ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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夏休み

がまんがまん、じゅういち

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寝返りすらも打てないようベッドに拘束された俺は、オレンジ色の小さな灯りを天蓋越しに眺めていた。それしか見えるものがないのだ、起き上がることも首を下に向けることも首を絞めることに繋がる。

「……っ、くそ、痒い」

乳首と陰茎にたっぷりと塗り込まれた媚薬の痒みは、部屋が薄暗くなり静かになり、視覚と聴覚が価値を下げることで相対的に触覚が敏感になることで昼間以上の辛さになっている。

「んぅ……?」

痒みに身をよじれば隣で眠っている雪兎が寝心地悪そうに声を漏らす。可愛い声にときめくと同時に、犬が主人の眠りを妨害するという悪辣なミスに罪悪感を覚える。

「はぁ……」

耐えるしかない、身をよじった程度でどうにかなるものでもないのだから。



朝まで痒みに苛まれ続けろくに眠ることも出来なかった俺に、ぐっすり眠ってスッキリした様子の雪兎は残酷な仕打ちを告げた。

「ポチ、そろそろお薬の効果なくなってきただろうし、塗り直そっか」

「そんな……! ユキ様っ、俺、俺一晩中ずっと耐えたんですよっ!? ユキ様を起こさないように動かないようにして、気を紛らわすことも出来ないで……それでもずっと!」

媚薬クリームの容器を持った雪兎は深いため息をつき、赤紫の瞳で冷たく俺を見下ろし、たった一言呟いた。

「だから?」

「え……?」

思わぬ一言に素っ頓狂な声を漏らすと、雪兎は媚薬を置いて鞭を持った。持ち手から短い紐が幾本も伸びた、バラ鞭をだ。

「ポチ、自分の頑張りをそんなふうに主張するなんてみっともないと思わない? 君は犬なんだから、僕のために耐えるのは当然のことだろう?」

「え? ゃ、あの……ひぁあっ!?」

鞭が太腿に振り下ろされた。幾本もの紐の先端には裁縫で言う玉止めがあり、その玉が鞭の威力を上げる。右太腿の広範囲に痛みを与えられた俺は、痛みに加えてパンという鞭の音にも酔っていた。

「自分の価値が分かっていなかったり、努力していることを主人に全く悟らせないのはいけない。でも犬には謙虚さも欲しいよ、分かったかい? この……バカ犬っ!」

「あっあぁあんっ! ん、ぅ……はい、分かりました、ご教授感謝します、ユキ様……」

両方の太腿を打たれた。肌の表面に与えられたヒリヒリという痛みを快感とし、痒みの辛さはマシになっていた。

「うん。でも、僕のこと起こさないように頑張ってたなんてえらくて可愛いよ。流石だね、僕のポチ」

「……はい、ありがとうございます」

痛みの後の褒め言葉はたまらなく甘い、その甘さにうっとりとした俺は頬を撫でる雪兎の手に自分から擦り寄り、贅沢にも首が絞まる快感まで得た。
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