転生してもオタクはなおりません。

しゃもん

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45.僕は不運な男で趣味は最悪だった。

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 フレッドは、背後から感じる殺気に震えながらも、  
 先ほど渡された剣を振るい、断崖に続く細い道で敵と対峙していた。

(……それにしても、今の状況って何なんだ?)

 自業自得? いや、これはもう――自分の趣味の悪さか。

 剣を振るいながら、フレッドは試合後の出来事をぼんやりと思い返していた。

 あの時、少しだけ彼女――花子はなこと話をしようとした。

 だが、彼女の父親が部屋に入ってきて、  
 ものすごい殺気を放たれたため、スゴスゴと退散。


 すぐに帰国しようと会場を出たところで、  
 なぜか花子はなこの専任護衛・キサラギに捕まった。


「いい加減にしろよ。今度は何なんだ?」

花子はなこ様の“伴侶”として相応しいかどうかの試験です。」

「はあぁ!? 伴侶になりたいなんて言った覚えはないぞ!」

「では、今すぐここから立ち去り、二度と花子はなこ様に近づかないでください。」

「なんでそうなるんだ!? 同じ大学にいるんだぞ? 友人なら問題ないだろ!」

「友人なら、いりません。」

「いらないって……それはお前たちの言い分だろ。本人は……何も言ってないじゃないか!」

「男女間に友情は成立しません。今すぐ決めてください。」


「……」


 キサラギの圧に気圧され、フレッドはじりじりと後退し、  
 ついには壁際まで追い詰められていた。


「さあ、さあ、さあ……」

「う……」
(なんで、“もう二度と会わない”って言えないんだ……)

 その一言を言えば、この異様な状況からすぐに解放される。

 なのに、なぜか言葉が出てこない。

(別に、僕の野心を叶えるのに必要な相手は、彼女じゃなくてもいいはずだ。  
 家柄と魔力の高さは評価できるけど、容姿は……まったく好みじゃない)

 それなのに――

「二度と会わない」と言おうとするたびに、  
 彼女の、あの平凡な顔が浮かんできて、言葉が詰まる。


(なんで……なんで言えない?)

(まさか……まさか、僕……)

(気に入ってる?)

(いや、これは……すき……スキ……好き!?)


「う……」

 なんですぐに「もう二度と会わない」と答えないんだ。

 フレッドは自問自答していた。

 その一言を言えば、この異様な状況からすぐにでも解放されるのに、  
 なぜかその言葉が喉を通らなかった。


 別に、自分の野心を叶えるのに必要な相手は一人じゃない。

 彼女は、自分の好みとはだいぶかけ離れている。


 魔力の高さと家柄――それだけが評価ポイント。

 容姿なんて、まったく好みじゃない。


 それなのに、「二度と会わない」と言おうとするたびに、  
 彼女の、あの平凡な顔が浮かんできて、言葉が詰まる。


 なんで……なんで言えない。

 なんで……。


(まさか……まさか、あの娘を気に入ってる?)

(いや、この感じは……すき……スキ……好き!?)


「うおーーーっ!」


 フレッドは壁に背中を預けたまま、ズルズルと地面に崩れ落ちた。


「ハハハハハ……」


 顔を伏せてへたり込むフレッドを見て、  
 キサラギは背を向け、その場を立ち去ろうとした――が。


「おい、待てよ。」

「どうかしましたか?」

「……一緒に行く。」

「はあぁ?」


 フレッドは立ち上がると、キサラギを追い越して通りに出た。

 そして、外に待たせていた乗り物に、率先して乗り込んだ。


 キサラギは、急に前を歩き出したフレッドの背中を訝しげに見つめながらも、  
 命令を遂行すべく、そのまま八百万やおよろず神社へと向かった。


 道中、フレッドはただただ、自分の趣味の悪さに呆れていた。


(……いつ、彼女に惚れたんだ?)

(いつ? なんで?)


 答えの出ない問いをぐるぐると考えているうちに、  
 乗り物は神社の正面――長い石段の前に到着した。


 フレッドは無言のまま、石段を登り始めた。

 数十分かけて、いくつもの朱塗りの鳥居をくぐり抜け、  
 ようやく本殿にたどり着いた。


 だが、案内役は本殿を横目に、池を渡る橋をいくつも越え、  
 どんどん奥の建物へと進んでいった。


 そして、フレッドは本殿から最も離れた一室に通された。


 部屋に入ると、そこには――

 試合会場で別れたばかりのパートナーの実母ははが座っていた。


「あら、本当に来るなんて思わなかったわ。」

「意外ですか?」

「そうね。意外ではあるけど……あの人の息子なら、ありえることだったわね。」


(あの人って……誰のことだ?)


 フレッドが疑問に思っていると、  
 彼女は目の前に、桐で作られた古い箱を差し出した。


「これを、あなたにあげるわ。」


 フレッドは訝しげに思いながらも、  
 箱にかけられた紐を丁寧に解き、蓋を開けた。


 中には、重厚な黒い鞘の剣が収められていた。


(……呼ばれてる?)


 思わず手を伸ばし、剣を取り出した瞬間――

 クラッと、眩暈に襲われた。


(なんだ……?)


 体に力を入れ、両目を固く閉じる。

 視界がグラグラと揺れ、脂汗が頬を伝う。


(何が……起こってるんだ……)



 そのまま、剣を握ったまま――フレッドは意識を手放した。


 気がつくと、そこは何もない空間。

 フレッドは宙に浮かび、下を見下ろすと――


 簡素な着物をまとった、筋骨たくましい男が、  
 黒い鞘の剣を腰に差し、三つ首の大蛇と対峙していた。


 男は駆け出し、剣を一閃――

 瞬きする間に、大蛇の首が一つ、落ちた。

 続けて、残りの首も難なく斬り落とし、  
 血を振り払って剣を鞘に納める。


(……すごい)


 気がつくと、場面は一転して、  
 金と朱を基調とした豪奢な部屋へと変わっていた。

 天井には細工の施された梁が走り、  
 壁には見事な刺繍の掛け軸が飾られている。

 その中央に、先ほどの男が座していた。


 だが、先ほどの戦士の面影はそこにはなかった。

 男は静かに盃を傾け、何かを思い詰めるように目を伏せていた。

 その膝元には、幼い少女が一人、男の袖を握って座っている。


(……娘?)


 フレッドがそう思った瞬間、  
 部屋の障子が激しく開かれ、数人の兵がなだれ込んできた。

 男は娘を背に庇いながら立ち上がり、  
 腰の剣に手をかけた――


(これは……守るための戦い?)


 フレッドの胸に、何か熱いものがこみ上げてきた。

 この剣が見せているのは、ただの過去ではない。

 **「選ばれた者に託された、意志」**なのかもしれない。


 気がつくと場面が勝手にどこかの豪華な部屋に変わっていた。

 男は小さな少女を抱き締めてそのまま寝所に連れ込むと彼女の着衣に手を掛ける。
 真珠色の肌が見えた。
 胸はまだ小さい。

(おいおい……これって、このまま見ていていいのか?)


 フレッドがそう思った瞬間、場面が再び変わった。


 血塗られた剣を手にした、先ほどの男が立っていた。

 その足元には、血まみれで倒れている先ほどの少女の姿――  
 あのとき、男が抱きしめていた少女だった。

 男はしばし彼女を見下ろし、  
 やがて静かに背を向けると、  
 目前に迫っていた鎧をまとった兵士の群れへと、  
 無言で突っ込んでいった。


 男は孤軍奮闘した。

 だが、多勢に無勢。
 やがて、剣を手にしたまま、その場で絶命した。

 剣は地面に突き立てられ、  
 その場にいた兵たちが何人か引き抜こうとしたが――

 誰一人として、それを動かすことはできなかった。


(……うーん。この白昼夢、何を意味してるんだ?)

(いきなりこんなもの見せられて、僕にどうしろっていうんだよ)

 場面はそこで静止した。

 目の前には、地に突き立てられた黒い鞘の剣。
(……これって、やっぱり“抜け”ってことだよな)


 フレッドは恐る恐る、剣に手を伸ばした。

 その瞬間――

 絶命した男の思考が、怒涛のようにフレッドの中に流れ込んできた。


 **復讐だ。  
 殺すんだ。  
 俺の女を殺した奴らを……**


(気持ちはわかるけど……なんで、そんな力任せなことばっかりなんだよ)

(やるなら、もっと慎重に……裏から手を回すとか、方法はあるだろ)


 フレッドの思考が、剣の記憶と交差する。

 まるで、剣に語りかけているような感覚。


 この剣は、ただの武器じゃない。

 それは、怒りと悲しみ、そして未練を抱えた“意志”そのものだった。


(……さて。僕は、どうする?)

(気持ちはわかるが……なんで、そう力任せなことばっかりなんだ?  
 やるなら、もっと慎重に……裏から手を回すとかさ)

 思わず自分の考えを口にしかけた瞬間――

 **パチリ。**

 視界が切り替わり、フレッドは目を覚ました。

 そこは、先ほどの部屋だった。

 フレッドは一ミリも動いておらず、倒れてもいなかった。

 手には、あの黒い鞘の剣がしっかりと握られたままだった。


「さすが、ミート家の人間ね。」

 目の前にいた女性――信子のぶこが、静かに立ち上がる。

「その剣は、もうあなたのもの。好きに使いなさい。」

 そう言い残して、彼女は部屋を後にした。

 その直後――

 神社の外から、緊迫した声が響き渡った。

「敵の襲撃です! 全員、裏庭へ!」

「ほら、行くわよ。」

 キサラギが現れ、フレッドの腕を引いて裏庭へと急がせる。

(僕って……ついてるのか?  
 それとも、人生最大の貧乏くじを引いたのか……)

 フレッドは、手にした剣を見つめながら、自問した。

 そして再び、断崖に続く細い道で、敵と対峙する。

 先ほど受け取った剣を振るうたびに――

 その剣は、まるで空気のように軽くなっていく。

(……軽すぎる。これ、本当に剣か?)

 少し離れた場所で、同じく敵と戦っていたキサラギは、  
 フレッドの剣さばきを見て、目を見開いた。

信子のぶこ様が言ってた……あの剣は、  
 使い手によっては“血を吸うたびに重くなり、  
 やがて誰にも振れなくなる”って……)

(でも、今の彼の動き……逆に、剣が軽くなってる?)

(ということは……まさか、彼が“選ばれた”ってこと?)

(何千年も誰にも扱えなかった、あの曰く付きの剣を……)


 キサラギは一瞬だけフレッドを見つめたが、すぐに意識を敵へと戻した。

(ま、今のところ問題はなさそうだし……)


 ――だが。

 フレッドはまだ知らなかった。

 自分が、どれほど**厄介なもの**を手にしてしまったのかを。

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