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お盆
いちにちめ、きゅう
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太腿も、陰茎も、胸も、深紅の蝋をまとわされた。本物ではなくイメージとしての血の色に似た蝋にまみれた褐色の肌は、傷だらけに見えるだろう。血みどろの身体に見えるだろう。
「蝋燭……もう持つとこなくなってきちゃった」
「ふ、ぅっ……ふぅっ…………熱、ぃ……じんじん、するぅ……」
亀頭を覆って尿道にまで入り込んだ蝋、乳首を完全に覆った蝋、胸に腹に太腿をイタズラに覆った蝋、それらの熱はほとんど失われている。あるとすれば俺の体温だけだ。それでも俺の皮膚はジンと熱を感じ、焦れ、快楽を欲する。
「ユキ、様ぁ……ユキ様っ……お願いします、イかせてくださいっ、もうイかせてっ」
「あちち……もう持てないや」
高さよりも直径の方が長くなった蝋燭の炎を吹き消し、雪兎は蝋燭の残りを片付けた。
「ユキ様っ! ユキ様、手に蝋垂れてます!」
「あぁ、うん……さっき垂れちゃったみたい。熱かったよ」
「早く洗面所へ! ユキ様の肌は俺と違って繊細なんですから火傷になりますっ、ぼーっとしてないで早く!」
「……ふふっ、うん、手洗ってくるよ。待ってて」
熱くて痛い思いをしただろうに雪兎は嬉しそうな笑顔を浮かべ、洗面所へ向かった。あの雪兎に限って被虐趣味に目覚めた訳はないし、今の笑顔の理由は推測すら出来ない。
「ただいま、ポチ」
「ユキ様、おかえりなさい。早すぎますよ、もっと流水につけておかないと……今は何ともなくても後から痛くなってきますよ、火傷はそういうものです」
「ふふ……僕は大丈夫だよ、ポチは優しいねぇ。自分は全身蝋まみれなのに、僕の手に一滴垂れただけでそんなに心配してくれるなんて……」
「……ユキ様が何に喜んでいるのかよく分かりません。手は本当に大丈夫なんですか?」
雪兎は優しく俺の頬を撫で、キスをしてくれた。痛い思いをしたなら不機嫌になってもおかしくないのに、かなり上機嫌のようだ。
「そろそろお昼ご飯にしよっか」
同時の食事は同格の証、犬に餌を与えるのは自分が食事を終えた後だというのが犬を飼う人間の常識だ。雪兎も気分でその常識に則る。
「ん、美味しい。僕やっぱりグラタンには魚入ってない方が好きだな」
雪兎は俺の目の前で美味しそうに昼食を食べ進める。トロリととろけたチーズも、滴るホワイトソースも、熱そうで美味そうだ。
「……欲しい?」
グラタンの匂いと雪兎の表情に誘われ、腹がグゥと鳴った。
「は、はい……すいません」
「ポチはマッシュルーム好き?」
「マッシュルームですか? いえ……どっちでもないですね」
「ふーん……マカロニは?」
「別に……」
そういえばグラタンに好きな具ってないな、チーズもホワイトソースも特別好きという訳ではない。美味しいとは思うし、美味しいから食べると嬉しくなるけれど、それだけだ。
「……俺って好きな食べ物なんでしたっけ」
「知らないよ」
「…………すいません。話……楽しくなくて」
「別にいいよ。それと、ポチの好きな食べ物はお肉だよ。お肉。何の肉でも好き。犬だもんね」
「……そう、ですね。犬ですから、肉が好きです。何の肉でも……大好きです」
雪兎はグラタンに入っている一口大の鶏肉をスプーンに乗せ、俺の舌がギリギリ届かないところに突き出した。
「空っぽな君を埋めるのは僕だ」
「はい……俺の全てはユキ様のために在ります」
「ポチ……お肉、好きだったよね? 食べる?」
「いいんですか? ご主人様のものを……! ありがとうございます!」
犬に人間の食べ物を与えるのは厳禁だが、俺が犬なの精神性と立場なので普通の犬とは違って健康に問題はない。
ぬるくなった鶏肉を食べさせてもらい、俺は美味しさを目以外の表情で表現した。
「蝋燭……もう持つとこなくなってきちゃった」
「ふ、ぅっ……ふぅっ…………熱、ぃ……じんじん、するぅ……」
亀頭を覆って尿道にまで入り込んだ蝋、乳首を完全に覆った蝋、胸に腹に太腿をイタズラに覆った蝋、それらの熱はほとんど失われている。あるとすれば俺の体温だけだ。それでも俺の皮膚はジンと熱を感じ、焦れ、快楽を欲する。
「ユキ、様ぁ……ユキ様っ……お願いします、イかせてくださいっ、もうイかせてっ」
「あちち……もう持てないや」
高さよりも直径の方が長くなった蝋燭の炎を吹き消し、雪兎は蝋燭の残りを片付けた。
「ユキ様っ! ユキ様、手に蝋垂れてます!」
「あぁ、うん……さっき垂れちゃったみたい。熱かったよ」
「早く洗面所へ! ユキ様の肌は俺と違って繊細なんですから火傷になりますっ、ぼーっとしてないで早く!」
「……ふふっ、うん、手洗ってくるよ。待ってて」
熱くて痛い思いをしただろうに雪兎は嬉しそうな笑顔を浮かべ、洗面所へ向かった。あの雪兎に限って被虐趣味に目覚めた訳はないし、今の笑顔の理由は推測すら出来ない。
「ただいま、ポチ」
「ユキ様、おかえりなさい。早すぎますよ、もっと流水につけておかないと……今は何ともなくても後から痛くなってきますよ、火傷はそういうものです」
「ふふ……僕は大丈夫だよ、ポチは優しいねぇ。自分は全身蝋まみれなのに、僕の手に一滴垂れただけでそんなに心配してくれるなんて……」
「……ユキ様が何に喜んでいるのかよく分かりません。手は本当に大丈夫なんですか?」
雪兎は優しく俺の頬を撫で、キスをしてくれた。痛い思いをしたなら不機嫌になってもおかしくないのに、かなり上機嫌のようだ。
「そろそろお昼ご飯にしよっか」
同時の食事は同格の証、犬に餌を与えるのは自分が食事を終えた後だというのが犬を飼う人間の常識だ。雪兎も気分でその常識に則る。
「ん、美味しい。僕やっぱりグラタンには魚入ってない方が好きだな」
雪兎は俺の目の前で美味しそうに昼食を食べ進める。トロリととろけたチーズも、滴るホワイトソースも、熱そうで美味そうだ。
「……欲しい?」
グラタンの匂いと雪兎の表情に誘われ、腹がグゥと鳴った。
「は、はい……すいません」
「ポチはマッシュルーム好き?」
「マッシュルームですか? いえ……どっちでもないですね」
「ふーん……マカロニは?」
「別に……」
そういえばグラタンに好きな具ってないな、チーズもホワイトソースも特別好きという訳ではない。美味しいとは思うし、美味しいから食べると嬉しくなるけれど、それだけだ。
「……俺って好きな食べ物なんでしたっけ」
「知らないよ」
「…………すいません。話……楽しくなくて」
「別にいいよ。それと、ポチの好きな食べ物はお肉だよ。お肉。何の肉でも好き。犬だもんね」
「……そう、ですね。犬ですから、肉が好きです。何の肉でも……大好きです」
雪兎はグラタンに入っている一口大の鶏肉をスプーンに乗せ、俺の舌がギリギリ届かないところに突き出した。
「空っぽな君を埋めるのは僕だ」
「はい……俺の全てはユキ様のために在ります」
「ポチ……お肉、好きだったよね? 食べる?」
「いいんですか? ご主人様のものを……! ありがとうございます!」
犬に人間の食べ物を与えるのは厳禁だが、俺が犬なの精神性と立場なので普通の犬とは違って健康に問題はない。
ぬるくなった鶏肉を食べさせてもらい、俺は美味しさを目以外の表情で表現した。
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