転生してもオタクはなおりません。

しゃもん

文字の大きさ
70 / 104

70.封印

しおりを挟む

 **封印日当日。**

 これでもかというほどの快晴の空の下、  
 大海おおみの訓練を終えた面々は、乗物に乗り込み王宮へと向かった。

 マリアとフィーアは先に王宮入りし、  
 “開かずの間”の前で何やら準備を進めているとのことだった。

 後から到着した一行を、侍従が待ち構えており、  
 すぐに“開かずの間”へと案内された。

「こちらです」

 案内された部屋には、礼服姿のマリアとフィーア、  
 そして王を囲む近衛たちが待機していた。

 その横には――

「やあ、大会以来だね」

 少しやつれた表情のフレッドが、腰に剣を差し、笑顔を浮かべて立っていた。

「なんでここに……?」

 花子が唖然としていると、  
 その後ろから、白髪の細身の男――ミート館長が現れ、  
 今度は大海おおみに微笑みかけた。

「知らなかったとはいえ、“破邪の剣”を私の孫に渡していたとはね」

「私が渡したわけじゃないわ。娘が与えたの。  
 だから私に礼を言う必要はないわ」

「そうか。なら礼は言わない。  
 だが、何も返さないのはミート家の礼儀に反する」

 そう言って、ミート館長は懐から黒ずんだカギを取り出した。

「これは?」

「“開かずの間”にあるものの中で、  
 必要になるかもしれないし、ならないかもしれないカギだ」

「……なるほど。確かに受け取ったわ」

 大海おおみはそのカギを和紙に挟み、懐にしまった。

「それと――忘れていた。  
 孫も一緒に“開かずの間”に連れて行ってくれ。  
 使えなければ、囮にでもしてくれて構わん」

「じいさん……!」

 フレッドが不服そうに祖父を睨む。

「相変わらず、身内には厳しいのね」

 大海おおみは苦笑しながらも頷き、  
 今度は王へと視線を向けた。

 王は静かに扇を扉へ向け、口を開いた。

「ミート館長と知り合いとは意外だが……  
 とにかく、“開かずの間”を開けて、封印を済ませてくれ」

「承りました」

 大海おおみは頷き、  
 花子はなこたち、そしてフレッドに視線を送り、  
 “開かずの間”の扉に両手を押し当てた。

 扉が淡く光り、**ギィーーーー**という鈍い音を立てて開いていく。

 **その瞬間――**

 前回の比ではない、  
 何十倍もの濃密な黒い冷気が、  
 雪崩のように扉の外へと溢れ出した。

「あらあら……よっぽど、ここは“えさ”に困らなかったのね。  
 でも、太りすぎよ」

 大海おおみはそう言い放ち、  
 迷いなく“開かずの間”へと足を踏み入れた。

 花子はなこたちも続き、  
 最後にフレッドが扉をくぐる。

 部屋の中央には――

 黒い冷気をまとい、カタカタと蓋を震わせる、  
 古びた封印箱が宙に浮かんでいた。

 大海おおみが数枚の札を手に近づくと、  
 箱から漏れ出た黒い冷気が人の形を成し、次々に襲いかかってきた。

大海おおみ様、お任せください!」

 セバスとツヴァイが前に出て、  
 剣で黒い影を次々に薙ぎ払っていく。

 その間に大海おおみは、  
 和紙の札を手に、封印箱へと近づいた。

 だが――

 封印札を貼ろうとした瞬間、  
 反対側の札が捲れ、**ハラリ**と床に落ちた。

 **ドォン!**

 轟音とともに、黒い冷気が爆発的に溢れ出し、  
 背後から近づいていた花子はなこに襲いかかる。

花子はなこちゃん!」

 大海おおみの叫びに、花子は即座に反応。

 数枚の札に魔力を通し、  
 黒い冷気を見えない壁で押しとどめる。

 さらに札を重ねて張り付けると、  
 その札は黒い冷気を吸い込み始め、  
 見えない壁が徐々に縮んでいく。

 その間も、箱から漏れ出る冷気は、  
 ムツキとキサラギが剣で次々に薙ぎ払っていった。

 大海おおみは安心したように頷き、  
 封印札を四隅に貼り、印を結ぶ。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」


 箱は激しく軋み、蓋をガタガタと揺らすが――

 やがて、**ピタリ**と静まり、  
 黒い冷気が薄れ、箱は**ドスン**と床に落ちた。

大海おおみ!」

 外で見守っていたマリアが喜びの声を上げ、  
 部屋に入ろうとする。

「誰も動かないで!」

 大海おおみの鋭い声が響く。

 その瞬間――

 封印箱が、黒ずんだ木から、  
 黒い鋼鉄の宝箱へと姿を変えた。

 箱が光り出し、  
 大海おおみの懐にしまっていたカギも同じように輝き始める。

 大海おおみは和紙に包んでいたカギを取り出し、  
 迷いなく宝箱に差し込んだ。

 **カチャリ**

 軽い音とともに、宝箱が開く。

 中から現れたのは――

 前面は日ノ本の女性、  
 背面はこの国の女性の姿をした、  
 奇怪な“両面の生き物”。

(なにこれ……まるで、前世の京都で見た“両面宿儺”みたい)

 花子が呟く。

 ムツキとキサラギも、その異形の存在に言葉を失っていた。

 その生き物を凝視した者は、  
 次々に金縛りに遭い、動けなくなっていく。

 そんな中――

 大海おおみは、静かに一枚の札を手に取り、  
 奇怪な生き物へと歩み寄った。

 なぜか、その表情は穏やかで、優しさすら滲んでいた。

 そして、正面に現れた“日ノ本の女性”の顔に、  
 その札をそっと貼り付けた。

 **ふわり――**

 札が淡い光を放った瞬間、  
 女性の姿はまるで泥人形のように、  
 雨に濡れた土が崩れるように、  
 **ドロドロ**と溶けて床に広がっていった。

 光が消えたあと、  
 大海おおみの前には、背中を向けた女性の姿だけが残っていた。

 だが――

 片面が溶け落ちたその生き物は、  
 背後の欠損を気にする様子もなく、  
 そのまま**花子はなこ**に向かって突進してきた。

 その動きは、まるで“執念”そのもの。

(来る――!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【完結短編】真実の愛を見つけたとして雑な離婚を強行した国王の末路は?

ジャン・幸田
恋愛
真実の愛を見つけたとして政略結婚をした新妻を追い出した国王の末路は、本人以外はハッピーになったかもしれない。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

処理中です...