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幼馴染がお土産寄越しやがった
レンが俺を追い出してミチを部屋に入れたのは女装するためだったのだ。髪やメイクなど、ミチも上手いとは言えないが俺よりは慣れているし知っているだろう。
「ご飯作ってくれたんですか? ありがとうございます」
「ぁ、あぁ、うん……」
メイクは口紅とアイラインだけだろうか? 無知な俺にはそれくらいしか分からない。肩につかない短いツインテール……ピッグテールとか呼ぶこともあるらしい髪型は少し不格好だ、普段と違い飛び出た毛が多いし左右で高さが微妙に違う、ミチの不器用さが現れている。
「気の利く男性って好きですよ」
「ありがとう……」
キャミソールに片足突っ込んだような黒いワンピースの丈は太腿を半分隠す程度だ。生地はとても薄っぺらく、動く度にヒラヒラと揺れて扇情的だ。
「なんで、その……ハスミンスタイルなわけ?」
元はレンが裏アカで使っていたハスミンというニックネームは、今や男を誘惑するのが好きな男の娘を演じる際のレンのもう一つの名前だ。
「……お嫌いですか?」
ただ女装するだけならちょっとしたオシャレとして認識出来るけれど、声と話し方を変えるなんて疲れる真似までするなら意味があるはずだ。そう考えて尋ねたけれど、教えてはくれないらしい。自分で考えろということか?
「好きだけど……」
「ですよね。ノゾムさん、今日私腕が動かせなくて……お世話してくださいね」
ワンピースの肩紐は細く、レンの胸から上はほとんど丸見えになっている。レンが脱力した腕を見せるために肩だけを動かすと鎖骨から肩への筋肉や骨の繋がりがよく分かった。かぶりつきたくなる色っぽさに目が奪われ、レンが見て欲しかったのだろう肘から下が力なく揺れる様は全く見なかった。
「本当に肘から下がピクリともしなくて……これじゃノゾムさんに何されても抵抗出来ません」
「そんなっ、何もしないよ」
「しないんですか? ふーん……しないんだ」
して欲しいのか!? と俺がモヤモヤするのが狙いなのだろう。面白がるような茶色い瞳を見れば分かる。
「……早く座れよ」
「椅子引いてくれませんか?」
「あっ、あぁそうか、ごめんごめん……」
「いえ、私がこんなふうになってしまったのが面倒の原因なんですから、ノゾムさんが謝る必要はありませんよ」
私の方こそごめんなさい、そう微笑んで椅子に腰掛ける。手を肘置きや机についたりせず椅子に座るのはそんなに簡単なことじゃないなんて気付けなかった、ワンピースの裾を綺麗に尻に敷くには手が必須だなんて分からなかった。
「お、ぉ、お化け退治ってそんなことになったりもするんだね。ここ、こ、怖いなぁ……そっ、そんなのやめちゃえばいいのに」
「ドジしなかったらこんなことにはなりませんよ。それにこれは絶対にやめたり出来ません、私の生業になるんです」
才能があるから、稼げるから、そんな理由だけで怪異に関わる仕事をすると決めた訳じゃない。俺が霊媒体質だから、俺を助ける力を付けるために腕を磨いているんだ。
「ノゾムさん、あーん」
一人で食事も出来なくなり、雛鳥のように大きく口を開けなければならなくなったのは、俺が根野とデートに出かけたことを気にして怪異退治に集中出来なかったからだと社長と従兄から聞いた。
「……美味しい?」
根野はたまに暴力的になるから生霊として傍で見守りたかったのだろう。俺が頼りないからそんなふうに思わせてしまって、怪我の原因になった。
「はい、とっても」
「よかった。今日はスクランブルエッグ作ろうとして作ったから、失敗とかじゃないからな」
「ふふふ……本当ですか? 怪しい」
「本当だよ、黄身と白身ちゃんと混ざってるだろ」
集中を欠いたら怪我をするような仕事をしているのも、集中を欠いたのも、俺が原因。俺が諸悪の根源。俺さえ居なければ、俺なんかに惚れなければ、レンは真っ当に幸せになれたのに。
「……ノ、ノ、ノノゾムくんっ! ぼ、僕も……その、ぁ、あーん……ししっ、して欲しい」
「お前は一人で食えるだろ?」
「いいじゃないですか、してあげてくださいよ」
「えぇ……? もー……しょーがないなぁ」
今更俺が消えたところでレンは悲しむだけだろう、別の男を見つけられるとは思えない。これは自惚れではないはずだ。そこまで分かっていながら他の男を捨てられない俺なんかをどうして好きになったんだろう、レンの人生最大にして唯一のミスだよな。
「ん、これでごちそうさまだな」
「……はい。ありがとうございました、美味しかったです」
「ぉ、お、美味しかったよ! さ、さ、ささ、流石に如月くんが作ったのの方が美味しいけど」
「一言余計なんだよミチは。じゃ、皿洗ってくるから」
三人分の皿をキッチンに運び、皿洗いを開始。レンに洗い方が雑だと怒られたのを思い出しながら丁寧に汚れを落としていく。
途中、ミチがレンに呼ばれて彼をリビングに連れていく様子が見えた。中性的な童顔の彼らが仲睦まじくしているのは素晴らしい光景だ、心が洗われると同時に嫉妬の嵐が吹き荒れて心がぐちゃぐちゃになっていく。
「…………よしっ」
おそらく完璧に皿洗いをこなし、ミチとレンの元へ。
「そ、そっ、それでねっ、この髪留めもくれたんだ。ノノ、ノゾムくんとお揃いなんだよ! きょ、今日はつけてくれてないみたいだけど」
「へぇ、よかったな」
「う、ぅ、うんっ、如月くんは水族館土産何もらったの?」
「俺はまだだな」
ボサボサの黒と茶色の後ろ頭に近付いていく途中、彼らの話を聞いてレンにお土産をまだ渡していないことを思い出す。暇がなかったなんて言い訳にならない、早く渡さないとレンが不機嫌になってしまう。
「そ、そ、そっか。昨日は早めに寝てたんだもんね。じゃ、じゃあノゾムくんお皿洗い終わったら持ってきてくれるかも!」
それを聞いて持ってきたと思われたくない、足音を立てずに取りに行こう。
「……お土産嬉しかったか?」
「そ、そそ、そりゃもちろんっ」
レンへのお土産はサメのスマホケースとストラップ、そして俺とお揃いのブレスレットだ。ミチがとても喜んでくれたようにレンも喜んでくれるだろう。
「へぇー……他の男とのデート中に買ったもんもらって嬉しいか。能天気なヤツだな、羨ましい」
こっそりと持ったお土産を思わず落としそうになった。まずい、喜んでもらうどころか不機嫌にさせるかもしれない。しかしミチに贈ったのにレンには贈らないなんて真似をしても不機嫌になるのは目に見えている。
「か、かか、考え方が暗いよ。他の男とデートしてたのに、のにだよ、のに! ぼ、ぼ、僕達のこと考えてくれたってことだよ、すごいことだよ……!」
いいぞミチ、レンの気を変えさせろ。俺はそれを待っていい感じのタイミングでお土産を渡す。
「そーかい。可愛いよなお前、マジで羨ましいぜ。お前みたいに顔も性格も可愛くなりたかったよ」
「か、かか、顔は如月くんのが可愛いじゃないかっ……」
「はぁ? 目ぇついてんのかお前」
「せ、せ、性格だって! ぼ、僕みたいに鬱陶しくないよっ、ぼぼ、僕と違って優しいし……ぼ、僕は僕より如月くんのが好きだよ」
「……俺は俺よりお前が好きだな」
そういう意味でないのは分かっているが、あんまり好き好き言い合わないで欲しい。嫉妬で身が焦げそうだ。
「皿洗い終わったぞ~……」
会話が落ち着いてしまった。レンの気はミチには変えられなかったようだが、仕方ない。もうお土産を渡そう。
「あの、レン、お土産なんだけど」
嫌味を言われるのだろうか、怒鳴られるのだろうか、泣かれるのが一番嫌だな……なんて考えている俺にレンは──
「わ……! 可愛い……! ありがとうございますノゾムさん、私とっても嬉しいです!」
──心底からにしか見えない満面の笑みを向けた。
「ご飯作ってくれたんですか? ありがとうございます」
「ぁ、あぁ、うん……」
メイクは口紅とアイラインだけだろうか? 無知な俺にはそれくらいしか分からない。肩につかない短いツインテール……ピッグテールとか呼ぶこともあるらしい髪型は少し不格好だ、普段と違い飛び出た毛が多いし左右で高さが微妙に違う、ミチの不器用さが現れている。
「気の利く男性って好きですよ」
「ありがとう……」
キャミソールに片足突っ込んだような黒いワンピースの丈は太腿を半分隠す程度だ。生地はとても薄っぺらく、動く度にヒラヒラと揺れて扇情的だ。
「なんで、その……ハスミンスタイルなわけ?」
元はレンが裏アカで使っていたハスミンというニックネームは、今や男を誘惑するのが好きな男の娘を演じる際のレンのもう一つの名前だ。
「……お嫌いですか?」
ただ女装するだけならちょっとしたオシャレとして認識出来るけれど、声と話し方を変えるなんて疲れる真似までするなら意味があるはずだ。そう考えて尋ねたけれど、教えてはくれないらしい。自分で考えろということか?
「好きだけど……」
「ですよね。ノゾムさん、今日私腕が動かせなくて……お世話してくださいね」
ワンピースの肩紐は細く、レンの胸から上はほとんど丸見えになっている。レンが脱力した腕を見せるために肩だけを動かすと鎖骨から肩への筋肉や骨の繋がりがよく分かった。かぶりつきたくなる色っぽさに目が奪われ、レンが見て欲しかったのだろう肘から下が力なく揺れる様は全く見なかった。
「本当に肘から下がピクリともしなくて……これじゃノゾムさんに何されても抵抗出来ません」
「そんなっ、何もしないよ」
「しないんですか? ふーん……しないんだ」
して欲しいのか!? と俺がモヤモヤするのが狙いなのだろう。面白がるような茶色い瞳を見れば分かる。
「……早く座れよ」
「椅子引いてくれませんか?」
「あっ、あぁそうか、ごめんごめん……」
「いえ、私がこんなふうになってしまったのが面倒の原因なんですから、ノゾムさんが謝る必要はありませんよ」
私の方こそごめんなさい、そう微笑んで椅子に腰掛ける。手を肘置きや机についたりせず椅子に座るのはそんなに簡単なことじゃないなんて気付けなかった、ワンピースの裾を綺麗に尻に敷くには手が必須だなんて分からなかった。
「お、ぉ、お化け退治ってそんなことになったりもするんだね。ここ、こ、怖いなぁ……そっ、そんなのやめちゃえばいいのに」
「ドジしなかったらこんなことにはなりませんよ。それにこれは絶対にやめたり出来ません、私の生業になるんです」
才能があるから、稼げるから、そんな理由だけで怪異に関わる仕事をすると決めた訳じゃない。俺が霊媒体質だから、俺を助ける力を付けるために腕を磨いているんだ。
「ノゾムさん、あーん」
一人で食事も出来なくなり、雛鳥のように大きく口を開けなければならなくなったのは、俺が根野とデートに出かけたことを気にして怪異退治に集中出来なかったからだと社長と従兄から聞いた。
「……美味しい?」
根野はたまに暴力的になるから生霊として傍で見守りたかったのだろう。俺が頼りないからそんなふうに思わせてしまって、怪我の原因になった。
「はい、とっても」
「よかった。今日はスクランブルエッグ作ろうとして作ったから、失敗とかじゃないからな」
「ふふふ……本当ですか? 怪しい」
「本当だよ、黄身と白身ちゃんと混ざってるだろ」
集中を欠いたら怪我をするような仕事をしているのも、集中を欠いたのも、俺が原因。俺が諸悪の根源。俺さえ居なければ、俺なんかに惚れなければ、レンは真っ当に幸せになれたのに。
「……ノ、ノ、ノノゾムくんっ! ぼ、僕も……その、ぁ、あーん……ししっ、して欲しい」
「お前は一人で食えるだろ?」
「いいじゃないですか、してあげてくださいよ」
「えぇ……? もー……しょーがないなぁ」
今更俺が消えたところでレンは悲しむだけだろう、別の男を見つけられるとは思えない。これは自惚れではないはずだ。そこまで分かっていながら他の男を捨てられない俺なんかをどうして好きになったんだろう、レンの人生最大にして唯一のミスだよな。
「ん、これでごちそうさまだな」
「……はい。ありがとうございました、美味しかったです」
「ぉ、お、美味しかったよ! さ、さ、ささ、流石に如月くんが作ったのの方が美味しいけど」
「一言余計なんだよミチは。じゃ、皿洗ってくるから」
三人分の皿をキッチンに運び、皿洗いを開始。レンに洗い方が雑だと怒られたのを思い出しながら丁寧に汚れを落としていく。
途中、ミチがレンに呼ばれて彼をリビングに連れていく様子が見えた。中性的な童顔の彼らが仲睦まじくしているのは素晴らしい光景だ、心が洗われると同時に嫉妬の嵐が吹き荒れて心がぐちゃぐちゃになっていく。
「…………よしっ」
おそらく完璧に皿洗いをこなし、ミチとレンの元へ。
「そ、そっ、それでねっ、この髪留めもくれたんだ。ノノ、ノゾムくんとお揃いなんだよ! きょ、今日はつけてくれてないみたいだけど」
「へぇ、よかったな」
「う、ぅ、うんっ、如月くんは水族館土産何もらったの?」
「俺はまだだな」
ボサボサの黒と茶色の後ろ頭に近付いていく途中、彼らの話を聞いてレンにお土産をまだ渡していないことを思い出す。暇がなかったなんて言い訳にならない、早く渡さないとレンが不機嫌になってしまう。
「そ、そ、そっか。昨日は早めに寝てたんだもんね。じゃ、じゃあノゾムくんお皿洗い終わったら持ってきてくれるかも!」
それを聞いて持ってきたと思われたくない、足音を立てずに取りに行こう。
「……お土産嬉しかったか?」
「そ、そそ、そりゃもちろんっ」
レンへのお土産はサメのスマホケースとストラップ、そして俺とお揃いのブレスレットだ。ミチがとても喜んでくれたようにレンも喜んでくれるだろう。
「へぇー……他の男とのデート中に買ったもんもらって嬉しいか。能天気なヤツだな、羨ましい」
こっそりと持ったお土産を思わず落としそうになった。まずい、喜んでもらうどころか不機嫌にさせるかもしれない。しかしミチに贈ったのにレンには贈らないなんて真似をしても不機嫌になるのは目に見えている。
「か、かか、考え方が暗いよ。他の男とデートしてたのに、のにだよ、のに! ぼ、ぼ、僕達のこと考えてくれたってことだよ、すごいことだよ……!」
いいぞミチ、レンの気を変えさせろ。俺はそれを待っていい感じのタイミングでお土産を渡す。
「そーかい。可愛いよなお前、マジで羨ましいぜ。お前みたいに顔も性格も可愛くなりたかったよ」
「か、かか、顔は如月くんのが可愛いじゃないかっ……」
「はぁ? 目ぇついてんのかお前」
「せ、せ、性格だって! ぼ、僕みたいに鬱陶しくないよっ、ぼぼ、僕と違って優しいし……ぼ、僕は僕より如月くんのが好きだよ」
「……俺は俺よりお前が好きだな」
そういう意味でないのは分かっているが、あんまり好き好き言い合わないで欲しい。嫉妬で身が焦げそうだ。
「皿洗い終わったぞ~……」
会話が落ち着いてしまった。レンの気はミチには変えられなかったようだが、仕方ない。もうお土産を渡そう。
「あの、レン、お土産なんだけど」
嫌味を言われるのだろうか、怒鳴られるのだろうか、泣かれるのが一番嫌だな……なんて考えている俺にレンは──
「わ……! 可愛い……! ありがとうございますノゾムさん、私とっても嬉しいです!」
──心底からにしか見えない満面の笑みを向けた。
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