パラレヌ・ワールド

羽川明

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五章 「失われた色彩」

その九

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 徐々に夕方が迫る中、三つ子山の上の厚い雲は不気味な七色に光り輝いていた。空から降る色とりどりのスポットライトが、嵐の中頂上を照らしているのだ。 
 地球(ちたま)さんは僕らを降ろして停める場所を探しに行った。
 だから今この場にいるのは、僕とトモカさんと魚々ぎょぎょ乃女のめさん、そして合流した古都さんの四人だけだ。
 古都さんの話では、樹理さんと万美さんがまだ頂上付近にいるらしい。
 もう少し待てば地球さんも協力してくれるだろうが、巻き込む気にはなれなかった。
 吹きつける強風にあおられ、山の木々が今にも吹き飛んでしまいそうな中、僕は先頭に立った。
「行きましょう」
 そう口にした矢先、山の枝葉をかき分け、飛来する銀の円盤が突っ込んできた。

           *

「――――下がってくださいっ!」
 飛び出した古都さんの両手の中に、発光する紫の球が見えた。数秒後それは古都さんをすり抜けて一気に膨れ上がり、突っ込んできた円盤が激突して爆散した。激しい轟音とともに煙が上がり、衝撃が風となって広がる。
 しかし煙が晴れた時、古都さんは傷一つなくそこに立っていた。
「カズマ様……?」
 息を呑(の)み、言葉を失う僕に、古都さんが不安げに振り返る。その瞳には、紫色に輝く冥王星が浮かび上がっていた。
「――――それが、古都さんの〝星の力〟なんですか?」
 輝きが消え、元に戻った紫の目で、古都さんは少し困ったような顔になる。
「……だって、いつもは!」
「カズマ? 急にドしたの。……あんなの、〝力〟のほんの一部じゃん」
 あたりまえのように言ってのけるトモカさんの言葉に、誰も、何も言わなかった。
 ツッコミも、訂正も、笑い飛ばすことも、首をひねることも。
「あんなのじゃ、――――誰も守れないよ」
 その一言が、容赦なく胸の奥底を抉(えぐ)る。
 しまい込んだはずのトラウマを、思い出さずにはいられない。

 ……守れなかった、救えなかった。僕はあの日、母さんを傷つけてしまった。
 満足に操れない〝力〟なんて、暴走するような〝力〟なんて、最初から無い方が良かった。

 僕は今まで、毎回のように失敗する古都さんの姿に、甘えていたのかもしれない。
 僕だけじゃない、なんて言い聞かせて。
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