Flower

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5月

9.ユリ

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憂鬱。
全くもって憂鬱。
それでいて何処か気持ちの落ち着かない月曜日が来る。
何でこんな気持ちでいるのかハッキリしないままに、いやになるほど天気のいい空を眺めながら登校する私の足取りは重い。先週は頑張って早起きして香坂君の登校シーンを見ようとしたけど、全部空振りに終わった。一部の女子の下校キャッチも全部失敗したらしいから、何か秘密があるのかもしれない。とはいえ私の早起き意欲が途切れてしまったのは本当の話し。
何でって、大体予想つくでしょ?この流れで話が続くと大体の予想は当たるのです。
なんで香苗のLINEに返事してしまったのか、しかも直ぐ様かけてきた真夜中の電話に付き合ってあげちゃうんだか、私自身も疑問に思ってるので追求はしないでほしい。ほんと女の愚痴って長くて怖い。
しかも数日前と同じ事してて、しかも終わり方まで同じなんて。おかげで私の大切な2時間の睡眠時間が削られたのかと私が呆然としたのも分かって貰えると思う。普通なら怒る、怒って当然。
だけど、相手は香苗なんです。呆れる私を完全に無視して満面の笑みを浮かべ佳苗の年上彼氏が自慢話を何時もと同じ気持ちで聞く。

「それでねぇ、彼ったらぁカナが一番可愛いよって。」

あァ、良かったね。

「それでぇ今度カナが喜ぶトコに行こうねって。どこだと思うぅ?カナが喜ぶトコって。」

知るか。

「カナ、彼が連れていってくれるトコなら何処でも嬉しいって言ったのね、そしたらカナこの事ほんと可愛いなって、彼ったらカナの事好き過ぎだよねぇ。」

はいはい。

そんな風に適当に相づちをしながら、くだらないなぁなんて思いつつ香苗の話に耳を傾けていた私の視線は自然と窓辺の澄んだ青空を自然と背景にする文学美少女志賀さんへ向いた。

彼女が読んでいるのはなんだろう。

今日の本は先週と同じくペーパーバックのようで、もう半分以上ページが捲られている。
彼女と色々話をしてみたい、彼女が何を感じてるのか直に聞いてみたい。
そう思った私が心の中で思った瞬間、まるで私の心の中の声が聞こえたみたいに志賀さんはふと本から視線を上げる。でも別に志賀さんは私を見たわけじゃなくて、彼女の何かを見つめるように真っ直ぐ教室の前のほうを眺めていた。

賑やかともいえる教室の喧騒の中なのに、やっぱり窓辺だけが何だかちょっと温度というか空気が違うような気がした。志賀さんの真っ直ぐな視線の先にはやっぱり委員長と話す香坂君の姿がある。
鮮やかな日差しの中で話をしてる2人の姿。
先週から委員長としても真見塚君は、登校したばかりでクラスに馴染めないでいる様子の香坂君に気を使って声をかけるように決めたのだと思う。それを真っ直ぐ静かに見つめている志賀さんの視線は、香苗の邪な視線とも私の癖とも違って凄く純潔で無垢な想いがこめられている視線に見える。

やっぱり…そうなのかな。

一瞬教室の中の賑やかさも、目の前の佳苗の話し声も何処かに吹き飛んだような気がした。
静かな彼女の視線。
綺麗にキラキラする黒髪をちょっと揺らして、銀縁の眼鏡越しに真っ直ぐ見つめる綺麗な睫毛の長い瞳。ユックリ瞬きしながら、それでも真っ直ぐに私と同じ背中を見つめている。

自分と志賀さんを比べちゃいけないことは分かってる。

でも、ふっと心の中で志賀さんみたいな女の子のほうが男の子は好きなんだろうなという思いが私の心をいらつかせる。私には全然無い魅力に溢れた乙女らしい志賀さんに告白されたら、同じくらい綺麗な顔をしている香坂君だって断らないはずだ。だって、並んで立っても絵になるだけで、2人に違和感を感じる人なんてきっと居ないはずだ。私だって2人ならお似合いだよって言ってしまうと思う。

「ねぇ、聞いてる?マキィ?昨日、彼ったらカナのこのね…。」

寝不足の憂鬱と苛立ちが一気に一緒になって、私の顔から何時もの愛想笑いが消し飛んだ。もう、正直クドクドと何時までも続く香苗の声はたくさんだった。同じ自慢話ももうごめんだし、愚痴に付き合うのもごめんだ。香苗の話しは私でなくても壁にしてたって何にも変わらない。だって、スマホを充電して離れてても気がつかないんだもの。普通気づくでしょ?電話から離れて風呂に入ってきたら、でも香苗は本気で電話口に私が居ないのに気がつかなかった。そのまま気がつかずに満足するまで話し続けて男から連絡来たから切るねって、友達云々以前に人間としても正直おかしくない?

「香苗のカレシの話はもういいよ。」

あ、しまったと思ったときにはもう遅かった。
口を突いて出た言葉は戻せないし、目の前の彼女の顔が見る間に険悪な鬼になるのも分かった。
今迄で一番の自己嫌悪。
だけどもう取り返しが付かない事だった。
そう気がついた時には教室中に響くような音を立てて香苗はは、目の前の椅子を蹴り飛ばして私から離れていくところだったんだから。

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