50 / 57
五章 「失われた色彩」
その九
しおりを挟む
徐々に夕方が迫る中、三つ子山の上の厚い雲は不気味な七色に光り輝いていた。空から降る色とりどりのスポットライトが、嵐の中頂上を照らしているのだ。
地球(ちたま)さんは僕らを降ろして停める場所を探しに行った。
だから今この場にいるのは、僕とトモカさんと魚々乃女さん、そして合流した古都さんの四人だけだ。
古都さんの話では、樹理さんと万美さんがまだ頂上付近にいるらしい。
もう少し待てば地球さんも協力してくれるだろうが、巻き込む気にはなれなかった。
吹きつける強風にあおられ、山の木々が今にも吹き飛んでしまいそうな中、僕は先頭に立った。
「行きましょう」
そう口にした矢先、山の枝葉をかき分け、飛来する銀の円盤が突っ込んできた。
*
「――――下がってくださいっ!」
飛び出した古都さんの両手の中に、発光する紫の球が見えた。数秒後それは古都さんをすり抜けて一気に膨れ上がり、突っ込んできた円盤が激突して爆散した。激しい轟音とともに煙が上がり、衝撃が風となって広がる。
しかし煙が晴れた時、古都さんは傷一つなくそこに立っていた。
「カズマ様……?」
息を呑(の)み、言葉を失う僕に、古都さんが不安げに振り返る。その瞳には、紫色に輝く冥王星が浮かび上がっていた。
「――――それが、古都さんの〝星の力〟なんですか?」
輝きが消え、元に戻った紫の目で、古都さんは少し困ったような顔になる。
「……だって、いつもは!」
「カズマ? 急にドしたの。……あんなの、〝力〟のほんの一部じゃん」
あたりまえのように言ってのけるトモカさんの言葉に、誰も、何も言わなかった。
ツッコミも、訂正も、笑い飛ばすことも、首をひねることも。
「あんなのじゃ、――――誰も守れないよ」
その一言が、容赦なく胸の奥底を抉(えぐ)る。
しまい込んだはずのトラウマを、思い出さずにはいられない。
……守れなかった、救えなかった。僕はあの日、母さんを傷つけてしまった。
満足に操れない〝力〟なんて、暴走するような〝力〟なんて、最初から無い方が良かった。
僕は今まで、毎回のように失敗する古都さんの姿に、甘えていたのかもしれない。
僕だけじゃない、なんて言い聞かせて。
地球(ちたま)さんは僕らを降ろして停める場所を探しに行った。
だから今この場にいるのは、僕とトモカさんと魚々乃女さん、そして合流した古都さんの四人だけだ。
古都さんの話では、樹理さんと万美さんがまだ頂上付近にいるらしい。
もう少し待てば地球さんも協力してくれるだろうが、巻き込む気にはなれなかった。
吹きつける強風にあおられ、山の木々が今にも吹き飛んでしまいそうな中、僕は先頭に立った。
「行きましょう」
そう口にした矢先、山の枝葉をかき分け、飛来する銀の円盤が突っ込んできた。
*
「――――下がってくださいっ!」
飛び出した古都さんの両手の中に、発光する紫の球が見えた。数秒後それは古都さんをすり抜けて一気に膨れ上がり、突っ込んできた円盤が激突して爆散した。激しい轟音とともに煙が上がり、衝撃が風となって広がる。
しかし煙が晴れた時、古都さんは傷一つなくそこに立っていた。
「カズマ様……?」
息を呑(の)み、言葉を失う僕に、古都さんが不安げに振り返る。その瞳には、紫色に輝く冥王星が浮かび上がっていた。
「――――それが、古都さんの〝星の力〟なんですか?」
輝きが消え、元に戻った紫の目で、古都さんは少し困ったような顔になる。
「……だって、いつもは!」
「カズマ? 急にドしたの。……あんなの、〝力〟のほんの一部じゃん」
あたりまえのように言ってのけるトモカさんの言葉に、誰も、何も言わなかった。
ツッコミも、訂正も、笑い飛ばすことも、首をひねることも。
「あんなのじゃ、――――誰も守れないよ」
その一言が、容赦なく胸の奥底を抉(えぐ)る。
しまい込んだはずのトラウマを、思い出さずにはいられない。
……守れなかった、救えなかった。僕はあの日、母さんを傷つけてしまった。
満足に操れない〝力〟なんて、暴走するような〝力〟なんて、最初から無い方が良かった。
僕は今まで、毎回のように失敗する古都さんの姿に、甘えていたのかもしれない。
僕だけじゃない、なんて言い聞かせて。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる