ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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夏休み

にっぷるりんぐ、いち

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鎖が揺れる時や巻き取られる時に鳴るジャラジャラという音は結構好きだ。

「ぅ……ドロドロ」

海老反りで宙吊りにされていた身体は数分で床に下ろされ、拘束具も外され、俺は自由の身となった。吊られている間に床に零した精液を初めとした体液で汚れた床に下ろされたから、腹を中心に身体がドロドロに汚れた。

「ポチ、ポチ、早く起き上がって見せて」

「はい……?」

まだ快楽で足が震えているし、拘束を解かれたばかりですぐには立ち上がれない。なので尻は冷たい床につけたまま、正座を崩した姿勢を取った。

「わぁっ……! やっぱりいいねぇ、ポチの肌は本当に精液が映えるよ」

「……どうも」

「一番いい色なんだよねぇ、薄過ぎず濃過ぎない褐色の肌! 日焼けしてない素の色だっていうんだからすごいよぉ」

「はぁ……ありがとうございます」

褒められて自分の腕を眺める。内側も外側も同じ色だ。腹にべっとりと付着した白濁液は確かに褐色の肌には目立つが、俺に言わせてみれば「だから何だ目立ってるだけだろ」という話で、まぁ雪兎が満足なら俺はそれでいいのだが……雪兎の感覚が理解出来ないのは寂しいな。

「大学に入ってから色んな国の人と話す機会があったんだけどね、日焼けなしの肌がポチみたいな褐色って本当に少ないんだよ!」

「そうなんですか……? こっちなら……ほら、黒人さんとかいらっしゃるでしょう」

「色黒の日本人とは全然違うよ! 全く、適当なこと言わないでよね」

「すいませんね、外国の方なんて映画くらいでしか見ないんですよ一般庶民は」

足に力が入るようになってきた。立ち上がると少しふらついたが、まぁ歩ける程度だ。

「……っていうか僕、色黒が好きなんじゃないからね? ポチが好きだから、ポチの肌の色も、目も、筋肉も好きなんだ。僕の好みにピッタリ合う君を見つけたんじゃなくて、君を好きになったから君の全てが僕の好みになったんだよ」

「…………卵が先かニワトリが先かみたいな話ですか?」

「どっちが先か今言ったよね?」

「……でも、ユキ様は俺の見た目が気に入ったから俺を買ってくださったんでしょう」

両親を失った事故、その取材にウンザリして記者を殴った事件、その二つによって俺の顔は全国ネットのニュースで何度か流れた。それを見た雪兎が俺を欲しがり、彼の父親である雪風が俺を引き取っていた俺の叔父に金を渡して俺を養子にした──つまり、俺のシンデレラストーリーは俺の見た目が違えばありえなかったのだ。

「違うってば! 話さなかったっけ? 僕はね、君の見た目じゃなくて、君の目が気に入ったの」

「……だから三白眼が好きなんですよね? 三っていうか四ですけど。見た目じゃないですか」

「もー……最後まで聞いて! ポチの目はね、死んでるの。死んだ魚の目ってやつなの」

俗に言うレイプ目だろ? 目に光がないなんて酷い言いがかりだ、黒目が小さくて分かりにくいだけだと俺は前から主張しているのだが。

「焦点合ってないし、笑ってても悲しんでても胡散臭い。今にも自殺しちゃいそうな感じなの。空っぽなんだよ、すっごく危ういの……僕はそれが好き。空っぽの君に、僕を詰め込みたくなった……この人なら僕だけを見ててくれるって思ったから、だから欲しがったの。って前にも言った気がするけど」

「前に聞いたの覚えてますよ……もう俺の中はユキ様でいっぱいで、あなたという生きる希望がありますから……この小さな瞳もキラキラと輝いて、ユキ様好みではないのでは?」

「ううん、目は死んでるよ」

それは普通にショックだな。

「……僕だけを見てくれる可愛い犬が、好みじゃないわけないだろ? 可愛いよポチ、僕と雪風が居なくちゃもう生きていけない君が、強そうな見た目のくせに弱い君が、情けない君が、大好き」

哀れみとは全く別物の、歪んだ性癖。それをぶつけられて嬉しくなった俺は口角を吊り上げ、胡散臭いらしい笑顔を見せた。
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