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12月

235.ユズ

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12月31日 土曜日
昨日の夜から衛と雪ちゃんは家に来ていて、すっかり年末の装いという感じ。午前中は残りのお節を作るのに二人でドタバタしてて、衛とパパは公園に遊びにいってくるって言うし雪ちゃんも少しお仕事を片付けて来るって言う。年末最後の日にお仕事があるって衝撃だけど、年末年始のないお仕事もあるんだしねって言われて確かにって思う。看護師さんとか年末年始だからお休みしますってならないよね?汚れなき人って感じで白衣で動き回る看護師さんには、夏にとってもお世話になった。患者さんだって、お正月だから患者さんはお休み、健康ですとは言えない。あれ?そしたら看護師さんにはお正月はないのだろうか……そんなことを言ったら警察の人だってお正月だからお休みとは言えない。

「お正月関係ないってお仕事って結構あるんだねぇ。」

思わず呟いた私に、ママはそうねぇって綺麗な黄色の伊達巻を焼きながら言う。そう言えば健康美って訳じゃないけど、ママはあれからちょっとダイエットしたみたい。キッチンのママは、夏より少しスマートになってちょっと美人。パパにも褒められてママは嬉しそうだし、二人が仲がいいのは私も嬉しい。

「看護師さんにお医者さん、警察官もお休み関係ないよね。」
「消防士さんも関係ないわねぇ。」

あー、確かに火事とか急病にお正月は関係ない。後はお寺とか神社もお正月の方がきっと忙しいよね。ってことはお寺の総本山って敷島さんが言ってたから、智美君もすごーく忙しいんだろうか。早紀ちゃんや香苗達と初詣に皆で行こうって2日に約束してるけど、一番忙しいところなのかもしれない。誘ってみようかと思ってたけど、誘わない方がいいのかなぁ。でもなぁ、行けなかったとしても誘われなかったら、私は寂しいと思うんだよね。やっぱりお誘いだけはしておこう、うん。
おせち料理の支度が終わって、やっとお正月を迎える準備が出来たあたり。衛達も帰ってきて雪ちゃんも戻ってきて、順番にお風呂に入ったりしてお年越しの準備を始めるのが家の恒例。今年の大晦日はすき焼きと大きな蟹、衛がキラキラした目で蟹を見てるのに思わず笑ってしまう。パパと雪ちゃんは珍しく日本酒を飲んでるし、紅白歌合戦を横目にママと衛はすき焼きと蟹を攻略中。毎年の年越しと同じように見えるリビングの中。今年は色々あったなぁって考えながら、智美君にお誘いをかけておこうって私は一人でちょっと部屋に。下ではテレビの音が微かにしてるから、私は一先ずLINEで智美君に連絡してみた。そしたら、思ったよりもあっさりと電話がかかってくる。

『何?』
「えーと、大晦日です。」
『……麻希は、僕が暦が読めないと思ってるわけ?』
「だって、何から始まるから。」
『用があるから、電話していいか聞いてるんじゃないの?』

まあ、それはそうなんだけど。一応聞いてからじゃないと悪いかなって思うから聞いてるのであって、いいよって言われれば電話するんですが。

「えーとですね、初詣に皆と待ち合わせを2日にしています。」
『へぇ、寒いのに皆律儀だね。』
「智美君も一緒にどうですか?」
『寒いって今言ったよね?』
「露店が出ますよ?」

露店?と智美君が疑問の声をあげる。確かに寒いし人出があるから、足の悪い智美君には辛いかも知れないとは思うけど。それはそれで楽しみだってあるんだよね、初詣。

『ろてんって何?』

あ、やった!食いついた!

「露店は……あ、文化祭の時のお祭りの屋台やってたクラスの、本物みたいなやつです。」

言葉で表現は難しいけど丁度文化祭の事を思い出したから、それが似てるかも。文化祭って言うところに、智美君の興味が引かれたのが分かる。

「色々食べ物売ってますよ?甘いものもあるし。」
『……本物みたいなやつって規模が大きいってこと?』
「うん。」

智美君の凄い声が初詣より露店に興味津々なのがおかしいけど、気になって来てみたくなってくれないかな。智美君が出てきてくれないと、あのお家は大きすぎて皆の声が智美君に届かない気がする。本当は出来たら礼慈さんも一緒に出て来てくれたら、気分が変わるんじゃないかなって思うんだけど。

『一応……考えてみるから、集合場所LINEして……。』
「うん、送っておくね。」

素直に答えてよいお年をっていったら、智美君は少し笑ったみたいだ。少しでも笑えるならいいかなぁって、ホッと息をついて早速待ち合わせ場所を送る。よし、これで少し落ち着いたって思ったら、ノックの音がして私は驚いて振り返った。あ、あれ?雪ちゃん、いつの間に来たの?
少し頬が桜色っていうか、ホンノリ紅色っていうか。ニッコリ微笑みながら歩み寄ってきた雪ちゃんが、スマホを手にした私を壁際まで追い詰めるみたいにする。

「麻希子?」
「は、はい。」
「誰と電話?」

あの、地味に怒ってるよね?雪ちゃん。なんか最近こんな風に怒る雪ちゃんを、よく見てる気がするのは一体何故だろう。それにしても何で雪ちゃんは、こんな風に怒るようになったんだっけ?

「雪ちゃん、怒ってる?」
「怒ってないよ?聞いてるだけ。」
「だって、怒ってる顔してるよ?」
「怒られそうなことしてるの?麻希子。」
「してない。」

私が思った通り正直に答えたら、雪ちゃんの目が眼鏡の向こうで細められた。ほら、やっぱり怒ってる。怒ってるけど理由が…電話してたから?この間も先輩と話してて怒ってたんだよね。ん?もしかして、これってそれが理由?

「雪ちゃん、私が男の人と話してるから怒ってるの?」
「分かってるんだ?」
「今分かったけど、でも、怒られる事してない。」
「怒ってないよ、嫉妬してるだけ。」

嫉妬?雪ちゃんサラッと答えたけど、嫉妬するような事何も起きてない気がするのは私だけ?でも、嫉妬するってことは、実際はそうなのかと納得する。納得したから私は手を伸ばして、背の高い雪ちゃんをぎゅうって抱き締めた。予想外の行動に雪ちゃんが硬直してるけど、改めて雪ちゃん背が高ぁい!ぶら下がってるみたいだなぁ。

「ま、麻希子?」
「雪ちゃん、背高ぁい。」

思わずエヘと笑いながら見上げると、ポカーンとしている雪ちゃんと視線があう。本当はぎゅうってして撫で撫でしようとしたんだけど身長的に無理だったって言ったら、雪ちゃんは何故か真っ赤になってしまった。

「狡いな…もう。」
「雪ちゃん、明日一緒に初詣行こうね?」

私が笑いながら言うと、雪ちゃんは負けましたと言いたげに恋の溜め息みたいな吐息で微笑んだ。
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