ポチは今日から社長秘書です

ムーン

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郊外の一軒家

はっぴーはろうぃん、に

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雪兎に起こされた俺はバスローブ姿のまま顔を洗ったりなどの支度を済ませ、洗面所から部屋に戻った。

「ポチ、これ着て」

満面の笑顔で差し出されたのは黒い浴衣。もちろん受け取り、袖を通した。

「どうかな? 家の中は空調効いてるし浴衣で十分だよね。なんでだろ、ポチの和服姿見たい気分だったんだ」

「日本離れてるからですかね」

「そうなのかな? でもシルエット的にはバスローブと変わらないね……真新しさないなぁ」

「そうですね、色は白から黒になりましたけど」

白は膨張色だ、バスローブのおかげで先程までは小顔に見えていたりしたかもしれない。色黒とはいえ俺の肌は褐色止まり、浴衣の方が黒は当然濃い、顔が大きく見えていないだろうか。なんて、乙女のような悩みを厳つい男の俺が持つのは気持ち悪いかな。

「すごくセクシーでたまんないよ、特に胸元とか」

みぞおちの辺りまでざっくりと細く深く胸元が開いている。直すべきかなと胸辺りの布を掴んだが、雪兎の指が胸の谷間をなぞったので直すのはやめた。

「はぁ……あぁもう、朝から変な気分にさせてくれるね」

雪兎を誘惑出来るのなら少々下品な着崩しをしていてもいいだろう、他に見る者も居ないのだし。

「……朝ご飯食べよっか」

「はい」

今日も俺は机で食器を使っての食事を許された。このところずっとそうだ。楽なのはいいが犬扱いを受けないと物足りない。

「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」

滞りのない、美味しい、つまらない食事を終え、俺達は再び雪兎の私室に戻った。雪兎はキャスター付きの椅子に座ってペンタブを持ち、何かを描き始めた。

「…………仮装衣装ですか?」

「うん! ポチはやっぱりワンちゃん、っていうか狼男だよね。なら僕は……吸血鬼かなぁ、魔女とかも可愛いなって思ってたけど……パーティ出るのに女装は流石に、ねぇ」

「そうですね、ユキ様のお可愛らしさが強調され過ぎてしまいます」

雪兎の隣に椅子を運んで腰を下ろす。足を動かしにくかったので浴衣を引っ張ったりめくったりして片足を膝上辺りから露出させることに成功、これで過ごしやすくなった。

「吸血鬼って角とかいるかなぁ」

「どっちかって言うと大事なのは牙じゃないですか?」

「あ、そっか……牙ね牙。つけ牙……ご飯食べるししっかりしたの作ってもらわないと」

「顔以外露出のない正装って感じですよね、イメージとしては。黒一色で、差し色に赤とか。マントも必要ですよ」

「うんうん……こんな感じかな~」

以前雪兎の授業参観に行った時も思ったが、やはり絵が上手い。パースは当然服のシワも自然で絵に説得力がある。

「吸血鬼って何か持ってるイメージある? ほら、フォークみたいな槍とか」

「虫歯菌じゃないんですから……でも吸血鬼って別に何か持ってるイメージは……ぁ、輸血パックとかどうです?」

「ギャグっぽいなぁ……まぁ、アイディアの一つとして残してはおくよ。次はポチだね」

吸血鬼風の衣装イラストのレイヤーが透過され、髪も顔もない人の素体だけが残る。新たなレイヤーを増やした雪兎は俺に着せる予定の狼男風衣装を描いていく。

「顔出したくないんだよね? 犬のマスク作っちゃおうか。ならもう着ぐるみみたいにしちゃって~……ぁ、そうだ、前に使ったアレ覚えてる? 脳波測って尻尾揺れるヤツ」

「あー……カチューシャで測る……」

「そうそう、あの仕組みをマスクに付けて、着ぐるみについてる尻尾揺れるようにするの」

「無駄にハイテク……別にそんな仕組みいらないと思いますけどね」

それなら雪兎に蝙蝠の羽でも生やして羽ばたくようにした方がよっぽど有意義だ。

「そう? まぁ、一応アイディア残しておいて……マスクの中はどうしようかなぁ、ご飯食べる時は外さなきゃだよね。そうだ、内側にディルドつけちゃお。被ったら咥えなきゃならないようにして……なら着ぐるみの中にもバイブとローターたっくさん仕掛けてぇ……ふふふ」

「あ、あのー、ユキ様? パーティなんですよね、俺が話さないとはいえ変な声出したり変な動きしたりしちゃうのはまずいのでは?」

雪兎以外の者の前で痴態を晒すなんて絶対に嫌だ。俺の情けない姿を見てもいいのはせいぜい雪風までだ。

「僕がその程度のこと考え至ってないとでも?」

「えっ、い、いえ、すみません……」

「ポチが心配することは何もないよ、全部僕に任せて?」

「……はい」

肯定以外の選択肢は許されていない。
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