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彼氏のゲーム覗かせてもらった
入院から数日経って、俺は手首から先と足首から先……つまり全ての指を自由に動かせるようになった。肘、膝や肩はまだピクリともしないし、深呼吸も少し難しい。食道の不快感は残ったまま。だが、手が自由というのは素晴らしいことだ。
「ゲーム出来るぅ~!」
レンに持ってきてもらった携帯ゲーム機は、画面とコントローラーを分離出来る物だ。肘が動かずとも問題ない、ベッドに付けた机に画面部分を置くだけでいい、手はベッドに下ろしたままでもコントローラーを操作出来るのだ。
「はぁ……久しぶりだなぁ、操作ちょっと忘れちゃったかも」
「後で対戦しようぜもっちー」
「……ゲームか。楽しいか? ノゾム」
「はい!」
「ゲームに嫉妬とかしちゃうか? 形州……先輩?」
「…………流石にしない。少し寂しいが……楽しそうな顔を見るのは好きだ。兄ちゃんもゲームが好きでな……たまに遊ばせてもらった。俺はどうにも興味が持てなくて、上達もしなかったが……俺にコツを教えてくれる兄ちゃんは楽しそうで、上手く出来なかったのに楽しかった」
「ふーん……お前秘書さんの話に転換出来たら結構話すよな」
「ど、どどっ、どういうゲームなの? ノノ、ノ、ノゾムくんっ」
センパイとレンが話している隙に、とでも考えているのだろうこっそりとした動きでミチが俺の傍へより、画面を覗いた。
「のんびりリクザメの島、っていうゲームだ。たくさんのリクザメ達が暮らしてて……畑作ったり、家具作ったり、服作ったり……リクザメの村を発展させてくスローライフ系のゲームだよ」
「リクザメって何? リクガメみたいなの?」
「二足歩行のサメだよ。短足で可愛いんだ、ほらコイツら。博士風だったり、農家風だったり……衣装は俺が作ったヤツ着せられるんだよ。可愛いだろ?」
「サメしか居ないの?」
「リク島にはサメ以外出てこないぞ。あ、そうそう、ハンマーヘッド族のヤツにメガネかけさせると面白くてさぁ……見せてやるよ」
銃を撃ち合うようなゲームをやる体力はまだない。目まぐるしく変わる戦況に対応するには、それなりに集中力と反射神経を使うのだ。今の俺にはスローライフゲームが合っているし、ミチに見せるには平和なこのゲームがピッタリだ。
「…………兄ちゃんが似たようなゲームをやっていた気がする。確か、もっと色んな動物が出て……カブがどうこうって」
「ぁー……ゲーム性は似てるな。パクリってほどじゃねぇ、同ジャンルって感じだ」
「……ふぅん」
「形州……先輩はゲーム持ってねぇんだっけ」
「……あぁ。持ってない」
「秘書さんと遊びたくて買ったーとかやりそうなのに」
「…………言ったろ、上達しないし興味も持てなかったって。兄ちゃんも毎回ゲームに誘ってくる訳じゃない……そんな頻度の低いおもちゃに何万も出さない」
「秘書さん勝手に買って渡してきそうだけど」
「……兄ちゃんは俺が欲しがらない物は滅多に買わない。バイクは俺が欲しがったんだ、単に移動手段としてだったが……服は、サイズが合う既製品が見つけにくいと愚痴ったら……見つけて送ってきてくれるようになった」
「ほぼオーダーメイド品だろお前の服。そのシャツとかはともかく、ジャケットとか靴とかはさ」
「…………あぁ、知った時は驚いた」
「本人に知らせずにオーダーメイド品って作れんのか? 身長だけで作るもんじゃねぇだろ」
「……会う度に全身測られてる」
「なのにオーダーメイドだって分かんなかったのか? 何のためにしてると思ってたんだよ、疑問抱けよ」
「…………あぁ、本当……俺は、考えの浅い男だ。ノゾムにもそれで迷惑をかけた……この短所は直したい、何かいい手はないか?」
「えー……」
「……ノゾムは俺と別れたがらないんだ、ならノゾムに迷惑がかからないよう俺を成長させるのは、お前にもメリットが大きいはずだ」
「恥ずかしくないのかお前歳下にそんなこと堂々と要求して。ったく……考えが浅いのが短所って思ってんならなぁ、意識して深く考えるようにすりゃいいだけだろ。手の甲にでも書いとけ、深く考えるって」
「…………なるほど。油性ペン持ってるか?」
「鵜呑みじゃねぇか深く考えろよ」
センパイと話すレンに嫉妬する、もちろんセンパイの方にも。彼らは俺を取り合う立場にあるからギスギスした空気を作りがちで、俺はその空気が嫌だから、仲良くなってくれるのはありがたいことのはずなのに、俺を放って交流しないで欲しいと思ってしまう。
「はぁ……」
浮気を許してもらっている立場で、空気が悪いのは嫌だとか常に中心に居たいだとか、俺はなんて身勝手なクズなんだ。自分が嫌になる。
「ノ、ノノ、ノゾムくんっ? ど、どうしたの? こ、この魚っ、嫌なの?」
「ん、あぁ……よく釣れるんだよな、これ。今狙ってるのは違う魚だから……」
「そ、そっか……運? なんだよね、こういうのって。が、ががっ、頑張って!」
バカ真面目に応援してくれるミチを可愛く思って笑みを零しながら、ゲームでの釣りを再開する。なんだろう、さっきからいらない魚ばかり釣れている気がする。NPCに要求された魚は最低レアのものだし、今までは二、三回のうちに釣れていたのに。
「あ、そうだもっちー、霊力が枯渇してる間ってめちゃくちゃ運悪くなるから、運ゲーはあんまやらねぇ方がいいぞ」
「え……そうなの?」
「悪いな今まで忘れてて。作業ゲーか完全実力ゲーにしな」
「分かった……サメに別荘売りつけるゲームにする」
「そ、それは、運関係ないのっ?」
「サメの好みに合わせて外装と内装決めるだけだから、運とかないと思う」
「そ、そ、そっか! ノ、ノゾムくんのインテリアセンス見ちゃお、ぇへへ……しょ、しょしょっ、しょ、将来……は、いいっ、一緒にっ、住むんだもんねっ、ぇへっ、へへへ……」
一緒に、か。俺はワガママなクズだから、レンともセンパイとも、先生とも一緒に過ごしたいと思ってしまう。二人きりじゃ寂しくなる、一人になる時間が絶対に出来る、そんなの嫌だ、ずっと誰かの体温を感じていたい。
寂しがりの俺にとって、三人が常に傍に居てくれる天国のような入院生活。その終わりは始業式の三日前に突如告げられた。
「え、明日退院?」
レンが剥いてくれたリンゴを齧りながら目を丸くする。
「おうよ、夏休みが終わるまでには~とか言ってたけど、ギリギリじゃねぇかってな」
「課題全然やってない……」
「た、たたっ、た、退院おめでとぉっ、ノゾムくんっ」
「うん……」
「…………嬉しくなさそうだな」
顔に出ていたか。一切れのリンゴを食べ終えて、指を舐めてから俺は心情を話した。
「みんな俺のために病院泊まってくれてて、ずっと一緒で……それがすごく嬉しくて、居心地良くて……寂しいなって思うこと、全然なくて、だから……この生活終わるのちょっと残念だなって」
「…………何を言うんだ。退院したって何も変わらない、俺はいつでもお前のためになることだけ考えてる、お前の傍に居る……寂しがらせたりなんてしない」
「ダメですよセンパイ、そんなのレンのお父さんに迷惑かけちゃう……」
「……俺の家にお前が泊まればいい」
「絶対ダメだ、んなこと絶対許さねぇぞ。もちは俺の家に泊まるんだ!」
「ぼ、ぼ、ぼくっ……の、家は…………ダメ、かな。ダメだよね……うぅ……」
張り合おうと試みるも不戦敗を認めたミチが縮こまる。
「…………親父が居るからな、俺の家もあまり良くない……やはりお前の家に泊まらせろ、如月」
「嫌だっつってんだろ!」
「……部屋、余ってるだろ。自分の分の食費や雑費はちゃんと出す」
「アレは姉ちゃんの部屋な! 可愛くて無害なみっちーならともかく、てめぇみてぇなゴツい雄をうら若き乙女の部屋に泊められるかよ!」
可愛くて無害という発言に、男らしい男を理想としているミチは更に縮こまった。
「ゲーム出来るぅ~!」
レンに持ってきてもらった携帯ゲーム機は、画面とコントローラーを分離出来る物だ。肘が動かずとも問題ない、ベッドに付けた机に画面部分を置くだけでいい、手はベッドに下ろしたままでもコントローラーを操作出来るのだ。
「はぁ……久しぶりだなぁ、操作ちょっと忘れちゃったかも」
「後で対戦しようぜもっちー」
「……ゲームか。楽しいか? ノゾム」
「はい!」
「ゲームに嫉妬とかしちゃうか? 形州……先輩?」
「…………流石にしない。少し寂しいが……楽しそうな顔を見るのは好きだ。兄ちゃんもゲームが好きでな……たまに遊ばせてもらった。俺はどうにも興味が持てなくて、上達もしなかったが……俺にコツを教えてくれる兄ちゃんは楽しそうで、上手く出来なかったのに楽しかった」
「ふーん……お前秘書さんの話に転換出来たら結構話すよな」
「ど、どどっ、どういうゲームなの? ノノ、ノ、ノゾムくんっ」
センパイとレンが話している隙に、とでも考えているのだろうこっそりとした動きでミチが俺の傍へより、画面を覗いた。
「のんびりリクザメの島、っていうゲームだ。たくさんのリクザメ達が暮らしてて……畑作ったり、家具作ったり、服作ったり……リクザメの村を発展させてくスローライフ系のゲームだよ」
「リクザメって何? リクガメみたいなの?」
「二足歩行のサメだよ。短足で可愛いんだ、ほらコイツら。博士風だったり、農家風だったり……衣装は俺が作ったヤツ着せられるんだよ。可愛いだろ?」
「サメしか居ないの?」
「リク島にはサメ以外出てこないぞ。あ、そうそう、ハンマーヘッド族のヤツにメガネかけさせると面白くてさぁ……見せてやるよ」
銃を撃ち合うようなゲームをやる体力はまだない。目まぐるしく変わる戦況に対応するには、それなりに集中力と反射神経を使うのだ。今の俺にはスローライフゲームが合っているし、ミチに見せるには平和なこのゲームがピッタリだ。
「…………兄ちゃんが似たようなゲームをやっていた気がする。確か、もっと色んな動物が出て……カブがどうこうって」
「ぁー……ゲーム性は似てるな。パクリってほどじゃねぇ、同ジャンルって感じだ」
「……ふぅん」
「形州……先輩はゲーム持ってねぇんだっけ」
「……あぁ。持ってない」
「秘書さんと遊びたくて買ったーとかやりそうなのに」
「…………言ったろ、上達しないし興味も持てなかったって。兄ちゃんも毎回ゲームに誘ってくる訳じゃない……そんな頻度の低いおもちゃに何万も出さない」
「秘書さん勝手に買って渡してきそうだけど」
「……兄ちゃんは俺が欲しがらない物は滅多に買わない。バイクは俺が欲しがったんだ、単に移動手段としてだったが……服は、サイズが合う既製品が見つけにくいと愚痴ったら……見つけて送ってきてくれるようになった」
「ほぼオーダーメイド品だろお前の服。そのシャツとかはともかく、ジャケットとか靴とかはさ」
「…………あぁ、知った時は驚いた」
「本人に知らせずにオーダーメイド品って作れんのか? 身長だけで作るもんじゃねぇだろ」
「……会う度に全身測られてる」
「なのにオーダーメイドだって分かんなかったのか? 何のためにしてると思ってたんだよ、疑問抱けよ」
「…………あぁ、本当……俺は、考えの浅い男だ。ノゾムにもそれで迷惑をかけた……この短所は直したい、何かいい手はないか?」
「えー……」
「……ノゾムは俺と別れたがらないんだ、ならノゾムに迷惑がかからないよう俺を成長させるのは、お前にもメリットが大きいはずだ」
「恥ずかしくないのかお前歳下にそんなこと堂々と要求して。ったく……考えが浅いのが短所って思ってんならなぁ、意識して深く考えるようにすりゃいいだけだろ。手の甲にでも書いとけ、深く考えるって」
「…………なるほど。油性ペン持ってるか?」
「鵜呑みじゃねぇか深く考えろよ」
センパイと話すレンに嫉妬する、もちろんセンパイの方にも。彼らは俺を取り合う立場にあるからギスギスした空気を作りがちで、俺はその空気が嫌だから、仲良くなってくれるのはありがたいことのはずなのに、俺を放って交流しないで欲しいと思ってしまう。
「はぁ……」
浮気を許してもらっている立場で、空気が悪いのは嫌だとか常に中心に居たいだとか、俺はなんて身勝手なクズなんだ。自分が嫌になる。
「ノ、ノノ、ノゾムくんっ? ど、どうしたの? こ、この魚っ、嫌なの?」
「ん、あぁ……よく釣れるんだよな、これ。今狙ってるのは違う魚だから……」
「そ、そっか……運? なんだよね、こういうのって。が、ががっ、頑張って!」
バカ真面目に応援してくれるミチを可愛く思って笑みを零しながら、ゲームでの釣りを再開する。なんだろう、さっきからいらない魚ばかり釣れている気がする。NPCに要求された魚は最低レアのものだし、今までは二、三回のうちに釣れていたのに。
「あ、そうだもっちー、霊力が枯渇してる間ってめちゃくちゃ運悪くなるから、運ゲーはあんまやらねぇ方がいいぞ」
「え……そうなの?」
「悪いな今まで忘れてて。作業ゲーか完全実力ゲーにしな」
「分かった……サメに別荘売りつけるゲームにする」
「そ、それは、運関係ないのっ?」
「サメの好みに合わせて外装と内装決めるだけだから、運とかないと思う」
「そ、そ、そっか! ノ、ノゾムくんのインテリアセンス見ちゃお、ぇへへ……しょ、しょしょっ、しょ、将来……は、いいっ、一緒にっ、住むんだもんねっ、ぇへっ、へへへ……」
一緒に、か。俺はワガママなクズだから、レンともセンパイとも、先生とも一緒に過ごしたいと思ってしまう。二人きりじゃ寂しくなる、一人になる時間が絶対に出来る、そんなの嫌だ、ずっと誰かの体温を感じていたい。
寂しがりの俺にとって、三人が常に傍に居てくれる天国のような入院生活。その終わりは始業式の三日前に突如告げられた。
「え、明日退院?」
レンが剥いてくれたリンゴを齧りながら目を丸くする。
「おうよ、夏休みが終わるまでには~とか言ってたけど、ギリギリじゃねぇかってな」
「課題全然やってない……」
「た、たたっ、た、退院おめでとぉっ、ノゾムくんっ」
「うん……」
「…………嬉しくなさそうだな」
顔に出ていたか。一切れのリンゴを食べ終えて、指を舐めてから俺は心情を話した。
「みんな俺のために病院泊まってくれてて、ずっと一緒で……それがすごく嬉しくて、居心地良くて……寂しいなって思うこと、全然なくて、だから……この生活終わるのちょっと残念だなって」
「…………何を言うんだ。退院したって何も変わらない、俺はいつでもお前のためになることだけ考えてる、お前の傍に居る……寂しがらせたりなんてしない」
「ダメですよセンパイ、そんなのレンのお父さんに迷惑かけちゃう……」
「……俺の家にお前が泊まればいい」
「絶対ダメだ、んなこと絶対許さねぇぞ。もちは俺の家に泊まるんだ!」
「ぼ、ぼ、ぼくっ……の、家は…………ダメ、かな。ダメだよね……うぅ……」
張り合おうと試みるも不戦敗を認めたミチが縮こまる。
「…………親父が居るからな、俺の家もあまり良くない……やはりお前の家に泊まらせろ、如月」
「嫌だっつってんだろ!」
「……部屋、余ってるだろ。自分の分の食費や雑費はちゃんと出す」
「アレは姉ちゃんの部屋な! 可愛くて無害なみっちーならともかく、てめぇみてぇなゴツい雄をうら若き乙女の部屋に泊められるかよ!」
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