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お盆
きこく、いち
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暗殺未遂事件の翌朝、夕飯に盛られた睡眠薬でぐっすりと眠った雪兎を自家用ジェット機に乗せた。軽い身体に庇護欲が湧いて、ずっと抱えたままでいたいと思ったのをよく覚えている。
「……ユキ様、そろそろ機嫌治しませんか? おじい様の誕生日プレゼント考えましょうよ、せめてお祝いの言葉だけでも言いに行きましょう?」
祖父の誕生日は七夕だったが、もう一ヶ月弱前のことだ。俺はすぐに用意してもらっていた材料で祖父を模した低クオリティのぬいぐるみを作ったが、雪兎は強制帰国に拗ねている。
「ポチ一人で行ってくれば」
「……そうします」
しばらく一人にしておいた方がいい、訓練を受けた俺という存在も拗ねている原因のようだから。そう判断した俺は完成したぬいぐるみを持ち、祖父の元へ向かった。
「遅い」
酔っ払ってしまいそうなくらいのアルコール消毒を受けた先、別邸に住む祖父はぬいぐるみを受け取ってそう吐き捨てた。
「俺の誕生日はもう三週間も前だ」
「すいません……俺もまさかあんな問答無用でアメリカに連れて行かれるとは思いませんで」
俺の言い訳なんて聞かない祖父はぬいぐるみをしばらく眺めた後、瓶にぬいぐるみを入れた。ちょうどいい瓶のサイズに俺は雪風も似たような飾り方をしていたことを思い出し、祖父が俺の手作りぬいぐるみを心待ちにしてくれていたことを嬉しく思った。
「……ニヤニヤするな。そろそろ盆だぞ」
「まだ二週間くらいありますよ。やっぱり書き入れ時だったりします?」
「いや、盆に帰ってくる霊は善良なものがほとんどだし、盆の空気感で力を増す悪霊の相手なんて若神子家の仕事じゃない」
「……まぁ何か土地神様とか相手にしてましたもんね」
オカルト関係の仕事についてはまだまだ分からないことが多い、雪兎がまた国を離れるまでは雪兎の傍に居たいが、そちらも気になる。
「…………盆って、俺の父さんと母さんも帰ってくるんですかね」
「さぁな……あの世の仕組みはよく分からんが、生前の性格からして来そうなのに来ないってヤツも居るからな。あまり期待はするなよ、でも一応精霊馬は作っとけ」
去年の盆は作っていない、だから来なかったのかな。
「……そういえばお前、母親の方が犬鳴塚なのか。父親が婿入りしてるんだな、珍しい」
祖父は書類と俺に交互に視線を寄越す。
「そうですかね? まぁ嫁入りと婿入りどっちが多いって言ったら少ない方かもしれませんけど」
「犬鳴塚の家の方に帰ってみるのも手かもな、会いたい生者がいても家に引かれる霊もいる」
そんな猫みたいな。
「父親の方は……この苗字、へぇ……面白いこともあるもんだ」
「そっちの家のことは俺よく知りませんよ、法事には行きましたけどそれ以外では連絡もなくて」
「だろうな。お前の親父、形州 真琴は兄である真國を刺し、家出……と調査報告書にはある」
「……親子二代の問題児を養子にしてくださり、感謝してもし切れませんよ」
皮肉なのが伝わったようで祖父はくつくつと笑った。
「親の経歴なんざどうでもいいから調べさせていなかったが、動機は何だったんだ? 今になって気になってきた」
「まぁ真國の叔父はクソですからね、一緒に育てば家出のついでに刺すでしょう。俺も噛み付いたことはありますよ」
「へぇ? 何やったんだ」
「だから噛み付いたんです」
「……くってかかった、の意味じゃなく? 本当に? はは……犬らしいな」
生来の噛み癖のおかげで祖父を喜ばせるネタが出来た。実も義理もクソ野郎な俺の叔父運のなさは恨めしいが、ようやく役に立った。祖父の笑顔は子供らしくて癒される、守りたくなる性質のものだ。
「……ユキ様、そろそろ機嫌治しませんか? おじい様の誕生日プレゼント考えましょうよ、せめてお祝いの言葉だけでも言いに行きましょう?」
祖父の誕生日は七夕だったが、もう一ヶ月弱前のことだ。俺はすぐに用意してもらっていた材料で祖父を模した低クオリティのぬいぐるみを作ったが、雪兎は強制帰国に拗ねている。
「ポチ一人で行ってくれば」
「……そうします」
しばらく一人にしておいた方がいい、訓練を受けた俺という存在も拗ねている原因のようだから。そう判断した俺は完成したぬいぐるみを持ち、祖父の元へ向かった。
「遅い」
酔っ払ってしまいそうなくらいのアルコール消毒を受けた先、別邸に住む祖父はぬいぐるみを受け取ってそう吐き捨てた。
「俺の誕生日はもう三週間も前だ」
「すいません……俺もまさかあんな問答無用でアメリカに連れて行かれるとは思いませんで」
俺の言い訳なんて聞かない祖父はぬいぐるみをしばらく眺めた後、瓶にぬいぐるみを入れた。ちょうどいい瓶のサイズに俺は雪風も似たような飾り方をしていたことを思い出し、祖父が俺の手作りぬいぐるみを心待ちにしてくれていたことを嬉しく思った。
「……ニヤニヤするな。そろそろ盆だぞ」
「まだ二週間くらいありますよ。やっぱり書き入れ時だったりします?」
「いや、盆に帰ってくる霊は善良なものがほとんどだし、盆の空気感で力を増す悪霊の相手なんて若神子家の仕事じゃない」
「……まぁ何か土地神様とか相手にしてましたもんね」
オカルト関係の仕事についてはまだまだ分からないことが多い、雪兎がまた国を離れるまでは雪兎の傍に居たいが、そちらも気になる。
「…………盆って、俺の父さんと母さんも帰ってくるんですかね」
「さぁな……あの世の仕組みはよく分からんが、生前の性格からして来そうなのに来ないってヤツも居るからな。あまり期待はするなよ、でも一応精霊馬は作っとけ」
去年の盆は作っていない、だから来なかったのかな。
「……そういえばお前、母親の方が犬鳴塚なのか。父親が婿入りしてるんだな、珍しい」
祖父は書類と俺に交互に視線を寄越す。
「そうですかね? まぁ嫁入りと婿入りどっちが多いって言ったら少ない方かもしれませんけど」
「犬鳴塚の家の方に帰ってみるのも手かもな、会いたい生者がいても家に引かれる霊もいる」
そんな猫みたいな。
「父親の方は……この苗字、へぇ……面白いこともあるもんだ」
「そっちの家のことは俺よく知りませんよ、法事には行きましたけどそれ以外では連絡もなくて」
「だろうな。お前の親父、形州 真琴は兄である真國を刺し、家出……と調査報告書にはある」
「……親子二代の問題児を養子にしてくださり、感謝してもし切れませんよ」
皮肉なのが伝わったようで祖父はくつくつと笑った。
「親の経歴なんざどうでもいいから調べさせていなかったが、動機は何だったんだ? 今になって気になってきた」
「まぁ真國の叔父はクソですからね、一緒に育てば家出のついでに刺すでしょう。俺も噛み付いたことはありますよ」
「へぇ? 何やったんだ」
「だから噛み付いたんです」
「……くってかかった、の意味じゃなく? 本当に? はは……犬らしいな」
生来の噛み癖のおかげで祖父を喜ばせるネタが出来た。実も義理もクソ野郎な俺の叔父運のなさは恨めしいが、ようやく役に立った。祖父の笑顔は子供らしくて癒される、守りたくなる性質のものだ。
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