258 / 566
お盆
きこく、ろく
しおりを挟む
目を覚ました瞬間、目を閉じた。真っ白な部屋が眩しかったのだ。
「……知らない天井だ」
細目を開けて天井を睨み、個人的なノルマを達成。
「痛ててて……」
起き上がって深呼吸をし、息苦しさと首の痛みを覚える。ほどなくしてスーツのジャケットを白衣に変えただけの使用人に見えるサングラスをかけた医師が部屋に入ってきた。
「あ、どうも……お疲れ様です」
医師の説明を聞いたところ、どうやら俺は首周りを引っ掻いて皮膚をボロボロにしてしまったらしい。もちろん皮膚を数枚裂いただけなので出血は肌にまとわりつく程度で済んだ。むしろその後転んで頭を打った方が問題だったらしく、大掛かりな検査があったらしい。結果、何ともなかったそうだ。俺、丈夫だな。
「なんか息苦しいんですけど」
「皮膚を剥き出しのまま放置するのはいけないから、バンデージを施しました」
「ゆでたまご」
「バンデージは包帯を強めに巻くことです。それだけ頭が回るなら結構、跡継ぎ様を呼んできます」
冷静に返されるとボケたのが恥ずかしくなってくるな。いや、ノリノリでツッコミなんてされたらそっちの方が困るけど。
「ありがとうございましたー……」
医師が去った後、首を優しくさする。皮膚が剥けているからだろう鋭敏な痛みが、手には包帯の感触があった。
「はぁー……しかし……バット持ってただけで口先の魔術師なんてあだ名になったんすよーなんて話さなきゃよかったな……言霊だろこれ……首痛い……いやこれで死ぬの無理だろ痛い……」
キツく巻かれた包帯は息苦しいし暑い、気になってついつい触ってしまい、皮膚が剥けた跡が痛む。日焼けの痛みが一番近いだろうか?
「ポチっ……!」
引き戸が勢いよく開き、赤紫の瞳を潤ませた白髪の美少年が駆け込んでくる。
「ユキ様、来てくださったんですね」
「ポチ、ポチぃ……ぅ、うっ……ぅああぁああんっ! ごめんなさいぃ……ポチ、ポチぃ、ごめんなさい……大好き、大好きだからぁ、ポチぃ……ごめんなさいぃ……」
「えっ、ちょ、ユキ様、なんで泣くんですか」
昨日も今日も雪兎の泣き顔を見てばかりだ。原因が俺なのは分かっているが、俺がどうすれば泣き止んでくれるのか分からない。
「ポチごめんねぇ、酷いこと言ってごめん……びっくりしたのずっとあったからぁっ、怖かったのずっとあったからぁっ、本心じゃないこと言っちゃったのぉっ……思ってないから、嘘だからぁ、許して……お願い、ポチ……嘘なの」
雪兎は何の話をしているのだろう。酷いこと? 雪兎が? 昨日の話か? 昨日、昨日何が、なんで俺は部屋から出て階段の裏なんかで──
「ぁ」
「ポチ? ポチ……ポチっ!? だ、だめ! 包帯剥がしちゃダメっ!」
思い出した。そうだ、俺はポチじゃないと言われた、じゃあ俺は誰だ、首輪があればポチだと証明される、でも包帯にしか指は触れない、包帯を剥がせばきっと首輪がある。
「やめて! ポチ、ポチ……待て!」
包帯を剥がしていた手が勝手に止まる。ベッドに足を伸ばして座っている俺の、足の上に乗った雪兎と目が合った。
「……嘘、だから。昨日の全部、嘘。ポチ……ポチは、僕の大事なペットだから……捨てたりしないから、ポチが寿命で死ぬまでちゃんと飼うんだからぁっ」
「………………俺はポチですか?」
「うんっ、うん……ポチは、ポチだよ。君はポチ」
俺はポチか。じゃあ首輪は──
「……ユキ様?」
首輪を確認しようとしたら雪兎に手を叩かれた。
「首、怪我してるんだから触っちゃダメ」
あぁ、そうか。首輪がないのは首を怪我しているからか。俺が頭を打って気絶した時にでも雪兎が外してくれたのだろう。
「……はい、仰せのままに」
あれ? なんで俺、首に怪我したんだっけ?
「……知らない天井だ」
細目を開けて天井を睨み、個人的なノルマを達成。
「痛ててて……」
起き上がって深呼吸をし、息苦しさと首の痛みを覚える。ほどなくしてスーツのジャケットを白衣に変えただけの使用人に見えるサングラスをかけた医師が部屋に入ってきた。
「あ、どうも……お疲れ様です」
医師の説明を聞いたところ、どうやら俺は首周りを引っ掻いて皮膚をボロボロにしてしまったらしい。もちろん皮膚を数枚裂いただけなので出血は肌にまとわりつく程度で済んだ。むしろその後転んで頭を打った方が問題だったらしく、大掛かりな検査があったらしい。結果、何ともなかったそうだ。俺、丈夫だな。
「なんか息苦しいんですけど」
「皮膚を剥き出しのまま放置するのはいけないから、バンデージを施しました」
「ゆでたまご」
「バンデージは包帯を強めに巻くことです。それだけ頭が回るなら結構、跡継ぎ様を呼んできます」
冷静に返されるとボケたのが恥ずかしくなってくるな。いや、ノリノリでツッコミなんてされたらそっちの方が困るけど。
「ありがとうございましたー……」
医師が去った後、首を優しくさする。皮膚が剥けているからだろう鋭敏な痛みが、手には包帯の感触があった。
「はぁー……しかし……バット持ってただけで口先の魔術師なんてあだ名になったんすよーなんて話さなきゃよかったな……言霊だろこれ……首痛い……いやこれで死ぬの無理だろ痛い……」
キツく巻かれた包帯は息苦しいし暑い、気になってついつい触ってしまい、皮膚が剥けた跡が痛む。日焼けの痛みが一番近いだろうか?
「ポチっ……!」
引き戸が勢いよく開き、赤紫の瞳を潤ませた白髪の美少年が駆け込んでくる。
「ユキ様、来てくださったんですね」
「ポチ、ポチぃ……ぅ、うっ……ぅああぁああんっ! ごめんなさいぃ……ポチ、ポチぃ、ごめんなさい……大好き、大好きだからぁ、ポチぃ……ごめんなさいぃ……」
「えっ、ちょ、ユキ様、なんで泣くんですか」
昨日も今日も雪兎の泣き顔を見てばかりだ。原因が俺なのは分かっているが、俺がどうすれば泣き止んでくれるのか分からない。
「ポチごめんねぇ、酷いこと言ってごめん……びっくりしたのずっとあったからぁっ、怖かったのずっとあったからぁっ、本心じゃないこと言っちゃったのぉっ……思ってないから、嘘だからぁ、許して……お願い、ポチ……嘘なの」
雪兎は何の話をしているのだろう。酷いこと? 雪兎が? 昨日の話か? 昨日、昨日何が、なんで俺は部屋から出て階段の裏なんかで──
「ぁ」
「ポチ? ポチ……ポチっ!? だ、だめ! 包帯剥がしちゃダメっ!」
思い出した。そうだ、俺はポチじゃないと言われた、じゃあ俺は誰だ、首輪があればポチだと証明される、でも包帯にしか指は触れない、包帯を剥がせばきっと首輪がある。
「やめて! ポチ、ポチ……待て!」
包帯を剥がしていた手が勝手に止まる。ベッドに足を伸ばして座っている俺の、足の上に乗った雪兎と目が合った。
「……嘘、だから。昨日の全部、嘘。ポチ……ポチは、僕の大事なペットだから……捨てたりしないから、ポチが寿命で死ぬまでちゃんと飼うんだからぁっ」
「………………俺はポチですか?」
「うんっ、うん……ポチは、ポチだよ。君はポチ」
俺はポチか。じゃあ首輪は──
「……ユキ様?」
首輪を確認しようとしたら雪兎に手を叩かれた。
「首、怪我してるんだから触っちゃダメ」
あぁ、そうか。首輪がないのは首を怪我しているからか。俺が頭を打って気絶した時にでも雪兎が外してくれたのだろう。
「……はい、仰せのままに」
あれ? なんで俺、首に怪我したんだっけ?
1
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる