわつかせるのか
ああ、辿ってきた獣道にも、霜がおりている
氷の道は、私をふるさとへ運びはしない
吟じ終わったテルが、ミィラスを見る。
「今の詩に、なにか気になることでも?」
「それは、最近作った詩ですか?」
ミィラスの問いに、テルは頷いた。
「そうだね。ここ数日のうちに詠んだものだ。君たちと会う前の日かな」
するとミィラスは考えるように顎に手をやったあと、パルラを見る。
「このあたりの地域では、この季節にも霜は降りるだろうか?」
その問いに、パルラは首を振る。
「さすがに無理じゃないかしら。空気が温かいもの」
答えたあと、パルラは「あっ」と言った。
「ここ数日? 詩の中の霜っていうのはものの喩えとか……本当は何?」
「ふむ……」
テルは紙面に目を落としながら、顎に手を添えた。当時の記憶を遡っているのだろう。
「たしかに、あれは霜だったよ。ところどころ氷の塊のようなものもあったけれど、雪や雹が積もったというよりも、そのまま凍り付いたというかんじだった。道中で見かけて、触ってみたら溶けたから、見間違いじゃない。私も不思議だなあと思ったからこそ、詩情を感じて言葉にした。それ以上は深くは考えなかったけれどね。私はこの辺りの気候には詳しくないし、地形や気象の条件で冷気が溜まることもあるだろうとしか」
パルラは「冷気……魔物の冷気……」とつぶやき、ミィラスを見る。
「ねぇ、もしかして……」
「……」
彼は眉根を寄せてパルラを見返すと、うなずいた。
「もし、その場所を覚えているなら、教えていただけませんか」
ミィラスがテルに言った。その声色が固く緊張していたので、テルは「え?」と戸惑ったようだ。
「……そこへ行くには、少し道を戻らなければいけないよ。それに街道から逸れて、足場の悪い危険な場所を進むことになる。怪我人や女性が行くのは、やめた方が良い」
彼の言うことはもっともだった。だが、どこへ行ったとも分からない魔物を追ってひたすら西を目指すこの旅は、二人にとっては博打にも等しい。偶然にも魔物に結びつきそうな情報が現れたのなら、確かめないわけにはいかなかった。
パルラはテルに尋ねる。
「あなたはその場所で、変なものは見なかったかしら?」
「変なもの? それは随分ざっくりとした質問だけれど、たとえば?」
テルはやや胡乱な目で、二人を見始めた。パルラは「それは……」と口ごもり、どう説明したものかと考える。
「えっと……黒くて……大きな……生き物みたいな……」
「猪とか、鹿とか、熊とか? 山の中だから、獣は時折見かけたよ。幸い熊には出くわさなかったけれどね」
「そうじゃなくて、うーん……あと……女性とか……」
「女性? 山で?」
テルの柳眉がきりっと跳ね上がる。彼の穏やかな雰囲気はそのままだったが、表情にはうっすらとした不信感が浮かんでいるのが分かる。
パルラは焦った。彼を欺こうとか、騙そうとか、そのような気持ちは全くないが、魔物のことを正直に説明したところで信じてもらえるはずがない。それに、恩人ではあるが、通りすがりの旅人でしかないテルに、何をどこまで説明したら良いのだろう。
テルが軽く肩をすくめてみせる。
「よく分からないけど、特に不審なものは見なかった。強いて言えばその凍り付いた地面くらいだ。どうしてそんなことを訊くんだい?」
パルラが答えに窮したとき。
「魔物です」
ミィラスがあっさりと、そしてはっきりと、そう口にした。パルラは驚いて固まってしまった。
ミィラスは言葉を続ける。
「黒くて翼があり、見た目は巨大でおぞましく、死をもたらす不吉な魔物。そしてそれと行動を共にしているひとりの女性です。私たちは彼女らを追っている」
「魔物──」
テルはそう呟いたきり絶句して、しばらく虚空に目を向けていた。
街道は静かだった。草むらからトカゲが飛び出して、道を横切っていく。遠くの方では、小鳥の群れが飛び立ち、チチチチッと鳴きながら木立の中へ消えていった。それを見ながら、テルの指が腰帯のところをトントンと小刻みに叩いている。
彼はやがて口を開いた。
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