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30.ブランの過去。
しおりを挟む実父の前には、白髪を緩やかにアップにした歴史の教師――ホワイト伯爵令嬢ノイが立っていた。
「ブラン様!」
「ホワイト伯爵令嬢、久しぶりだね。今回は娘が世話になったと聞いたよ。」
「まあ、ブラン様。昔と同じように“ノイ”と呼んでくださいな。」
実父は娘を紹介しようとしたが、彼女の視線が花子に向いていないことに気づいた。
一方、まるっと無視された花子は、横でその様子を観察していた。
(白髪の教師の名前はノイで、伯爵令嬢……それにしても、お父様を見る目が完全に恋する乙女なんだけど……)
(昔、何があったの……?)
花子は思わず実父の表情を観察したが、特に何かを読み取ることはできなかった。
「悪いけど、君は独身だ。私が名前を呼ぶのは失礼に当たるよ。」
「まあ、何をおっしゃいますの。ブラン様はつい最近アンジェリーナ様と離婚されたとお聞きしましたわ。
まだ世間的にすぐ結婚は難しいでしょうけど、私は気にしませんわ。」
実父は、彼女のトンチンカンな発言に心の中で盛大に悪態をつきながらも、丁寧に説明した。
「私はすでに、ここにいる花子の実母と再婚しているんだ。だから、君を名前で呼ぶことはできない。」
はっきりと拒絶の意志を示す実父。
「なぜですの? 昔は他の女とは寝ても、なぜ私だけはダメだったんですか?」
「ホワイト伯爵令嬢。どういう意味かな?」
「そのままの意味ですわ、ブラン様。貴族は貴族同士で結婚するべきです。庶民などと結婚するなんて、ありえませんわ!」
「ホワイト伯爵家はそうかもしれないが、ルービック家は“魔力”を最も重んじる家系なんだ。」
「そ、それなら私だって……アンジェリーナ様ほどではありませんが、負けませんわ! ですから……!」
そう言って、ノイは実父に抱きつこうとした。
「ホワイト伯爵令嬢。私は信子を愛しているんだ。」
実父は彼女の両肩を掴んで拒絶し、花子を連れて背を向けた。
「知っていますのよ、ブラン様。その庶民は魔力がゼロなんでしょう?
でも、なぜか彼女との間にできた子どもは桁外れの魔力を持っている――それなら大丈夫ですわ。
その女を愛人になさればいいのですわ。子どもを認知するくらい、私は心が広いですわよ!」
実父の足がピタリと止まり、振り返ってノイを鋭く睨みつけた。
「私は、その君の考え方が――嫌いなんだ。二度と私に話しかけないでくれ。」
それだけ言い残し、実父は花子を連れて足早にその場を離れた。
……が、舞踏会のホールを抜けて会場を出ようとしたところで、別の女性に捕まった。
「あら、本当にいたのね。私に挨拶もなしで帰るつもりかしら?」
「ナオミ。言っておくけど、南条にはさっき会って挨拶したから、この手を離してもらえないかい?」
「本当に?」
「君たち夫婦の問題に、私を巻き込むのはやめてくれ。彼の性格なら、君も知っているだろう?」
「本当、嫌になるくらい昔から私に嫉妬してくれないのよ。」
実父は溜息をついた。
「ナオミ。君は勘違いしているよ。嫉妬しないんじゃなくて、君が気づかないだけだよ。」
「ちょっと、それどういう意味?」
ナオミが実父の腕を掴んでいるところに、さっき会った渋めの男性――ナイトがやってきた。
「ナオミ。ブランの腕を離しなさい。ノイがここに来ちゃうからね。」
「ナイト。未婚の女性を名前で呼んじゃダメだって言ってるでしょ!」
ナオミはようやく手を離し、今度は夫であるナイトの腕を掴んだ。
「そうだったね、ごめんよ。言いづらかっただけなんだ。」
二人の口喧嘩に呆れながらも、実父は目配せしてきた南条に目線で「助かった」と伝え、
花子を連れて会場を抜けた。
会場を出ると、まだ舞踏会は始まったばかりだったため、通路には人もまばらだった。
実父は無言のまま花子を車に乗せ、ようやく口を開いた。
「……ごめんよ、花子。偉そうなことを言ったけど、たぶん歴史の単位は落としたと思うよ。
まさか、歴史の教師があのホワイト伯爵令嬢だったとは思わなかったんだ。」
「ですから、要注意人物がいると注意いたしましたのに……」
アインが運転席から、ブツブツとお小言を呟いていた。
「仕方ないだろ。あのホワイト伯爵令嬢は、昔っから苦手だったんだから。」
「まあ、今回は仕方ありませんね。もう諦めて、“大学対抗魔法戦”に申し込むことをお勧めします。」
「魔法戦?」
聞き慣れない単語に、花子は首をかしげた。
(魔法戦と単位……どうつながるの?)
「確かに、あれなら単位は取れるが……危険じゃないか?」
「花子様の魔力量なら、問題ありませんよ。」
「しかし……」
渋る実父を、アインがじわじわと説得していく。
そんなやりとりをしているうちに、車は自宅へと到着した。
(……今日は一体、何のためにあんな面倒な舞踏会に行ったんだろう)
ちょっと自問自答しながら、花子はため息をついた。
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