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後輩にお土産を貰ってみた
履いたばかりの下着がもうぐちゃどろだ。レンが反則をしたせいだ、キス中に手だけ幽体離脱して喉の内側を撫でるなんて卑怯だ。
「もういいかな……」
心の中でぶつぶつとレンへの愚痴を繰り返し、洗い終えた下着を洗濯機に投げ込んだ俺は新しい下着を履いてソファに戻った。
「レン! レンのせいで替えのパンツが一枚減ったじゃん!」
「いいだろ、ここ洗濯機あるんだし」
旅行中は洗濯が出来ないと予想して着替えは日数分持ってきた。しかしこのホテルには洗濯機が各部屋にあり、使用は自由、着替えなんて二セットでよかったのだ。
「もぉ……」
「…………夕飯まで後二十分くらいだな」
絶頂の余韻に浸っていた時間もあるとはいえ、約十分も下着を洗っていたのかと落ち込みながらソファに座って一息つく。
「二十分かぁー……何する?」
「こういう時のためにボードゲームとかトランプとか持ってきてるんじゃん」
「ゲームねぇ、それでいいか」
「やっ、やや、や、やりたい!」
「……あぁ」
「取ってくるよ」
俺は鞄が放置されている寝室に向かった。鞄を漁る最中、俺はあることを思い出した。
「あっ……今でいいかなぁ」
俺は思い出した物とパーティゲームをいくつか持ってみんなの元へ戻った。
「ただいま! レン、ミチ、何個か持ってきたから選んでくれ。センパイ、今ちょっといいですか?」
「……あぁ、何だ?」
パーティゲームを全てレンに渡し、センパイをソファの後ろに引っ張る。背に隠していたイルカが描かれた袋をじゃ~んと取り出す。
「…………それは?」
「ちょっと前に水族館に行ったお土産です。色々タイミングが悪くてセンパイには渡せてなくて……海で渡せたらちょうどいいなって、持ってきてたんです。荷物増やしてすいません」
「……いや、いい。何をくれるんだ?」
他の男と──根野とのデートのついでに買った物が純粋に嬉しいなんてありえないだろうに、腹の底での妬みや苛立ちを態度には出さなかった。そんなセンパイが俺は好きだ、大好きだ。
「センパイ、絵描かれますよね」
「…………建物の絵なら、それなりに」
「スケッチブックです! ペンもいいかなって思ってたんですけど、絵描くなら鉛筆なんですよね? 濃さとかにもこだわりあるかもって思って、俺絵のことなんにも分かんないから紙だけにしました」
「……ありがとう。一応言っておくと、俺が目指しているのはデザイナーだから、どういうデザインか伝わる程度の絵が描ければいい。だから画家ほどのこだわりはない……まぁ、強いて言うなら2Bがいいかな」
「シャーペンしか売ってなかったんですけど」
「………………スケッチブックだけで正解だ」
シャーペンは鉛筆の進化形だと俺は考えているから、どうして絵に関してはシャーペンが鉛筆に劣るのか俺には理解出来ない。
「……随分と可愛いな」
スケッチブックの表紙にはイルカを始めとした水生生物が可愛らしく描かれている。どこか小学二年生の女児が持っている下敷きを彷彿とさせるキラキラ感はセンパイには似合わないかもしれない。
「使いにくいですか? すいません……」
「……問題ない。俺が可愛らしいものを持っていたとして……誰かがからかうところを想像出来るか?」
「センパイがふりっふりのドレス着てても誰も何も言わないと思います」
「…………その通りだ。俺はこの通りの見た目だからな」
センパイは軽く腕を広げる。二メートル越えの巨体が更に大きく見えて、自分よりも大きな存在に怯える生物としての本能が刺激された。
「でも恥ずかしくないですか? 直接何か言われなきゃいいってもんじゃないですよね」
「……陰口や噂は聞こえた時にそいつを殴ればいい。それだけだ」
強い人だ。心身共にこんなにも強く見える人が、実際は俺が居ないと生きていけない弱さを持っているだなんて、それを俺だけが知っているなんて、最高だな。
「…………お前はこういう可愛いものを俺が持っていたらどう思う?」
「え? ギャップ萌えします」
「……よく分からんが、いいと思ってくれるならいい。ありがとう、使わせてもらう」
「はい! あっ、待ってください。もう一つあるんです」
スケッチブックだけでは素っ気ないかともう一つ買っておいたそれは大きな袋の底まで落ちており、取り出すのにはガサガサとみっともなく袋を漁らなければならなかった。
「これです!」
「……紐?」
「ミサンガですよ、切れたら願いが叶うってヤツです。センパイあんまりアクセサリーとか好きじゃないですよね? シルバーアクセサリー絶対似合うのに勿体ない。でもミサンガなら重くないですし、お風呂入る時も着けてるのが普通だそうですからすぐに気にならなくなりますよ」
「…………ミサンガ」
耳慣れないのか、俺の言葉を繰り返すセンパイに子供に対して抱くような可愛らしさを感じた。
「巻いてあげますね。どっちの手にします?」
センパイは少し戸惑ったまま左手を差し出した。俺は太い手首に海らしい配色の糸を編んだミサンガを巻き、二度とほどけないように固く結んだ。
「出来ました!」
「…………海っぽいな」
ミサンガには貝殻やを模したチャームがぶら下がっており、ヒトデ型のビーズが編み込まれている。糸の色も相まって海らしさは抜群だ。
「ここにぴったりでしょ。センパイ色黒ですし、海の男感ありますよ」
「……黒いのは元々だがな。まぁ、嬉しい。ありがとう」
表情の乏しさと淡白な言葉からあまり喜んではいないと思ってしまうだろう? 素人め。俺には分かる、センパイは喜んでいる。俺にしか分からない程度に口元が緩んでいるし、手首を胸の前に上げてミサンガをじーっと見つめる仕草なんてお気に入りの物を見つけた子供のようで可愛らしい。
「喜んでもらえてよかったです。何かお願いごとしてくださいよ、ミサンガは切れた時に願いが叶うんです」
「………………ノゾムと生涯共に在れますように」
言い終えると目を閉じてミサンガにキスをする。そんなことされたら顔が燃え上がってしまいそうな程に照れてしまう。
「あ……そ、それ……は、そのっ、切れた時に叶うので、いいんですか? いつ切れるか……分かりませんけど」
「……あぁ、それは困るな。今すぐ切れて欲しくなる。だが、せっかくお前に貰った物だ。大切にしたい……悩ましいな」
「もっと軽いお願いにしときましょ、いつ叶ってもいいような……叶ったら嬉しいこと」
「…………いい店でノゾムと焼肉が食べたい。その後は朝までセックスしたい」
ミサンガが切れたら教えてもらって、焼肉を奢ってみせよう。お金を貯めておかないとな。
「そのくらいならきっと叶いますね!」
「……あぁ」
「留学しても、これを着けてたら俺のこと忘れませんよね……?」
「…………何もなくても忘れやしない」
「本当ですか? えへへ……待ってますからね」
ミサンガを着けた左手を握り、手の甲に頬を擦り寄せる。反対側の頬に右手のひらが触れて、勝手に口角が持ち上がる。近い未来に訪れる寂しさから目を逸らして微笑む俺を見て、センパイも表情を緩めた。
「もういいかな……」
心の中でぶつぶつとレンへの愚痴を繰り返し、洗い終えた下着を洗濯機に投げ込んだ俺は新しい下着を履いてソファに戻った。
「レン! レンのせいで替えのパンツが一枚減ったじゃん!」
「いいだろ、ここ洗濯機あるんだし」
旅行中は洗濯が出来ないと予想して着替えは日数分持ってきた。しかしこのホテルには洗濯機が各部屋にあり、使用は自由、着替えなんて二セットでよかったのだ。
「もぉ……」
「…………夕飯まで後二十分くらいだな」
絶頂の余韻に浸っていた時間もあるとはいえ、約十分も下着を洗っていたのかと落ち込みながらソファに座って一息つく。
「二十分かぁー……何する?」
「こういう時のためにボードゲームとかトランプとか持ってきてるんじゃん」
「ゲームねぇ、それでいいか」
「やっ、やや、や、やりたい!」
「……あぁ」
「取ってくるよ」
俺は鞄が放置されている寝室に向かった。鞄を漁る最中、俺はあることを思い出した。
「あっ……今でいいかなぁ」
俺は思い出した物とパーティゲームをいくつか持ってみんなの元へ戻った。
「ただいま! レン、ミチ、何個か持ってきたから選んでくれ。センパイ、今ちょっといいですか?」
「……あぁ、何だ?」
パーティゲームを全てレンに渡し、センパイをソファの後ろに引っ張る。背に隠していたイルカが描かれた袋をじゃ~んと取り出す。
「…………それは?」
「ちょっと前に水族館に行ったお土産です。色々タイミングが悪くてセンパイには渡せてなくて……海で渡せたらちょうどいいなって、持ってきてたんです。荷物増やしてすいません」
「……いや、いい。何をくれるんだ?」
他の男と──根野とのデートのついでに買った物が純粋に嬉しいなんてありえないだろうに、腹の底での妬みや苛立ちを態度には出さなかった。そんなセンパイが俺は好きだ、大好きだ。
「センパイ、絵描かれますよね」
「…………建物の絵なら、それなりに」
「スケッチブックです! ペンもいいかなって思ってたんですけど、絵描くなら鉛筆なんですよね? 濃さとかにもこだわりあるかもって思って、俺絵のことなんにも分かんないから紙だけにしました」
「……ありがとう。一応言っておくと、俺が目指しているのはデザイナーだから、どういうデザインか伝わる程度の絵が描ければいい。だから画家ほどのこだわりはない……まぁ、強いて言うなら2Bがいいかな」
「シャーペンしか売ってなかったんですけど」
「………………スケッチブックだけで正解だ」
シャーペンは鉛筆の進化形だと俺は考えているから、どうして絵に関してはシャーペンが鉛筆に劣るのか俺には理解出来ない。
「……随分と可愛いな」
スケッチブックの表紙にはイルカを始めとした水生生物が可愛らしく描かれている。どこか小学二年生の女児が持っている下敷きを彷彿とさせるキラキラ感はセンパイには似合わないかもしれない。
「使いにくいですか? すいません……」
「……問題ない。俺が可愛らしいものを持っていたとして……誰かがからかうところを想像出来るか?」
「センパイがふりっふりのドレス着てても誰も何も言わないと思います」
「…………その通りだ。俺はこの通りの見た目だからな」
センパイは軽く腕を広げる。二メートル越えの巨体が更に大きく見えて、自分よりも大きな存在に怯える生物としての本能が刺激された。
「でも恥ずかしくないですか? 直接何か言われなきゃいいってもんじゃないですよね」
「……陰口や噂は聞こえた時にそいつを殴ればいい。それだけだ」
強い人だ。心身共にこんなにも強く見える人が、実際は俺が居ないと生きていけない弱さを持っているだなんて、それを俺だけが知っているなんて、最高だな。
「…………お前はこういう可愛いものを俺が持っていたらどう思う?」
「え? ギャップ萌えします」
「……よく分からんが、いいと思ってくれるならいい。ありがとう、使わせてもらう」
「はい! あっ、待ってください。もう一つあるんです」
スケッチブックだけでは素っ気ないかともう一つ買っておいたそれは大きな袋の底まで落ちており、取り出すのにはガサガサとみっともなく袋を漁らなければならなかった。
「これです!」
「……紐?」
「ミサンガですよ、切れたら願いが叶うってヤツです。センパイあんまりアクセサリーとか好きじゃないですよね? シルバーアクセサリー絶対似合うのに勿体ない。でもミサンガなら重くないですし、お風呂入る時も着けてるのが普通だそうですからすぐに気にならなくなりますよ」
「…………ミサンガ」
耳慣れないのか、俺の言葉を繰り返すセンパイに子供に対して抱くような可愛らしさを感じた。
「巻いてあげますね。どっちの手にします?」
センパイは少し戸惑ったまま左手を差し出した。俺は太い手首に海らしい配色の糸を編んだミサンガを巻き、二度とほどけないように固く結んだ。
「出来ました!」
「…………海っぽいな」
ミサンガには貝殻やを模したチャームがぶら下がっており、ヒトデ型のビーズが編み込まれている。糸の色も相まって海らしさは抜群だ。
「ここにぴったりでしょ。センパイ色黒ですし、海の男感ありますよ」
「……黒いのは元々だがな。まぁ、嬉しい。ありがとう」
表情の乏しさと淡白な言葉からあまり喜んではいないと思ってしまうだろう? 素人め。俺には分かる、センパイは喜んでいる。俺にしか分からない程度に口元が緩んでいるし、手首を胸の前に上げてミサンガをじーっと見つめる仕草なんてお気に入りの物を見つけた子供のようで可愛らしい。
「喜んでもらえてよかったです。何かお願いごとしてくださいよ、ミサンガは切れた時に願いが叶うんです」
「………………ノゾムと生涯共に在れますように」
言い終えると目を閉じてミサンガにキスをする。そんなことされたら顔が燃え上がってしまいそうな程に照れてしまう。
「あ……そ、それ……は、そのっ、切れた時に叶うので、いいんですか? いつ切れるか……分かりませんけど」
「……あぁ、それは困るな。今すぐ切れて欲しくなる。だが、せっかくお前に貰った物だ。大切にしたい……悩ましいな」
「もっと軽いお願いにしときましょ、いつ叶ってもいいような……叶ったら嬉しいこと」
「…………いい店でノゾムと焼肉が食べたい。その後は朝までセックスしたい」
ミサンガが切れたら教えてもらって、焼肉を奢ってみせよう。お金を貯めておかないとな。
「そのくらいならきっと叶いますね!」
「……あぁ」
「留学しても、これを着けてたら俺のこと忘れませんよね……?」
「…………何もなくても忘れやしない」
「本当ですか? えへへ……待ってますからね」
ミサンガを着けた左手を握り、手の甲に頬を擦り寄せる。反対側の頬に右手のひらが触れて、勝手に口角が持ち上がる。近い未来に訪れる寂しさから目を逸らして微笑む俺を見て、センパイも表情を緩めた。
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