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彼氏と友達と七夕パーティを楽しみに来た
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インターホンが鳴り続ける玄関扉を開ける。センパイだと確信して目線を上げていたから来客は見えなかった。
「つ、つつ、月乃宮君……? や、やだよぉ、そのおふざけっ……いじわるぅ……!」
来客はミチだった。ミチは身長の低さをイジられたと勘違いして泣きそうな声を出す。慌てて慰め、そんなつもりはなかったのだと弁解し、どうしてここにやってきたのか聞いた。
「え……? き、きき、聞いてないの? 僕、如月君に呼ばれたんだよ。七夕パーティやるから来ないかって……えへへ、月乃宮君が来るって聞いたから慌てて来ちゃったよ」
いつもミチの髪はボサボサだが、今日はいつも以上に寝癖が多い。
「か、かか、形州も居るんだよね……? 僕、頑張るよ。君を渡さない!」
「い、いやいやいや……ダメだって、危ないって! ミチ、俺にも力で勝てないだろ? 俺達が付き合ってることは内緒にしとこ、な?」
ミチは不満そうに頬を膨らませる。
「たた、確かに形州は怖いしっ、僕は勝てなさそうだけど……でもっ、月乃宮君を渡したくない! こ、ここ、ここで無理しなかったら、君はいつ形州と縁切ってくれるのぉっ……!」
以前まではセンパイが大学に行けば関係は自然消滅するのだと思っていた。けれど、センパイの愛情は重く深く苦しく──大学入学という転機に頼るのは危ない気がしていた。
「そ、卒業……とか。ほら、センパイ……県外の大学行くみたいだし、多分それで縁切れるよ」
切れないだろうけど、今はこの言い訳で──あぁ、またか。俺はいつも適当な嘘や言い訳で場を乗り切ろうとして、困難を後回しにして逃げてばかりいる。いつか酷い目に遭うのだろうか。
「ほ、本当……? なな、なら待とうかな、君を生贄にしとくのは嫌だけど形州怖いし……あぅぅ、とりあえず着替えてから考えるよ。じゃあね……」
ミチは迷うことなくレンの部屋に入っていった。俺も扉を開けようとしたが、鍵をかけられた。十円玉で開くタイプの簡単な鍵だ。
「つ、つ、月乃宮君っ? ダ、ダメだよっ、着替え中なんだから! えっち!」
ガチャガチャとドアノブを少し揺らしただけなのに怒られてしまった。
「なんだよ……ケチ。じゃ、俺先行ってるからな、ウッドデッキの場所分かるだろ?」
「だ、大丈夫だから早く行って!」
着替えるのがそんなに恥ずかしいのか? 俺は不満を覚えつつもウッドデッキに戻った、しかしレンの姿はない。
「レン? レンー?」
家の中に戻って歩き回るとトイレに人が入っているのに気付いた。咳き込む声が聞こえてくる。
「レン? レン、大丈夫かー?」
嗚咽の声が聞こえて数秒すると明るい声が返ってきた。
「も、ちっ……? げほっ……ごめ、ちょっと風邪、で……」
「大丈夫なのか?」
「ん……マスク、しとくわ。マジでごめん」
「……うん」
トイレの前に居ても仕方がないので再びレンの部屋へ行き、扉を叩く。
「ミーチー、まだー?」
「つ、つつ、月乃宮くんっ? ま、まま、待ってよぉっ……か、かか、髪がダメ……き、きき如月くんはっ?」
「ミチならトイレで吐いてるぞ」
「えっ!? だ、だだっ、だだ大丈夫!?」
扉のすぐ傍に寄ってきたのだろう、焦る声が間近で聞こえる。愛らしい反応に笑みを零したその時、背後から肩を叩かれた。
「……吐いてねぇよ」
振り返ると茶色い瞳に睨まれた。レンはマスクをしており、その口元を隠した姿に俺はハスミンを思い出した。
「レン、マスクつけると……ぁ」
レンは女の子になりたいと願っていたのだから、自分によく似た女の子の話なんて嫌だろうから、ハスミンに似ているとは言わないと決めたばかりなのに。
「俺、マスクつけると何?」
「……マスクつけると、鼻と口が見えないな」
「はぁ……? 当たり前だろ。どいてくれ、部屋入る」
「鍵かかってるぞ」
俺の脇腹の横のドアノブをひねったレンは苛立ち紛れに戸を叩く。
「ミチか? 俺だよ、レン、その部屋の主、開けろ」
「ま、待って……つ、つつ、月乃宮君離れさせて!」
「だってよ」
温厚なタレ目に見つめられ、俺は仕方なく扉から離れる。
「はいはい、分かった……待てっ、レン、服……この血、どうしたんだ?」
レンが着ている白いパーカーの袖口と腹の辺りに赤黒いシミがある。
「血じゃねぇよ、さっき食べたパイのラズベリージャム。ほら、早くどっか行けよ、部屋入れねぇだろ」
俺の背を押して俺をどかしたレンは素早く部屋に入った。すぐに鍵がかけられ、俺は深いため息をつく。
「なんだよ、女子かよ……」
仲間外れにされている気分だ。それも恋している親友と彼氏が二人きり、とても不愉快だ。扉に耳を当ててやろう。
「……痛くないか?」
「だ、だっ、大丈夫……すごく気持ちいい。き、如月君、上手いよね。てて、手先が器用なんだね……」
エロい。いや、興奮している場合じゃない、浮気現場に突入しなければ。俺はすぐに十円玉を使って部屋の鍵を開けた。
「ほら、二つ結び。可愛くなったな、ミチ」
「えへへっ、きき、如月君の技術のおかげだよぉ……つ、月乃宮君どんな感想くれるかなぁ」
ミチは鏡台の前に座っており、レンはその背後に立っている。ミチの髪が綺麗に整えられピッグテールにされていることと、レンがブラシを持っていることから推測するに、レンがミチの髪をセットしてやっていただけで浮気なんてしていない。
「早速見せに……わ、つ、つつつ、つつ、つ、月乃宮君っ!?」
立ち上がったミチは俺を見つけて驚き、硬直してしまう。その間にミチの姿をじっくり観察しよう。
ふんわりとした白いブラウスに、三段フリルの黒いスカート。その下にはガーターベルトらしき物に吊られた黒い膝上靴下。
「ガーターベルト、だと……!?」
「あ、あの……月乃宮君、そのっ、やや、やっぱり変だよねっ! 僕男の子なのにこんなっ、スカートなんて……!」
「太腿で顔を挟んでくれ」
「う、うんっ、やっぱり着替え……えっ? ふ、太腿で、顔を……?」
「そういうのは部屋の外でやってくれ。俺も着替えるから」
レンがミチの肩を軽く押すとミチはふらふらと扉に向かう。俺は逆にレンの方へと向かい、肩を掴んだ。
「……レンもガーターベルトつけるのか?」
「俺が女物なんか身につけるわけないだろ変態っ!」
罵られた直後、ミチに襟首を掴まれる。
「な、なな、な、何してるのっ……!? 僕ここに居るのに浮気!?」
「ち、違う! ガーターベルトに正気を失ってしまって」
「あぁもう早く出てけよっ!」
とうとう怒ったレンに部屋を追い出されてしまった。改めて前髪をピンで止められて露出した瞳を見つめる。ミチは真っ赤になって目を逸らし、スカートの裾をぎゅっと握った。
「ぼ、ぼぼ、僕は君が言うなら何でもするよっ? 太腿で、どこでだって挟む。変なコスチュームも、女装も、たまにはいいから、だから……」
「……ごめんな。本当に……浮気しようとかは考えてないから。ごめんな、本当にガーターベルトで正気を失ってただけなんだ」
レンに女装を迫るようなこと絶対したくなかったのに、ミチをもう傷付けたくないと思っているのに、俺は本当に馬鹿な変態だ。
しかし、コスプレ可の言葉を引き出せたことだけは評価しようか。
「つ、つつ、月乃宮君……? や、やだよぉ、そのおふざけっ……いじわるぅ……!」
来客はミチだった。ミチは身長の低さをイジられたと勘違いして泣きそうな声を出す。慌てて慰め、そんなつもりはなかったのだと弁解し、どうしてここにやってきたのか聞いた。
「え……? き、きき、聞いてないの? 僕、如月君に呼ばれたんだよ。七夕パーティやるから来ないかって……えへへ、月乃宮君が来るって聞いたから慌てて来ちゃったよ」
いつもミチの髪はボサボサだが、今日はいつも以上に寝癖が多い。
「か、かか、形州も居るんだよね……? 僕、頑張るよ。君を渡さない!」
「い、いやいやいや……ダメだって、危ないって! ミチ、俺にも力で勝てないだろ? 俺達が付き合ってることは内緒にしとこ、な?」
ミチは不満そうに頬を膨らませる。
「たた、確かに形州は怖いしっ、僕は勝てなさそうだけど……でもっ、月乃宮君を渡したくない! こ、ここ、ここで無理しなかったら、君はいつ形州と縁切ってくれるのぉっ……!」
以前まではセンパイが大学に行けば関係は自然消滅するのだと思っていた。けれど、センパイの愛情は重く深く苦しく──大学入学という転機に頼るのは危ない気がしていた。
「そ、卒業……とか。ほら、センパイ……県外の大学行くみたいだし、多分それで縁切れるよ」
切れないだろうけど、今はこの言い訳で──あぁ、またか。俺はいつも適当な嘘や言い訳で場を乗り切ろうとして、困難を後回しにして逃げてばかりいる。いつか酷い目に遭うのだろうか。
「ほ、本当……? なな、なら待とうかな、君を生贄にしとくのは嫌だけど形州怖いし……あぅぅ、とりあえず着替えてから考えるよ。じゃあね……」
ミチは迷うことなくレンの部屋に入っていった。俺も扉を開けようとしたが、鍵をかけられた。十円玉で開くタイプの簡単な鍵だ。
「つ、つ、月乃宮君っ? ダ、ダメだよっ、着替え中なんだから! えっち!」
ガチャガチャとドアノブを少し揺らしただけなのに怒られてしまった。
「なんだよ……ケチ。じゃ、俺先行ってるからな、ウッドデッキの場所分かるだろ?」
「だ、大丈夫だから早く行って!」
着替えるのがそんなに恥ずかしいのか? 俺は不満を覚えつつもウッドデッキに戻った、しかしレンの姿はない。
「レン? レンー?」
家の中に戻って歩き回るとトイレに人が入っているのに気付いた。咳き込む声が聞こえてくる。
「レン? レン、大丈夫かー?」
嗚咽の声が聞こえて数秒すると明るい声が返ってきた。
「も、ちっ……? げほっ……ごめ、ちょっと風邪、で……」
「大丈夫なのか?」
「ん……マスク、しとくわ。マジでごめん」
「……うん」
トイレの前に居ても仕方がないので再びレンの部屋へ行き、扉を叩く。
「ミーチー、まだー?」
「つ、つつ、月乃宮くんっ? ま、まま、待ってよぉっ……か、かか、髪がダメ……き、きき如月くんはっ?」
「ミチならトイレで吐いてるぞ」
「えっ!? だ、だだっ、だだ大丈夫!?」
扉のすぐ傍に寄ってきたのだろう、焦る声が間近で聞こえる。愛らしい反応に笑みを零したその時、背後から肩を叩かれた。
「……吐いてねぇよ」
振り返ると茶色い瞳に睨まれた。レンはマスクをしており、その口元を隠した姿に俺はハスミンを思い出した。
「レン、マスクつけると……ぁ」
レンは女の子になりたいと願っていたのだから、自分によく似た女の子の話なんて嫌だろうから、ハスミンに似ているとは言わないと決めたばかりなのに。
「俺、マスクつけると何?」
「……マスクつけると、鼻と口が見えないな」
「はぁ……? 当たり前だろ。どいてくれ、部屋入る」
「鍵かかってるぞ」
俺の脇腹の横のドアノブをひねったレンは苛立ち紛れに戸を叩く。
「ミチか? 俺だよ、レン、その部屋の主、開けろ」
「ま、待って……つ、つつ、月乃宮君離れさせて!」
「だってよ」
温厚なタレ目に見つめられ、俺は仕方なく扉から離れる。
「はいはい、分かった……待てっ、レン、服……この血、どうしたんだ?」
レンが着ている白いパーカーの袖口と腹の辺りに赤黒いシミがある。
「血じゃねぇよ、さっき食べたパイのラズベリージャム。ほら、早くどっか行けよ、部屋入れねぇだろ」
俺の背を押して俺をどかしたレンは素早く部屋に入った。すぐに鍵がかけられ、俺は深いため息をつく。
「なんだよ、女子かよ……」
仲間外れにされている気分だ。それも恋している親友と彼氏が二人きり、とても不愉快だ。扉に耳を当ててやろう。
「……痛くないか?」
「だ、だっ、大丈夫……すごく気持ちいい。き、如月君、上手いよね。てて、手先が器用なんだね……」
エロい。いや、興奮している場合じゃない、浮気現場に突入しなければ。俺はすぐに十円玉を使って部屋の鍵を開けた。
「ほら、二つ結び。可愛くなったな、ミチ」
「えへへっ、きき、如月君の技術のおかげだよぉ……つ、月乃宮君どんな感想くれるかなぁ」
ミチは鏡台の前に座っており、レンはその背後に立っている。ミチの髪が綺麗に整えられピッグテールにされていることと、レンがブラシを持っていることから推測するに、レンがミチの髪をセットしてやっていただけで浮気なんてしていない。
「早速見せに……わ、つ、つつつ、つつ、つ、月乃宮君っ!?」
立ち上がったミチは俺を見つけて驚き、硬直してしまう。その間にミチの姿をじっくり観察しよう。
ふんわりとした白いブラウスに、三段フリルの黒いスカート。その下にはガーターベルトらしき物に吊られた黒い膝上靴下。
「ガーターベルト、だと……!?」
「あ、あの……月乃宮君、そのっ、やや、やっぱり変だよねっ! 僕男の子なのにこんなっ、スカートなんて……!」
「太腿で顔を挟んでくれ」
「う、うんっ、やっぱり着替え……えっ? ふ、太腿で、顔を……?」
「そういうのは部屋の外でやってくれ。俺も着替えるから」
レンがミチの肩を軽く押すとミチはふらふらと扉に向かう。俺は逆にレンの方へと向かい、肩を掴んだ。
「……レンもガーターベルトつけるのか?」
「俺が女物なんか身につけるわけないだろ変態っ!」
罵られた直後、ミチに襟首を掴まれる。
「な、なな、な、何してるのっ……!? 僕ここに居るのに浮気!?」
「ち、違う! ガーターベルトに正気を失ってしまって」
「あぁもう早く出てけよっ!」
とうとう怒ったレンに部屋を追い出されてしまった。改めて前髪をピンで止められて露出した瞳を見つめる。ミチは真っ赤になって目を逸らし、スカートの裾をぎゅっと握った。
「ぼ、ぼぼ、僕は君が言うなら何でもするよっ? 太腿で、どこでだって挟む。変なコスチュームも、女装も、たまにはいいから、だから……」
「……ごめんな。本当に……浮気しようとかは考えてないから。ごめんな、本当にガーターベルトで正気を失ってただけなんだ」
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