龍神様の婚約者、幽世のデパ地下で洋菓子店はじめました

卯月みか

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四章 条件

十一話 茶会のお菓子

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 そして、ついに茶会の前日になった。

 美桜は翡翠に連れられ、浅葱の屋敷へと向かっていた。手には風呂敷包み。もちろん中には、心を込めて作ったマカロンが入れられている。

 今回は庭ではなく、玄関の前に降り立つと、スズナが表へ迎えに出て来てくれた。

「いらっしゃい、翡翠。美桜ちゃん。あの人ね、首を長ーくして待っているわよ」

 スズナは楽しそうにそう言ったが、美桜は不安を感じ、翡翠を見上げた。翡翠が、

「大丈夫だ。今日、持って来た菓子は、美桜の自信作なのだろう?」

 と、微笑みかける。
 スズナに「早く届けてあげて」と言われ、美桜と翡翠はスズナと共に、浅葱の部屋へと向かった。

「あなた。翡翠と美桜ちゃんが来たわよ」

 スズナが声をかけて浅葱の部屋の襖を開けると、浅葱は文机の前で書物を読んでいた。無愛想な様子で顔を上げる。

「入れ」

 許可を得たので、和室へと入る。その後から、楽しげな表情のスズナがついて来る。
 浅葱の前に正座をした翡翠は、

「父上。美桜の菓子を持って来ました」

 と、胸を張って告げた。浅葱の視線が美桜に向く。美桜は緊張しながら風呂敷包みを開け、中の重箱を浅葱の方へ差し出した。
 紅葉の模様に螺鈿が細工された重箱の蓋を、浅葱が開ける。中を見て、僅かに表情が動いた。

「……これは何だ?」

「マカロンというお菓子です」

 背筋を伸ばし、美桜は、はきはきとした声で答えた。
 美桜が作ったマカロンは、バニラビーンズで香り付けしたホワイトチョコレートガナッシュが挟まれた、バニラマカロンだった。ひび割れ一つなく焼き上げられた生地には、赤色に色づけしたアイシングで、見た目も可愛く、紅葉が描かれている。

「見たことのない菓子だ」

 不思議そうにマカロンを眺めていた浅葱は、一つ摘まみ上げると、口に入れた。

(お父様、気に入って下さるかな)

 緊張で鼓動が早くなる。美桜が浅葱を見つめていると、

「んっ……? これは……」

 マカロンを半分囓った浅葱が、思わずといった体で声を漏らした。そのまま、残り半分も口にする。
 そわそわとしていたスズナが、

「私にも一つ下さいな」

 と言って、横から重箱に手を伸ばした。
「可愛らしいお菓子ね」と、くるりとまわして見た後、パクッと食べる。そして、

「あらまあ! とってもおいしいわ。ほろほろとしているのに、挟まっている甘味はなめらかで……これはなぁに? 白あんじゃないわね?」

 と、目を輝かせた。

「それは、チョコレートガナッシュです。ホワイトチョコレートに生クリームを混ぜて、バニラで香り付けしてあります」

 美桜の説明に、

「ほわいとちょこれぃと? なまくりぃむ? 聞いたことがないわ」

 と、スズナが首を傾げる。

「現世の製菓材料です」

「まあ、現世の……」

 そう言いながら、さらに重箱からマカロンを取り上げようとしたスズナの手を、浅葱が、ぺちんと叩いた。

「スズナ。それ以上食べると明日の菓子がなくなる」

「あら?」

 浅葱の言葉に、スズナの口元がほころぶ。

「このお菓子がお気に召しましたか?」

 スズナが、うふふと笑うと、浅葱は不機嫌な表情で、ふいと横を向いた。

(お父様、マカロンを気に入って下さったの?)

 胸中に喜びが沸き起こってくる。それと同時に、ほっと肩の力が抜けた美桜の手に、翡翠が手のひらを重ねた。

「父上、美桜のことは認めて下さいますね?」

 翡翠の問いかけに、浅葱は、

「いや、まだだ。明日の茶会の反応次第だ」

 と、首を振る。小さな声で、

「もう良いでしょうに。頑固な……」

 と、つぶやいた翡翠の言葉が聞こえたのか、浅葱が、

「翡翠、今、何と言った?」

 目を細めた。一瞬、不穏な気配になったものの、

「はいはい。浅葱様も翡翠も、バチバチしないで。美桜ちゃんのお菓子は、とってもおいしい。それでいいではないですか」

 と、スズナが手を打ち、二人を仲裁する。

「美桜ちゃん、素敵なお菓子をありがとう。きっと、他の龍神たちも喜んでくれるわ」

 スズナに笑顔を向けられ、美桜は、

「お褒めいただいて、ありがとうございます」

 と、畳に手をついて、深々と頭を下げた。
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