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きゃんぷ、なな
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ごつごつと頭突きをし合って数分、罵倒のキレがなくなってきたと思えば、叔父はよろよろと俺から離れた。
「この石頭……」
頭突きが効いているようだ。相当痛かったのを我慢してきたのだろう、涙が零れてしまっている。
「てめぇから離れた、俺の勝ちだな。雪兎と雪風に近付いたらドタマかち割ってやる」
「乱暴だなぁ……もう」
黒い高級車が並ぶ中、一台だけ灰色の四輪駆動が止まっている。叔父はその車から食材が入っているのだろうビニール袋を引っ張り出した。
「よっ……! と、わっ……重っ……」
よたよたとして本当に重たそうだ。しかし持ってやる義理はないので小走りで雪兎の元に戻った。予想通り雪風と祖父も居る。
「ポチ! どこ行ってたのさもぉ! 心配したんだよ!」
「すいませんユキ様……入れ違いになったみたいで、ロッジ探してたら遅くなっちゃいました」
「見晴らしいいのに入れ違うの? もぉ、ドジだなぁ」
怪しまれてはいないようだ。
「ポチ、ほら座って」
背もたれ付きの折りたたみ式の椅子に座らされる。雪風も同じ物に座っており、隣同士だ。肘掛けに置いた手に手を重ねてきた。
「ちょっ……ユキ様、大丈夫ですか?」
雪兎が膝の上に乗ってきた。この手の椅子は強度は大したことがないと相場が決まっている。二人分なんて支えられるのだろうか。
「大丈夫だよぉ、百キロでも余裕なんだから」
「真尋、お前が五十と見て、ユキが三十ちょいだろうから余裕だぞ」
「俺、八十弱あるけど」
「僕ギリギリ四十あるよ」
雪風の目測は全く当てにならない。しかし椅子は軋んでなどはいないため、大丈夫だろうとは分かる。
「はち、じゅう……? 真尋、お前俺より身長低いよな?」
「六センチくらいだろ」
「お前……デブ……」
「体脂肪率で競おうか!」
どこを見てデブだなんて言っているんだ。腹筋は板チョコよりも割れているし、首も腕も足もほどよく筋肉が……そういえば太腿が妙に柔らかいような。尻もむちっとしてきたし……
「ユキ様、降りてください。ダイエットしてきます、ちょっと走ってきます!」
「ダメだよポチぃ! ポチはその体型がベストなのぉ! 筋肉も脂肪も落としちゃやだぁ! 雪風、ポチ割とすぐに不安になっちゃうんだからデブとか言うのやめてよ!」
雪兎に涙ながらに訴えられては仕方ない。けれど、この頃運動をしていないのは事実だ、油断は禁物なのだ。
「ダイエットですか……バーベキュー中にそんなこと考えちゃダメですよ。はい、お肉」
「せんきゅ、りょーちゃん。りょーちゃんは痩せてるよな、すっげぇ美脚」
叔父の恋人であり一人で肉を焼かされている涼斗の足は長く細く美しい。スキニージーンズがよく似合っている。
「……女みたいな足だな」
肉を頬張って顔を顰めた祖父がハムスターのようになりながらボソッと呟く。仕草まで幼いなぁ。
「そうですか……?」
「お尻ぷりっとしてていいよなぁー、顔乗られたいタイプのケツだわ」
「やめてください……」
確かにそそる体をしている。まぁ勃つほどではないけれど。
「……なんか意識してることある? 俺ももっとこう……エロい体型になりたい」
「立たないでください近寄らないでください」
「何もしないからそんなに警戒すんなよ!」
「初対面の時あなたに無理矢理初めてを奪われたことは忘れてませんから……!」
グリルの周りを回るのは危ない……待て、今なんて言った?
「ゆ、雪風……お前、強姦なんてしてたのか……」
「誤解だ! 涼斗、誤解を招く言い方すんなよ!」
「僕は凪さんに全てを捧げたかったのにっ……あ、あなたを消せばっ、僕の初めては凪さんに……」
「真尋ぉ! 今すぐこいつからハサミを取り上げろ!」
涼斗はハサミで肉を切って焼いている。その大きなハサミは確かに危ない、彼は何をするか分からない。とりあえず羽交い締めにして、詳しい説明を求めた。
「初対面の時なぁ……うん、今思うとやらかしたなって感じだわ。いや、キスしただけなんだぞ? 真尋ぉ、ユキ……誤解しないでくれ、無理矢理キスしただけだ」
軽くはなったが犯罪だ。
「離してください……離してください……あの口を切り取れば、僕は純潔に戻ります……」
それもファーストキスともなれば刃傷沙汰になっても仕方ない。かと言って雪風を刺させはしないけれど。
「なんだよお前キスだけでイってただろ! 文句言うなよ俺は確かに悪かったし変態だけど、お前もあん時ストーカーやってたし変態だっただろ!」
この場にまともな奴は居ないらしい。
「…………りょ、涼斗? おーい、りょーちゃん? りょーぅっと……くん?」
体の力を抜いているので羽交い締めをやめると涼斗は力なく地面に座り込み、自分の頭を抱くように蹲り、すすり泣き始めた。
「あーぁ、泣かせやがった」
「わーるいんだーわるいんだー! 雪風さいてー!」
「ちょっと雪風ぇ! 涼斗泣いてんじゃん!」
「三人揃って俺を責めるなぁ! 一人くらい俺に味方してくれよ! 特に真尋、そのクラスのウザめの女子みたいな言い方やめろ!」
泣いている方に肩入れしてしまうのは人間のサガだ。それも涼斗はどこか女性的で庇いたくなる。しかし雪風を責め続けるのも心が痛いので、俺は早々に話題から離脱して涼斗が放棄した肉焼きの役目を引き継いだ。
「この石頭……」
頭突きが効いているようだ。相当痛かったのを我慢してきたのだろう、涙が零れてしまっている。
「てめぇから離れた、俺の勝ちだな。雪兎と雪風に近付いたらドタマかち割ってやる」
「乱暴だなぁ……もう」
黒い高級車が並ぶ中、一台だけ灰色の四輪駆動が止まっている。叔父はその車から食材が入っているのだろうビニール袋を引っ張り出した。
「よっ……! と、わっ……重っ……」
よたよたとして本当に重たそうだ。しかし持ってやる義理はないので小走りで雪兎の元に戻った。予想通り雪風と祖父も居る。
「ポチ! どこ行ってたのさもぉ! 心配したんだよ!」
「すいませんユキ様……入れ違いになったみたいで、ロッジ探してたら遅くなっちゃいました」
「見晴らしいいのに入れ違うの? もぉ、ドジだなぁ」
怪しまれてはいないようだ。
「ポチ、ほら座って」
背もたれ付きの折りたたみ式の椅子に座らされる。雪風も同じ物に座っており、隣同士だ。肘掛けに置いた手に手を重ねてきた。
「ちょっ……ユキ様、大丈夫ですか?」
雪兎が膝の上に乗ってきた。この手の椅子は強度は大したことがないと相場が決まっている。二人分なんて支えられるのだろうか。
「大丈夫だよぉ、百キロでも余裕なんだから」
「真尋、お前が五十と見て、ユキが三十ちょいだろうから余裕だぞ」
「俺、八十弱あるけど」
「僕ギリギリ四十あるよ」
雪風の目測は全く当てにならない。しかし椅子は軋んでなどはいないため、大丈夫だろうとは分かる。
「はち、じゅう……? 真尋、お前俺より身長低いよな?」
「六センチくらいだろ」
「お前……デブ……」
「体脂肪率で競おうか!」
どこを見てデブだなんて言っているんだ。腹筋は板チョコよりも割れているし、首も腕も足もほどよく筋肉が……そういえば太腿が妙に柔らかいような。尻もむちっとしてきたし……
「ユキ様、降りてください。ダイエットしてきます、ちょっと走ってきます!」
「ダメだよポチぃ! ポチはその体型がベストなのぉ! 筋肉も脂肪も落としちゃやだぁ! 雪風、ポチ割とすぐに不安になっちゃうんだからデブとか言うのやめてよ!」
雪兎に涙ながらに訴えられては仕方ない。けれど、この頃運動をしていないのは事実だ、油断は禁物なのだ。
「ダイエットですか……バーベキュー中にそんなこと考えちゃダメですよ。はい、お肉」
「せんきゅ、りょーちゃん。りょーちゃんは痩せてるよな、すっげぇ美脚」
叔父の恋人であり一人で肉を焼かされている涼斗の足は長く細く美しい。スキニージーンズがよく似合っている。
「……女みたいな足だな」
肉を頬張って顔を顰めた祖父がハムスターのようになりながらボソッと呟く。仕草まで幼いなぁ。
「そうですか……?」
「お尻ぷりっとしてていいよなぁー、顔乗られたいタイプのケツだわ」
「やめてください……」
確かにそそる体をしている。まぁ勃つほどではないけれど。
「……なんか意識してることある? 俺ももっとこう……エロい体型になりたい」
「立たないでください近寄らないでください」
「何もしないからそんなに警戒すんなよ!」
「初対面の時あなたに無理矢理初めてを奪われたことは忘れてませんから……!」
グリルの周りを回るのは危ない……待て、今なんて言った?
「ゆ、雪風……お前、強姦なんてしてたのか……」
「誤解だ! 涼斗、誤解を招く言い方すんなよ!」
「僕は凪さんに全てを捧げたかったのにっ……あ、あなたを消せばっ、僕の初めては凪さんに……」
「真尋ぉ! 今すぐこいつからハサミを取り上げろ!」
涼斗はハサミで肉を切って焼いている。その大きなハサミは確かに危ない、彼は何をするか分からない。とりあえず羽交い締めにして、詳しい説明を求めた。
「初対面の時なぁ……うん、今思うとやらかしたなって感じだわ。いや、キスしただけなんだぞ? 真尋ぉ、ユキ……誤解しないでくれ、無理矢理キスしただけだ」
軽くはなったが犯罪だ。
「離してください……離してください……あの口を切り取れば、僕は純潔に戻ります……」
それもファーストキスともなれば刃傷沙汰になっても仕方ない。かと言って雪風を刺させはしないけれど。
「なんだよお前キスだけでイってただろ! 文句言うなよ俺は確かに悪かったし変態だけど、お前もあん時ストーカーやってたし変態だっただろ!」
この場にまともな奴は居ないらしい。
「…………りょ、涼斗? おーい、りょーちゃん? りょーぅっと……くん?」
体の力を抜いているので羽交い締めをやめると涼斗は力なく地面に座り込み、自分の頭を抱くように蹲り、すすり泣き始めた。
「あーぁ、泣かせやがった」
「わーるいんだーわるいんだー! 雪風さいてー!」
「ちょっと雪風ぇ! 涼斗泣いてんじゃん!」
「三人揃って俺を責めるなぁ! 一人くらい俺に味方してくれよ! 特に真尋、そのクラスのウザめの女子みたいな言い方やめろ!」
泣いている方に肩入れしてしまうのは人間のサガだ。それも涼斗はどこか女性的で庇いたくなる。しかし雪風を責め続けるのも心が痛いので、俺は早々に話題から離脱して涼斗が放棄した肉焼きの役目を引き継いだ。
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