パラレヌ・ワールド

羽川明

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五章 「失われた色彩」

その五

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「――――太陽系不戦条約、前文。本条約は、太陽系第三惑星、地球の〝星の帝王〟の同意を得ることが不可能と判断された場合、施行するものとする。施行後新たに就任した地球の〝星の帝王〟が本条約を拒否した場合、本条約は無効となり……つまりどういうコト?」
 前文の冒頭を読み上げたところで、トモカさんは根を上げたようだ。条約が書かれたパネルは二メートル四方のものが計六枚にも渡っていて、とても読み上げようという気にはなれない。巻物状になっているのも納得だった。
「この巻物、地球語で書かれてるんですか?」
「はい。正確には地球古語と呼ばれる当時主流だった地球語が用いられています。ですから、今この言葉を読んで訳せる人は、太陽系を探し回っても、数えるほどでしょうね」
「……前から気になってたんですけど、この条約、誰が地球古語に訳したんですか?」
 尋ねると、地球さんは照れ臭そうに首の裏をかいてから、誇らしげに言った。
「――――私の、祖先なんです」
「えっ、じゃ、じゃあ……」
「……はい。実は私、父は普通の海王星人なんですが、母が、土星人と地球人の混血で、私もほんの少しだけ地球人の血を引いているんです」
「それで髪の毛が黒いの?」
「トモカさん、失礼ですよ」
「あぁ、気にしないで下さい。そうなんです、私の場合、母星が一つに決まっていないので、〝星の力〟がとても弱くて。でも、私はそれを〝誇り〟に思っています。わずかですが、地球人の血を引く身として、代々地球古語も学んできました」
「「「地球古語を?」」」
 思わず聞き返した僕ら三人に、地球さんはにこやかに笑う。
「はい、私は軽く話せる程度ですが」
「スゲェ……」
 これにはトモカさんも驚きを隠せないようだ。
「でも、どうしてそこまで?」
 失礼かな、と思いつつ聞くと、地球さんは、優しげに笑った。
「――――もしも、母星(ぼせい)に帰ってきたときに、自分と同じ言葉を、誰も話せなかったら、それって、とっても、寂(さび)しいことだと思いませんか?」

 どうしてか、地球さんの言葉が、痛いほどに胸に染みた。
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