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プロローグ
アースファイナンスあれこれ
しおりを挟む【アースファイナンスあれこれ】
「真澄くん。お茶、淹れてもらえる?」
オフィスに顔を出すや否や、退勤の準備をする片波見真澄に声を掛ける一二三。南野一二三はアースファイナンスの社長だった。
いわゆるアースファイナンスは闇金融で、善良な市民を食い物にするという阿漕な商売をしていたのだ。
「残業手当つきますよね」
真澄と呼ばれる事務員は気だるそうに答える。一二三は「もちろん。まぁ、お茶汲み手当だけど」と手の平をひらひらさせて、ジョークを言ってみせる。
「あぁ、真澄くん。この子は谷地畝熙くん。熙くんでいいよね」
「あぁ、はい。どうも。谷地畝って言います。これからよろしくお願いします」
形だけの研修を受けに来た熙は、真澄に軽くお辞儀をする。すると真澄は鋭い眼光で熙を睨んだ。頭から足の先まで観察すると、真澄は興味なさそうにオフィスを出ていく。
「まぁ、いいや。熙くん。とりあえず業務内容を説明するから、そこに座って」
「はい。よろしくお願いします」
来客用のソファに促され、熙はそこへ腰掛ける。
「と言っても…。マニュアルなんか作ってないからさ、見て覚える方が早いかもしれないね。俺、あんまり説明するの得意じゃないし」
一二三は軽薄な笑いを口元に浮かべる。
彼は説明書通りに動く人間が嫌いだからだと言っていた。
「そうですか…」
「ここの事務所は全て真澄くんに任せてるんだ。彼女、とても優秀だしね」
「彼女……?」
熙はオウム返しをした。
真澄は中性的な顔立ちをしていて、高身長だった。そう思うのも無理はない。
「真澄くんは女性だよ。まぁ、その話はいいよ。熙くんがやるのは主に取り立て。まぁ、最初の1ヶ月は俺も着いて行くからさ。心配はしなくていいからね」
「取り立て…」
二度目のオウム返しをする熙。取り立てには苦い思い出があった。熙は渋い表情をする。
「さては、ドラマや漫画の読みすぎかな?うちはフィクションみたいな、そんな手荒な真似はしないよ。まぁ、滞納を平気でするような輩には、それ相応の罰は受けてもらうけどね。知り合いのカニ漁船に乗せるんだ。まぁ、これは単なる一例に過ぎないけどね」
一二三が饒舌に語っていると、お茶を運びに来た真澄が扉から顔を出す。
「じゃあ、俺は帰りますから」
真澄は熙の目の前に湯呑みを置くと、「では」とだけ言い残し、オフィスを出ていった。
「はい、ご苦労さま。気をつけてね。で、なんだっけ?あぁ、取り立ての話か」
一二三は足を組み直す。スーツの襟を直すと、わざとらしく咳払いをした。
彼は赤色が好きなのか、臙脂色のスーツを好んで着ていた。以前、熙が面接に来た時もそうだった。
熙は車のことはよく分からないが、赤色のいい車に乗せられた事も思い出す。きっと大人しい顔に似合わず、派手好きなんだろう。
「取り敢えず、取り立ては見て覚える方が早いよ。大体の債務者は呼び出しに応じないと言っても過言ではないね。自宅や職場に訪問してやるんだ」
典型的な闇金のやり口だ。
「それって脅しじゃないんですか?」
「借りた金、返してくださいって言って簡単に返すと思う?」
「まぁ、それは…、そうっすね」
熙は不服そうに唇を曲げる。
あとで分かった事だが、熙の両親は多額の借金を背負っていた。それに耐えかねた両親が夜逃げし、熙は借金取りから逃げるために上京した。路頭に迷っていたところを一二三に拾われたというわけだ。
「そうだ。熙くん、家はどうしてるの?」
「ネカフェで寝てます。部屋を借りる金もないし…」
そっかぁ…。と、一二三は眉間に皺を寄せ、顎を撫でる仕草をする。
しばらく熟考すると、一二三は口を開いた。
「よし、今からホームセンターに寝具を見に行こう」
「え、どういうことですか?」
言葉の意味が分からず、熙は一二三に訊ねる。
「俺の家に住みなってこと。けど、給料が出たら、自分で家を見つけて出ていくんだ。俺は自分の面倒を見るだけで精一杯だからね」
「俺、一二三さんには頭が上がらないですよ。ありがとうございます…」
「いいんだ。それはそれとして、キミ。免許証持ってる?」
一二三の意味不明な質問に、熙は再び首を傾げた。
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