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Bonus track

おまけ9.初体験part2!!

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それは念願のわんこそば。
本日の集合場所は同級生の新巻かえの両親の経営する居酒屋『じょい』である。そして参加面子は相変わらず、香坂智美・宇野衛・五十嵐海翔・近藤雄二・真見塚孝・木村勇・若瀬透、女子は志賀早紀・宮井麻希子・八幡瑠璃・須藤香苗・松尾むつきに場所提供の新巻かえ。大人は当然新巻夫妻に鈴徳良二、志賀松理に槙山忠志と鳥飼信哉がいる。
それほどやっている店舗がない『わんこそば』。早紀の叔母・松理からの繋がりで、現地出身の鈴徳良二と新巻夫妻に繋がり、念願の開催となったわけである。
そうして既に女子チームはわんこそばの洗礼を受けて撃沈、女子の記録保持者・むつきは声を出す事も出来ずに小上がりで悶絶中。ここからは男子チームになるが給仕の問題で最初に雄二と孝と勇、そして何故か槙山忠志が参加させられている。

「何で俺?いいの?」
「まぁまぁ、人数あわせで。」
「忠君、頑張れー!」
「いや、これって頑張るもん?」
「ルールは同じでーす、お腹一杯になったらお椀に蓋をしてくださーい。」

こうなると知っていて実行チームに入らなかったらしい瑠璃と透が呑気に頑張れーと声をかけ、五十五杯をたいらげた後とは思えない衛が松理の横で元気な声援を送る。そんなわけで続いて男子Aチームが、恐怖のわんこそば開始。

「はい、どんどーん!」
「はやっ!」
「はい、じゃんじゃーん!」

流石に女子と違い給仕のペースが早くて見ている方も面白いのだが、ここで衝撃なのは一人群を抜いて食べるのが若い高校生三人でなく槙山忠志な事だった。忠志が旨いからスルスル入ると言うが、見ている限り確かに言葉通りスルスルと食べているのである。

「蕎麦って久々だなぁー、汁が上手いです。」
「お兄さん、汁を飲まなくてもいいよ~、お腹ふくれちゃうから。」
「でも、なんだかんだ言って飲んじゃうなぁ、あ、刺身も上手い、これは?」
「それ、鶏そぼろね、こっちはナメコおろし、とろろもお代わりあるから。」
「はーい、鶏そぼろ旨い。」
「うへぇ、何で他の物まで食ってるの?槙山さん何者?フードファイター?」

横で薬味や箸休めまでガンガンと食べながら蕎麦を食べられて勇が目を丸くしているが、それでも忠志の蕎麦自体の食べる進み具合もペースが落ちない。
現地では平均とすれば女性は三十から五十杯、男性は七十から九十杯程度食べる。十杯前後でかけ蕎麦一杯(現地では店舗により七杯から十五杯と幅があるが、それは店舗の盛りによるそうだ。競技としてのわんこそば大会も毎年開催されているので、興味のある人はググって頂きたい。)と考えるとかなりの量に聞こえるが、案外とやってみると食べられるそうである。とは言え誰しも限界はあるわけで、そこからが問題なのだ。

「ううう、もう、無理……。」
「はい、どんどーん!」
「ど、どんどん言うな、新巻……。」
「男の子でしょー、ほら、じゃんじゃーん!真見塚君。」

相手が女の子じゃないので、新巻母娘の給仕が尚更容赦がない。しかも、新巻母と来たら対岸でかえに給仕されている孝が、かえが忠志に給仕している隙をつこうとしているのを阻止し始める有り様だ。

「じ、地獄の無限ループ…………。」
「新巻母、隙がない…………。」
「ふ、蓋させてくれぇ……、新巻母……。」

次の蕎麦をスタンバイして椀の中でクルクル回しながら、直ぐ様捩じ込まれる動きが手慣れ過ぎていて七十オーバー辺りから男子高校生から悲鳴が上がり始めている。そんな中で一人二十杯程も先行して平然と食べている槙山忠志に、撃沈していた女子チームも目を丸くして衛が大喜びで喝采をあげていた。



※※※



「腹八分目かなぁ。」
「忠志、どこに胃袋あんの?全然変わんないじゃない……。」

新巻母娘との大激戦をサクッと交わして椀に蓋をした忠志が呑気にそう言うのに、グッタリしている香苗が忠志の腹部を眺めて呆れ声をあげる。元々一緒に食事をすることがあるので大食漢なのは知っていたそうだが、まさかここまでとは香苗も思わなかったらしい。

「多分俺より義人の方が食うぞ?」
「嘘でしょ?!」

宇佐川義人は槙山忠志と比べると背も五センチ程低いし、ある意味真見塚孝よりも華奢なのだ。結果一人百の大台を突破して百五十五杯でわんこそばを終えた忠志に、ケロリと腹八分目等と言われても正直困る。お陰で高校生三人がそれぞれ雄二・八十二杯、孝・七十九杯、勇・八十八杯で、グッタリしてるのが少食みたいに見えてしまう。

「目標はー?智美君、海翔君」
「二百越え。」
「智美を越す。」

そんな横では衛の質問にヤル気満々の二人に、何でか今度は信哉が松理に引っ張り困れている。どうやら松理は最初から信哉にわんこそばをやらせてみたかったようで、ワザワザ食材費諸々提供で上手いこと企んで巻き込んできたようなのだ。

「何で、俺?ちょっと待ってくださいって。別に俺は。」
「いや、あんた、正直どこまで食うのか本気で見せてみなさいよ。」
「いや、本気って。」

確かに麻希子と早紀は、信哉が鳥飼澪として雑誌のエッセイで甘いものを食べ歩いているのは知っているが、普段の食事量迄は流石に知らない。それにしても信哉と智美と海翔が同じ席で物を食べるというのも、傍目には中々キラビヤかといえなくもない光景で。お陰で新巻母娘の給仕魂が燃え上がっている。しかも何でかヤル気満々で智美が信哉を挑発にかかるわけで、

「年寄りは胃腸に自信ないだろうから、程々にしておけばいい。」
「…………今なんて言った?智美。」

負けず嫌いな智美と同じで密かに信哉もかなりの負けず嫌いな訳で、お陰で本気でヤル気になってしまったらしい信哉に何でか孝と衛が並んでワクワクしているのはさておき。

「本日のメインイベント~、お腹一杯になったらお椀に蓋をしてくださーい。」

声援の中で呑気にそう告げたのは、撮影班の横の松理だった。
実際にわんこそばの現在の記録はフードファイターの男性が残した六百杯オーバーで、女性では五百杯オーバーの記録があるそうだ。大概の店舗では百杯を越えれば手形が貰えたり認定書が貰えたりするのだから、基本的には百を越える方が珍しいわけである。現地では金額としても千円台から五千円程と幅があり、杯制限の他には薬味や箸休めの種類の増減がその金額の理由だ。大会では五分や十五分の時間制限があって、その中で競っているのでその範疇にはなさそうだが一応十五分で六百杯を越えた記録もある。
女子チームでは実際に食べていたのは四十分程度で、男子Aチームもトータルとしたら三十分程度。
しかし流石のメインイベントは桁が違うと予想されているのか、何でか丁度帰宅した新巻兄まで給仕係に加わって異様な一対一給仕仕様。おまけにいうと現地でも一対一の給仕は、相手が有名なフードファイターとかテレビ撮影とか、お店がかなり暇でない限りほぼあり得ない。

「はい、じゃんじゃーん!」
「まぁ、蕎麦だしなぁ……。」
「はい、どんどーん!」
「この掛け声が怖い……。」

そんなわけで黙々と食べているが、流石に一対一給仕はかなり速度が早い。しかも、それを食べる方の速度も早い。

「うへぇ、何なんだあの三人……。」
「つーか、智美は兎も角、海翔もおかしいけど、なんなの無敵師範。」

目の前の蕎麦の椀が積み上げられて行くのに涼しい顔で杯を重ねている信哉と智美に、何とか食らいつこうとしている海翔なのだが、それでも前の男子チームよりは遥かに早い。しかも、その速度でちゃんと信哉と智美は味わっているあたり。

「塩辛が旨い。」
「あ、それ、家で漬けるのよ?手作りなの、はい、どうぞーっ!」
「これなんですか?辛いけど美味しい。」
「それは田舎の婆さんが漬けて送ってくれる一升漬け。ほい、次ーぃ。」
「はい、五十嵐君どんどーん!ファイト~!」

食べ終わった方が改めてゲンナリするのと唖然とするのとを同時にしながら眺める前で、あっという間に百杯を越した辺りで海翔の箸が進まなくなり始めている。うん、普通なら百杯を越えれば速度は落ちるものなのだ、何しろかけ蕎麦十杯分だから。

「ほれ、イケメン、頑張れ。」
「いや、もう、勘弁……。」
「うん、終わりなら蓋しような、はいどんどーん。」

母娘があれなので、やはり兄も容赦なかった。しかも、実は新巻かえより新巻兄の方が給仕の仕方が手慣れていて、蕎麦を入れるのが上手い。必死に蓋をしようとしたのに隙間からサッと蕎麦を捩じ込まれてテーブルに突っ伏している海翔を横に、何故か本気モードの智美と信哉は黙々と更に杯を重ねていくのだった。



※※※



「で?何杯だったの?松理。」

あのケーキを一度に三個も四個も食べても全く肥らない体質の男が、いったい一度に何処まで食べれるのかと思ったから誘いかけてみたのだが予想外の結果だった。松理は健康的な定量の夕食を前にムウと頬を膨らませて、夕食を準備して問いかけてきた惣一に頬杖で言う。

「痛み分けなのよ、まさか蕎麦が終わるなんて。失敗だったわ……。」
「高校生が九人で、後はチビハム君と彼ら二人でしょ?お蕎麦大量消費だもんねぇ。」

準備した乾麺は真見塚家からの分に、密かに松理が出資して増量していた。流石に半分材料費と建前で言ったが、殆ど松理が出資したと言うのが本音。流石に子供にそんなに金を支払わせる程松理だって子供じゃなし、新巻家だって楽しんではいるがボランティアで厨房フル稼働や食器まで出してはくれない。
兎も角そんな裏工作までして何で確かめたかったかと言うと、噂で駅前のラーメン屋でジャンボラーメンを食ったイケメンがいるとかいないとか。とかくこの街にはどうも得体の知れない人間が、掃いて捨てるほどいるのだ。しかもイケメンより更に上を行くフードファイターもいるらしいし。まあ、半分は蕎麦をたらふく食ったら、腹が出るのか出ないのか見てみたかっただけだったりもする。
それにしても女子は予想通りそれほど食べなかったから最後までいけるかと思ったのに、槙山忠志と香坂智美という伏兵は予想外。実はあの後に五十嵐海翔が百八杯で撃沈して、二人が直接対決になって暫くして準備していた蕎麦がなくなってしまったのだ。

「おかしくない?百五十よ?」
「百五十杯?凄いねぇ。」
「違うわよ、準備が百五十人分の蕎麦ってこと。」

百五十人分、杯数に換算すると約千五百杯分程のわんこそば。
単純に一人分乾麺一把約100グラムとしての計算ではあるが、十五キロ以上もの乾麺を準備した訳で(真見塚家からの移送は乾蕎麦十キロと、それ以外に真見塚家からの場所提供のお礼があったようだ)、乾麺100グラムは茹でると200から220グラム程になる。茹でて一椀分にまとめておいた蕎麦を、熱い蕎麦汁にくぐらせ椀にいれるので一椀はおそらく20グラム前後と考えて貰うといい。
単純計算で女子チームは約二百杯、男子のAチームが約四百杯、五十嵐海翔が約百杯分とすると、そうなると残りはわんこそば約ハ百杯分程になる。そう言い換えれば、八十杯分のかけ蕎麦。

「………………計算間違ってない?松理。」
「間違ってない。流石の良二も呆れてたわよ。」

実は負けず劣らずの大食漢だが、同じものを食べ続けるのは無理と言う鈴徳良二も完全に呆れ返った。ついでに言えば新巻親子も呆れたように、現地の大会に出た方がいいと薦めたくらいで。
しかも二人共終わってからも何事もなかったようにケロリとして、なんと箸休めや薬味迄綺麗に完食したのだ。因みに結果としては信哉と智美は三百七十二杯ずつで(しかも途中椀の準備が間に合わず、一度休憩を挟んでまで続けて)、痛み分けになったと言う。
不満そうに暫し考え込んでいた松理はふと視線を、目の前でいただきますと丁寧に手を合わせている惣一に向ける。

「ねぇ、…………惣一君。」
「だ、駄目だよ?茶樹はチャレンジメニューはやらないよ?」

その答えにチェッと残念そうに松理が言ったのはここだけの話だ。

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