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お盆
おせわ、ご
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疲れてきたし、そろそろ組手を終えようかと考えていたのに、使用人の方から誘われた。
「次は自分とお願いしますよポチさん」
「もうやめようと思ってたんですけど……」
「頑張ってポチ! これに勝ったら二十連勝だよ!」
俺の拒否権は今なくなった。やりましょうと頷くと使用人は握手を求めてきた。不審に思いつつも手を出すと、彼は顔も近付けてきて他の誰にも聞こえない声で囁いた。
「飼い主様の前でボコボコにしてやるよクソガキ。気ぃ遣われてるってことくらい分かれ、調子に乗りやがって」
「……はい、いい勝負にしましょうね」
笑顔で手を離し、距離を取る。他の使用人達まで訓練を止めて見物に夢中だ。
「ポチさん、せっかくの二十戦目ですしガチな勝負にしましょうよ」
俺の相手をする使用人はナイフと拳銃のオモチャを捨てた。先程の発言から鑑みるに彼はおそらく──
「ステゴロですか、いいですよ」
──ここで隠し武器などを持たず、実力だけで俺を潰しに来ている。
「跡継ぎ様、開始の合図お願いします」
「えっ? うん、分かった。じゃあ……始めっ!」
相手は俺よりも大柄だし、口ぶりから考えて他の使用人より強い。頭を使わなければ勝てないだろう、習った柔道や空手の技を駆使して……
「習った動きしか出来ねぇ見せ筋の現代っ子が調子に……っ!?」
様子見だろうストレートのパンチは頭を下げて避け、一旦距離を取る。頭を使わなければ、何か作戦を立てなければ……
「うわポチさん重心低っ、もはやキモっ」
「そうなの? すごいの?」
「身体の柔軟性と筋力、あとバランス感覚が優れてないと重心下げての喧嘩は難しいんすよ。あの姿勢で闘われちゃ四足歩行の生きもんと闘ってる気分でしょうね」
「ふーん……まぁポチは犬と遊んでたくらいだからなぁ」
とりあえず必要に応じて手も床につけて擬似四足歩行の動きをして攻撃を避けやすくしつつ、頭を使って作戦を……頭を、使って……
「ポチっ!」
パンチばかりしてきていたから油断していた。側頭部を狙った蹴りの直撃は何とか左腕で防いだが、揺れは頭に伝わった。
「……は、飼い主様が心配してるぜ。やめとくか? いや、やめはねぇ、気絶するまでボコってやる」
両手両足を床につけた俺を見下ろし、使用人は悦に浸っている。
「いってぇ……クソ、くらしちゃるわクソが」
頭を使って気絶させてやる。
「お、立てるか」
ふらふらと立ち上がった俺を見て使用人は油断している。狙い通りだ。俺は裸足でマットを掴むようにして思いっきり蹴り、彼の目の前で思いっきり手を叩いた。
「おおっ、猫騙しっすね!」
「何それ」
「相撲の技っす。目の前で手を叩いてびっくりさせるんすよ」
「せこい」
怯んだ使用人の両耳を強く掴み、思いっきり頭突きをかました。
「ぃねやクソがぁっ!」
「……ってぇなクソガキっ!」
腹に膝蹴りが叩き込まれたが、俺の手はその程度では耳を離さないし、頭を振る胸から首にかけての筋肉に膝蹴りのダメージはない。
「二連続ヘッドバット……おぉっ、三連続、四連続…………おっ、先輩死んだ」
「死んだの!?」
「ぁ、や、気絶っす。そこまでっすよポチさん!」
「紛らわしいこと言わないでよ……」
五回目の頭突きを終わらせたところでストップが入った。気付けば使用人は伸びており、俺の爪は僅かに赤く汚れていた。
「ふー……勝ちましたよユキ様!」
頭を使った見事な勝利だ。きっと褒めてくれると信じて雪兎の元へ走ると、思いっきり頬を叩かれた。
「あんなに頭ゴンゴンぶつけちゃダメでしょ! この間頭打ったばっかなのにぃ! もぉ!」
「ご、ごめんなさい……」
「もう訓練終わり! お部屋帰るよ!」
「…………最強は跡継ぎ様っすね」
いい感じにまとめた声に「異議なし」と使用人達の声が重なる。アイツら俺にあっさり負けたくせに。ムカつく。
あのまま続けていたらそのうち耳を引きちぎってしまっていたかもな、なんて考えつつ手を洗う。そのまま浴室に入ろうとすると雪兎に手を引っ張られ、部屋に戻された。
「ユキ様? あの……汗だくですし、お風呂に入りたいんですけど」
「だーめ。ポチ、すごく強くてカッコよくて、闘ってるとことってもセクシーだったから……僕ちょっと変な気分になっちゃったな」
何かしてもらえるのか? 帰国後初だ。自慰を我慢していた甲斐があった。
「それなら尚更お風呂に……」
「だーめっ! ポチの汗の匂い僕結構好きなんだ、このままがいい」
「…………分かりました」
組手後の昂りのまま抱かれるなんて最高の流れだ、興奮が冷める風呂を挟まないのは俺としても助かる。俺と雪兎はまさに以心伝心だな。
「次は自分とお願いしますよポチさん」
「もうやめようと思ってたんですけど……」
「頑張ってポチ! これに勝ったら二十連勝だよ!」
俺の拒否権は今なくなった。やりましょうと頷くと使用人は握手を求めてきた。不審に思いつつも手を出すと、彼は顔も近付けてきて他の誰にも聞こえない声で囁いた。
「飼い主様の前でボコボコにしてやるよクソガキ。気ぃ遣われてるってことくらい分かれ、調子に乗りやがって」
「……はい、いい勝負にしましょうね」
笑顔で手を離し、距離を取る。他の使用人達まで訓練を止めて見物に夢中だ。
「ポチさん、せっかくの二十戦目ですしガチな勝負にしましょうよ」
俺の相手をする使用人はナイフと拳銃のオモチャを捨てた。先程の発言から鑑みるに彼はおそらく──
「ステゴロですか、いいですよ」
──ここで隠し武器などを持たず、実力だけで俺を潰しに来ている。
「跡継ぎ様、開始の合図お願いします」
「えっ? うん、分かった。じゃあ……始めっ!」
相手は俺よりも大柄だし、口ぶりから考えて他の使用人より強い。頭を使わなければ勝てないだろう、習った柔道や空手の技を駆使して……
「習った動きしか出来ねぇ見せ筋の現代っ子が調子に……っ!?」
様子見だろうストレートのパンチは頭を下げて避け、一旦距離を取る。頭を使わなければ、何か作戦を立てなければ……
「うわポチさん重心低っ、もはやキモっ」
「そうなの? すごいの?」
「身体の柔軟性と筋力、あとバランス感覚が優れてないと重心下げての喧嘩は難しいんすよ。あの姿勢で闘われちゃ四足歩行の生きもんと闘ってる気分でしょうね」
「ふーん……まぁポチは犬と遊んでたくらいだからなぁ」
とりあえず必要に応じて手も床につけて擬似四足歩行の動きをして攻撃を避けやすくしつつ、頭を使って作戦を……頭を、使って……
「ポチっ!」
パンチばかりしてきていたから油断していた。側頭部を狙った蹴りの直撃は何とか左腕で防いだが、揺れは頭に伝わった。
「……は、飼い主様が心配してるぜ。やめとくか? いや、やめはねぇ、気絶するまでボコってやる」
両手両足を床につけた俺を見下ろし、使用人は悦に浸っている。
「いってぇ……クソ、くらしちゃるわクソが」
頭を使って気絶させてやる。
「お、立てるか」
ふらふらと立ち上がった俺を見て使用人は油断している。狙い通りだ。俺は裸足でマットを掴むようにして思いっきり蹴り、彼の目の前で思いっきり手を叩いた。
「おおっ、猫騙しっすね!」
「何それ」
「相撲の技っす。目の前で手を叩いてびっくりさせるんすよ」
「せこい」
怯んだ使用人の両耳を強く掴み、思いっきり頭突きをかました。
「ぃねやクソがぁっ!」
「……ってぇなクソガキっ!」
腹に膝蹴りが叩き込まれたが、俺の手はその程度では耳を離さないし、頭を振る胸から首にかけての筋肉に膝蹴りのダメージはない。
「二連続ヘッドバット……おぉっ、三連続、四連続…………おっ、先輩死んだ」
「死んだの!?」
「ぁ、や、気絶っす。そこまでっすよポチさん!」
「紛らわしいこと言わないでよ……」
五回目の頭突きを終わらせたところでストップが入った。気付けば使用人は伸びており、俺の爪は僅かに赤く汚れていた。
「ふー……勝ちましたよユキ様!」
頭を使った見事な勝利だ。きっと褒めてくれると信じて雪兎の元へ走ると、思いっきり頬を叩かれた。
「あんなに頭ゴンゴンぶつけちゃダメでしょ! この間頭打ったばっかなのにぃ! もぉ!」
「ご、ごめんなさい……」
「もう訓練終わり! お部屋帰るよ!」
「…………最強は跡継ぎ様っすね」
いい感じにまとめた声に「異議なし」と使用人達の声が重なる。アイツら俺にあっさり負けたくせに。ムカつく。
あのまま続けていたらそのうち耳を引きちぎってしまっていたかもな、なんて考えつつ手を洗う。そのまま浴室に入ろうとすると雪兎に手を引っ張られ、部屋に戻された。
「ユキ様? あの……汗だくですし、お風呂に入りたいんですけど」
「だーめ。ポチ、すごく強くてカッコよくて、闘ってるとことってもセクシーだったから……僕ちょっと変な気分になっちゃったな」
何かしてもらえるのか? 帰国後初だ。自慰を我慢していた甲斐があった。
「それなら尚更お風呂に……」
「だーめっ! ポチの汗の匂い僕結構好きなんだ、このままがいい」
「…………分かりました」
組手後の昂りのまま抱かれるなんて最高の流れだ、興奮が冷める風呂を挟まないのは俺としても助かる。俺と雪兎はまさに以心伝心だな。
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