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全島民魅了完了
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カタラとネメスィと出会った直後に泊まった宿屋の前で、その頃に知り合って身体を重ねた人間の少年に告白された。断り方が分からず黙り込んでしまった俺の唇を奪ったのはネメスィだ、力強い腕が俺の腰を抱いている。
「……これは俺のものだ」
強引にキスをしたネメスィは俺の顎を掴み、自分の方を向かせる。俺は瞳だけでシータと名乗った少年を見下げた。
「えっ? ゆ、勇者様……えっ」
ネメスィは俺の頬を撫でて少年に見せびらかすように俺を愛でている。
「お前はさっき自慢げにサクを抱いたと話していたが、お前がサクを抱いたその日にも俺はサクを抱いている。もちろん昨日や……お前がサクに焦がれている間ずっと、サクは俺に抱かれてよがっていた」
酷いやり口だが、俺が既に他人のものだと……それも勇者であるネメスィのものだと分かれば諦めざるを得ないだろう。俺の体裁は保たれるし、少年の諦めも早い、酷く傷付くことにはなるだろうが──ネメスィの思惑を察しているのかカタラは我関せずの態度を取り、シャルは不機嫌そうに尻尾を振りながらも黙っている。
「これはインキュバスだからな、目を離すとすぐ他の男を誘う。その後にはしっかり仕置きをしてやるんだが……」
腰を抱いてくれていた手にパンッと尻を叩かれる。
「ひゃんっ!?」
「……その仕置きを欲しがる色狂いっぷりだ。だからまぁ……お前はダシにされたんだよ、サクがお前を気に入っていた訳じゃない。お前に抱かれることで俺を苛立たせたかったんだ」
「ぁ、んっ……ゃ、揉まないで……!」
服の上から力強く尻を揉みしだかれて下腹の奥深くがきゅんきゅんと疼く。
「……っ、勇者様酷い! お兄さんのこと叩いたりっ、これなんて言ったり……! 勇者様がそんな人だなんてっ、ショックです! お、お兄さんっ、僕ならもっとお兄さんを大切にします!」
ネメスィは民衆には勇者として朗らかに接してきた。静かで苛烈な本性は少年には意外に思えるのだろう。
「サクは大切にされたいんじゃない、刺激的なセックスがしたいんだ。それを出来るのは強い男だ。身体や体術で俺に並ぶのは可能かもしれんが……魔術は天性の才能だからな」
頬から手が離れた。その手をネメスィは少年の前に突き出しており、バチバチと恐怖を煽る音を立てて指の間に紫電を走らせた。
「……っ、お、お兄さん……? こんなっ、人に」
俺はネメスィの作戦に乗るため、少年に見せつけるように彼の首に腕を回した。
「…………俺の好きな人のこと悪く言わないでくれよ。ごめんな、お前の気持ちは嬉しいんだけど……こういう訳だからさ、諦めてくれ」
「ぅ……ぼ、僕っ、強くなりますから!」
少年は目に涙を溜め、そう叫ぶと俺達に背を向けて走り去った。少年の姿が雑踏に紛れて消えるとネメスィは俺から一歩離れ、深いため息をついた。
「面倒な子供だったな」
「ごめん……」
「あれくらい一人であしらえるようになって欲しいものだな」
「いや、魔王としてさ……人間と共存するとか言ってるんだし、あんまり……なんか、ちょっと」
「人間との共存と、あの子供と恋愛関係になること、何も関係がないように思えるが?」
確かに、俺の考え過ぎだったのかもしれない。人間との共存を目指している立場で、人間との付き合いを寿命を理由に断るのはまずいだなんて……俺が自分の意思で断りたくなかっただけなのかもな。
「……うん、ごめん」
「あんまり虐めんなよネメスィ。機転利かせてせっかく上がった好感度がまた下がっちまうぜ」
「そんな……代わりにフってくれたのには感謝してるし、ちょっと正論言われたくらいで嫌いになったりしないよ。本当にごめん、人間ってだけで、その……先輩のこと、思い出しちゃってただけ。ごめんね。帰ろ、俺達の家に」
ようやく出来た定住の場、俺達の大切な城に早く帰りたい。ネメスィに抱き寄せられ尻を叩かれ揉まれて生まれた下腹の疼きをどうにかしたい。
城に着いてすぐ、カタラは食事を取りたがった。食事を必要としない俺には分からなかったけれど、かなりの長時間何も食わずに過ごさせてしまっていたようだ。
「ごめんなカタラぁ、向こうで昼飯食えばよかったな。俺お腹減らないからつい忘れて……」
「いいって、気にすんなよ。俺も演説の準備に夢中で飯のことなんか忘れてたしな、帰ってきてやっと気付いたって感じだよ」
今日の夕飯はアルマが焼いた肉だ。俺とシャルは食べられないけれど、一番美味いだろう焼き加減だというのは前世の経験で分かる。
「……ごめん、俺ちょっと用事思い出した」
「僕も一緒に行きます」
「あー……いや、いいよ、一人で大丈夫」
固形物を食べられない種族だけれど、食事の時間は大切な団欒の時間だからみんなが食事を終えるまでは席に座っているのが決まりだ。俺が決めたことだ。なのに、シャルより先に俺が破った。
「はぁ……」
手本にならないダメな兄だなと自分を蔑みながら中庭に向かう。空にはすっかり夜の帳が降りていたが、夜目がきくインキュバスである俺には灯りを持ち出す必要はない。
「……今日は月が見えませんね、先輩」
墓の前に腰を下ろし、墓石を撫でる。つい墓を彫ったオーガにされた暴行を思い出してしまったが、すぐに先輩との思い出で上書きした。
「俺の名前、サク……朔、新月って意味なんです。ちょうど今日みたいな日の月のことです、ないことの名前がついてるのって面白いですよね」
今晩は月が出ていないせいで普段よりも暗い。だが、星々の輝きだけは増していた。
「先輩、あなたの笑顔も、声も、匂いも、体温も、感触も、何一つ忘れていません……」
今触れて戻ってくるのは冷たい墓石の感触だけ。
「今日、ようやくこの島の全人類に魅了をかけ終えました。やっと平和が見えてきたのに……先輩が居ない。隣に居て欲しいのに…………すいません、よく寝てるのにこんなこと言って」
ゆっくりと身を横たえ、上半身に伝わる墓石の冷たさと硬さに頭と腰の羽を一瞬震わせる。
「…………一緒に生きたかった」
尻尾がほとんど無意識にぺしぺしと地面を叩く。
「今日、人間の男の子に告白されたんです。全然似てなかったのに先輩のこと思い出しちゃいました。だから何も言えなくなっちゃって……ネメスィに迷惑かけちゃいました」
墓石に手のひらを当て、ゆっくりと撫でる。無意味な愛撫に応える者は当然居ない。
「…………サク」
先程から聞こえていた足音の主がとうとう声をかけてきた。上体を起こし、彼を見上げる。
「思い出したと言っていたからな、ここだと思った」
俺の傍に屈んだ彼は俺の頭を優しく撫でてくれる。それでもほんの少し乱雑さが残っているのがネメスィらしい。
「来てくれるなんて思わなかった」
頭羽と腰羽と尻尾がいっぺんに揺れる。嬉しさを表現する上向きの揺れを見てかネメスィの口角が少し上がる。
「……思い詰めるなよ、お前は一人で抱え込むきらいがある」
「そんな、そんなこと……ないよ」
「ある」
髪と頭羽を軽く掴まれ、上を向かされる。痛みはほとんどないが、不快だ。
「……っ、だって、先輩が死んだのは俺のせいで、っていうかこの王都の人間がみんな死んだのも俺がこの世界に来たからでっ……そんなのっ、一人で抱えずにどうしろって言うんだよ!」
「相談して解決させろなんて言ってない、話すだけでも楽になるだろ? 愚痴でいい」
「お前愚痴なんか聞くタチかよぉっ、解決策適当に言うだけじゃないのかよっ」
「解決出来ることならな。だが違う、お前は過ぎたことに無意味な後悔をしているだけだ」
「無意味って……そりゃそうだけど、そんなことハッキリ言う奴に愚痴なんか言いたくない」
ネメスィは深いため息をつき、俺の隣に腰を下ろして俺の肩を抱いた。
「……なら、今お前が一人で思い悩んでいるのは俺の性格のせいだな。お前の辛さのうち何割かは俺の責任だ、だから俺に当たれ」
「…………ネメスィが優しいのは分かってる」
「お前にだけだ」
王都にも優しい人間は居た。査定士が雇っていた使用人だとか、先輩と共に俺の面倒を見てくれたあの店の店員だとかは、死なないで欲しかった。だけど死んだ、俺のせいで。
「魔神王さんがさ、パッと何万人も殺しちゃえるのは……あの人が神様だから、魂を見てるから、生まれ変わりがあるって知ってるから…………リセマラさせてる感覚でしかないんだろうな」
「りせ……何?」
あぁ、ネメスィにはリセマラなんてソシャゲ用語は分からないよな。
「……なんでもない。俺は生まれ変わったからここに居るし、前の記憶もあるけど、普通は前の記憶なんてなくて……身体が死んだらそこで終わりなんだ。たとえ魂が滅びてなくてまた新しく生まれても」
「…………あぁ」
「俺のせいでたくさん死んじゃった。それはもうどうしようもない、償えることでもない……でもせめてさ、その人達が早く生まれ変われるように、その…………」
ポケットに入れていた櫛を出し、ネメスィの手に握らせる。
「これ、ネメスィにあげるね」
ネメスィはしばらく不思議そうに櫛を見つめた後、この行為の意味を思い出したらしくフッと微笑んだ。
「……これは俺のものだ」
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「えっ? ゆ、勇者様……えっ」
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「お前はさっき自慢げにサクを抱いたと話していたが、お前がサクを抱いたその日にも俺はサクを抱いている。もちろん昨日や……お前がサクに焦がれている間ずっと、サクは俺に抱かれてよがっていた」
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「……その仕置きを欲しがる色狂いっぷりだ。だからまぁ……お前はダシにされたんだよ、サクがお前を気に入っていた訳じゃない。お前に抱かれることで俺を苛立たせたかったんだ」
「ぁ、んっ……ゃ、揉まないで……!」
服の上から力強く尻を揉みしだかれて下腹の奥深くがきゅんきゅんと疼く。
「……っ、勇者様酷い! お兄さんのこと叩いたりっ、これなんて言ったり……! 勇者様がそんな人だなんてっ、ショックです! お、お兄さんっ、僕ならもっとお兄さんを大切にします!」
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「サクは大切にされたいんじゃない、刺激的なセックスがしたいんだ。それを出来るのは強い男だ。身体や体術で俺に並ぶのは可能かもしれんが……魔術は天性の才能だからな」
頬から手が離れた。その手をネメスィは少年の前に突き出しており、バチバチと恐怖を煽る音を立てて指の間に紫電を走らせた。
「……っ、お、お兄さん……? こんなっ、人に」
俺はネメスィの作戦に乗るため、少年に見せつけるように彼の首に腕を回した。
「…………俺の好きな人のこと悪く言わないでくれよ。ごめんな、お前の気持ちは嬉しいんだけど……こういう訳だからさ、諦めてくれ」
「ぅ……ぼ、僕っ、強くなりますから!」
少年は目に涙を溜め、そう叫ぶと俺達に背を向けて走り去った。少年の姿が雑踏に紛れて消えるとネメスィは俺から一歩離れ、深いため息をついた。
「面倒な子供だったな」
「ごめん……」
「あれくらい一人であしらえるようになって欲しいものだな」
「いや、魔王としてさ……人間と共存するとか言ってるんだし、あんまり……なんか、ちょっと」
「人間との共存と、あの子供と恋愛関係になること、何も関係がないように思えるが?」
確かに、俺の考え過ぎだったのかもしれない。人間との共存を目指している立場で、人間との付き合いを寿命を理由に断るのはまずいだなんて……俺が自分の意思で断りたくなかっただけなのかもな。
「……うん、ごめん」
「あんまり虐めんなよネメスィ。機転利かせてせっかく上がった好感度がまた下がっちまうぜ」
「そんな……代わりにフってくれたのには感謝してるし、ちょっと正論言われたくらいで嫌いになったりしないよ。本当にごめん、人間ってだけで、その……先輩のこと、思い出しちゃってただけ。ごめんね。帰ろ、俺達の家に」
ようやく出来た定住の場、俺達の大切な城に早く帰りたい。ネメスィに抱き寄せられ尻を叩かれ揉まれて生まれた下腹の疼きをどうにかしたい。
城に着いてすぐ、カタラは食事を取りたがった。食事を必要としない俺には分からなかったけれど、かなりの長時間何も食わずに過ごさせてしまっていたようだ。
「ごめんなカタラぁ、向こうで昼飯食えばよかったな。俺お腹減らないからつい忘れて……」
「いいって、気にすんなよ。俺も演説の準備に夢中で飯のことなんか忘れてたしな、帰ってきてやっと気付いたって感じだよ」
今日の夕飯はアルマが焼いた肉だ。俺とシャルは食べられないけれど、一番美味いだろう焼き加減だというのは前世の経験で分かる。
「……ごめん、俺ちょっと用事思い出した」
「僕も一緒に行きます」
「あー……いや、いいよ、一人で大丈夫」
固形物を食べられない種族だけれど、食事の時間は大切な団欒の時間だからみんなが食事を終えるまでは席に座っているのが決まりだ。俺が決めたことだ。なのに、シャルより先に俺が破った。
「はぁ……」
手本にならないダメな兄だなと自分を蔑みながら中庭に向かう。空にはすっかり夜の帳が降りていたが、夜目がきくインキュバスである俺には灯りを持ち出す必要はない。
「……今日は月が見えませんね、先輩」
墓の前に腰を下ろし、墓石を撫でる。つい墓を彫ったオーガにされた暴行を思い出してしまったが、すぐに先輩との思い出で上書きした。
「俺の名前、サク……朔、新月って意味なんです。ちょうど今日みたいな日の月のことです、ないことの名前がついてるのって面白いですよね」
今晩は月が出ていないせいで普段よりも暗い。だが、星々の輝きだけは増していた。
「先輩、あなたの笑顔も、声も、匂いも、体温も、感触も、何一つ忘れていません……」
今触れて戻ってくるのは冷たい墓石の感触だけ。
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ゆっくりと身を横たえ、上半身に伝わる墓石の冷たさと硬さに頭と腰の羽を一瞬震わせる。
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尻尾がほとんど無意識にぺしぺしと地面を叩く。
「今日、人間の男の子に告白されたんです。全然似てなかったのに先輩のこと思い出しちゃいました。だから何も言えなくなっちゃって……ネメスィに迷惑かけちゃいました」
墓石に手のひらを当て、ゆっくりと撫でる。無意味な愛撫に応える者は当然居ない。
「…………サク」
先程から聞こえていた足音の主がとうとう声をかけてきた。上体を起こし、彼を見上げる。
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「……思い詰めるなよ、お前は一人で抱え込むきらいがある」
「そんな、そんなこと……ないよ」
「ある」
髪と頭羽を軽く掴まれ、上を向かされる。痛みはほとんどないが、不快だ。
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「……なら、今お前が一人で思い悩んでいるのは俺の性格のせいだな。お前の辛さのうち何割かは俺の責任だ、だから俺に当たれ」
「…………ネメスィが優しいのは分かってる」
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