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一番眺めのいい部屋
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自分が兄or弟より軽んじられていると感じられないように、ほぼ交互に話す。文章量はもちろん、どちらかを褒めたらもう片方も必ず褒めることを徹底する。それさえ心がけていれば案外上手くいった。
「ごちそうさまでした」
最初は緊張の食事会かと思われたが、多少いつもより気を遣うだけの幸せなハーレムタイムだった。
「……上に部屋を取ってあるんです」
ヒトは今日デートプランを考えているのだろうとは予想していたが、まさか食事の後はすぐに部屋にしけ込むとは……そんなに俺に抱かれたいのか? 可愛い! たっぷり愛してやろうじゃないか。
「ボクも行く~」
「…………では、三人で」
「予約、二人だったのに大丈夫なんですか? って言ったらレストランもですけど……」
「シャワー使う時に追加してもらったよ~」
「よくあの格好でこのホテル入れてもらえたよね……」
「ボクこのホテル顔パスだからね」
サンはふふんと自慢げな顔をしている。ホテルに顔パスとはどういう意味だろう。サンは元とはいえヤクザの組長だから、やはりそういうことなのだろうか。
「け……けつもち、ってヤツ?」
「……サンはここのホテルの大広間に飾る絵を描いたんですよ。顔パスという訳ではありませんが……まぁ、入りやすいのは確かですね」
「ケツモチって、ふふふ……水月ってば、ふふふふ」
「そんなに笑わないでよぉ!」
「チェーン店のケツモチはまず出来ないんだよ? 水月は本当に可愛いねぇ」
なんか……怖い返事だな。ちゃんとしたヤクザ知識で返されてしまったぞ。
「さ、行こ行こ~。ラブホじゃないけど汚さないように気を付ければちょっとくらいヤってもいいでしょ」
「ヤってもって……」
席を立つとサンは俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。俺に介助を任せているのではない、恋人として腕を組んでいるようだ。
「兄貴、そのつもりだったんだろ?」
「分かってるなら帰ってくださいよ……私あなたと鳴雷さんのを見るのも、私のをあなたに見られるのも嫌ですよ」
「ボクも嫌。兄貴が帰れば?」
「……っ、いい加減にしろ! こっちは大枚はたいていい飯と部屋用意して雰囲気作ろうとしてたんだぞ! それをっ……それが、あなたのせいで全て台無しなんですよ分かってますか!?」
「いい飯と部屋で雰囲気作りなんて、不倫のくせに力入ってるねぇ~……不倫なんだから、適当にラブホでヤるだけにしておくべきだろ? ねぇ水月」
俺に振らないで欲しい。どっちの味方をしても、中立を保とうとしても痛い目を見るのは確実だ。
「鳴雷さんは私の初めての理解者なのに……!」
「三十路の男が気っ持ち悪いなぁ~」
「……っ、鳴雷さん盗らないでっ!」
「はぁ……? ボクが先に水月を見つけたんだ! 横入りして抜け駆けなんて許さない、ボクより先に抱かれやがったら水月の食いちぎって二度とボク以外の腹に入れられないようにしてやる!」
兄弟喧嘩を早く止めなければ俺への被害が一番大きくなる。
「まぁまぁまぁまぁ! 俺は居なくならないし減らないから! ねっ! な、仲良く……して?」
「……鳴雷さんが言うなら、大人しくするくらいは」
「やだ」
ふい、とサンはそっぽを向いた。怒りを抑えて俺の願いを聞こうとしたヒトは苛立ちが頂点に達したようで、しかしサンに手を上げてはならないという理性はギリギリ働いたようで、激しく地団駄を踏んだ。
「ヒ、ヒトさん……ヒトさん、落ち着いて。ね、ほら、俺ここに居ますから」
「盗られないでぇ……」
「俺を盗るなんて誰にも出来ませんよ。泣かないでください、早く部屋行きましょう」
サンに左腕を抱かれ、ヒトの腰を右手で抱き、両手に花の喜びよりも緊張の方が勝る。この二人の手綱を上手く握って平和に今日を終わらせられたなら、俺は達成感と自信を得られるだろう。
「わ……綺麗な部屋ですね」
部屋番号を聞いて、二人を連れてそこへ向かう。扉をくぐや、オシャレで高級感のある内装に気圧された。
「鳴雷さんとのデートのために一番眺めのいい部屋を調べて予約したんです……なのにコイツにぶち壊されました」
ヒトは愚図るように呟いた。
「まぁまぁ……気を取り直してイチャイチャしましょ。そのつもりでプラン立ててくれたんですよね、ちょっと崩れたって最後がよければまぁ及第点って感じじゃないですか?」
「…………完璧に出来なかったのに、あなたは私に失望しないんですね。それほど私を見込んでくれているということ……一度や二度の失敗では、私を捨てる方が損が多いということですよね。嬉しいです」
「そんな難しいように考えないでください、あなたを愛しているからあなたが完璧になんて出来なくていいんです、あばたもえくぼって言うでしょう? 完璧にしようって頑張ってくれるのが何より愛おしい……」
抱き締めたいのに、ヒトの方が背が高いから俺が抱きついているようになってしまって不格好だ。
「鳴雷さん……私……」
抱きついて見上げたヒトの表情が突然驚愕に染まる。綱引きの綱のように太い、真っ黒な三つ編みが俺の首にぐるりと回ったからだろう。
「……みーつーき」
「んっ……くるしい、よ。サン……」
きゅ、と首をその美しい黒髪で絞められる。首が圧迫され顔が熱くなる。声が出しにくい。艶やかな髪が薄い喉の皮膚に食い込む感触が心地いい。
「サン! 離しなさい!」
「……やだ。ねぇ……水月、兄貴がこのデート邪魔されたくなくてボクを遠ざけようとしてたのは、まぁ、兄貴はそういうヤツだから……アレなんだけど~…………水月も、ボクが邪魔って思ったのかな? ボクと今日、最初にあった時。正直に答えてね」
ぎゅ……と首を絞める力が強くなる。サンの髪の長さと丈夫さがあれば人を絞め殺すのは可能だろう。
「ヒト、さんとっ……なか、悪い……からっ、は…………けんか、しないかなって……ぐっ、ぅ……今は、来ないで欲しかったって……正直っ、ん、ごめんっ……で、も、でもね、サン……よごれた、カッコのまま……あわ、てて、俺に……会いにっ、来て、くれて……うれ、しか……たよ」
「…………水月の正直な気持ちはいつでもボクに百点満点だね~! それはもう、怖いくらいにさ。ふふ……だよねぇ、水月ボク達の喧嘩嫌がるもんねぇ、そりゃ来て欲しくなかったよね~。でもヒト兄貴関係なしで考えたら、ボクに会えたのは嬉しかったんだねぇ。ふふふふ……か~わ~い~いぃ~!」
「げほっ、けほっ、けほ……はぁ、はぁ」
正直に話した方がいいだろうという俺の選択は正解だった。サンは「来て欲しくなかった」の言葉に傷付くことなく、俺の首を絞めるのをやめて俺を愛でてくれている。俺は安堵と幸福の中、サンの体温とヒトの複雑な視線を感じていた。
「ごちそうさまでした」
最初は緊張の食事会かと思われたが、多少いつもより気を遣うだけの幸せなハーレムタイムだった。
「……上に部屋を取ってあるんです」
ヒトは今日デートプランを考えているのだろうとは予想していたが、まさか食事の後はすぐに部屋にしけ込むとは……そんなに俺に抱かれたいのか? 可愛い! たっぷり愛してやろうじゃないか。
「ボクも行く~」
「…………では、三人で」
「予約、二人だったのに大丈夫なんですか? って言ったらレストランもですけど……」
「シャワー使う時に追加してもらったよ~」
「よくあの格好でこのホテル入れてもらえたよね……」
「ボクこのホテル顔パスだからね」
サンはふふんと自慢げな顔をしている。ホテルに顔パスとはどういう意味だろう。サンは元とはいえヤクザの組長だから、やはりそういうことなのだろうか。
「け……けつもち、ってヤツ?」
「……サンはここのホテルの大広間に飾る絵を描いたんですよ。顔パスという訳ではありませんが……まぁ、入りやすいのは確かですね」
「ケツモチって、ふふふ……水月ってば、ふふふふ」
「そんなに笑わないでよぉ!」
「チェーン店のケツモチはまず出来ないんだよ? 水月は本当に可愛いねぇ」
なんか……怖い返事だな。ちゃんとしたヤクザ知識で返されてしまったぞ。
「さ、行こ行こ~。ラブホじゃないけど汚さないように気を付ければちょっとくらいヤってもいいでしょ」
「ヤってもって……」
席を立つとサンは俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。俺に介助を任せているのではない、恋人として腕を組んでいるようだ。
「兄貴、そのつもりだったんだろ?」
「分かってるなら帰ってくださいよ……私あなたと鳴雷さんのを見るのも、私のをあなたに見られるのも嫌ですよ」
「ボクも嫌。兄貴が帰れば?」
「……っ、いい加減にしろ! こっちは大枚はたいていい飯と部屋用意して雰囲気作ろうとしてたんだぞ! それをっ……それが、あなたのせいで全て台無しなんですよ分かってますか!?」
「いい飯と部屋で雰囲気作りなんて、不倫のくせに力入ってるねぇ~……不倫なんだから、適当にラブホでヤるだけにしておくべきだろ? ねぇ水月」
俺に振らないで欲しい。どっちの味方をしても、中立を保とうとしても痛い目を見るのは確実だ。
「鳴雷さんは私の初めての理解者なのに……!」
「三十路の男が気っ持ち悪いなぁ~」
「……っ、鳴雷さん盗らないでっ!」
「はぁ……? ボクが先に水月を見つけたんだ! 横入りして抜け駆けなんて許さない、ボクより先に抱かれやがったら水月の食いちぎって二度とボク以外の腹に入れられないようにしてやる!」
兄弟喧嘩を早く止めなければ俺への被害が一番大きくなる。
「まぁまぁまぁまぁ! 俺は居なくならないし減らないから! ねっ! な、仲良く……して?」
「……鳴雷さんが言うなら、大人しくするくらいは」
「やだ」
ふい、とサンはそっぽを向いた。怒りを抑えて俺の願いを聞こうとしたヒトは苛立ちが頂点に達したようで、しかしサンに手を上げてはならないという理性はギリギリ働いたようで、激しく地団駄を踏んだ。
「ヒ、ヒトさん……ヒトさん、落ち着いて。ね、ほら、俺ここに居ますから」
「盗られないでぇ……」
「俺を盗るなんて誰にも出来ませんよ。泣かないでください、早く部屋行きましょう」
サンに左腕を抱かれ、ヒトの腰を右手で抱き、両手に花の喜びよりも緊張の方が勝る。この二人の手綱を上手く握って平和に今日を終わらせられたなら、俺は達成感と自信を得られるだろう。
「わ……綺麗な部屋ですね」
部屋番号を聞いて、二人を連れてそこへ向かう。扉をくぐや、オシャレで高級感のある内装に気圧された。
「鳴雷さんとのデートのために一番眺めのいい部屋を調べて予約したんです……なのにコイツにぶち壊されました」
ヒトは愚図るように呟いた。
「まぁまぁ……気を取り直してイチャイチャしましょ。そのつもりでプラン立ててくれたんですよね、ちょっと崩れたって最後がよければまぁ及第点って感じじゃないですか?」
「…………完璧に出来なかったのに、あなたは私に失望しないんですね。それほど私を見込んでくれているということ……一度や二度の失敗では、私を捨てる方が損が多いということですよね。嬉しいです」
「そんな難しいように考えないでください、あなたを愛しているからあなたが完璧になんて出来なくていいんです、あばたもえくぼって言うでしょう? 完璧にしようって頑張ってくれるのが何より愛おしい……」
抱き締めたいのに、ヒトの方が背が高いから俺が抱きついているようになってしまって不格好だ。
「鳴雷さん……私……」
抱きついて見上げたヒトの表情が突然驚愕に染まる。綱引きの綱のように太い、真っ黒な三つ編みが俺の首にぐるりと回ったからだろう。
「……みーつーき」
「んっ……くるしい、よ。サン……」
きゅ、と首をその美しい黒髪で絞められる。首が圧迫され顔が熱くなる。声が出しにくい。艶やかな髪が薄い喉の皮膚に食い込む感触が心地いい。
「サン! 離しなさい!」
「……やだ。ねぇ……水月、兄貴がこのデート邪魔されたくなくてボクを遠ざけようとしてたのは、まぁ、兄貴はそういうヤツだから……アレなんだけど~…………水月も、ボクが邪魔って思ったのかな? ボクと今日、最初にあった時。正直に答えてね」
ぎゅ……と首を絞める力が強くなる。サンの髪の長さと丈夫さがあれば人を絞め殺すのは可能だろう。
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「げほっ、けほっ、けほ……はぁ、はぁ」
正直に話した方がいいだろうという俺の選択は正解だった。サンは「来て欲しくなかった」の言葉に傷付くことなく、俺の首を絞めるのをやめて俺を愛でてくれている。俺は安堵と幸福の中、サンの体温とヒトの複雑な視線を感じていた。
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