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夏休み
どっぐらん、ご
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雪兎に連れられてカフェの中に戻ると、他の連中は飼い犬にオヤツをあげに行ったらしく居なかった、一人を除いて。
「……二人きり惜しかったですね」
「そういうこと言わないの」
「いいじゃないですか、どうせ日本語分かんないんだし」
少しは傍の人間が分からない言語で話しているストレスを味わえばいい。
『あの……若神子さんは、若神子グループの御曹司なんですよね』
『あぁ、うん。それがどうかしたの?』
『……ようやく会えた。神を名乗る冒涜的な一族若神子! 動くなっ!』
向かいに座っていた男が突然ポケットから拳銃を取り出した。俺は咄嗟に雪兎を椅子から引きずり落としつつ、もう片方の手で銃を持った男の右手を叩いてまず弾道を逸らす──発砲音。耳に残るのはキィィン……という不快音、聴覚は一時的に機能を失った。
だが、怯むことはない。視覚さえあればこの先の制圧は容易。拳銃を持つ右手を両手で掴み、引き金に指をかけた。
「痛っ……へっ? ポ、ポチ、ポチっ!?」
起き上がろうとした雪兎の胸を踏み、明後日の方向に全弾打ち尽くす。男の左手がポケットからナイフを取り出したのでナイフを奪い、ナイフを杭としてその手を机に固定した。痛みに悶絶した男が銃を離したのでそれを鈍器として使い、男を気絶させた。
「……制圧完了しました」
こめかみを殴り抜いてやっただけで男はぐったりと倒れた。すぐにポケットなどを探り、予備の弾を発見。奪った銃に補充。弾は六発。他の奴らがグルでも弾数は足りる。
「嘘……この人、僕を……そんな」
若神子グループは大企業ということ以外にも、オカルト方面の仕事が要因となって宗教的な理由で命を狙われることも多い。
大学ではボディガードがべったりだそうだが、今日の警備は緩めだった。事実としてこのカフェには俺と雪兎とこの男の三人しか居なかった。
「どうしますかユキ様、この窓から少なくとも二人は撃てますよ」
「……何言ってるの? それ置いてよっ、ポチは銃なんて持たないで!」
聞こえない。習わされた読唇術があるとはいえ、雪兎の可愛い声が聞けないのは苦痛だ。
「その命令は聞けません」
銃は武器としても脅しとしても使える、どこかへ置いて敵に取られてはまずいし、離すわけにはいかない。
「……車が来た」
銃声を聞いてかカフェの入口の前に黒い高級車が横付ける。カフェの前を飾っていた鉢植えなどが割れてしまっている。
「ユキ様、こちらへ」
俺は雪兎の頭と胴を庇いながら、使用人達を肉壁として隠れながら、大急ぎで車に乗り込み、扉が閉まる寸前に銃を投げ捨てた。
「飛ばします」
端的な運転手の言葉に慌てて雪兎のシートベルトを締め、発進してから自分のものも締めた。この車の窓はライフルさえ通さない、もう安心していいだろう。
『もしもし……あぁ、うん……ごめん、帰ったよ。そう、その人……僕を殺そうとした。ホント信じらんない……』
雪兎はご学友からの電話に出ている、彼らは何も知らなかったのか? 共犯か? 今後の雪兎の安全のために撃っておくべきだったんじゃないのか? 俺はちゃんと正解の選択肢を選べたのか?
「身辺調査したはずじゃなかったの……? はぁ……あぁ、もう……やだ」
「……ユキ様」
中学時代の旅行で誘拐されかけた件とは段違いの恐怖だろう。俺はそっと雪兎の肩を抱いた。
「…………びっくりしたよ」
「はい、まさかご学友に紛れているなんて」
「違う……そっちもだけど、君。訓練なんかしなくていいって言ったのに……結構本格的な戦闘訓練受けたみたいだね。射撃の訓練もやったの? 君、その気になれば人殺せるの?」
「その二つの質問の答えは同じです。はい」
雪兎は顔を上げ、赤紫の瞳を潤ませて俺を睨んだ。怖くて泣いてしまっているのだと頬を撫でると手を払われた。
「今回は助かったよ、命の恩人だ。ありがとう。でも二度としないで! 君は愛玩犬なんだ、戦闘訓練なんてやめて! 銃なんて二度と持たないで!」
「…………ユキ様、でも」
「でもも何もない! 後で雪風にも連絡しておく、やめさせろってね」
ふいと顔を背けてしまった雪兎に、俺に訓練を受けるよう言ったのは雪風だと言いそびれてしまった。
「……二人きり惜しかったですね」
「そういうこと言わないの」
「いいじゃないですか、どうせ日本語分かんないんだし」
少しは傍の人間が分からない言語で話しているストレスを味わえばいい。
『あの……若神子さんは、若神子グループの御曹司なんですよね』
『あぁ、うん。それがどうかしたの?』
『……ようやく会えた。神を名乗る冒涜的な一族若神子! 動くなっ!』
向かいに座っていた男が突然ポケットから拳銃を取り出した。俺は咄嗟に雪兎を椅子から引きずり落としつつ、もう片方の手で銃を持った男の右手を叩いてまず弾道を逸らす──発砲音。耳に残るのはキィィン……という不快音、聴覚は一時的に機能を失った。
だが、怯むことはない。視覚さえあればこの先の制圧は容易。拳銃を持つ右手を両手で掴み、引き金に指をかけた。
「痛っ……へっ? ポ、ポチ、ポチっ!?」
起き上がろうとした雪兎の胸を踏み、明後日の方向に全弾打ち尽くす。男の左手がポケットからナイフを取り出したのでナイフを奪い、ナイフを杭としてその手を机に固定した。痛みに悶絶した男が銃を離したのでそれを鈍器として使い、男を気絶させた。
「……制圧完了しました」
こめかみを殴り抜いてやっただけで男はぐったりと倒れた。すぐにポケットなどを探り、予備の弾を発見。奪った銃に補充。弾は六発。他の奴らがグルでも弾数は足りる。
「嘘……この人、僕を……そんな」
若神子グループは大企業ということ以外にも、オカルト方面の仕事が要因となって宗教的な理由で命を狙われることも多い。
大学ではボディガードがべったりだそうだが、今日の警備は緩めだった。事実としてこのカフェには俺と雪兎とこの男の三人しか居なかった。
「どうしますかユキ様、この窓から少なくとも二人は撃てますよ」
「……何言ってるの? それ置いてよっ、ポチは銃なんて持たないで!」
聞こえない。習わされた読唇術があるとはいえ、雪兎の可愛い声が聞けないのは苦痛だ。
「その命令は聞けません」
銃は武器としても脅しとしても使える、どこかへ置いて敵に取られてはまずいし、離すわけにはいかない。
「……車が来た」
銃声を聞いてかカフェの入口の前に黒い高級車が横付ける。カフェの前を飾っていた鉢植えなどが割れてしまっている。
「ユキ様、こちらへ」
俺は雪兎の頭と胴を庇いながら、使用人達を肉壁として隠れながら、大急ぎで車に乗り込み、扉が閉まる寸前に銃を投げ捨てた。
「飛ばします」
端的な運転手の言葉に慌てて雪兎のシートベルトを締め、発進してから自分のものも締めた。この車の窓はライフルさえ通さない、もう安心していいだろう。
『もしもし……あぁ、うん……ごめん、帰ったよ。そう、その人……僕を殺そうとした。ホント信じらんない……』
雪兎はご学友からの電話に出ている、彼らは何も知らなかったのか? 共犯か? 今後の雪兎の安全のために撃っておくべきだったんじゃないのか? 俺はちゃんと正解の選択肢を選べたのか?
「身辺調査したはずじゃなかったの……? はぁ……あぁ、もう……やだ」
「……ユキ様」
中学時代の旅行で誘拐されかけた件とは段違いの恐怖だろう。俺はそっと雪兎の肩を抱いた。
「…………びっくりしたよ」
「はい、まさかご学友に紛れているなんて」
「違う……そっちもだけど、君。訓練なんかしなくていいって言ったのに……結構本格的な戦闘訓練受けたみたいだね。射撃の訓練もやったの? 君、その気になれば人殺せるの?」
「その二つの質問の答えは同じです。はい」
雪兎は顔を上げ、赤紫の瞳を潤ませて俺を睨んだ。怖くて泣いてしまっているのだと頬を撫でると手を払われた。
「今回は助かったよ、命の恩人だ。ありがとう。でも二度としないで! 君は愛玩犬なんだ、戦闘訓練なんてやめて! 銃なんて二度と持たないで!」
「…………ユキ様、でも」
「でもも何もない! 後で雪風にも連絡しておく、やめさせろってね」
ふいと顔を背けてしまった雪兎に、俺に訓練を受けるよう言ったのは雪風だと言いそびれてしまった。
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