過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

文字の大きさ
129 / 604

ようやく見つけた

しおりを挟む
魔物である俺には魔力を感知する力はないのに、ネメスィは土中の魔力の流れも感知できるようで、俺を抱えた彼は真っ直ぐに魔樹へと歩き、辿り着いた。

「これが魔樹だ、この近くなんだな?」

「あぁ、この根っこの辺りに寝床があって……っていうか、なんでネメスィは魔樹の位置分かるんだよ……」

「デミゴッドだからな」

ファンタジーにおいての最強種族みたいなところあるからな、作品によるけど。神話でも英雄は大抵神と人の子だし……ギリシャ神話とか? あまり詳しくはない。

「で、えっと……確か、狩りに……鹿? を見つけて、こっちだったかな」

アルマに抱えられて移動していた時に景色を楽しんではいたけれど、前世はコンクリートジャングルの社畜だった俺にガチジャングルは左右の見分けすらつかない。

「えっと……なんか、犬が来て、爆発して」

「……犬が爆発?」

「ぁ……うん、爆弾背負わされてたのかな、可哀想だよな……」

「…………まずいな、そんなものがあったのか。早くやめさせないと」

やはり前世の世界より倫理感は低いのだろう。しかし動物愛護の精神の欠片も持っていなさそうなネメスィが気にしているのは意外だ。

「ネメスィ、犬好きなのか? いや、嫌いでも可哀想とは思うだろうけどさ」

「俺は別に……ただ、魔神王が……」

「魔神王?」

「イヌ科を粗末に扱うと……かなりまずい」

魔神王は犬系の獣人だったりするのだろうか、魔王といえば竜系な気もするけれど……いや、これも作品によるな。

「五代将軍かよ……」

「最悪、地図が描き変わるぞ」

「怖っ、犬以外の生類も憐れめよ…………あれ? ネメスィ、あれは?」

右も左も緑であることしか分からなかった景色が変わった。木や草が焦げているようだ、まるで爆発でも起こったかのように。

「…………下ろすぞ」

ネメスィは俺を柔らかく背の低い草の上に下ろし、爆発跡だろう周囲を調べ始めた。しばらく経つと死骸らしきものを拾ってきた。

「焦げていない部分は小動物や虫に食われたようだが、骨は残っていた。中型犬だな、頭はないが……サク、その爆弾を背負わされていたのは中型犬か?」

「ぅ……た、多分……あんま近付けんなよそれ……」

焦げた肉片がこびりついていたり、うじが湧いた肉片がこびりついていたり、犬のシルエットすら保っていないそれは俺に吐き気を催させるには十分過ぎた。

「…………一応埋めておくか」

普段は乱暴なくせにどうしてこうたまに善良な一面を見せるのか。ギャップというのは恐ろしいもので、大したことでなくてもときめいてしまう。自分に腹が立つ、もうすぐ夫と再会できるかもしれないというのに何を今更ネメスィに惹かれているんだ。

「……これは、鎧か?」

「ぁ……アルマが何人か倒してたから、それかも」

再び抱えられ、爆発跡からしばらく歩くと兜の破片らしきものが落ちていた。

「…………そのオーガは人を殺したのか」

「せっ、正当防衛だぞ! アルマはそれより酷い目に遭わされて殺されたんだからな!」

アルマの首を抱き締めてネメスィを睨む。静電気のような不快感を覚える瞳をじっと睨む。無表情だったネメスィは不意に笑みを零し、止めていた足を動かした。

「……ネメスィ?」

「…………勇者は平和を守る者だ。俺は人間に肩入れし過ぎていたようだな、叔父上は共存を望んでいる……サク、森で平和に暮らしてくれ。俺は王都の膿を取り除いてみせる。そうしたらまた会ってくれないか? その頃にはお前への諦めもつくと思いたい。そのオーガと酒でも飲みたいな」

考えが変わったのか? 人間に害を与える魔物を例外なく殺すのではなく、魔物を虐げる人間もまた罰しようと、互いの事情を鑑みようと、そう思うようになったのか?
もしそうならそれは素晴らしい成長だ。

「……今まで殺してきた魔物共の弔いもしなければな。贖罪もか……」

「…………ネメスィ」

「ん?」

「……俺は、お前はいいやつだって思うよ。きっともっとすごくいいやつにもなれる。これからは他の魔物も俺にするみたいに優しくしてやってくれよ」

「…………お前に優しくできた覚えはない」

ネメスィが無表情に見えなくなってきているのは俺が彼の微かな変化を見分けられるようになったからだろうか、ネメスィが成長しているのだろうか、俺が彼の表情を増やせたならとても誇らしい。

「……すまなかった、サク。乱暴で」

「…………ううん、大丈夫。結構気持ちよかったし……ああいうネメスィ、嫌いじゃなかった」

別れが惜しくなってきた。ダメだ、俺はアルマと──

「……………………アルマ?」

「サク?」

「アルマっ! アルマだ……あっち! ネメスィあっち、アルマ! アルマぁっ!」

視界の端に赤い肌を捉えた。その方向を指し、ネメスィの腕から落ちそうなくらいに暴れ、叫んだ。ようやく見つけられたアルマの身体、それは酷く損傷していた。

「……ぁ、る……ま?」

「…………これがお前のオーガか」

腕が爆弾で吹き飛んだのは見た。剣で足を貫かれたのや、首を刎ねられたのも見た。けれど──

「ぁ、ぁあっ、あぁあああっ!?」

──骨が見えるくらいに肉を毟られているのなんて、虫の住処にされているのなんて、見ていないし見たくもなかった。

「やだっ、やだぁああっ! アルマっ、アルマぁあっ!」

ネメスィの腕を振りほどいて落ち、アルマの身体を齧っていたネズミを払い、肉をしゃぶる虫共を払い、産み付けられた卵を引っ掻いて落とす。

「どけよっ! お前らのじゃない、俺のだ、俺のアルマだ! アルマ、アルマぁ……ほら、首、ちゃんと守ってたから、ちゃんと……」

抱えてきたアルマの首をアルマの身体に乗せる──断面に住み着いていたらしいムカデに指を噛まれた。

「痛っ……! ぅ、うっ……アルマぁ」

噛み付いたムカデを払い、改めて首を乗せる。小動物や虫に齧られた断面はピッタリとは合わず、手を離すとゴロンと落ちてしまった。

「ぁ……! やだっ、やだ……くっついて、起きて、アルマ……アルマぁ」

ようやく見つけられたのに、アルマに再会できると信じていたから頑張れたのに、こんなの酷過ぎる。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...