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辺境地にて4
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「ごめんね。私たち…私とイザークね、貴女が思っているような、そんな熱愛カップルってわけじゃないのよ」
「え」
かけられた言葉に驚いて、反射的に私は食器棚を見た。
さっき見たように、お揃いの食器は二人の仲の良さを語っているようなのだが。
それに昨日の親密な行為も目撃しているし。
「あの…私に気をつかわなくても……」
大人として、まだデビュー間もない子供の私のショックを、和らげようとしてくれようとしているのだろうか。
その気持ちはありがたいが、子供でもある程度は理解している。そう思いながら告げかけた言葉を、彼女が勢いよく遮る。
「ああ!そういうのじゃないから。本当に違うから!」
では、どういうのだろう?
戸惑う私に、彼女は言いにくそうに唇をゆがめ、それから咳ばらいを一つして、改めて姿勢を正した。
「私たちね、さっきも言った通り、国軍の兵士なの。彼も、私も」
仕事としては、辺境伯の私軍のサポートとして、有事の際には共に戦い、王都と辺境を繋ぐ役割を持つ。
辺境というのは、大きなものから小さなものまで小競り合いや戦も多く、王都にいるよりも、戦死率は上がる。が、その分給料もいいし、元の部署に戻ってからの処遇もいい。
だから、あちこちから志望する者も多いのだそうだ。
「彼の事情はともかく。私も、家族の為にお金を稼ぎたくてこの地に来ていてね。彼とはまあ、同じ職場にいたってだけなんだけど。慣れない土地だし、人恋しくて。貴女にはまだわからないかもしれないけど……。健康な男女でしょう?何となく体が寂しくて、一緒に寝て。寝たら体の相性が良かったから一緒に暮らしている、ってだけなのよね」
現に私、他に好きな人がいるし。片思いだけど。
彼女はあっけらかんと、それを私に告げた。
「はあ……」
体だけの関係?気持ちがないのに?他に好きな人がいるのに?
大人の事情が完全に理解できなくて、返事に困る。これは私が子供だからだろうか。
そんな私に微笑み、彼女は続けた。
「だから、鍵を開けて、あの場面を貴女に見せたのは、別に彼を取られたくなかった、とか、貴方に嫌がらせしてやろうっていうのじゃなく、むしろ彼への嫌がらせだったの」
彼女はそう言って、ため息をついた。
「イザークへの……嫌がらせ?」
「ええ。私ね、実は前からモヤモヤしていたの」
その言葉から始まったのは、私とは違う視点からの話だった。
イザークに言わせると、私は迷惑なストーカーでしかないらしいが、彼女から見ると、イザークは、私の事が本当に迷惑ならば、言おうと思えばいつでも言える立場だったという。
王都で一緒にいた時に言えただろうし、離れていても手紙という手もある。
なんなら最初の段階で、「冗談だよ」とでも言うことが出来たはず。
それなのに彼は何も私に伝えず、ただ距離と時間による自然消滅を望んだ。ユーリカさんとの事だって、手紙でも何でも伝える事ができる機会はいくらでもあったのに、それをしようとはしない。
「私に言わせれば、振り回したのは貴女じゃないわ。彼よ」
彼がしっかりと私に向き合い、断っていればよかっただけの話だ。それなのに彼は、上司の機嫌を損ねる事を恐れてそうしなかった。そうして今も、自分の保身の事だけを考えて口先で文句を言うだけ。自分で解決しようなんて考えてもいない。
「貴女がどうしようもなく狭窄的視野を持つ我儘娘、っていうのなら、向き合わずに逃げるっていうのも手かもしれない。けれど、一目見ただけでもそうじゃない、ってわかったわ」
最初は彼女も、イザークの話しか聞いていなかったから、私の事をかなり問題行動の多い、迷惑な子供だと考えていたらしい。
けれど、何度も話を聞く内に、おかしいと感じ始めたという。
原因は目の前の男じゃないか、と。
そう考えたら、こんな状況になっても、私一人を悪者にして文句を言う彼が嫌になったのだそうだ。
「それに、彼はまだ貴女の事を2年前に別れたままの子供だって思っているようだけど、今の貴女にあったら、自分の不実は伏せて婚約を…って話にもなるでしょうしね」
子供だから本気にはできなかったけれど、相手が大人なら事情は変わる。
何しろ相手は公爵令嬢で上司の娘。上手くいけば今後の出世の道も開けるし、そうでなくても彼女の実家から金を引き出すこともできるだろう。
彼がそう考えても、不思議ではない。
「……貴女にも悪いところはあったわ。本当にほんの少額だったとしても、彼にお金を渡してしまったでしょう?あれで彼も調子に乗ってしまったところもあったもの」
ただただ面倒な相手というだけではなく、利用価値のある人間だと認識してしまった。
彼女の指摘はもっともすぎて、顔を上げる事ができない。
そんな私に彼女は一つため息を吐いて、「それでも」と続けた。
自分と別れる、別れないという話はともかく、そういう不実な男が自分との関係を黙ったまま、純粋なお嬢さんを食い物にするような真似は許せなかった、と彼女は言う。
「だから、彼より先に貴女に目を覚ましてもらいたかったの」
彼のいい加減さや不実さを見てもらう。その為の行動だったと。
「時間がなかったから、荒療治とは思ったけれど。……傷つけてごめんね」
と言う彼女の話に、私は少しの間呆然とし、それから慌てて首を横に振った。
本当に、彼女が悪いわけではないから。
そして考える。
彼女の言葉が正しいのなら、彼女とイザークは体だけの関係ということになる。もっともそれは彼女の主観で、イザークからしてみれば、本気の恋愛なのかもしれないけれど。
でも、彼らの関係を体だけの関係として割り切って、今からでもイザークを想い続けられるか、と聞かれたら、身勝手な話だけど正直微妙な気がする。
無理強いをして迷惑をかけたことは、本当に申し訳ないとは思うけれど、彼女の言葉通り、彼は私の気持ちを知りつつ、きちんとした終わりを見せる前に、彼女と関係を持っていた人でもあるわけで……。
彼の立場だと、浮気ではないのだろう。子供の口約束だけで、正式に婚約したわけでもないのだし。
けれど、逃げた先で女性関係を持ってって。
それでいて、私に会えばまた彼は調子のいい事を言ったのだろう。よく来たね、会いたかったよ、好きだよって。
あの頃みたいな笑顔を浮かべて。
「…………」
容易に想像できる光景を頭に描き、私はひっそりと溜息を吐いた。
彼の本心を聞いた以上、どんなに耳障りのいい言葉を聞かされても、もう前の気持ちにはなれないと思う。
どのみち、ここまでだったって事よね。
その事実が胸の中にことりと落ちると、自分の中で何かが終わった気がした。
振られた事には変わりがないし、一日経っても色々な感情が胸をざわつかせているのは事実。
だけど、それとは別に、目の前に突き出された結末に妙に納得している自分がいた。
多分、自分の中にも、すでにこういった可能性があるというのは、分かっていたのだと思う。この街に来る前から。それが、旅に出る前だったのか、手紙が来なくなってからだったのかはわからないけれど。
わかっていた。けれど認めたくなくて、はっきりさせたくなくてグズグズと時間を消費していた。それだけだったのだろう。
そこに現実を見せつけられた。
だとしたら。
「気を遣っていただいて、ありがとうございます。言っていただいて、何だかすっきりしました」
なるべく硬い声になってしまわないように気を使いながら頭を下げる。
言葉は本心だった。
曇っていた視界が開き、散らかっていた物が、あるべきところに収まった。そんな感覚。
お茶をごちそうさまでした。そう言って席を立つと、彼女は少し安堵の表情を見せ小さく頷いた。
彼女にとっても心地の良い時間ではなかったのだろう。
それでも付き合ってくれた。話してくれた。その事に感謝をしつつ、そのまま玄関へと向かう。彼女も見送りの為か一緒に付いてきてくれ、玄関の扉を開けた時……。
「!アレク」
玄関扉の隣。壁に凭れたアレクの姿があった。
「………」
「どうして……って。もしかして、心配して付いてきてくれていたの?」
私の質問に、彼が小さく頷く。相変わらずの無表情だが、目元辺りにバツの悪さが見え、思わず口元が緩んでしまう。
いたずらが見つかった時の、耳が垂れたフランクみたいな姿。
この人は、時々こうして年相応の反応を見せてくれるのだ。
「………貴方は……」
背後の声に振り返ると、見送りに来てくれたユーリカさんが驚いたような顔をしている。
まあ、そうよね。自分の家の前にいきなり知らない人……しかも男性がいるんだもの。
「驚かせてごめんなさい。私の知り合いなの。王都からここまで父が護衛をお願いした方で……」
決して不審者ではありません。そう言いたくて、急いで言葉を紡いだ私に、彼女は目を見開いたまま私と彼の顔を交互に見つめ……。それから肩の力を抜いた。
「そうなの……。護衛を……。」
「はい。今回の事で心配をかけてしまって、ついて来てくれていたみたいなんです」
「付いて……貴方が……?」
?貴方が?という事は、もしかしてユーリカさんは、アレクを知っているのだろうか。
知っていてもおかしくはないと思う。
ユーリカさんはイザークと同じように、ローレインには数年駐在している。アレクの所属はわからない
けれど、彼ほどの腕前ならば、騎士としてどこかで会っているかもしれないから。
そんな事を思っている間に、アレクは壁から背を離し、一度ユーリカさんの方を見てから私たちに背を向ける。
用が終わったなら行こう。という事らしい。
言葉が少ないのは相変わらずだな、と呆れつつ、私はユーリカさんに改めて頭を下げた。
「お話させていただいて、ありがとうございます。さっき言ったみたいに、王都に戻りますので、イザークには手紙を渡していただけますか?」
「え、ええ。わかったわ。気をつけて」
「ありがとうございます」
それでは、と別れ、数歩前で止まって私を待ってくれていたアレクの元へ行く。
その私の背に、ユーリカさんの呆然とした声が小さく届いた。
「信じられない……え?もしかして、そう言う事?」
「え」
かけられた言葉に驚いて、反射的に私は食器棚を見た。
さっき見たように、お揃いの食器は二人の仲の良さを語っているようなのだが。
それに昨日の親密な行為も目撃しているし。
「あの…私に気をつかわなくても……」
大人として、まだデビュー間もない子供の私のショックを、和らげようとしてくれようとしているのだろうか。
その気持ちはありがたいが、子供でもある程度は理解している。そう思いながら告げかけた言葉を、彼女が勢いよく遮る。
「ああ!そういうのじゃないから。本当に違うから!」
では、どういうのだろう?
戸惑う私に、彼女は言いにくそうに唇をゆがめ、それから咳ばらいを一つして、改めて姿勢を正した。
「私たちね、さっきも言った通り、国軍の兵士なの。彼も、私も」
仕事としては、辺境伯の私軍のサポートとして、有事の際には共に戦い、王都と辺境を繋ぐ役割を持つ。
辺境というのは、大きなものから小さなものまで小競り合いや戦も多く、王都にいるよりも、戦死率は上がる。が、その分給料もいいし、元の部署に戻ってからの処遇もいい。
だから、あちこちから志望する者も多いのだそうだ。
「彼の事情はともかく。私も、家族の為にお金を稼ぎたくてこの地に来ていてね。彼とはまあ、同じ職場にいたってだけなんだけど。慣れない土地だし、人恋しくて。貴女にはまだわからないかもしれないけど……。健康な男女でしょう?何となく体が寂しくて、一緒に寝て。寝たら体の相性が良かったから一緒に暮らしている、ってだけなのよね」
現に私、他に好きな人がいるし。片思いだけど。
彼女はあっけらかんと、それを私に告げた。
「はあ……」
体だけの関係?気持ちがないのに?他に好きな人がいるのに?
大人の事情が完全に理解できなくて、返事に困る。これは私が子供だからだろうか。
そんな私に微笑み、彼女は続けた。
「だから、鍵を開けて、あの場面を貴女に見せたのは、別に彼を取られたくなかった、とか、貴方に嫌がらせしてやろうっていうのじゃなく、むしろ彼への嫌がらせだったの」
彼女はそう言って、ため息をついた。
「イザークへの……嫌がらせ?」
「ええ。私ね、実は前からモヤモヤしていたの」
その言葉から始まったのは、私とは違う視点からの話だった。
イザークに言わせると、私は迷惑なストーカーでしかないらしいが、彼女から見ると、イザークは、私の事が本当に迷惑ならば、言おうと思えばいつでも言える立場だったという。
王都で一緒にいた時に言えただろうし、離れていても手紙という手もある。
なんなら最初の段階で、「冗談だよ」とでも言うことが出来たはず。
それなのに彼は何も私に伝えず、ただ距離と時間による自然消滅を望んだ。ユーリカさんとの事だって、手紙でも何でも伝える事ができる機会はいくらでもあったのに、それをしようとはしない。
「私に言わせれば、振り回したのは貴女じゃないわ。彼よ」
彼がしっかりと私に向き合い、断っていればよかっただけの話だ。それなのに彼は、上司の機嫌を損ねる事を恐れてそうしなかった。そうして今も、自分の保身の事だけを考えて口先で文句を言うだけ。自分で解決しようなんて考えてもいない。
「貴女がどうしようもなく狭窄的視野を持つ我儘娘、っていうのなら、向き合わずに逃げるっていうのも手かもしれない。けれど、一目見ただけでもそうじゃない、ってわかったわ」
最初は彼女も、イザークの話しか聞いていなかったから、私の事をかなり問題行動の多い、迷惑な子供だと考えていたらしい。
けれど、何度も話を聞く内に、おかしいと感じ始めたという。
原因は目の前の男じゃないか、と。
そう考えたら、こんな状況になっても、私一人を悪者にして文句を言う彼が嫌になったのだそうだ。
「それに、彼はまだ貴女の事を2年前に別れたままの子供だって思っているようだけど、今の貴女にあったら、自分の不実は伏せて婚約を…って話にもなるでしょうしね」
子供だから本気にはできなかったけれど、相手が大人なら事情は変わる。
何しろ相手は公爵令嬢で上司の娘。上手くいけば今後の出世の道も開けるし、そうでなくても彼女の実家から金を引き出すこともできるだろう。
彼がそう考えても、不思議ではない。
「……貴女にも悪いところはあったわ。本当にほんの少額だったとしても、彼にお金を渡してしまったでしょう?あれで彼も調子に乗ってしまったところもあったもの」
ただただ面倒な相手というだけではなく、利用価値のある人間だと認識してしまった。
彼女の指摘はもっともすぎて、顔を上げる事ができない。
そんな私に彼女は一つため息を吐いて、「それでも」と続けた。
自分と別れる、別れないという話はともかく、そういう不実な男が自分との関係を黙ったまま、純粋なお嬢さんを食い物にするような真似は許せなかった、と彼女は言う。
「だから、彼より先に貴女に目を覚ましてもらいたかったの」
彼のいい加減さや不実さを見てもらう。その為の行動だったと。
「時間がなかったから、荒療治とは思ったけれど。……傷つけてごめんね」
と言う彼女の話に、私は少しの間呆然とし、それから慌てて首を横に振った。
本当に、彼女が悪いわけではないから。
そして考える。
彼女の言葉が正しいのなら、彼女とイザークは体だけの関係ということになる。もっともそれは彼女の主観で、イザークからしてみれば、本気の恋愛なのかもしれないけれど。
でも、彼らの関係を体だけの関係として割り切って、今からでもイザークを想い続けられるか、と聞かれたら、身勝手な話だけど正直微妙な気がする。
無理強いをして迷惑をかけたことは、本当に申し訳ないとは思うけれど、彼女の言葉通り、彼は私の気持ちを知りつつ、きちんとした終わりを見せる前に、彼女と関係を持っていた人でもあるわけで……。
彼の立場だと、浮気ではないのだろう。子供の口約束だけで、正式に婚約したわけでもないのだし。
けれど、逃げた先で女性関係を持ってって。
それでいて、私に会えばまた彼は調子のいい事を言ったのだろう。よく来たね、会いたかったよ、好きだよって。
あの頃みたいな笑顔を浮かべて。
「…………」
容易に想像できる光景を頭に描き、私はひっそりと溜息を吐いた。
彼の本心を聞いた以上、どんなに耳障りのいい言葉を聞かされても、もう前の気持ちにはなれないと思う。
どのみち、ここまでだったって事よね。
その事実が胸の中にことりと落ちると、自分の中で何かが終わった気がした。
振られた事には変わりがないし、一日経っても色々な感情が胸をざわつかせているのは事実。
だけど、それとは別に、目の前に突き出された結末に妙に納得している自分がいた。
多分、自分の中にも、すでにこういった可能性があるというのは、分かっていたのだと思う。この街に来る前から。それが、旅に出る前だったのか、手紙が来なくなってからだったのかはわからないけれど。
わかっていた。けれど認めたくなくて、はっきりさせたくなくてグズグズと時間を消費していた。それだけだったのだろう。
そこに現実を見せつけられた。
だとしたら。
「気を遣っていただいて、ありがとうございます。言っていただいて、何だかすっきりしました」
なるべく硬い声になってしまわないように気を使いながら頭を下げる。
言葉は本心だった。
曇っていた視界が開き、散らかっていた物が、あるべきところに収まった。そんな感覚。
お茶をごちそうさまでした。そう言って席を立つと、彼女は少し安堵の表情を見せ小さく頷いた。
彼女にとっても心地の良い時間ではなかったのだろう。
それでも付き合ってくれた。話してくれた。その事に感謝をしつつ、そのまま玄関へと向かう。彼女も見送りの為か一緒に付いてきてくれ、玄関の扉を開けた時……。
「!アレク」
玄関扉の隣。壁に凭れたアレクの姿があった。
「………」
「どうして……って。もしかして、心配して付いてきてくれていたの?」
私の質問に、彼が小さく頷く。相変わらずの無表情だが、目元辺りにバツの悪さが見え、思わず口元が緩んでしまう。
いたずらが見つかった時の、耳が垂れたフランクみたいな姿。
この人は、時々こうして年相応の反応を見せてくれるのだ。
「………貴方は……」
背後の声に振り返ると、見送りに来てくれたユーリカさんが驚いたような顔をしている。
まあ、そうよね。自分の家の前にいきなり知らない人……しかも男性がいるんだもの。
「驚かせてごめんなさい。私の知り合いなの。王都からここまで父が護衛をお願いした方で……」
決して不審者ではありません。そう言いたくて、急いで言葉を紡いだ私に、彼女は目を見開いたまま私と彼の顔を交互に見つめ……。それから肩の力を抜いた。
「そうなの……。護衛を……。」
「はい。今回の事で心配をかけてしまって、ついて来てくれていたみたいなんです」
「付いて……貴方が……?」
?貴方が?という事は、もしかしてユーリカさんは、アレクを知っているのだろうか。
知っていてもおかしくはないと思う。
ユーリカさんはイザークと同じように、ローレインには数年駐在している。アレクの所属はわからない
けれど、彼ほどの腕前ならば、騎士としてどこかで会っているかもしれないから。
そんな事を思っている間に、アレクは壁から背を離し、一度ユーリカさんの方を見てから私たちに背を向ける。
用が終わったなら行こう。という事らしい。
言葉が少ないのは相変わらずだな、と呆れつつ、私はユーリカさんに改めて頭を下げた。
「お話させていただいて、ありがとうございます。さっき言ったみたいに、王都に戻りますので、イザークには手紙を渡していただけますか?」
「え、ええ。わかったわ。気をつけて」
「ありがとうございます」
それでは、と別れ、数歩前で止まって私を待ってくれていたアレクの元へ行く。
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「信じられない……え?もしかして、そう言う事?」
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