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8月

83.ハイビスカス

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8月1日、金曜日。手術をして5日目になったけどママの退院はまだ決まらない。調子がよくなってママは退屈みたいだけど、採血の結果でまだ体の中の傷が腫れてるのかもっていう。パパはどうしても断れない出張で、今朝から出掛けてしまった。本当は今週の月曜日に行く予定だったのを他の人にお願いしたらしいけど、やっぱりパパじゃないと駄目だったみたい。ママが大丈夫って少し安心したから、来て欲しいって言うのを断りきれなくなったって話してた。技術的なお仕事ってこう言うとき大変だけど、頼りにされるパパは格好いいなって思う。

そんな訳で夜私が独りになるってパパから聞いた雪ちゃんが、衛と一緒に様子を見に来てくれた。私一人では心配だから今日は泊まるって言われて、確かにママはまだ入院中だしパパも仕事で出張だからって言う理由だけど今の私には凄く気まずい。正直胸が痛くなっちゃう位に気まずくて私は、雪ちゃんがご飯を作ってくれるって言うのを受け入れてリビングで膝を抱えていた。横でついさっきまではしゃいでいた衛が、何時の間にか私に寄りかかって転寝して寝ちゃってるのに気がついて私はさらに困ってしまう。

まーの馬鹿!寝ちゃったら私と雪ちゃんの2人っきりじゃん!どうすんのよ!

不意とその心の声が聞えたように雪ちゃんは私に視線を向けて、衛が寝ているのを見ると歩いてきて直ぐ傍に来ると私の右にストンと座った。

「麻希ちゃん。」

突然の雪ちゃんの行動に私はビックリしながら横にいる雪ちゃんを見つめる。こんなに傍で何回も雪ちゃんを眺める機会なんて最近なかった。間近に見ると雪ちゃんの顔は、常に新しく繊細な美しさに変わっているみたいで本当に何時ものモッサリとポヤヤンがなかったらなって正直に思ってしまう。こんなに近いとそのモッサリもポヤヤンも消し飛んで、本当は凄くカッコいいんだって思い出して私は少しドギマギしてしまう。そう言えば雪ちゃんのママ、つまり伯母ちゃんは何処か別な国の人だった気がする。そう言うことは雪ちゃんって実はハーフとか言うの?あれ?何でこんなことばっかり考えてるんだろう、私。

「麻希ちゃん、僕は約束を破ったわけじゃないよ?」
「え?」

私は思わず雪ちゃんの顔をマジマジと見つめる。

約束。

今の私はそれが何なのか分からないけど、でも雪ちゃんの眼は凄く真剣で嘘はいってないような気がした。私が約束が違うって雪ちゃんに叫んで逃げたから、雪ちゃんはそれを樹にして私に話してるんだって気がついた。私が覚えてないのに、雪ちゃんはその約束をキチンと覚えていて守ってるって言う。真っ直ぐに私を見つめながら雪ちゃんは、少し寂しそうな顔をする。

「麻希ちゃんとの約束だから、絶対に破らないよ。」

優しい声。
何でだろう、凄くドキドキする。
それは凄く悲しいのに、それと一緒に凄く嬉しい気がするのはどうしてだろう。私は何て約束したの?何でこんなに綺麗に忘れてるの?私はどっち付かずの困った気持ちのまま、ただ雪ちゃんの顔を見つめる。

「絶対、約束したから、守るよ。」

ユックリと大事そうに言う雪ちゃんの声に、何でか涙が溢れて頬を伝っていく。それに気がついた雪ちゃんが困ったように微笑みながら、私の右の頬に大きな暖かい手をあてた。子供の頃はよく頭を撫でてくれた大きなその手が、思っていたより暖かくて私は目を閉じて温度を感じる。優しく涙を拭う暖かくて落ち着くその手が少し動いて、私の顎が自然と少しだけ浮く。
あれ?これって何か近い?雪ちゃんの体温が凄く近い気がするのは私の気のせいだろうか?

「雪~、お腹減ったぁ。」

突然の衛の寝ぼけ声に雪ちゃんが唐突に私の頬から手を離し立ち上がる。私も何故かアワアワしながら立ち上がってしまい、寄りかかっていた衛がソファーの上でコロンと転がって驚いた顔で目を覚ます。

「さ、さて!ご飯にするよ!衛!」

雪ちゃんの声が裏返っているけど、今のってなんだったの?正直目を閉じてるから何がどうなってるのか分かんないけど、何かあれって恋人同士とかがする雰囲気だった気がするのは私だけ?とか、混乱している私だったんだけど、ご飯の支度をしている雪ちゃんはあの一瞬以外は何時ものヘラッと笑いポヤヤンな何時もの雪ちゃんだ。段々あの事が夢だったのか、ただ単に涙を拭ってくれただけで他に意図は何にもないのかなって思い始めた。

そりゃそうだよ、雪ちゃんにとっては私はただの従妹の子で、まだ子供なんだもんなぁ。

お風呂に入りながらそう気がつくと、意識してしまった自分が凄く恥ずかしくなってきた。勝手に目なんか閉じたくらいにして、一人でいい雰囲気とか考えてた自分が恥ずかしい。ブクブクお風呂に沈みながら恥ずかしくて消えてしまいたくなるけど、そう簡単に消えられるわけでもない。あまりにも長くお風呂に入っていたものだから、終いに雪ちゃんに言われて来た衛にお風呂の外から声をかけられてしまって余計に恥ずかしい思いをする羽目になってしまった。

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