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後輩の無事を確認してみた

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正確な霊視が可能になる血清の副作用とやらだろう、従兄は目から血を流している。今はガーゼハンカチを目元に押し当てているから様子は分からないが、ハンカチを押さえる手の力の入りようから察するにかなり痛そうだ。

「あの……目、平気ですか?」

「問題ありません。しばらく待てばいいだけですから」

それより──とガーゼハンカチを押し当てたままの顔を俺に向ける。

「痕跡に……鬼の気配があったんですよね。月乃宮様、知り合いに鬼居ません?」

「い、居るわけないでしょ……え? 鬼って実在するんですか?」

「角が生えてるとか、人肉食べてるだとか、そういうのじゃありませんよ? 霊能力って遺伝するタイプのものもあるんです。他の人にはない強い力を持っているから鬼と呼ばれてきただけの人間ですよ」
 
角生えてないのか……なんか残念。

「鬼瓦とか……鬼沢とか……苗字に鬼がつく人はそういう血筋の可能性があるんですけど、知り合いに居ません?」

「居ませんよ。同じクラス……って言うか、学年にも鬼がつく人は居ません。苗字に鬼が入るって、そんな分かりやすいものなんですか?」

「分かりやすいものって言うか、名前に鬼が入ってないと血筋でもそれっぽいことは出来ません。言霊ってやつですね」

名は体を表す、ということか。

「鬼っぽいってどんな感じなんですか? センパイとかオーガって感じしますけどね、はは……」

「昨今は霊能力者も減ってきてますし、全体的に弱ってるんですよね。だから……身体能力、知能、霊能力が平均を少し上回る程度ですかね」

ガーゼハンカチが赤く染まってきた、本当に大丈夫なのかな。

「そういう人に心当たりはないですけど……その鬼の人が俺に取り憑いてた怪異を捕まえてくれたんですね?」

「そうだと思うんですけど、動機が分からないんですよねー……多分月乃宮様の知り合いだと思うので、鬼が名前に入ってる人見つけたら連絡ください」

「うーん……居ないと思うんですけど」

「字は変わってても効力あるんですよ。オニって読むとか……あと、隠って字も可能性は低いですが鬼の血筋です。そういう変則的なのも心当たりないですか?」

やはり心当たりはない。首を横に振る。

「無意識って可能性もあるんですよね。たとえば、電車とかで月乃宮様に一目惚れして、守ってあげたいなーとか思って生霊飛ばしちゃって、本人も知らないうちに怪異を捕まえたとか」

「だとしたら俺には分かりませんよ」

「ですよねー……社長に霊視頼んでおきます。怪異が消滅してればそれでいいんですけど、捕まえただけで消えてないなら俺が消さなきゃならないんで……っていうかいくら鬼の血筋だろうがあの怪異は強すぎるので、逆に殺されてる可能性も高いんですよね。そうなったら俺の責任…………はぁっ、なんでこう事態がどんどん面倒な方に行くんですかね」

従兄は不機嫌そうに呟いてガーゼハンカチを折りたたみ、顔を拭ってため息をつく。血は止まったようだ。

「顔洗いたい……水道通ってませんよね」

「屋敷の裏に小川ありますよ」

「小川……まぁいいか。ありがとうございます、行ってきますんで二人は國行達見ててください」

先輩が示した情報に従い、従兄はふらふらと階段の方へ向かう──

「センパイ、いつ起きると思います?」

「さぁー……ちょっと強引に起こした方がいいかも」

──バギッ! と木が割れた音が聞こえた。センパイが階段を踏み壊した時と同じ音だ。俺は先輩と顔を見合わせ、階段へ走った。

「お兄さん! お兄さん、大丈夫ですか?」

やはり、従兄が腐った木を踏み抜いて階段に足がハマっていた。

「ぁー……なんて言うか、デブって言われてる気がしてムカつきますね、これ」

「お兄さんは引き締まってますよ……筋肉は重いですから、デブじゃないです」

「お気遣いどーも。下駄で来るべきじゃなかったんでしょうね」

従兄はハマっていた足を動かすことで階段の一部を破壊して脱出し、一階に飛び降りるとそのまま屋敷から出ていった。

「階段半分くらい壊れちまったな……」

「これからは二階は使用禁止ですね」

「これからってお前なぁ、まだ使う気かよ」

「え? 先輩達の秘密基地なんでしょ?」

秘密基地なんてガキっぽい言い方をしたからだろうか、先輩は眉をひそめている。

「人形が動いたり、髪の毛が動いたり、もうこんな屋敷使わねぇよ」

「お兄さんが除霊したからもう動きませんよ」

「そういう問題じゃねぇだろ?」

「え……? そういう問題だと思いますけど」

彼とは話が合わないな。
俺はセンパイの隣に屈み、閉じられたままの瞼に触れた。瞼がピクピクと動くのが指の腹に伝わってくる。

「センパイ……俺が首切られた時、すごい顔してましたね。大した怪我じゃないんだからあんな顔しなくたってよかったんですよ? 本当に俺のこと好きなんですね……えへへっ」

センパイには聞こえていないのに恥ずかしさを笑って誤魔化す。熱くなった頬に手を当てて冷ましていると、センパイを眺めている俺の視線は自然と胸元に向かう。

「センパイ……ちょ、ちょっとくらいいいですよね?」

熱い顔からセンパイのシャツに手を移す。元々ボタンを留めていないシャツを更に脱がし、黒いタンクトップの腕を通す穴から覗く胸筋の端を見つめた。

「ふぉぉ……! 横乳……!」

「クニちゃん爆乳だよなー」

いつの間にか俺の背後に膝立ちになっていた先輩に話しかけられ、身体が跳ねる。

「そんな驚くなよ」

「す、すいません……」

「俺のことは気にせず寝込み襲っちゃえよ、俺見てるのも好きだから」

軽く背を押され、バランスを崩した俺はセンパイの胸に手をつく。鍛え上げられた胸筋も力が入っていない間は柔らかく、俺の手にむにっと幸せな感触を寄越した。

「あ、あの……先輩って、センパイと、その……肉体関係、あるんですか?」

先輩三人組はセンパイが捕まえたオナホをお下がりとして使っていたらしいし、俺とセンパイのセックスを平気で眺めていたし、少なくとも男とヤるタイプなのは間違いない。

「あぁ、一回迫ったことあるんだけどさー……フラれちゃった。髪染めてピアス空けてきたら抱いてやってもいいとは言われたんだけどねー」

「センパイのこと……好きなんですか?」

「いや? 好きだったら言われた通りにするっしょ、お嬢みたいに。イイ身体してるからヤってみたかっただけ」

確かにイイ身体だ。揉みごたえがある。両手が幸せだ。

「心配しなくても狙ってねーよ」

「ぁ、いや、別に……心配してるとかじゃ……」

「だよな、お嬢ビッチなんだもんな。正直なとこさ、クニちゃんウザくない? もっと軽ーく付き合いたいとか思ってんでしょ」

「そっ、そんなことないです! センパイが愛してくれてるの、本当に嬉しいです……怖いことも困ることも多いけど、ウザいなんて思ったことありません」

思わず手に力が入り、センパイの分厚い胸筋をぎゅうっと掴んでしまう。

「ふーん……恋愛ってもっと楽しいもんだと思うんだよな、俺は」

「俺は……苦しくて、辛いものだと思います。それでも耐えて、自分の身を削ってでもその人を幸せにしたくなるのが、恋愛です……俺にとっては」

「重いねぇ、お似合いだ」

先輩が立ち上がり、俺から離れていく。少し気分は落ち込んだが、せっかくのチャンスは逃したくない。センパイの胸をもっと堪能しなければ。

「……ん」

顔を押し付けて揉んでいたらセンパイが声を漏らした。驚いて頭を上げたが、センパイの目は閉じたままだ。寝言かと安心して頭を下ろそうとした俺は先輩が取り憑かれていた先輩と濃厚なキスを交わしているのを見てしまった。

「ぁっ……」

取り憑かれていた先輩にもまだ意識はない。先輩は口を離し、にぃと笑って俺に手を振った。

「キスで目覚めんのはさ、やっぱお姫様だけだね。野郎はダメだわ」

「恋人……なんですか?」

従兄が来る前、取り憑かれた先輩を置いて帰ろうとする彼を責めてしまった。苦渋の決断だと分かっていたのに。

「いや……セフレかな。いっつも3Pしてんの俺ら。二年連中はクニちゃんがオナホ回さなくなってイラついてるけど、俺らは割といらねぇんだよなー。あれば嬉しいけどさ」

「はぁ……そう、ですか……」

何度も身体を重ねていたら好きになってしまいそうなものだが、それは俺が惚れっぽいだけなのだろうか。

「…………ん。つき、の……みや?」

ボーッと考えながらもずっと手を動かしていたらセンパイが目を覚ました。

「センパイ……! 起きたんですね、センパイ。おはようございます、ノゾムって呼んでくれるんじゃないんですか?」

「………………のぞむ」

まだ寝ぼけ眼だ。もう少し揉んでいてもいいかもしれない。

「…………のぞむ……ノゾムっ!? ノゾム、傷は! 首……!」

目が完全に覚めたのか、飛び起きたセンパイは俺の肩を掴んだ。じっと俺の首を見つめている、人形にナイフで切られた場所だ。

「……手当、されてる? 大丈夫なのか? これは夢じゃないんだよな、ノゾム……ノゾムは、生きてる……よな?」

「そんなに深く切られてないですよ、皮何枚かです。センパイの手の方が重症ですよ……」

「……俺の手なんてどうでもいい、ノゾム……お前が生きていてよかった。ごめんな、守ってやれなくて……痛かっただろ」

守ってもらえたらキュンとするのだろう。けれど俺の代わりにセンパイが怪我をしたら、俺はその怪我以上に胸が痛くなる。

「センパイに殴られた時よりはマシですよ」

「……………………すまない」

「あっ、ご、ごめんなさい! 冗談のつもりだったんです、落ち込んで欲しくなくて……殴られた時の痛みなんて覚えてませんよ、気にしないでください」

「…………ノゾム、お前は、本当にっ……!」

太い腕にぎゅうっと抱き締められて胸が温かくなる。

「センパイ……あの、キスしたい、です……」

先輩達の様子を見て羨ましくなってしまった。恥じらいながら小声でねだるとセンパイは驚いた顔をして俺の肩を掴んだ。

「だ、だめ……ですか?」

「……ダメな訳ないだろう。嬉しいんだ、お前を守れずに気絶してしまった情けない男に、まだ……お前は」

ガーゼと医療用テープで応急処置を施された右手が指を一切曲げずに俺の顎を持ち上げる。

「は……ふっ、ん、んん……」

少し口を開けてセンパイの唇を重なる。センパイは唇だけで俺の唇にはむはむと噛みつき、焦れた俺が舌を突き出すとその舌をぢゅうっと吸った。

「んんっ……!? ん、ぅっ……ふぅっ、んぅうっ……」

力強く舌を吸われて舌の付け根が僅かに痛む。舌を動かせず、仕方なく唇でセンパイの唇を愛撫する。

「は、ぅっ……ん、ふぅっ……はむ、んん……」

吸われた先で愛撫される俺の舌はもはや性器だ、センパイの舌で裏を撫でられれば身体が自然と跳ねて、表をつつかれれば腰が揺れる。

「……ふぅっ…………ノゾム、お前は本当に可愛いな」

「ひぇん、ぱ……?」

口腔の愛撫を十分足らず、たったそれだけでとろんと蕩けてしまった俺をセンパイは愛おしそうに見つめながら押し倒した。
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