ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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郊外の一軒家

はっぴーはろうぃん、いち

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スリップと呼ぶらしい女性下着を身に付けたまま抱かれ、幸福の中で気を失った日から早くも一ヶ月と少しが過ぎ去った。その間何度も俺は雪兎に抱かれた、裸で、スリップを着て、スーツを着て、浴衣を着て、パーカーとデニムに身を包んで、バスローブをはだけさせて──服装だけでも原稿用紙が埋まりそうだ、使った玩具や体位まで細かに記せば辞書が作れるかもしれない。

「ポチー、ポーチー、まだー?」

「もう少し……はい、いいですよ」

風呂上がりの雪兎の髪と肌に椿油などを塗り込み終え、瓶を所定の場所に戻す。

「今日も一緒に寝ようね、腕枕してね」

「いいんですか? 犬は床で寝るべきでは?」

「いいの。大学の愛犬家友達にも犬と一緒に寝てる人多いもん」

いい香りがするようになった雪兎をベッドに横たわらせ、彼が望んだ通り腕枕をしてやる。

「日本よりアメリカの方がそういうの多そうな気がしますね」

「そりゃそうだよ、人口の差がすごいもん」

「割合とか傾向の話ですよ……」

「ふふっ、分かってるよ。ポチのそのちょっと拗ねた顔見たかったの」

俺が真っ暗闇が苦手だからと眠る時でもオレンジ色の仄かな灯りによって一定以上の明るさが保たれて、腕枕をしている距離なら互いの詳細な表情がちゃんと分かる。

「もうすぐハロウィンだね」

「そうですね、仮装パーティとかするんですか?」

「うん、大学であるの。一緒に行こ」

「……大丈夫なんですか? 警備とか……ユキ様、前……愛犬家の集い的なヤツで狙われたじゃないですか」

俺がちゃんと戦闘訓練を受けていて冷静に対応出来たからよかったものの、何か一つ状況が違えば雪兎は命を失っていたかもしれない。

「大丈夫! パーティは大学全体であるけど、僕が参加していいのは一室だけのヤツで、そこには金属探知機とか色々やって、思想チェックとかも済ませた、若神子家と昔から繋がりがある家の人とかしか来ないようにするらしいから」

富豪中の富豪が集められる訳だ。成金のようないやらしさもなく、顔も性格もいい人間としての上位種の集い……行きたくないなぁ。俺は人間より犬の方が気が合うって前の愛犬家の集い的なアレで証明されたし。

「楽しみ……じゃ、ないの? ポチは……僕と一緒にパーティ、嫌?」

考えが顔に出ていたようだ、暗闇の中ぼんやりと赤い輝きを放つ瞳を悲しげに歪ませてしまった。

「いえ、ユキ様とパーティに行くのはすごく楽しみです。ただ……すごい人達しか来ないなんて、ちょっと……緊張するなぁって」

「ポチは喋らなくていいよ、どうせ英語分かんないでしょ?」

「……まぁ、そうですけど、でも」

「ポチ、人見知りなのかなぁ……僕も割とそうだけど。そうだ! 緊張しないように顔が出ない仮装にしよっか」

表情に気を遣わなくていいのは楽そうだが……

「僕も衣装考えなきゃだから、明日一緒に考えようね。一週間前にはデザイン決めて欲しいって言われてるし……ふふ、早く寝よっ」

「……はい」

仮装衣装は特注なのだろうか、いや、今更だな。若神子一族が袖を通す服はきっと全てオーダーメイドだ。
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