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幼馴染と二人きりの時間を楽しんでみた
俺の負担が明らかに軽かったものの、初めてレンと一緒に作った親子丼を頬張る。材料も作り方も特別なものではないのに、店のものよりも美味しく感じた。人間の舌なんて所詮その程度のものだ、本当の味よりも過程と状況なのだ。
「んー……! 美味しい! 美味しいよレン。鶏肉ぷりゅぷりゅしてる」
「そーかい、いつもと一緒だけどな。ま、最近親子丼作ってねぇけどさ」
口いっぱいに頬張る下品な俺と違い、レンの一口は小さい。見た目には合っているが、レンの男らしい性格から考えると豪快に食べそうな気もする。俺の前だからお淑やかにしているのかななんて勝手に考えて勝手にときめいてみたり。
「一緒に作ったからかな、なんか気分がよくて……味もよくなってる!」
「思い込みかよ」
「多分。でも、その思い込みが大事なんだよ」
「かもな」
短い返事がまた夫婦らしくて愛おしい。ニヨニヨと笑っている俺を見てかレンはくすっと失笑し、ほのかに頬を赤らめた。
親子丼を食べ終え、二人で一緒に皿を洗う。と言ってもスポンジも水道も一人分しかないので、俺は泡まみれになった皿をレンから受け取り、泡を水で洗い流す役だ。
「もち、裏っ側に泡残ってんぜ」
「あっ……」
簡単な役目のはずだったのに、俺はまた小さな失敗を犯した。皿洗いを終えてレンの部屋に戻った後もその失敗を引きずる女々しい俺の手を、レンがぎゅっと握る。
「冷えちまったな」
「うん……レン、毎日これやってんだよな、冬場も」
「あぁ」
「すごいなぁ……よくこんな綺麗な手でいられるよ」
レンの手をそっと持ち上げてまじまじと観察する。ミチの居候が始まってから手が荒れていったように感じるが、それでも男子高校生としては綺麗な方だろう。
「あんま見るなよ、最近ちょっと調子悪いんだ」
「綺麗だぞ?」
白くすべすべとした肌に唇を触れさせる。レンはまた頬を紅潮させて目を逸らした。
「もち……明日は水族館なんだよな」
「う、うん……」
「そっ、か…………今日はもう無理はさせらんねぇな、久々にゲームでもしようぜ」
「レン……! うん!」
本当に久しぶりにレンとゲームをした。高校に入るまではほぼ毎日こうして過ごしていた、昔に戻ったようで楽しくて、楽しくて、このまま全てが終わってしまえばいいとすら思えた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、夕飯を作る時間になった。
「さて、そろそろ晩飯の準備しねぇとな。もちが作ってくれるんだっけ?」
「あ、うん。何食べたい?」
「鶏肉余ってるから鶏肉使ってくれ」
「昼も使ったのにまだあるのか」
「安売りしてたからって親父がバカみてぇに買ってきたんだよ。あ、親父は今日会社に泊まるから飯いらねぇってさ」
相変わらず泊まりの多い人だ、亡くなった奥さんを引きずっているから新しい恋人とかではなく、本当に仕事が忙しいんだろう──もしもレンが事故だとかで急死してしまったらどうしよう?
「あとキャベツもそろそろ傷んできたし、これも使って欲しいな。他はまぁ別に……もち? どうした?」
「へっ……? あ、いや、何でもない」
「買い物行くか? あるもんで出来そうか?」
「分量とかは分かんないよ、レンが見て」
「何作るんだ?」
「んー……キャベツは千切りにして、鶏はフライとか」
バクバクと心臓が激しく脈打つ。もしもの最悪の未来を想像しただけなのに、レンが今隣に居るのが奇跡に思えた。
「いいな、美味そう。二人分には足りると思うけど、ミチが帰ってくるかどうか分からんから……わっ!? も、もち? どうしたんだよ、急に」
勝手に心細くなった俺はレンを抱き締め、彼の生存と実在を確かめた。
「レン……大好き」
「あ、ありがと……俺も、好きだぞ」
「うん……ミチに連絡してみる」
照れ隠しなのかレンはさっさとリビングのソファへ向かった。俺はミチに電話をかけながらレンの茶色く丸っこい後ろ頭を眺め、気持ちを落ち着かせた。
「ん……? おい、もち」
「何?」
呼ばれて向かってみるとレンは着信音を鳴らすミチのスマホを持っていた。
「ソファの隙間に挟まってた」
「あー……よくやるヤツだ。じゃあセンパイにかけてみるね」
「おう、俺の隣でかけろよ」
些細な嫉妬が可愛くて自然と顔がほころぶ。レンの隣に腰を下ろし、センパイに電話をかける。
「あ、もしもしセンパイ? どこに居るんですか? ミチとまだ一緒ですか?」
『……ゲーセン。一緒だ』
「へー、センパイってゲーセンとか行くんですね」
ゲーセンの騒音が全く聞こえない、ノイズキャンセリング機能は素晴らしいな。
『…………ビデオ通話にする』
「え? 別に疑ってないですけど」
「いいじゃん、やってもらえよ」
「うん……」
特に断る理由もないのでビデオ通話に移行、センパイの顔がドアップで映る。改めて見るとものすごい悪人面だ。
『…………外カメラに出来ないのかこれ』
ぶつぶつ何か呟いているが、マイクが遠くなったせいか聞き取れない。
『……ミチの方に向ける』
口元にスマホを近付けてそう呟くと、センパイはスマホを引っくり返した。そこにはセンパイの友人三人に囲まれて震えながらも射撃ゲームをしているミチが居た。
『そうそう上手いじゃんみっちゃ~ん』
『ぷるぷるしちゃってかーわぃ、チワワみてぇ』
『よっしゃ次最終ステージだぜみっちゃん』
『タスケテ……』
不良共の悪ノリに付き合わされているイジメられっ子、肉食獣に周りをぐるぐる回られている小鹿、と言った感じだ。
『……朝食に寄ったファミレスでオールしていたらしいアイツらに会ってな、そこからずっとミチと遊んでもらっている。俺はあまり一緒に居て楽しい人間じゃないからな……アイツらは俺と違って色んな遊びを知ってる、ミチも楽しんでいるだろう』
『オウチ、カエリタイ……』
とても楽しんでいるようには見えないが、ミチはもっと社交的になった方がいいし、色んな遊びを知った方がいい。
「そうですか、よかった……あ、俺はセンパイと一緒に居ると楽しいですよ。ミチに色々教えてあげてくださいね、悪い遊び以外」
『…………あぁ、もちろん』
「媚びを忘れない姿勢、天然のタラシだなぁ? おーこわ」
「こ、媚びてないよ……」
『最終ステージクリアー! すげぇじゃんみっちゃん!』
『やっば~。胴上げしようぜ胴上げ』
『俺のチューハイあげちゃうー!』
「センパイ先輩達止めてください! ミチに酒飲ませないで!」
「……あぁ、分かってる。じゃあな、ノゾム……ミチはちゃんと無事に帰す」
泣き叫びながら宙に投げられているミチを最後に通話が切られた。最後、スクショしておけばよかったな。
「チューハイたぁ形州のツレも悪いねぇ」
「ホントにね……センパイはサワーしか飲めなくて可愛いけど、あの人達はビールとか普通に飲んでたしなぁ」
「サワーも可愛くねぇのよもっちー、歳考えな。お前は飲んでないよな?」
「勧められたけど断ったよ」
「そうかそうか、偉いぞもっちぃ~」
当然の行動を素直に話しただけなのに、レンにわしゃわしゃと顔や頭を撫で回された。
「ふふふ、もち、俺達の飲酒解禁日はお前の誕生日にしようぜ。ワインでも買ってオシャレに決めよう人生初飲酒!」
「それいいなぁ、うん、そうしよ。約束」
「指切りしようぜ」
「うん!」
レンと小指を絡め合い、指切りの歌を歌う。ゲームを楽しんで童心に返っていたから出来た幼い行動だ。
「ゆーびきった!」
「よーし、じゃあもちが約束破った時用に針集めとくか」
「破らないよ!」
「そこは針千本マジで飲ます気かよとか言えよ!」
二人だけで笑い合う尊く無駄な時間を過ごし、夕飯の時間をいつもより遅らせた。
「んー……! 美味しい! 美味しいよレン。鶏肉ぷりゅぷりゅしてる」
「そーかい、いつもと一緒だけどな。ま、最近親子丼作ってねぇけどさ」
口いっぱいに頬張る下品な俺と違い、レンの一口は小さい。見た目には合っているが、レンの男らしい性格から考えると豪快に食べそうな気もする。俺の前だからお淑やかにしているのかななんて勝手に考えて勝手にときめいてみたり。
「一緒に作ったからかな、なんか気分がよくて……味もよくなってる!」
「思い込みかよ」
「多分。でも、その思い込みが大事なんだよ」
「かもな」
短い返事がまた夫婦らしくて愛おしい。ニヨニヨと笑っている俺を見てかレンはくすっと失笑し、ほのかに頬を赤らめた。
親子丼を食べ終え、二人で一緒に皿を洗う。と言ってもスポンジも水道も一人分しかないので、俺は泡まみれになった皿をレンから受け取り、泡を水で洗い流す役だ。
「もち、裏っ側に泡残ってんぜ」
「あっ……」
簡単な役目のはずだったのに、俺はまた小さな失敗を犯した。皿洗いを終えてレンの部屋に戻った後もその失敗を引きずる女々しい俺の手を、レンがぎゅっと握る。
「冷えちまったな」
「うん……レン、毎日これやってんだよな、冬場も」
「あぁ」
「すごいなぁ……よくこんな綺麗な手でいられるよ」
レンの手をそっと持ち上げてまじまじと観察する。ミチの居候が始まってから手が荒れていったように感じるが、それでも男子高校生としては綺麗な方だろう。
「あんま見るなよ、最近ちょっと調子悪いんだ」
「綺麗だぞ?」
白くすべすべとした肌に唇を触れさせる。レンはまた頬を紅潮させて目を逸らした。
「もち……明日は水族館なんだよな」
「う、うん……」
「そっ、か…………今日はもう無理はさせらんねぇな、久々にゲームでもしようぜ」
「レン……! うん!」
本当に久しぶりにレンとゲームをした。高校に入るまではほぼ毎日こうして過ごしていた、昔に戻ったようで楽しくて、楽しくて、このまま全てが終わってしまえばいいとすら思えた。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、夕飯を作る時間になった。
「さて、そろそろ晩飯の準備しねぇとな。もちが作ってくれるんだっけ?」
「あ、うん。何食べたい?」
「鶏肉余ってるから鶏肉使ってくれ」
「昼も使ったのにまだあるのか」
「安売りしてたからって親父がバカみてぇに買ってきたんだよ。あ、親父は今日会社に泊まるから飯いらねぇってさ」
相変わらず泊まりの多い人だ、亡くなった奥さんを引きずっているから新しい恋人とかではなく、本当に仕事が忙しいんだろう──もしもレンが事故だとかで急死してしまったらどうしよう?
「あとキャベツもそろそろ傷んできたし、これも使って欲しいな。他はまぁ別に……もち? どうした?」
「へっ……? あ、いや、何でもない」
「買い物行くか? あるもんで出来そうか?」
「分量とかは分かんないよ、レンが見て」
「何作るんだ?」
「んー……キャベツは千切りにして、鶏はフライとか」
バクバクと心臓が激しく脈打つ。もしもの最悪の未来を想像しただけなのに、レンが今隣に居るのが奇跡に思えた。
「いいな、美味そう。二人分には足りると思うけど、ミチが帰ってくるかどうか分からんから……わっ!? も、もち? どうしたんだよ、急に」
勝手に心細くなった俺はレンを抱き締め、彼の生存と実在を確かめた。
「レン……大好き」
「あ、ありがと……俺も、好きだぞ」
「うん……ミチに連絡してみる」
照れ隠しなのかレンはさっさとリビングのソファへ向かった。俺はミチに電話をかけながらレンの茶色く丸っこい後ろ頭を眺め、気持ちを落ち着かせた。
「ん……? おい、もち」
「何?」
呼ばれて向かってみるとレンは着信音を鳴らすミチのスマホを持っていた。
「ソファの隙間に挟まってた」
「あー……よくやるヤツだ。じゃあセンパイにかけてみるね」
「おう、俺の隣でかけろよ」
些細な嫉妬が可愛くて自然と顔がほころぶ。レンの隣に腰を下ろし、センパイに電話をかける。
「あ、もしもしセンパイ? どこに居るんですか? ミチとまだ一緒ですか?」
『……ゲーセン。一緒だ』
「へー、センパイってゲーセンとか行くんですね」
ゲーセンの騒音が全く聞こえない、ノイズキャンセリング機能は素晴らしいな。
『…………ビデオ通話にする』
「え? 別に疑ってないですけど」
「いいじゃん、やってもらえよ」
「うん……」
特に断る理由もないのでビデオ通話に移行、センパイの顔がドアップで映る。改めて見るとものすごい悪人面だ。
『…………外カメラに出来ないのかこれ』
ぶつぶつ何か呟いているが、マイクが遠くなったせいか聞き取れない。
『……ミチの方に向ける』
口元にスマホを近付けてそう呟くと、センパイはスマホを引っくり返した。そこにはセンパイの友人三人に囲まれて震えながらも射撃ゲームをしているミチが居た。
『そうそう上手いじゃんみっちゃ~ん』
『ぷるぷるしちゃってかーわぃ、チワワみてぇ』
『よっしゃ次最終ステージだぜみっちゃん』
『タスケテ……』
不良共の悪ノリに付き合わされているイジメられっ子、肉食獣に周りをぐるぐる回られている小鹿、と言った感じだ。
『……朝食に寄ったファミレスでオールしていたらしいアイツらに会ってな、そこからずっとミチと遊んでもらっている。俺はあまり一緒に居て楽しい人間じゃないからな……アイツらは俺と違って色んな遊びを知ってる、ミチも楽しんでいるだろう』
『オウチ、カエリタイ……』
とても楽しんでいるようには見えないが、ミチはもっと社交的になった方がいいし、色んな遊びを知った方がいい。
「そうですか、よかった……あ、俺はセンパイと一緒に居ると楽しいですよ。ミチに色々教えてあげてくださいね、悪い遊び以外」
『…………あぁ、もちろん』
「媚びを忘れない姿勢、天然のタラシだなぁ? おーこわ」
「こ、媚びてないよ……」
『最終ステージクリアー! すげぇじゃんみっちゃん!』
『やっば~。胴上げしようぜ胴上げ』
『俺のチューハイあげちゃうー!』
「センパイ先輩達止めてください! ミチに酒飲ませないで!」
「……あぁ、分かってる。じゃあな、ノゾム……ミチはちゃんと無事に帰す」
泣き叫びながら宙に投げられているミチを最後に通話が切られた。最後、スクショしておけばよかったな。
「チューハイたぁ形州のツレも悪いねぇ」
「ホントにね……センパイはサワーしか飲めなくて可愛いけど、あの人達はビールとか普通に飲んでたしなぁ」
「サワーも可愛くねぇのよもっちー、歳考えな。お前は飲んでないよな?」
「勧められたけど断ったよ」
「そうかそうか、偉いぞもっちぃ~」
当然の行動を素直に話しただけなのに、レンにわしゃわしゃと顔や頭を撫で回された。
「ふふふ、もち、俺達の飲酒解禁日はお前の誕生日にしようぜ。ワインでも買ってオシャレに決めよう人生初飲酒!」
「それいいなぁ、うん、そうしよ。約束」
「指切りしようぜ」
「うん!」
レンと小指を絡め合い、指切りの歌を歌う。ゲームを楽しんで童心に返っていたから出来た幼い行動だ。
「ゆーびきった!」
「よーし、じゃあもちが約束破った時用に針集めとくか」
「破らないよ!」
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