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地獄のような空気 (水月+ヒト・サン)
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若神子製薬、俺の母の勤め先にして、日本有数の大企業、世界的な製薬会社だ。
(規模感で言うならアンブレラ的な感じの……)
その社長が今、ここに居る。これから同じテーブルで食事を取ろうとしている。肩書きだけでも十二分に緊張する要素だが、もちろん緊張の要素は肩書きだけではない。
(あのウサギマスク、店の人とかどう思ったんでしょう)
昨日会った前社長だという男は雑面を着けていた。雑面というのは雅楽なんかで見られる、布製の面のことだ。和風ファンタジーもののアニメやゲームでは神様や神職の方が身に付けているイメージがあるので、オカルト的な雰囲気があって、アレはまぁよかった。だが革製のウサギマスクは異様としか言い様がない、あんなものを見かける機会なんてデザフェスかSMクラブくらいしかないだろう。
(金髪碧眼の王子様ビジュのネイさんに、ウサギマスクの白スーツ……絵本合わせのコスプレイヤーかって感じですよな、ハハッ)
マスクもスーツも白いから、まさにホワイトラビットって感じだ。惜しいのはネイのような王子様が不思議の国のアリスに登場しないことだな。
(いや権力者だからとか、マスクが異様だとか、このプレッシャーはそれだけじゃ説明つかないんですよ)
荒凪やスイ、ミタマがたまにやる霊力のお漏らしってヤツか? 霊力差で相手を圧倒して威嚇する、アレか? なんで今やってるの? 超すごい霊能力者なんだよねあの人、もっとコントロールしてよ、こんな緊張状態じゃ蕎麦すら喉を通るか怪しいよ。
「……あの」
社員達が静かにメニューを選ぶ中、ヒトが社長に話しかけた。流石ヒト、最強のKY男子、いや、KBTだ。
「ボス、いえ、真尋さんの上司なんですよね。若神子さん……でよろしいでしょうか。はじめまして。私、ヒトと申し──」
「興味無い」
「──ま、す…………えっ?」
嘘だろ、最低限社会人らしい対応すらしないのか?
(こっ、えぇええっ! 怖ぇ! 権力者とかそういうのじゃない、もうなんか生き物としてのジャンルが違う! こんなんもうアレじゃん、宇宙の帝王とか、百年生きた吸血鬼とか、蟻の王とか、呪いの王とか、そんな感じの態度じゃん!)
俺が言われた訳でもないのにもう泣きそうだ。
「……ヒト、言い忘れてたが社長は他人に興味が無い。お前は俺の犬共を纏めてるから、なんかこう……国王に対する村長的なノリで行ってみたのかもしれねぇけど、社長にとってお前らは飼い犬についたノミみたいなもんで……お前はノミの長老みたいなもんだから……ノミの長老が人間に話しかけるとか意味分かんないだろ、だからもう……黙っとけ。ごめんな」
「分かり、ました……………………ノミ、ノミの長老……ヒラのノミより、マシ……?」
ノミ呼ばわりされてもまだ自分より下を探して安心しようとしている、流石ヒトだ。
「ねぇ」
「……! はい、なんでしょう社長」
「僕はペットのノミを放置するような常識のない飼い主じゃないつもりなんだけど」
「はい、それは分かっております……すみません、たとえが他に思い付かず」
「……まぁ、他の生き物を調教する犬なんて聞いたことがないからね。君以外は。君は本当に賢い犬だ。でも、僕を少し不愉快にさせるのと、ソレに微妙なたとえで納得を与えるの、どちらが大切なのか分かるほどの知能はないみたいだね」
いつの間にか全員注文を終えたようで、タブレットとタッチペンがぶつかる音すら聞こえてこない。静かだ。
(地獄のような空気ッッ! 耐えられませんぞこんなん……こんな社長が居る会社でママ上は毎日働いてるんですか? うわぁ……尊敬しまっそママ上)
秘書、胃潰瘍になったりしないのかな。
ほどなくして料理が届き始める。美味しそうな匂いによって緊張が少しほぐれたような気がした。
「紐ほどいて」
社長の言葉の意味が分からず彼の方を見ると、秘書が立ち上がって社長の後頭部に触れていた。革製のマスクを外すようだ。
「…………ふぅ」
ウサギマスクが外れ、社長が軽く頭を振る。革製のマスクを着けていたとは思えないサラサラの白髪が揺れ、マスクの下の美顔が顕になる。
「美っっ人っ!? そんなバカな、SAN値ガン減らしレベルの美形が俺とアキ以外にも居るなんて!」
「何、君」
「鳴雷水月と申します! お友達からよろしくお願いします!」
「気持ち悪……」
「えっえっ何興奮する今まで怖かった言動がもう全部興奮する! っていうか、身長からして怪しかったけど……童顔めじゃない? 若干ショタっぽさない? ひぇえオラもっと美ショタに罵られてぇぞ……!」
「…………はぁ」
「あーっ! 罵倒が逆効果だと分かり侮蔑の視線すら与えないけれども鬱陶しいから思わず出てしまったため息! ありがとうございますありがとうございます美ショタのため息美味しいです!」
「ふっざけんなクソガキ! ユキ様の吐く息は俺の酸素だぞ表出ろ!」
「こいつの前で名前呼ばないで」
前社長は目元を見せてくれなかったけれど、それ以外の部位でかなりの美人だと分かっていた。だから社長の素顔にも期待していたが、これほどだったとはな……もう吐くほどの緊張感はない。圧迫感も恐怖も、美人から与えられるのなら不快ではない。
「……ちょっと気持ち悪かったけど、元気出たみたいでよかったよ。水月」
「あ、うん……ごめんね心配かけて」
「ね、水月、うなぎ一切れとえび天交換してよ」
「えび天は主役だから丸々交換はちょっとなぁ……一口ずつにしない?」
サンと食事を交換する余裕まで生まれた。美人万歳。
(規模感で言うならアンブレラ的な感じの……)
その社長が今、ここに居る。これから同じテーブルで食事を取ろうとしている。肩書きだけでも十二分に緊張する要素だが、もちろん緊張の要素は肩書きだけではない。
(あのウサギマスク、店の人とかどう思ったんでしょう)
昨日会った前社長だという男は雑面を着けていた。雑面というのは雅楽なんかで見られる、布製の面のことだ。和風ファンタジーもののアニメやゲームでは神様や神職の方が身に付けているイメージがあるので、オカルト的な雰囲気があって、アレはまぁよかった。だが革製のウサギマスクは異様としか言い様がない、あんなものを見かける機会なんてデザフェスかSMクラブくらいしかないだろう。
(金髪碧眼の王子様ビジュのネイさんに、ウサギマスクの白スーツ……絵本合わせのコスプレイヤーかって感じですよな、ハハッ)
マスクもスーツも白いから、まさにホワイトラビットって感じだ。惜しいのはネイのような王子様が不思議の国のアリスに登場しないことだな。
(いや権力者だからとか、マスクが異様だとか、このプレッシャーはそれだけじゃ説明つかないんですよ)
荒凪やスイ、ミタマがたまにやる霊力のお漏らしってヤツか? 霊力差で相手を圧倒して威嚇する、アレか? なんで今やってるの? 超すごい霊能力者なんだよねあの人、もっとコントロールしてよ、こんな緊張状態じゃ蕎麦すら喉を通るか怪しいよ。
「……あの」
社員達が静かにメニューを選ぶ中、ヒトが社長に話しかけた。流石ヒト、最強のKY男子、いや、KBTだ。
「ボス、いえ、真尋さんの上司なんですよね。若神子さん……でよろしいでしょうか。はじめまして。私、ヒトと申し──」
「興味無い」
「──ま、す…………えっ?」
嘘だろ、最低限社会人らしい対応すらしないのか?
(こっ、えぇええっ! 怖ぇ! 権力者とかそういうのじゃない、もうなんか生き物としてのジャンルが違う! こんなんもうアレじゃん、宇宙の帝王とか、百年生きた吸血鬼とか、蟻の王とか、呪いの王とか、そんな感じの態度じゃん!)
俺が言われた訳でもないのにもう泣きそうだ。
「……ヒト、言い忘れてたが社長は他人に興味が無い。お前は俺の犬共を纏めてるから、なんかこう……国王に対する村長的なノリで行ってみたのかもしれねぇけど、社長にとってお前らは飼い犬についたノミみたいなもんで……お前はノミの長老みたいなもんだから……ノミの長老が人間に話しかけるとか意味分かんないだろ、だからもう……黙っとけ。ごめんな」
「分かり、ました……………………ノミ、ノミの長老……ヒラのノミより、マシ……?」
ノミ呼ばわりされてもまだ自分より下を探して安心しようとしている、流石ヒトだ。
「ねぇ」
「……! はい、なんでしょう社長」
「僕はペットのノミを放置するような常識のない飼い主じゃないつもりなんだけど」
「はい、それは分かっております……すみません、たとえが他に思い付かず」
「……まぁ、他の生き物を調教する犬なんて聞いたことがないからね。君以外は。君は本当に賢い犬だ。でも、僕を少し不愉快にさせるのと、ソレに微妙なたとえで納得を与えるの、どちらが大切なのか分かるほどの知能はないみたいだね」
いつの間にか全員注文を終えたようで、タブレットとタッチペンがぶつかる音すら聞こえてこない。静かだ。
(地獄のような空気ッッ! 耐えられませんぞこんなん……こんな社長が居る会社でママ上は毎日働いてるんですか? うわぁ……尊敬しまっそママ上)
秘書、胃潰瘍になったりしないのかな。
ほどなくして料理が届き始める。美味しそうな匂いによって緊張が少しほぐれたような気がした。
「紐ほどいて」
社長の言葉の意味が分からず彼の方を見ると、秘書が立ち上がって社長の後頭部に触れていた。革製のマスクを外すようだ。
「…………ふぅ」
ウサギマスクが外れ、社長が軽く頭を振る。革製のマスクを着けていたとは思えないサラサラの白髪が揺れ、マスクの下の美顔が顕になる。
「美っっ人っ!? そんなバカな、SAN値ガン減らしレベルの美形が俺とアキ以外にも居るなんて!」
「何、君」
「鳴雷水月と申します! お友達からよろしくお願いします!」
「気持ち悪……」
「えっえっ何興奮する今まで怖かった言動がもう全部興奮する! っていうか、身長からして怪しかったけど……童顔めじゃない? 若干ショタっぽさない? ひぇえオラもっと美ショタに罵られてぇぞ……!」
「…………はぁ」
「あーっ! 罵倒が逆効果だと分かり侮蔑の視線すら与えないけれども鬱陶しいから思わず出てしまったため息! ありがとうございますありがとうございます美ショタのため息美味しいです!」
「ふっざけんなクソガキ! ユキ様の吐く息は俺の酸素だぞ表出ろ!」
「こいつの前で名前呼ばないで」
前社長は目元を見せてくれなかったけれど、それ以外の部位でかなりの美人だと分かっていた。だから社長の素顔にも期待していたが、これほどだったとはな……もう吐くほどの緊張感はない。圧迫感も恐怖も、美人から与えられるのなら不快ではない。
「……ちょっと気持ち悪かったけど、元気出たみたいでよかったよ。水月」
「あ、うん……ごめんね心配かけて」
「ね、水月、うなぎ一切れとえび天交換してよ」
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