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吐いたものに皮膚はなく

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絶頂の余韻が治まらず、シャルの上で仰け反って震えているとシャルが上体を起こし、俺を抱き締めた。

「兄さん……嬉しい」

胃の中に待機している何かが蠢く。たった今放たれたばかりの精液に含まれる魔力を求めているのだろう。

「兄さん、兄さんは自分の意思で僕に抱かれてくれたんですよね? それが憐れみであっても構いません……兄さん、媚薬効果のせいだけじゃありませんよね?」

しかし今回はいつもと違い、細い触手一本だけで胃から腸へ伸び、腸壁を僅かに擽りつつも比較的大人しく魔力を吸収し始めた。しかしそれでも俺は快感を覚えてしまう。

「ぁ、あぁっ、もち、ろんっ……俺は、自分のっ……ぁ、あぁっ……!」

「兄さん……? ごめんなさい、吸収が終わるまでは動かないようにしますから、続けてくれませんか? 前に兄さんを抱いた時は兄さんの意思はほとんどなかったようなものなので、僕はやっぱり兄さんの心も欲しくて……」

動かないといいつつも抱き締める力を強め、俺の興奮を高めていく。

「シャ、ルっ……シャルは、最初から俺が好きでっ、でも、我慢してくれてたんだよな」

「ええ……兄さんが嫌がることはしたくなかったんです、でも、僕は……酷いことを」

「あぁ……また、あんなっ、ふう、に……爆発しちゃったら、俺もお前も大変だろ? だからっ、ぁ……はっ……だからぁっ、ちゃんと、ガス抜きしないとな」

抜くのはガスではないけれど。なんて下品過ぎる洒落が言えるほど俺はオヤジじゃない、前世も今世も。

「兄さんの意思なんですよね……兄さん、嬉しいです兄さん、兄さんが僕のことアルマさんより好きになった訳じゃなくても、兄さんが自分の意思で僕に抱かれてくれたことが嬉しいんです。兄さん……これからも僕を浮気相手にしてくれますか?」

「……俺、は……インキュバスなんだからぁ、セックスするのは、仕方ないんだよ……浮気なんて」

「浮気ですよ、アルマさんとだけヤってても飢え死にはしませんもん。そろそろ吸収出来ましたよね、抜きますよ」

「んっ……ぁ、ああっ、抜けてっ……ひぃんっ!」

萎えた陰茎が抜かれて、ベッドに仰向けにされて、俺は開脚したままぷるぷると震えていた。触手が魔力を吸い終えて胃に戻っていく快感に虐められていた。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……シャル……シャル」

「何ですか? 兄さん」

ようやく触手が動きを止めた。これでようやくシャルとまともに話せる。

「……なんで浮気とか言うんだ? そりゃ浮気だけどさ……俺、言われたくないんだよ。俺とこういう関係続けたいなら、聞こえのいい言葉だけ使ってた方がいいんじゃないのか?」

シャルはことあるごとに俺に批判的な言葉を投げた。それは全て正論だったが、意図が分からない。

「…………兄さんの機嫌取った方が楽って分かってます。でも、僕、兄さんにはちゃんと幸せになって欲しいって思ってて、でも、兄さんと爛れた関係でいたくて……もう、分からないんです」

シャルは俺の幸せを第一に考え、第二に自分の願望を叶えようとしている。俺は既にアルマと結婚しているから、シャルの感情には矛盾が生じる。

「……俺はアルマが好きだけど、可愛い弟が離れるのも嫌だ。シャル……俺の幸せにはお前の幸せも必要なんだよ、分かるな? じゃあ、俺に嫌われようとしないでくれよ」

「…………はい、兄さん。兄さんがそう言うなら」

折り合いをつけられた……のか? シャルの本心は分からないし、アルマが反対する可能性も高いけれど、ゲーム風に言えばハッピーエンドの条件を一つ達成した気分だ。

「まだ明るいけど、ちょっと寝るか」

「はい、兄さん」

「夢でまた話そうか」

「……ごめんなさい、僕、体を半分以上再生したばかりで少し疲れていて……夢を操るのには結構魔力を消費しますし……」

それなのに俺を抱いたのか? どれだけ俺が好きなんだ……あのスキルはやはり恐ろしいな。オンオフ機能が欲しかった。

「そうか、なら俺が夢を見せればいいんだよな」

「それなら……でも、兄さん出来ますか?」

「そりゃ最初はかなり失敗してきたけどさ……お前が捕まってる間、お前と夢で会えただろ? 多分いけるって」

「そうですか……? まぁ、頑張ってください」

尻尾を絡ませ足を絡ませ腕を互いの背に回し、ベッドの広さを活用せずに身を寄せ合って眠る。疲れていたと言うだけあってシャルはすぐに眠ってしまった、俺は幼い寝顔に笑みを誘われつつも力を使うよう意識した。

「……っ、ん……? ひっ……!?」

その瞬間、胃の中に居る何かが突然暴れ始めた。腸壁を擦って俺に快楽を与えるのではなく、胃の内壁を殴って俺に苦痛を与えてくる。

「ぅぐっ……ぁ、ゔぅっ、う、ぅっ……!」

シャルを起こして助けを求めたかったのに、何故か声が出ない。深い眠りに落ちて力が抜けたシャルの腕と足の中から抜け出し、ベッド横に置きっぱなしになっている樽に掴まる。

「うっ…………ぉえっ! ぅ、うっ……ぅえっ……」

高価な樹液だけは汚してはいけないと考えていたのに俺は樽の中に嘔吐してしまった。自分の体を全く操れていない、何か別のものに身体を動かされていたような気がする。

「はぁっ、はぁっ……何だよ、これ……気持ち悪い」

胃から口までにスッキリとした感覚がある。固形物を溶かす必要がないインキュバスだからなのか胃液による痛みや臭さは一切ない。
樽の中を覗けば蠢く肉の塊があった。気持ち悪い、怖い、不気味だ、恐ろしい、見ていてはダメだ。

「シャルっ……!」

異常なまでの恐怖に駆られた俺はベッドに戻ってシャルに抱き着き、頭まで毛布を被った。しばらくすると背後で水音が鳴り始める、あの肉の塊が動いているのだろう。

「シャル、シャル……シャル、夢をっ……!」

あまりの恐ろしさに現実逃避を目指して眠ろうと意識する。夢を見る術をかけるのに集中していると、不意に前世でテレビで見たハリガネムシという寄生虫を思い出した。その虫はカマキリを宿主とし、宿主の行動を操って水中に飛び込ませるのだ。
先程の俺は寄生されたカマキリのようではなかったか? シャルを起こさずにわざわざ樹液を入れた樽の中に吐いたのは不自然だ、俺の意思ではなかった。

「………………シャルぅ」

そう考えるとますます怖くなって、背後の水音が大きくなってきたのも相まって、俺は更に現実逃避に集中した。
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