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遅刻し過ぎた雷霆

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媚薬効果のある精液を尿道に流し込まれ、乳首に塗り付けられ、ベッドに縛られてどこにも触れられず放置されて何時間経っただろう。窓から見える太陽の傾きで昼をとっくに過ぎていることは分かる。

「ふふっ、ふふふ……可愛い、可愛いっ……兄さん、兄さん兄さん兄さんっ……!」

おねだりの声を上げる体力もない、喉が痛い。俺はとっくに限界を迎えたが、シャルも限界が近い。荒い呼吸音が聞こえている、唾液や先走りの汁が床にシミを作っている。身悶えしながら瞳孔を開いて……薬でもキメていそうに見える。

「しゃるぅ……まだ……? シャルも、キツそう……もう、いい……でしょ?」

喉はとっくに枯れていて、一つ音を出す度にヒリヒリと痛み、咳き込みそうになる。

「そうですね……それじゃ、兄さんが条件をひとつ飲んでくれたら、尻尾で尿道ほじくりながら、乳首抓りながら、いつもより大きくして抱いてあげますよ」

俺が求める刺激を全てくれる。魅力的な条件を前に俺は首を何度も縦に振った。

「ふふ……じゃあ、これ、捨てていいですか?」

席を立ったシャルは机の上に置かれていた誰かの生首を持って戻ってきた。懐かしさは感じる顔だけれど、知らない奴だ。非倫理的だとは思うけれど、快楽の前には道徳も倫理も平伏するのだ。俺はもう一度首を縦に振った。

「いいんですか? アルマさん、兄さんの元夫でしょう? あんなに好き好き言ってたくせに……ふふ、まぁ仕方ありませんよね、覚えてないんだから」

「……………………アルマ?」

聞き覚えのある名前────何を言っているんだ? 俺は。

「アルマっ、ぁ、あっ……アルマぁあっ! やめろっ、離せ! アルマに触るな!」

どうして忘れてしまっていたのだろう、こんなに好きなのに。 

「置けよ! 触るなって……離せよっ……げほっ、ぇほっ……ぅ、う……アルマ、返せっ……」

痛む喉で叫んで咳き込んで、縛られた腕を暴れさせて手首を傷付けて、涙目になっても睨み続ける俺にシャルは困惑していた。

「…………そんな。忘却術……ちゃんと書いてあった通りにやったのに……」

アルマの首を持ったままぶつぶつと呟く。
忘却術……? と言ったか? まさか、俺にそれを? アルマを忘れてしまっていたのはシャルのせいなのか?

「……おい、忘却ってなんだよ」

「……っ、に、兄さんが……兄さんが悪いんですよ! 夢の中ではシャル好きって連呼して抱かれてくれたのにっ! あれだけ甘えてくれたのにっ……オーガなんかと結婚するなんて!」

シャルはアルマの首を投げ捨てて俺の上に跨って怒鳴り声を上げた。

「この、裏切り者っ……! もう、兄さんを殺して、僕も……」

震える両手がゆっくりと俺の首に添えられたが、いつまで待っても力は入れられない。シャルは大粒の涙を零している。その涙を見てはアルマのことで怒鳴るなんて出来なくなった。この家でシャルと過ごす前の俺なら出来たかもしれないが、夢と現実で何度も身体を重ねて絆された今の俺には無理だ。

「シャル……アルマのことは後でちゃんと怒る。でも、まず…………ごめんな、俺、お前の気持ち全然分かってなくて、これからちゃんとっ……おい、待っ、ぁああっ!? ひぁああっ……シャル、ちゃんと、はなしっ……ぁんっ!」

「もういい……もういいです、兄さん、兄さんの心なんかいらない……兄さん……愛してます」

血管が浮くほどに膨らんだ性器が挿入され、アルマを思い出して明瞭になりかけていた頭が再び快楽に侵される。

「……兄さん、これからも毎日抱いてあげます。この縄は兄さんが兄さんでなくなるまで解きません。早めに正気を失ってくださいね、そういつまでもここに留まるのも難しいので」

「ぁんっ! やぁあっ……しゃるっ、ひぁんっ! やめっ、ひぁああぁああっ!?」

「ふふっ……ふふふっ、あっはははは! あはははっ、兄さんっ、兄さん……もう詰みですよ、兄さん、僕も兄さんも、もうダメです。兄さんが悪いんですっ……兄さんが、兄さん……兄さんは、何も、悪くない…………僕が、勝手に……好きになって、勝手に、裏切られたって、喚いて」

連続する絶頂の中でもシャルの様子がいつも以上におかしいのには気付けた。狂ったように笑っていたかと思えば絶望したように紫の瞳を震わせて、大粒の涙を俺の頬に落とした。

「しゃるっ……俺っ、今度こそちゃんとっ、ひぁんっ! ゃぁあっ! ちゃ、ちゃんと、向き合うっ、かりゃあっ、もぉ、やめてぇっ……!」

シャルは俺の陰茎に巻いていたリボンを解いて聞き慣れない言葉を呟いた。直後、腸壁を乱暴に抉られて絶頂し、久しぶりに精液を漏らした。射精禁止の術が解かれたのだ。

「…………兄さんを喜ばせたくて足を治そうとしていましたけど、もうやめます。だって僕から逃げるのはこの悪い足があるからなんですから。手も足もなければ兄さんは僕から逃げられない、兄さんがどんなに嫌がったって、泣いたって……僕は、そんなの…………もう、気にしない」

いつも以上に大きく膨らんだシャルの性器は俺の内臓を潰してしまっていて、俺の腹は歪に膨らんでいる。そんな状態では精液を溜めておくことなんて出来なくて、媚薬効果も相まって射精が止まらない。びゅるびゅると噴き出る自分の精液が視界に入っているのは酷く不快だ。

「ねぇ兄さん、後であの首は潰すつもりなんですけど……どうされたいですか? 壁や床に叩きつけます? 鋏で切ったり? 兄さんのお腹の上でぐちゃぐちゃにしてあげましょうか」

弟は優しいいい子なはずだったのに、俺を優しく守ってくれるはずだったのに、俺の結婚を祝福して、アルマとも仲良くしてくれるはずだったのに……俺だけがそう思い込んでいただけで、弟は、初めからこんな奴だったのか。
いや、違う。俺が歪ませた部分も大きい。俺の思い込みに合わせようとさせてしまったから、シャルの本心が歪んだ形で爆発してしまったんだ。

「……ごめん、なっ……しゃ、るっ」

「もう何言ったって無駄ですよ、兄さん。兄さんの頭も心も完全に壊してあげますからね」

「あるま……好きにして、いいっ……壊して、いいからっ…………ちゃんと、お前の気持ち、受け止めるから……もう」

腰振りが鈍り、涙の量が増える。

「泣くな……シャル。ごめんな、今まで……もう勝手なこと言わないから、お前の話聞くしお前のことちゃんと考えるから、許してくれ……」

シャルは何も言わずに、いや、しゃくりあげて泣いていて何も言えずに、それでも震える手で俺の手首の拘束を解いた。俺はすぐに自由になった腕をシャルの首に回した。

「…………アルマはもう死んだんだ。もう……引きずってたってしょうがない。シャル……今生きてるのはお前だもんな、ちゃんと、向き合う。アルマ……壊したいなら壊していいぞ、ずっと死体持ってちゃ……アルマ、浮かばれないもんな」

「兄さん…………兄さん、兄さんっ、ごめんなさいっ、ごめんなさい、アルマさんは、本当は!」

何かを言おうとしたシャルは俺の腕を首から引き剥がし、俺をベッドに押し付けて扉の方を睨んだ。

「……っ!」

シャルは俺には気付けない何かの気配を察知し、自身の頭を守るように抱き締める。その瞬間部屋の扉が壊され、シャルの頚部を狙った長剣がシャルの左腕を切り飛ばした。
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