ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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お盆

きこく、に

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帰国してから雪兎は笑顔を見せてくれなくなっていた。いや、顔すら見せてくれない日もあった。俺がぬいぐるみ作りに夢中になっていたのも原因の一つかもしれないが、ベッドにうつ伏せになったまま一日を過ごすなんて不健康すぎる。
何が言いたいかと言うと、見た目は子供である祖父の無邪気な笑顔に癒されたのだ。

「……あの、面白いって何がですか?」

「なんのことだ?」

「父さんの旧名見てた時におじい様言ったじゃないですか、面白いこともあるって。父さんの名前に何か見覚えが?」

「……大したことじゃないがな。霊感って分かるか?」

「あると幽霊見えたりするヤツでしょ? 俺全然ですけど、おじい様とか雪風はすごいんですよね」

「俺を十だとしたら、有名な霊能力者はだいたい七くらいだ。この数字は単純な数じゃなく、マグニチュードみたいなもんだと思え」

有名な霊能力者が誰を指しているのかその方面に疎い俺には全く分からないし、マグニチュードみたいなもんだという噛み砕いてくれた説明の意味も分からない。

「お前はゼロだ」

「ゼロ!? えぇ……なんかショックです」

「二学年に一人くらいの割合でいるんだ、俗に言うゼロと書いて零能力者はな」

転校するヤツくらいの割合か。

「幽霊などにとんでもなく鈍感で、鈍感だからこそ霊による被害……霊害や霊障と呼ばれるものを受けにくい。だから、零能力者が霊障を受けたら民間の霊能力者が依頼を受けるのを待っていられない、公的機関が動くべき事態……って感じで指標にされてる。だから各都市に一定の割合でいるんだ。満遍なく散らしてる」

出張だとかで住む場所を操作するのか? フィクションでは何度か見た設定だが、まさか本当にそんなことが出来ているとはな。

「……で、俺もそれだと?」

「形州家ってのは公的機関に登録されてる零能力者の一族のひとつで、その血を引いてるからお前は零能力者だ」

霊感はない方が優性遺伝なのか……最近は顕性遺伝って言うんだっけ?

「母さんの方は何かありますか? 犬鳴塚の方」

「データにはないな。これには零能力者一覧と公的機関のパシリできるレベルの霊能力者しか載ってない、一般人なんだろう」

「……そうですか」

零能力者の一族はそこまで珍しくもないし、特別感がない。形州家も犬鳴塚家も面白みがないな、若神子家ほどの面白みが欲しいだなんて贅沢言わないけれど、もう少し手心が欲しかった。

「…………その、なんだ。お前は肉体的な方面だけでなく、霊的な方面にもタフだということだ。大事な後継ぎを守ってやってくれ」

「……えぇ、言われなくても」

脳裏に雪兎の笑顔が浮かび、また会いたいと胸の中で温かな気持ちが膨らむ。祖父ももう俺に用はないようだし、雪兎の待つ部屋に戻った。

「ゆ~きっ、様ぁー! ただいま戻りました」

雪兎はベッドにうつ伏せに寝転がっていた。返事はない、眠っている訳ではない。足をパタパタ揺らしている。

「……ユキ様、運動不足になっちゃいますから……ほら、仰向けになってください」

雪兎をひっくり返す。彼は枕を抱き締めていて、顔は見えないままだ。俺は一時期祖父の世話をしていた時にしていた足の運動を雪兎に試してみることにした。

「痛かったら言ってくださいね」

血行などをよくするための運動だ。半身不随の祖父用のものだから雪兎が足に力を入れなくても問題ない。

「…………」

視線を感じて雪兎の顔の方を見ると、枕の影から赤紫の瞳がこちらを見つめていた。だが、俺が気付いたことに気付いたのか、また枕に顔が隠れてしまった。
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