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27 雨宿り

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 俺は薬草と山菜摘みをするために森を歩いた。
 ジェラルドはギルドの仕事に行っているから一人で、いや、一人と一体?
 用心棒と言い張るドールのミラも連れてる。

 しばらく薬草や山菜を採取していると、雨がしとしと降り出した。

 慌てて魔法の鞄からタープを取り出し、二本の木に紐を縛りつけ、簡易的な屋根を作った。

 椅子も二つ出し、ミラと隣り合って座った。
 見慣れた狐色が遠くに見えた。
 それは近付いてくる、ミレナが走って来たのだ。


「あ! こんな所に雨宿り用の屋根が!」


 わざとらしくそう言ってくるから、入れてほしいのだろう。

 俺は隣の椅子に座っていたドールを抱き上げ、膝に乗せて椅子を一人分空けた。


「どうぞ」
「ありがとう」

 ミレナは素直に礼を言って椅子に座った。


「ミレナはまだ一人でいるのか? パーティは無しで」
「別にいいでしょ、ところでなによその人形は」

「実家から連れて来たんだが、賢者の家の魔力の影響か、動きだしたんだ」
「パペットマスターになったの?」
「別に操り人形じゃなくて勝手に動いてる」

「はあ?」
「この子が俺を守ってくれるらしい」
「私、ミラ。マスターを守る」
「悪いもんじゃないならいいけど」

 そういや名前の、ミラとミレナで頭文字のミが被ってしまった。
 まあ、いいか。
 別にミレナはずっと俺のそばにいる訳じゃないだろうし。

 俺は隣りにいる濡れたミレナの髪を見て、鞄からふわふわのタオルを出して渡した。


「ふわふわだわ」
「それで濡れた髪とかを拭くといい、濡れたまま放置してると風邪をひいたり、こすれた時に傷むんだろ」

 ミレナはタオルで髪をゴシゴシ拭いた!

「違う! 優しく! そっと包んでタオルを押し付けるように!」
「じゃあショータがやってよ」
「お姫様かぁー」

 俺は呆れながら椅子ごとミレナの背後に移動した。
 そしてミレナの手にしてるタオルでそっと水分を吸い取るように包み、優しくぽんぽんとした。

「悪くないわね、奉仕させるのも」

「お前なあ、獣人の寿命とかは俺は知らないが、若くて奇麗なうちにいい男を見つけた方がいいぞ。
 奉仕させるのが好きならメイドを雇える金持ちで優しい男な。でも飲食店などの店員に横柄な態度の男は家でもそんな感じの可能性あるから避けた方がいい」

「何よ急にお父さんみたいに」
「世話がやけるお嬢様みたいだからつい」

 雨が降って、緑が濃くなるようだった。
 ミレナがふと話題を変えた。
 

「山や森の天気は変わりやすいから困るわね」
「朝は霧が深くて幻想的だったな、怖いくらい」
「ビビリ」
「ふ、そうだな」


 軽く笑われても本当の事だし腹も立たない。
 わりとビビリでもオカルトスレとかが見たくなるのはやはり怖いもの見たさの好奇心が多いんだろうな、おれは。
 ものすごく怖いのは困るけど軽いやつなら見たい。
 みたいなところがある。


 俺はミレナの髪をそこそこ拭いたので、タオルをミレナの頭に乗せ、また後ろから横に椅子ごと移動した。

 しばらく穏やかな時間が過ぎた。
 少し小腹が空いたので、俺はポケットから羊羹を二つ取り出した。
 山とかで遭難したら非常食に使えると言われてるから、日本のコンビニで買っておいたのだ。


「ほら」
「なにこれ?」


 俺が差した羊羹を手にミレナは首をかしげた。

「甘いもの」
「甘いもの!」

 ミレナが笑顔になった。
 ゲンキンだが素直な反応だ。
 俺はとなりで羊羹の包を開けてみせた。


「ここを引っ張ると剥ける」
「あー、こうね」
「そうだ、あー、甘い」
「ホントだ、これは甘いわ」

「ミラはこれ、食えるか?」
「私に食事機能はないの」 
「まあ、ドールは内臓ががないからそうなるか」


 羊羹を食べ終わった頃に雨は止んだ。
 にわか雨か。

「今から俺はジェラルドの木の家に帰るけど、ミレナも気をつけて帰れよ」

 別れ際にそう言うと、

「早く自分の家を買いなさいよ!」

 と言って去って行った。

「うーん、やはりずっとジェラルドの家に甘えっぱなしも良くないか、俺がかわいい女の子エルフならいざしらず、人間のおっさんだもんなぁ」

「狐娘のあの言葉はマスターの家に行きたいという意味だと思いますが」

「はは、まさか、俺はただのエロ絵描きのおじさん」
「マスターの絵は奇麗なものもあります」
「あ、ありがとう」


 ドールに慰められた。
 そういや貴族のお嬢様に下着とか売ったおかげで懐はかなり潤ったんだよな。
 どこかでそう大きくもなくていいから家を探すか。

 帰る途中にいきなり藪から鹿に似た魔物が出て来て、突撃してきた!

 ミラが突然魔法の糸を手から出して、鹿の魔物を拘束したと思ったら、糸の力が凄くて青色の鹿の体を、肉も骨も切り裂いた。

「おお、なんと糸使いだったのか」
「そうみたいです、体が勝手に動きました」


 勝手に? それは凄いな。
 とりあえず俺は青い鹿の肉や角を魔法の鞄に入れた。
 売れそうだし。

 しばらく森を歩き、木の家に戻ってきた。

 夜になってジェラルドも帰宅した。
 そして一緒に俺の作った夕食の山菜と茄子とエビの天丼を美味しく食べた。
 ジェラルドはエビが好きだからな。


「これ外側がサクッとしてて、タレは甘めで美味しいな」
「そうだろ、衣がサクッとしてていい」


 そして、話を変え、そろそろ自分の家を探そうと思うとジェラルドに告げると、

「そうか、少しさみしくなるな」

 などと本当にさみしげな顔で言う。

 俺が女の子なら誤解しかねないから思わせぶりなセリフはよすんだ。
 イケメンに言われるとこう……な?


「最寄りの大きな街に不動産屋くらいあるだろ」
「あるさ、俺が紹介してやる」
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