Vanishing Twins 

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自分の手を握る手は酷く暖かく大きくカナタは戸惑っていた。
何故その青年は自分を見分けたのか、そして何故こうして戸惑いもなく手を繋ぎ自分は歩いているのか。
知りたい言葉は直ぐに出そうで出てこない。今まで感じた事のない感情がそこにはあってカナタは自分自身に戸惑いを感じた。

認めるのが怖い。

そう、それが一番的確な表現な気がする。それを知らない直人の手にひかれマンションにたどり着き、冷えた部屋に入る。何処か嗅ぎ慣れない香りの漂う室内に、カナタは戸惑いながら直人の硬い表現を見上げた。帰途になって彼は何も話さなくなったことに、今更ながら気がついてカナタは困惑に目を瞬かせる。

「不思議そうな顔してるね。カナタさん。」

部屋に戻った彼女に安堵したのか直人が、疲れきった表情で肩をすくめながら微笑む。
冷え切った彼女の体の為に彼は、いい香りのする紅茶を入れている。キッチンに立つ彼の姿に少し気まり悪そうにカナタは、ソファーに座りそのキッチンにいる直人の様子を眺めた。
エアコンが効き始めて、室内が少しずつ暖まっていくのを感じながら直人は、そっと紅茶のカップを手に歩み寄ると湯気の立つマグカップを渡した。甘い香りのする紅茶はミルクで煮出したのか、トロリと白濁して彼女自身の顔を映し出す。

「どう言ったらいいか分からないけど、君と遥は違うんだ。見て分かるくらいには。」

その言葉に彼女は不思議そうに直人を見つめる。
純粋な真っ直ぐな視線、ただ真剣に直人の顔を見つめているその視線は遥とは全く違う印象を宿している。

「私と遥を見分けた人は、今まで一人もいないのよ。」

カナタの呟く様に囁いた声が心底驚きに満ちているのに気がついて直人は視線をあげた。彼のその自分を見る視線にカナタは再び先程の感情が心の奥で沸き上がる。それは、今ではハッキリと形作られた明確な彼に向けられた一つの感情で、カナタはその感情に激しく戸惑いうろたえる。それは、彼女自身は感じてはいけないはずの感情だったからだ。

「カナタさん…?」

彼女の心の中の動揺も知らず、直人が静かに穏やかな声をかける。
自分より大人で、穏やかな視線。優しい声と暖かい大きな手。
そして、何より彼は自分と遥を間違わない。
今まで誰一人なしえなかった、自分と遥を見分ける事のできる唯一の人。
それが、何を意味するのかカナタには驚きとともに理解した。

私の存在の意味。私が私でいられる相手。

それは、今まで心の中に必死で秘めてきたカナタ自身の強い願いを浮かび上がらせる。それを開放する事は彼女自身の根源すら揺るがす可能性が高い事を、心のどこかが理解していた。だが、目ざめてしまった感情を押し留める事はもう出来ない。
それを彼女は心の中で理解していた。

気が付いてしまった、自分の気持ちに。

その感情は、今までになく激しく強くカナタの心を揺り動かした。衝動は強く、大切な片割れである遥の存在さえもどうでもいいと思わせるかのように、カナタを揺さぶる。

私は私になりたいのだという事実。
私は私としていきたいという強い渇望。
そして、私という人格の初めての恋愛という感情。
今まで独占されてきたモノに対する切実な羨望。

「カナタさん…?」

認めてはいけなかった。そう気がついた時には既に遅すぎる。何もかもが遅すぎた。

私は体が欲しい

直人の視線を真っ直ぐに見詰めながら、心の中で自分が叫ぶのが分かる。それをまだ知りもしない直人は、微かに躊躇いがちに視線を落とす。

「遥はずっと眠ってるの?カナタさん。」

ハッと我に返りながらカナタは彼の言葉に、自分の内側を撫でるように探っていく。容易く繭のような意識の薄い膜の存在を探る先に触れ、カナタはその中を壊さないよう覗きこむ。
純白の繭の中は静けさしか感じない。
しかし、微かな怯えという黒いシミが純白の繭に浮いているのにカナタは気がついた。始めてみるその黒いシミにカナタは恐る恐る触れてみる。その瞬間、意識が表から裏に反転するのが分かった。




※※※




ふと眼を覚まし、遥は体を起こした。
暖かい様な寒い様な風が渦を巻いて遥に吹き付ける、視界にあるのは高校の屋上の上だ。しかし、もちろんそこが現実の場所でない事は一目でわかった。
屋上の上は抜けるような青空が広がり、鉄作の向こうにはただ白い地平線が広がる。
空虚な様で何かに満ちた不思議な空間。

「カナタ?」

またカナタがここに自分を呼びこんだのだろうか。
彼女の名を口にしたが、何故かそれは違う様な気がした。不意にここには自覚もなしではあるが、遥が自分できたという思いが確信になって心を満たす。遥は自然と目を細め、周囲を見渡した。

ここは、私が生み出したんだ。

何故か本能的にそう感じる。
カナタはココにいたけど、ここを作ったのは遥自身。
それがこの吹き付ける空気で肌を通して感じられた。

「なんで?」

不意に背後から聞こえた声に遥は凍り付き、その場に立ち尽くす。背後の声は酷く歪んでいて、苦痛と何か深い感情に満ち溢れ遥に襲いかかる。ゾワリと肌を舐めるような悪寒を伴いながら、背後から沸き上がる気配が広がる。それは鮮やかだった青空を吸い込み、闇に塗り替えていく。
闇の奥からペタリと裸足の足で、屋上のコンクリートの床を踏む足音がする。少しずつ自分に歩み寄ってくるその気配に、遥は弾かれた様に振り返った。

それは悪夢のような感覚だった。

目の前にいるのは確かに自分だ。いや、自分と同じ顔をした女というのが正しいのだろう。素肌に赤いワンピースを身につけた自分は、上目使いに遥を睨み付けている。ヒタリヒタリと足音をさせて、ゆっくり裸足のまま近づいてくる。
それが誰なのか遥は分かる気がした。

「あなたが、かおるね。」

かおるは酷く憎しみの燃え上がる真紅にすら見えるような瞳で遥を睨みつけ立ち止まる。その瞬間彼女の視線の中に自分が飲み込まれるのが遥には分かった。



退廃的で卑猥な挑発をこめた仕草と淫靡な姿。
男の陰茎を足蹴に高らかに笑いながら遥は、男が踏みつけられ快楽に涎を垂らす姿に軽蔑の眼差しを投げる。

馬鹿な男、こんなことに喜ぶなんて。

男は自分で堕ちていく。
止めたければ止めればいいのに遥の言葉に踊り狂い、大事な肉棒を皮のベルトで絞められ先に細い棒を差し込まれる。遥ではない他の、しかも男に尻の穴を弄くられ、はしたなく歓喜の声をあげ足元に這いつくばっていた。

女みたい、恥ずかしくないの?

やがて男に獣のように背後から陰茎を穴に捩じ込まれ、男の癖に女のように喘ぐ。それでも瞳だけは、何時までも男のまま遥を追いかける。憐れに獣にされた癖に何時までもギラギラした目で欲しがるから、少しだけ遥を与えてあげてもいいかと思い差し出してやる。獣のように犯され喜ぶ男は、獣と同じに舌を伸ばし犬のように涎を滴ながら遥の股間を舐め回してきた。舌の動きに微かな快楽が生まれ、遥の体も快楽を知る。

ベロベロ舐め回す獣、少しは気持ちいいわ。でも、あなた雌なの?雄なの?どっちかにしなさいよ、おかしいったらありゃしない。

嘲りながら足でいたぶってやると泣くどころか、遥が足で与えた責めに歓喜で泣き出す。泣きながら目の前の男は他の男に犯され雌になる快楽を教え込まれ、男に蹂躙されだらしなく小便のように精液を漏らした。刺激に慣れてしまったのかいつの間にか獣の男は、毎回男に犯されながら何時も精液を漏らす。

だらしない、そんなに漏らしてばかり。女がいても漏らすのかしら。

フッと思ったから遥は残酷に試してみる。すると簡単に男は女にも跨がられ犯され喜ぶようになった。射精も出来ないのに涎まみれで男と女に挟まれた姿は、穴を埋められ穴を埋めてパズルのピースみたいだが酷く滑稽だった。他の男女が満足したのに未だに腰をふる獣に呆れを通り越して興味も失せた遥に、それを知らない男はカクカクとまさに獣のように腰を擦り付ける。

発情期の獣?腰ふるだけしか能がないの?

射精できないようにしてやったのに何時までも陰茎をたてて、それしか考えられない様子に遥は呆れ果てる。雌なんだか雄なんだか知らないけど、綺麗な顔をしているのにそれしか頭にないなんて可哀想にと憐れむ。でも、何時までもそればかり欲しがられると、相手をするのが面倒になってきた自分に気がつく。

そんなに交尾したいんなら、お友達を呼んであげるわよ。

今まで一番の邪悪で残酷な微笑みを遥は浮かべる。
獣の男が仲間に雌になっているのを絶対隠したいのを知っていた。獣の男はずっと王様のように君臨していたから、獣に堕ちたのを知られれば確実に仲間達は獣の男を襲うだろう。
分かっているから、男の仲間を呼び出してやる。暫く黙ってみているように仲間達にきつく命令して、可哀想な獣の男を慣れた手管で何時ものように慰めてやる。雌になって鳴き声をあげる獣の男の姿は、本人が知らないだけで全て仲間の前に流れている。
王様が獣におとされて辱しめられる姿に、興味津々で興奮に逸物を立て喉をならす仲間の姿は滑稽だった。仲間の一人が獣になり雌に変わる男を、他の仲間とは違う熱っぽい女めいた視線で見ているのに気がついたけどそれもどうでもいい。

飽きたの、あなたの世話。

遥は残酷に微笑み、雌になった獣の男を興奮した雄の群れに投げる。雌に飢えてるみたいだから、仲間だったんでしょ?たっぷり雄に可愛がってもらえばいいのよ、獣らしく壊れるまで可愛がって貰いなさい。


残忍な自分の姿に遥は大きな悲鳴をあげた。こんな自分は自分ではないともがき、激しく悲鳴をあげる。目の前の邪悪に微笑む自分のしたことに、悲鳴が止まらない。それなのに意識がまた、目の前の自分に飲まれるのが分かる。



必死に逃げようとするのに容易く腕を掴み男に引きずられる。人気のない木立の中は町の闇より濃く暗く、湿った土と枯れ葉の臭いがした。

助けて!

逃げられない男の力に、自分の非力さを知りかおるは怯える。抵抗しているつもりなのに、相手はアッサリと腕を捉え服の裾を引っ張り出す。意図も簡単に男の手で肌と乳房を犯され、次は舌で乳首を犯される。嘲笑う男のおぞましさにかおるは悲鳴をあげようとして、男の言葉で羞恥に曝され声を堪えた。ここは2人きりの部屋ではなく、歴とした公園なのだ。何時だれがこんな姿を見るのかと背筋が凍る。

こんな姿を他の人に見られたら、破滅するっ

しかも男はここでは他の人間は助けてはくれない上に、犯す存在がただ増えるだけだとかおるを震え上がらせた。多くの男にまだ未熟な体を蹂躙される恐怖に、助けを求める悲鳴は心の奥に封印されてしまう。ほんの半日前にやっと愛する人と愛を交わしたばかりのかおるの心が、こんな日常の延長線にある場所で粉々にされていく。

やめて!助けて!

抵抗してもあっという間に男の指と舌で絶頂に押し上げられ、訳もわからずお漏らししたのをしる。トイレに行きたいわけでもないのに、男の指が弄る快楽に股間が強く収縮し弛緩すると簡単に汁が吹き出す。

嘘!やめて!何で漏らすの!やめてよぉ!気持ちいいのやめてよぉ!また漏らすぅ!

必死で耐えているのに、体が快楽に負けたのを勝手に受け入れた。男の指は巧みな上に休ませてもくれない。激しく擦られジンジン痺れる突起を、執拗に何時までもなぶり続けかおるを泣かせる。そして、男は遂に歪で巨大な凶器をさらけ出し、それをただ捩じ込むのではなくかおるを屈伏させることに決めた。

イヤらしく先で擦らないでよぉ!それでしつこくアソコを擦らないで!いやだ!ダメ!自分からいれちゃダメなのにぃ!

男の陰茎を快楽に負けた自分の体が受け入れ、まるで自分から誘うように飲み込んだのに絶望する。

気持ちよくしないで!あたしを犯さないで!!やめて!犯さないでよ!!

はしたない姿で持ち上げられ、陰茎で乱暴に貫かれ犯され揺さぶられる。執拗な突き上げに指が更に追い討ちをかけてきて、かおるは男の手で容易く獣に落とされていく。歓喜に溺れかおるは自分から、男の陰茎が自分に種付けるのを待つ自分に絶望する。


男に蹂躙される弱い女の自分にかおるは困惑し、恐怖の悲鳴をあげた。こんな自分は自分ではないともがき、激しく悲鳴をあげる。目の前の弱々しい女の自分のされたことに、悲鳴が止まらない。それなのに意識がまた、目の前の自分に飲まれるのが分かる。




何度狂喜の縁を行き来したのか、遥もかおるも分からなかった。お互いの認められない姿にお互いが拒絶の悲鳴をあげ、同時にお互いが何を求めて何を感じ経験してしまったかを見せつけれる。お互いが拒絶の悲鳴に涙を流していたのに気がつき遥は、かおるの泣き顔を見つめながら苦痛の表情を滲ませた。

かおるに自分がレイプされたのを知られてしまった。直人にばらされてしまう、大好きな直人に自分が他の男に犯され感じてしまったのをばらされてしまう

絶望に震え上がり嗚咽する遥は、再び目の前の自分に飲み込まれるのを感じた。



陰茎が膣を激しく掻き回す快感に体が歓喜する。
初めて望んで受け入れたそれの硬く熱く、体内を満たす感触に全身が歓喜に飲まれた。

ああ、凄い!身体中が蕩けそう!

ねだると直ぐ様たっぷり快楽を与えられ満たされ、歓喜するのに躊躇いもない。何度も揺さぶられ与えられる快楽に全身が蕩けて抵抗できない。このまま飲まれてしまいたいと本能が求めるのが分かって、同時に快楽に飲まれるのが怖い。それでも体に刻み込まれる陰茎の雄々しさに、雌の体が芯から歓喜に震える。

もっとして、お願いもっとちょうだい!もっと奥に熱いのが欲しい!

貪欲な体に理性は粉微塵に吹き飛ぶのが分かる。もっとこの男に満たされたいと願う自分がいるのが、鮮やかに刻み込まれていく。



遥は戸惑う。自分を優しく包み微笑みかけ、気遣う視線で覗きこむ。自分を欲しがるわけでもなく、ただ純粋に自分を心配するその手に頑なな心が熔けた。

なんで心配してるの?

不思議な人だと遥は思う。
時に遥が直人も似た感じを受けることはあるのは何処と無く理解していたが、目の前の彼の方がずっと純粋で無条件の視線を遥に向ける。
遥の愛が欲しい直人の視線でもなく、かおるの愛が欲しい和希の視線とも違う。何も対価を遥に求めない視線は最初は意味が掴めなかった。彼はふらつく体を、迷わず咄嗟に手を出して体を抱え込んでくれた。

「大丈夫?」

抱きかかえる腕は、遥が露出の多い姿だというのに性的な意図を感じさせない。自分が触れる露出する肌が冷たく体まで冷えきっているのに、抱きかかえる腕は酷く暖かい。疲労と眠気にぼんやりした瞳で見上げ一瞬和希に似ていると思ったが、目の前の暖かい青年の方がずっと自然でお日様のような髪だと心が呟く。

「も、ちょっとあったかい格好しなよ、瀬戸さん。女の子なんだからさぁ?それにまた隈が出来てるよ?ちゃんと寝なよ。」

何一つ遥に求めず、彼はそう言うと冷えきった遥に咄嗟に自分の巻いていたマフラーを外し巻き付ける。されるがままになっていた遥は、白い息を吐きながら手でマフラーを確認してみるように触れる。

「暖かい……。」
「そりゃそうだよ、そんなカッコしてたら寒いでしょ、俺無理、見てるだけで寒いよ。」

ブルブルと肩を震わせて見せる忠志の前で俯いてマフラーに顔を埋めたまま俯き黙りこむ。この目の前の青年の行為を、遥はどう捉えたらいいか迷っていた。対価を求めない行為を受けたのは初めてで、どう反応するのがいいのかもわからないのだ。

「こんなとこフラフラしてたら危ないよ?誰かといたの?家まで送ろうか?」
「…………待ち合わせてる。」

咄嗟にポツリと呟いた遥に忠志は微かに眉を潜めたかと思うと、唐突に彼女の瞳を覗きこむように顔を近づけた。対価にキスでもするのかと遥は驚いたように身を引いたが、彼は視線が向いただけで満足したようだった。

「あ、ごめん、脅かしたか?なんかこの間と違うなって。化粧してるからかな?」

忠志の言葉に彼と他の誰かが接触しているのだと改めて遥は硬い表情で返答に思案し黙りこむ。突然、忠志がグルリと辺りを見回し少し待っててと告げたのに、遥はどうしたらいいのか思案したまま立ち尽くす。
微笑みながら忠志が駆け戻り、遥は初めて自分から視線を向けた。彼は穏やかな微笑みを浮かべながら遥の手を取ると、その手の中に缶のココアを置き自分の大きな手で包み込む。彼女は視線を忠志の大きな手で包まれた自分の手に落とした。

「暖かい……。」
「ココア好き?」

わからないと告げる言葉に忠志が思わず吹き出す。笑われた不満に上目使いで見る遥に気がつき、彼はごめんと口にする。

「妹みたいな喋り方するから、つい懐かしくって。」
「懐かしい?離れて住んでるの?」
「違う、去年死んだ。」

遥はその言葉に驚き彼を見つめた。身近な誰かの死をこんな風に穏やかな表情で語る彼は、遥には不思議だった。初めて真っ直ぐに見つめ覗きこんだ瞳は、やはり他の男と違って不思議に暖かい感じがした。

「俺と同じで寒がりで、こうやってよく暖かいの買ってやったけど、何買っても聞くと分かんないって言うんだ。」
「好きじゃないのだったの?」
「ふふ、でも飲んだときには美味しいって言うんだぜ?自分の事考えて買ってくれたから、何でも美味しいんだってさ、おかしな妹だろ?」

もういない人の話をしているのに目の前の忠志は凄く幸せそうで、初めて頑なだった遥の唇も可笑しそうに微笑む。これ開けてくれる?と差し出してみると、忠志は戸惑うことなく直ぐ様缶のプルタブを開けてまた缶を差し出す。手渡された遥は、熱さを考え慎重にソロソロと口をつける。

「……甘くて、美味しい。」
「そっか、良かった。ちゃんと暖かくしてもっと明るくて暖かいとこで友達待ってなよ?来るまで一緒にいようか?」

忠志の言葉に何故か気恥ずかしくなった遥は微笑みながら、大丈夫と告げ恥ずかしさを隠すため缶にもう一度目を落とす。
このままいると和希が来てしまう。和希がきて騒ぐことより、和希に彼の優しい微笑みが傷つけれるのは嫌だわと遥は考える。もう一度微笑みながら視線を上げて大丈夫だからと呟いた。

「分かった、気をつけて待ち合わせしてな?」
「うん、分かった。」

微笑みながら手をふり、彼が歩み去る後ろ姿を見つめ続ける。

いかないで、本当は傍にいて欲しい。あなたに傍にいて欲しい。なんにもあたしから奪わないで、ただあたしのことだけ考えてくれた。初めてなの、あたしをあたしだけで心配してくれたの。

かおるは自分の中を覗きこまれたことに、困惑し苦悩の声をあげる。幾つも大事に心に隠していたのに抉じ開けられ記憶を無防備にさらけ出され、何より嫌いな遥に全て知られてしまった。



目の前のかおるの姿は凄く希薄で、霞がかかり揺らめいて見えた。イメージと違わないとはいえ、かおるの何かが揺らぎながら佇んでいる。遥はそれが今体験したかおるの記憶の中にあることが分かっていた。

「あなたの願い事分かったわ。かおる」

遥の声にかおるは激しく戸惑うよう表情を浮かべた。このまま遥と話していいのか悩むその表情は酷く幼く脆く揺らいでいる。その表情で聞かなくともかおるの願いは、手に取るように分かる様な気がした。

違っても彼女は、私なのだ。

そう、ハッキリと確信して遥は足を踏み出す。予想外の遥の行動に、今度はかおるが凍り付いた様に怯えた表情を浮かべるのが見えた。

「近寄るな!」
「あなたの本当の願いは…。」

囁くような遥の声が広い空間にまるで音楽の様に響きわたり、驚いた様にかおるは両手で耳を塞いだ。聞きたくないのに聞こえると言いたげな表情のかおるに真っ直ぐに遥は歩み寄っていく。

自分の心の中で直人の顔が見える気がする。

それが自分の新しい人生への一歩を踏み出す力になる気がした。
だから今は一人でも大丈夫。
今はかおるという存在の本当の願いも分かる。
かおる、あなたは私。
私の本当の願いは、一つ。

心の中で囁きつづけながら歩く。遥の声が口を通さずに直接空間に響くのを感じながら、遂に遥はかおるの真正面に立った。目の前のかおるは今や酷く怯えた様に揺らぎながら、遥を見つめ微かに唇を震わせ立ち尽くしている。

「やめて……来ないで……。」

かおるの哀願するような声は震えをおびて、悲しげにも聞こえた。
かおるの瞳に浮かんでいた激しい憎しみの感情が、目の前で遥に突きつけ針のように傷つけようと襲いかかる。しかし、遥は既にその憎悪の根元が何かをかおる自身の目で見つめていた。根元のハッキリした憎しみは、遥に触れたとたん淡雪の様に溶けて四散していく。

「やめてよ…」

憎しみと妬み。
それを糧にかおるが張り巡らせてきた虚勢が、遥に触れ崩れていく。それなのに遥に触れると、かおるは今まで知らない恐怖と怯えを植え付けらるのがわかる。遥に触れた心の片鱗が、遥の恐怖と怯えに同調していく。

あたしは、ただ

かおるの心が呻くように呟くのがわかる。それが何を意味しているのか、遥にも手に取るように感じられていた。


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