過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

文字の大きさ
441 / 604

飲めや歌えや

しおりを挟む
何故か女装になってしまったシャルとお揃いの宴会用の服を見せ、絶賛され、調子に乗った俺はアルマの膝の上でパタパタと四枚の羽を揺らしていた。

「背中は大胆に出しているんだな」

「空いてないと羽出せないから仕方ないんだよ」

「いつも思うが身体を冷やしはしないか?」

「アルマがあっためて」

甘えた声を出してアルマに露出した背中を撫でさせる。ますます羽の動きは激しくなり、アルマは俺の頭羽の風圧で目を閉じた。
鬱陶しいくらいにはしゃぐ俺とは正反対に、シャルの羽はぺったりと頭や身体に張り付いている。

「…………ぅ」

査定士に撫でられる度、微かな声を漏らして震える。そんなに恥ずかしいのだろうか。

「シャールー、大丈夫か? そんなに女装嫌か?」

「兄さん……いえ、その……服の問題ではなくて、兄さんに着せるために考えた僕がとびきり可愛いと思った服を、僕自身が着るのは……その、恥ずかしいんです」

「なんでだよ、髪質と色以外ほぼ同じだぞ俺達。双子なんだし」

「兄さんと僕じゃ愛らしさが全然違いますよっ! 僕がこんなの着たって……!」

なるほど、ボーイッシュな女の子がフリフリの服着せられる展開の「私にはこんな女の子っぽいの似合わない」的なアレか。様式美だな。

「似合ってるぞシャルぅー、可愛い可愛い。一緒に鏡見ただろ? 可愛いかったじゃん。なぁ?」

「ん? あぁ、可愛いと思うよ」

「その恥ずかしがっているところも含めてとても可愛らしいよ」

「やめてください……!」

俺ばかり見ているアルマと性癖に忠実な査定士の褒め言葉ではあまり響かないのだろうか。俺の言葉が一番効くと自惚れていたのだが、こういった場面では一番効かないみたいだ。

「お、居た。おーい!」

「……お前ら早いな」

眠そうな顔をした普段着のカタラとネメスィがぽてぽて歩いてくる。査定士はスーツだけれど、アルマもラフな格好だし、ひょっとして宴会って上品なオシャレしなくてもいいのか?

「ねーめしぃー! 見て見てこの服、なんか気付くことない?」

アルマの膝から飛び降り、ネメスィの前でくるくると回って服を披露する。

「……いつもと違うな」

「そうじゃなくてさ、ほら、刺繍とか」

「刺繍……銀糸の刺繍か、いい模様だな」

「そうじゃなくてぇ! ほら、ほーらっ」

チョーカーを指差して鈍感なネメスィにウザ絡みを続ける。ネメスィは顔を顰めて悩んでいたが、不意に気付いた。

「チョーカーと同じ模様か」

「うんっ! シャルに頼んで魔力でドレス作ってもらったんだ、チョーカーに合うだろ」

「あぁ、似てる」

「似合うだろ? 可愛いだろ? 遠慮せず褒めてくれていいんだぞ!」

「……似合うし可愛い」

「投げやりだな! ムカつく! 絶対思ってるのに絶対思ってなさそうな言い方するとか器用だな!」

宴会への期待と新しい服の喜びではしゃいでいる俺は必要以上に自信家だ。知らぬ間にシャルの自信を吸い取ったりしてないよな?

「いいなぁ、ネメスィが贈ったもんに合わせた服とか健気~。俺もサクになんか買おっかな」

「シャルもお揃いなんだぞ。見てやってくれよ。シャルほら来いよっ」

査定士の膝の上で丸まっていたシャルを引っ張り下ろし、二人の前に立たせる。相変わらず頭羽で顔を隠そうとしている。

「色違いだな。チョーカーも作ったのか」

「あぁ、でも宝石はナシだぞ。この黄色はネメスィの色だし、俺の色にすんのも何か違うし黒は目立たないし……帯だけでも可愛いだろ?」

「刺繍があるし、寂しくはないな」

ネメスィはなかなかシャルを褒めない、彼には期待出来なさそうだ。カタラはどうだ?

「やっぱ同じ顔してるだけあってお前もどんな格好でも似合うんだな。つーか、はしゃぎまくってるサクよりしおらしくていいじゃん、淑女っつー感じ?」

「兄さんより僕がいいなんてありえません……いえ、しおらしいって、それ……どうなんですか」

「サクとは違う方向性で可愛いって意味だよ、顔一緒なのにこんだけ雰囲気変わんのすげぇなぁ」

シャルの頭羽がピクリと動く。

「………………お褒めいただきありがとうございます」

「ん? おぅ、正直な感想だぜ。お前普段物騒で可愛げないからさ、大人しいとホント可愛いんだよな」

「一言余計なんですよね……僕には可愛げなんてありませんよ」

羽は揺れてはいないもののいつもの位置に戻った。尻尾はゆっくりとくねっている、少し機嫌がいいようだ。

「……流石だ、カタラ」

「何が?」

「なんでもない。な、そろそろ行こうぜ」

全員が揃ったし、予約時間にも移動を考慮すればいい塩梅だ。俺はアルマの腕に、シャルは査定士の腕に抱きつき、二列になって店へ向かった。先頭は当然場所を知っている査定士だ。

「ネメスィ、前土産屋でショゴスゼリーっての見つけてさ、一個ポケット突っ込んだままにしてたの今見つけたからやるわ」

「……温もりで気持ち悪さが強化されてる」

最後尾のカタラとネメスィは俺達のような恋人感は当然ないが、男子高校生の戯れみたいな微笑ましさがある。

「この建物の地下だよ。階段は狭いから一列になろうか、シャル。あぁそうだアルマ、入口だけ低いから気を付けた方がいい」

「あぁ、忠告感謝する」

薄暗い階段を降りて怪しげな扉を抜け、高級そうな店へ到着。査定士が店員と二三言話すと俺達は奥の広い部屋へ通された。

「おー、宴会部屋って感じ……俺ここ! お誕生日席!」

「サク、今日は随分はしゃぐねぇ」

既に食器だけ並べてある机に期待が高まる。何も食べられないくせに無意味にフォークとスプーンを持つ。
全員が席に着くと料理が運ばれてきた。査定士が予約していた分らしい、その他に欲しいものがあれば随時頼むようにとメニュー表が渡された。

「おぉ……喋りガラスのバロット、すげぇレア物」

「ハーピーはなかったけれど、似たものを頼んでおいたよ」

「マジ有能だぜおっさん……!」

カタラを始めみな料理に舌鼓を打っている。料理の話をしていた時とは比べ物にならない疎外感と退屈だ。

「お客様」

「うわびっくりした、何?」

机に肘をついてウサギの丸焼きを齧っているアルマを眺めていると、音もなく近寄ってきた店員に話しかけられた。

「シャーベットです、どうぞ」

ワイングラスのようなガラスの器に漏られた半透明の黄色っぽいシャーベットが目の前に置かれる。

「……悪いんだけどさぁ、俺インキュバスだから何も食えないのよ」

「こちらはインキュバス、サキュバスのお客様に楽しんでいただけるよう考案した当店自慢の一品です。高純度の樹液と真水を混ぜてシャーベットにしておりますので、消化不良を起こす心配はございません」

「樹液……? へぇ、そっか、樹液ならイケる、味も分かる」

樹液を使ったゼリーなどは街中でもよく見かけたが、アレは混ぜられているゼラチンや寒天で腹を壊す。混ぜているのが水だけなら平気だ。

「ありがとう! 最高だよこの店、シャルにもあげてくれ」

「お持ちしております」

シャルの前にも俺と同じ物が置かれている。今の説明を聞いていたのか恐る恐る口に運び、頬を緩ませた。

「いただきまーす……ん、冷た…………わ、美味しい。食感も甘さもいい……!」

甘さは樹液から加工しようがないが、歯で簡単にシャクッと割れる氷の子気味いい食感はこの店の技術だ。

「ん~……! 美味い、最高!」

何も飲み食い出来なくてもみんなの楽しそうな顔を見られたらいいかと宴会を楽しみにしていたが、まさか俺にも食べられるものがあるなんて! 期待を軽々と超えられて最高の気分だ。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

処理中です...