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4月

347.ムシトリナデシコ

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4月22日 土曜日
昨日の帰りの出来事。あの時タイミングが絶妙に悪くて、正直私は罠にかかったような気分だ。放課後智美君は若瀬君と仁君と、新たなチャレンジメニューに挑戦に行くって話してて一緒に行くかと誘われたんだ。でも、このまま雪ちゃん家にいこうかななんて考えてた私は、早紀ちゃんと孝君と帰ることにしてて。香苗は見てみたいとチャレンジメニュー組と先に帰っていた訳。確かに一度チャレンジメニュー自体も見てみたいし、食べっぷりも見てみたい気はするからお誘いに未練はあったんだけどね。一先ずそこはさておき三人で帰ることにした夕方、昇降口から並んで帰っている矢先五十嵐君に出くわしたんだ。

「宮井さん。一緒に帰んない?公園の近くでしょ?」
「早紀ちゃんと孝君と一緒に帰るから。」

大体にして公園の傍とは限らないと思うんだけど、五十嵐君はケロッとした顔で私の横に並んで歩き出す。早紀ちゃんが少し困った顔をしてるのは、雪ちゃん家に行くから方向が全然違うわけです。

「方向違うから一緒に帰れないよ、五十嵐君。」
「え?何で?途中まで一緒に帰ろう?」
「何でそんなに宮井だけに絡むんだ?五十嵐。」

孝君が凄く率直に問いかけたのに、五十嵐君が少し剣呑な顔をしたのが分かる。何でかな他の人に対する態度が威嚇してるみたいなんだよね、五十嵐君って。

「お前に関係ない。」
「お前呼ばわりはよくないと思うわ、五十嵐君。」
「いちいち何で絡んでくるんだよ?面倒くさいやつらだな。教師のご機嫌とりかよ?お前ら。」

その言葉にカチンと来たのは私だけではなかった訳で、それほど悪い意識で五十嵐君を見てなかった筈の早紀ちゃんが眉を上げたのが分かる。そりゃそうだよ、だって孝君は素直に疑問を問いかけただけだし、クラスメイトと仲良くしてない五十嵐君がお前と呼ぶのは良い印象はない。しかも嗜めた早紀ちゃんに対して放った言葉は皆の善意を、土志田センセのご機嫌とりだって考えている訳だもん。

「あなた、そんなに周りに酷い態度とってて、麻希ちゃんに迷惑かけないでくれる?」
「はぁ?何だよ、女の癖に生意気なやつ。」
「生意気ってあなた小学生なの?」

うわぁっ!早紀ちゃん?!珍しく口喧嘩に発展しかけたその時、何でか見知らぬ人が校門近くから言い合っている私達の方を眺めて歓声を上げたのに気がついた。早紀ちゃんが驚いて口をつぐんだのに気がついて、私達もあの人誰って戸惑いの視線を向ける。年は多分大学生より上かなって女の人が三人、五十嵐を見て駆け寄ってきていた。

「カイト君ですよね?!」
「うわぁ!制服姿!」

ええ?!この人達って五十嵐君のファンってやつ?しかも、校門から入ってきてるから、完全に校内に侵入ですが。私達が困惑して後退るのと、昇降口からセンセが駆け出して来たのは殆ど同時くらいの事だった。

「関係者以外は校内に立ち入り禁止です!」

センセの言葉に当然だと思うのに、苛立っていた五十嵐君がファンの方を擁護するような声をあげてしまったのだ。

「うるせぇな、先生面してんなよ。校門からほんの数メートルだろ?!」

彼女達は五十嵐君の言葉に乗せられて、そうだよねと自信満々でセンセに悪態をつき始める。いや、あなた達がしてる方が非常識なんだけどと、私も孝君も早紀ちゃんも呆れてしまう。でも、三人の女性はあっちいけとかファンの熱意を踏みにじってただですむと思うなとか訳の分からない悪態を投げつけてる。センセは言いたい放題言われていても、関係者以外校内から出てくださいとしか言えない。

「うっさいな!あっち行けよ!おっさん!」

騒ぎに他の先生が気がついて昇降口から出てくるのにも、三人の女の人は口汚く罵り続けていて私達は止めることもできない。五十嵐君は五十嵐君で彼女達の後ろで意地悪く見える笑い顔を浮かべていて、何でこんなことになっちゃったんだろうって私達は凍りついたままだ。

「何なんですか!あんたら!」

教頭先生の怒鳴り声が響いた瞬間、女の人の一人が苛立ちに興奮してバックから取り出した円筒みたいなものの蓋を開けるのが見えた。水筒だって私達が分かった時にはその中身が、そこらにいた私達めがけてぶちまけられていたんだ。

「あっつ!!」

飛沫の一部がかかった教頭先生が悲鳴を上げて飛び上がり、私達はそれが高温の液体だったのに気がつく。ユックリ少しずつ飲むにはいいんだろうけど、素早いセンセが盾になってくれなかったら孝君は咄嗟に飛び退けただろうけども、私や早紀ちゃんは頭からそれを被った事になる。甜茶か何かなのか甘い香りが風に散ったけど、私達に見えたのはセンセの背中でセンセが思わず言葉もなく顔を手で覆ったのが見えた。

「先生!」

咄嗟に駆け寄った孝君の声に、顔を覆って屈んだセンセは答えることもできない。しかもかけた方の女の人は思っていたより中身が熱かったのに、逆に自分でしたことに凍りついてしまっている。

もしかしてセンセ、あの熱湯みたいなの直接被ったの?

私達がそれに気がついて青ざめた時には他の先生がその女の人達を囲んでいて、孝君がセンセの腕をとって昇降口近くの水道に駆け出した時だった。その後センセはジャブジャブと冷水を浴びながらたいしたことないと言ってたけど、結局救急車で運ばれてしまったんだ。そりゃそうだよね、だって六十度とかあるような熱い液体が顔や目にかかったんだもん。
その後警察まで来て事情を聞かれる羽目になったけど、女の人は悪気はなかったって泣きながら言っていたみたい。でも、悪気はなかったら人にお茶かけようとなんかしないと思うんだけど。



※※※




そんな事件のあった翌日、何処まで話していいのか分からなかったんだけど香苗と早紀ちゃんと孝君でセンセの家にお見舞いに行った私達。本当はこんな風に頻回に学校のセンセのお家を訪問って良くないとは分かっているけど心配なんだからしょうがない。

「あれ?随分お揃いだね。」

宇佐川さんが呑気な口調で私達を迎え入れてくれたのに、私達の方が驚いてしまう。何でこんなに落ち着いてるの?宇佐川さんって。看護師さんだから?

「義人さん!悌さんは?!目大丈夫?!」

香苗が青ざめて捲し立てているのに、宇佐川さんはまぁまぁと宥めながら人数分のスリッパを出してくれる。慌ただしくリビング迄行ったら、槙山さんが目を丸くして振り返ったくらい。当のセンセはソファーにごろ寝したまま私達の顔を逆さまに眺めて、なんだ?お前ら・なんて呑気に言う。

「センセ!火傷は?!」

頬や瞼に赤くなった部分はあるけど、目はなんともなさそう?しかも赤くなった部分もそれほどじゃない?あれ?

「先生、救急車……。」
「大丈夫だって言ったんだけどなぁ、あの場は病院くらい行けってびん……教頭が言うから乗っただけだぞ?」

昇降口の蛇口から水を被ってたのを間近に見ていた孝君まで、ポカーンとしている。孝君曰くかなり真っ赤に爛れてたみたいに見えたって、皆で心配してきたんだけど………。センセ曰くあの場で何ともないとなると、五十嵐ファンのやったことに示しがつかないから教頭先生に救急車で消えろと言われたらしい。地味にセンセ、教頭先生のこと別な呼び方しようとしてた?

「……何ともない?」
「すげえなぁ、ヤスが生徒に慕われてる。」
「あ?お前何言ってんだ、俺は一緒懸命教育にだなぁ…。」

いやいやいや、何ともないのは良かったけどって思った瞬間、突然香苗が泣き出してセンセを始めに皆が目を丸くしていた。
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