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お盆
きこく、ご
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床が冷たい。絨毯も毛布もないから硬い。硬くて冷たい床に寝そべっていると犬だなって感じがして、とても安心する。
「ん……もう、朝か」
起き上がってスマホで時刻を確認し、朝食の時間だななんて呑気に考えた。
「痛たた……」
首が痛い、ヒリヒリする、曲げる度にパリパリと音が鳴る。スマホのライトで指を見ると両手とも赤黒い汚れがついていた。
「チョコ……? 犬はチョコ食べられないです……食べちゃったのかな。じゃあ死んじゃうかも」
ごつんと頭を打った。また寝転がったらしい。らしい? 俺の身体は俺の意思で動くんじゃないのか? 俺のって……俺って誰だ?
「俺は……ポチ?」
床で寝るのは犬なのだから、床に寝転がっている俺はポチだ。証拠に雪兎からもらった赤い首輪が──
「…………あれ、どこ……だろ」
喉からうなじ、顎の裏、鎖骨の辺りまで調べたけれど、その手は赤い首輪に触れない。
「ポチなら……ここに……あるはずなんだけど……ぁー……痛いな」
何だか首が痛い。俺は再びスマホを持ち、首の痛みの正体を知るためにライトをオンにして自撮りを行った。
「おー目付き悪……いや首……」
首全体が、いや、顎の裏や鎖骨の辺りまで真っ赤だ。
「赤い……なんだ、首輪あるんじゃん。俺ポチだわ……ご主人様んとこ行かなきゃ、ユキ様……ユキ様に、朝ごはん……」
立ち上がると頭を打った。屈んで頭をさすっていると声が聞こえた。
「監視カメラの映像から考えてこの辺だと思うが……どこに行ったんだ? 隠れるとこなんかあるか?」
「ぅえぇん……ポチぃ、ポチぃ……ひっく、ひっく……ぐすっ、ぅうぅ……」
「泣くならもっと大声で泣けよ、真尋出てくるかもしんねぇだろ」
雪風の声だ。泣いているのは雪兎だ。どうして泣いているのかは分からないが、俺の名前を呼んでいる。俺にも慰められる。一時はもう無いのかもしれないと思った次の機会がもうやってきた、以前は何が悪かったのかとんと見当もつかないし、改善点が見つからないままなんて不安だが、とりあえず今は頑張らないと。
「ユキ様!」
「ポチっ……? ポチ、ごめ……ポチっ!?」
「は? 階段裏? お前犬なのか猫なのかハッキリ……真尋お前何があった!」
「何? 何って……何が?」
雪兎がわんわん泣いている。早く慰めないと目や喉を痛めてしまう。慰めるため雪兎の傍に屈もうとしているのに使用人が邪魔をする。
「んっだよ離せっ! ユキ様が泣いてんですよ! ユキ様!」
俺を捕まえようとする使用人達を振り払って雪兎の前に屈む。
「ユキ様、大丈夫ですか? 何を泣いているんです、どうかされましたか?」
「どうかされましたって……ポチだよぉっ!」
「え……お、俺が……何か」
「首! 医務室! 首ぃ!」
医務室に行きたいのか? 首? 確かに首が痛いが……俺が医務室に行くのか?
「…………え? 何この血! 俺の!? は……!? なんで、どこでっ」
首に触れるとぬるりと嫌な感触、手を見てみれば時間が経ったものから新しいものまで鮮やかさが様々な血でまみれていた。まるで前衛的な手袋だ、一番古いだろう血なんてカピカピに乾いてチョコレートのような色になっている。
「い、痛……何首痛い! 何!? めっちゃ痛い!」
じんわりと感じていた首の痛みを明確に感じ始めた。訳の分からない事態に混乱した俺は屈んだ体勢から立ち上がり損ね、受け身も取れずに床に頭を打ち付けて失神した。
「ん……もう、朝か」
起き上がってスマホで時刻を確認し、朝食の時間だななんて呑気に考えた。
「痛たた……」
首が痛い、ヒリヒリする、曲げる度にパリパリと音が鳴る。スマホのライトで指を見ると両手とも赤黒い汚れがついていた。
「チョコ……? 犬はチョコ食べられないです……食べちゃったのかな。じゃあ死んじゃうかも」
ごつんと頭を打った。また寝転がったらしい。らしい? 俺の身体は俺の意思で動くんじゃないのか? 俺のって……俺って誰だ?
「俺は……ポチ?」
床で寝るのは犬なのだから、床に寝転がっている俺はポチだ。証拠に雪兎からもらった赤い首輪が──
「…………あれ、どこ……だろ」
喉からうなじ、顎の裏、鎖骨の辺りまで調べたけれど、その手は赤い首輪に触れない。
「ポチなら……ここに……あるはずなんだけど……ぁー……痛いな」
何だか首が痛い。俺は再びスマホを持ち、首の痛みの正体を知るためにライトをオンにして自撮りを行った。
「おー目付き悪……いや首……」
首全体が、いや、顎の裏や鎖骨の辺りまで真っ赤だ。
「赤い……なんだ、首輪あるんじゃん。俺ポチだわ……ご主人様んとこ行かなきゃ、ユキ様……ユキ様に、朝ごはん……」
立ち上がると頭を打った。屈んで頭をさすっていると声が聞こえた。
「監視カメラの映像から考えてこの辺だと思うが……どこに行ったんだ? 隠れるとこなんかあるか?」
「ぅえぇん……ポチぃ、ポチぃ……ひっく、ひっく……ぐすっ、ぅうぅ……」
「泣くならもっと大声で泣けよ、真尋出てくるかもしんねぇだろ」
雪風の声だ。泣いているのは雪兎だ。どうして泣いているのかは分からないが、俺の名前を呼んでいる。俺にも慰められる。一時はもう無いのかもしれないと思った次の機会がもうやってきた、以前は何が悪かったのかとんと見当もつかないし、改善点が見つからないままなんて不安だが、とりあえず今は頑張らないと。
「ユキ様!」
「ポチっ……? ポチ、ごめ……ポチっ!?」
「は? 階段裏? お前犬なのか猫なのかハッキリ……真尋お前何があった!」
「何? 何って……何が?」
雪兎がわんわん泣いている。早く慰めないと目や喉を痛めてしまう。慰めるため雪兎の傍に屈もうとしているのに使用人が邪魔をする。
「んっだよ離せっ! ユキ様が泣いてんですよ! ユキ様!」
俺を捕まえようとする使用人達を振り払って雪兎の前に屈む。
「ユキ様、大丈夫ですか? 何を泣いているんです、どうかされましたか?」
「どうかされましたって……ポチだよぉっ!」
「え……お、俺が……何か」
「首! 医務室! 首ぃ!」
医務室に行きたいのか? 首? 確かに首が痛いが……俺が医務室に行くのか?
「…………え? 何この血! 俺の!? は……!? なんで、どこでっ」
首に触れるとぬるりと嫌な感触、手を見てみれば時間が経ったものから新しいものまで鮮やかさが様々な血でまみれていた。まるで前衛的な手袋だ、一番古いだろう血なんてカピカピに乾いてチョコレートのような色になっている。
「い、痛……何首痛い! 何!? めっちゃ痛い!」
じんわりと感じていた首の痛みを明確に感じ始めた。訳の分からない事態に混乱した俺は屈んだ体勢から立ち上がり損ね、受け身も取れずに床に頭を打ち付けて失神した。
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